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Ⅱ-38 終戦

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■森の国 西の砦 近郊の森

 俺はバギーを来た方向に戻らせながら、すれ違う森の国の兵士達にミーシャが居る方向へ集まるように声を掛けて行った。ママさんの魔法の力で怪我をしている兵は既に居なくなっていて、元気そうな表情を浮かべミーシャの元へと走って行く。

 -これだけ広範囲に治療魔法を行き渡らせるって言うのは・・・

「サリナ、お前のお母さんは凄い魔法士なんだな」
「うん!お母さんも、お爺ちゃんも凄い魔法士なの!」

 勇者の一族の魔法力はサリナから聞いていただけだったから、改めて目撃するとその凄まじさを痛感した。だが、ママさんの見立てではサリナの方が魔法力はあるようだ。確かに俺と出会った時から急激に成長しているとはいえ、ほぼ独学+俺の適当なイメージでここまでできているのだから、ママさんにちゃんと教えてもらえばもっと凄い魔法が使えるようになるのだろう。

 -既に銃ぐらいではサリナにさえ絶対に勝てない気がする・・・。

 まあ、今のところサリナが敵に回るとは考えにくいから心配はいらないが、サリナ以外にも同じような魔法士が居るかもしれないし、さっきの魔物-巨大サンショウウオ-なんかも居る訳だから油断はできない。

「ねえ、これからどうするの? もう戦いは終わったんでしょ?」
「そうだな、火の国との戦いは終わったからな。戦後処理が必要だな」
「センゴショリ? それって何? ひょっとしてご馳走!?」
「違うよ! 戦争が終わった後片付けだ」
「そっか。後片付けか・・・、うん、片付けも必要だもんね」
「ああ、勝てば終わりじゃないんだよ。王様が居なくなった火の国をちゃんとしないと、また同じような王様が現れると困るだろ?」
「そっか。悪い王様だと困るもんね。でも、水の国の偉い人にお願いしたんでしょ?」
「ああ、だから戦いが終わったことを伝えて、新しい王か代官を派遣してもらわないとな」
「ふーん。そうなんだ。それって時間が掛かるのかな?」
「どうかな・・・、事前に頼んであったから何とかしてくれるとは思うけど・・・」

 俺は自分で話しながらも、勝手に頼んで相手が引き受けてくれるのか、仮に引き受けてくれるとしても、具体的にどうするかが全く見えていなかった。まあ、所詮は高校生の浅知恵だから仕方がない。戦う力はあっても、国を治める力や意欲は全く無いのだから。

「先の事が気になるのか?」
「うん・・・、サトルは戦いが終わったらどうするのかなって・・・」

 サリナはそう言って俺の背中にくっついて口を閉じた。もちろん大きな胸が俺の背中に押し付けられている。

「あ、ああ・・・、そうだな。ずっと戦い続けてるからな。少し休もうと思ってる」
「休み? 休んでどうするの?どこかに行っちゃうの?」
「まだ決めていないけど、どこか景色のいいところで暫くゆっくりしたい。俺は別に戦いたいわけじゃないからな」
「そっか。景色のいいところか・・・」

 俺にも具体的に当てがあるわけでは無かったが、リンネにも絵が描ける場所に連れて行ってやると約束していたのを思い出した。

「海か、湖か・・・、水辺のどこかに行こうか?」
「!? サリナも連れて行ってくれるの!?」
「ああ、そのつもりだ。お前達も頑張ったからな、それにお母さんともゆっくり過ごしたいだろう?」
「うん! やったー! 行こう! それで・・・、ウミってどこ?」
「お前は海を見た事が無いのか?」
「・・・? 知らない・・・」
「海は・・・、向こう岸が見えない池や湖の大きいようなものだが、水は塩味で波があるんだよ。まあ、見ればわかるよ。浜辺でバーベキューしながら、ゆっくりしよう」
「やったー! バーベキューね!わーい!」

 サリナは大きな歓声を挙げてさらに俺にしがみついて来た。

 -そうか、このムチムチを水着に・・・、ミーシャも来るかな?

 妄想と共にバギーをゆっくりと走らせながらショーイとリンネを置いて来た場所に戻ると、黒虎とラプトル達に守られた二人は捕虜の檻を囲んで退屈そうにしていたが、俺のバギーをみつけるとショーイが駆け寄って来た。

「おお! どうだった? あの化け物は何だったんだ?」
「サリナのお母さんが言うには、闇の世界から来た使徒だと思うって」
「そうなのか? どうやって倒したんだ? お前の銃か?」

 ショーイは自分が戦いに参加できなかったために、情報に飢えているようだった。

「俺の武器で1匹と後の2匹はサリナのお母さんが魔法で一撃だったよ」
「そうか! マリアンヌ様はやっぱり凄かっただろう。何といっても勇者の一族だからな」

 そうだ、サリナママは確かにすごい魔法力なのだ・・・、だが、そう考えると大人しく火の国に居たのが不思議で仕方がない。人質を取られていたとしても、あれだけの魔法が使えるなら何とでもなったような気がするのだが・・・。

「向こうでミーシャ達が待っているから、車に乗って合流しよう。その後は一度森の国の王へ会いに行こうと思う」

 §

 俺がショーイ達と捕虜を連れて、ミーシャ達が待つ場所に戻ると多くの兵が歓声で俺達を迎えてくれた。初めて動く車を見る者たちは驚きの目で見ていたが、荷台に積んでいるのが火の国の王と将軍であることが判ると、驚きは俺達に対する怯えとなっていた。

 ママさんの魔法で怪我人は居なくなっていたが、50名以上の森の国の兵が魔物に喰われて死んでしまったらしい。ミーシャの仲間のエルフ達-みんな美人-は木の上等に逃げて死者は出なかったようだ。

 俺は車から菓子パンと飲み物を大量に取り出して、ミーシャ達に疲れている兵へ配るように指示をした。砦の倉庫が焼かれて物資が無かった兵士達は初めて食べる柔らかさの甘いパンを口にして、あちこちで大きな声を上げ始めた。

 -な、なんだ? この柔らかいパンは?
 -砂糖か? 何か甘い物が中に入っているぞ!

 車からと言ったが実際はドアの陰からストレージに手を入れて出し続けているのだが、車の大きさ以上に出てくることにはあまり注意を払うものは居ないようだったので、30分ぐらい出し続けてやった。何百人かいる兵に行き渡ったことを確認して、俺はミーシャ達を集めて森の国の首都に移動することを伝えた。

「だが、今からだと急いでもクラウスに着くのは夜中になってしまうだろう」

 早朝から戦っていたが、気が付けば15時ぐらいになっている。いくら車でも、首都クラウスまでは5時間以上は掛かるはずだし、途中で休憩することを考えればミーシャの言う通りだった。

「そうだな、今日は行けるとこまで行って日が暮れたら野営することにしよう。森の国の王の所には明日の朝行こう。その後に水の国の大臣の所には明日中に行きたいんだ」
「そうか、わかった」

 俺は捕虜にした3人をいつまでも連れているのが面倒だったので、戦後処理を早めに片付けたかった。他にも捕らえたゲルドや魔物もストレージの中で調べる必要がある。だが、ゆっくり休むためにも、一つずつ片付けるしかないのだ。
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