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Ⅱ-32 野戦 4
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■森の国 西の砦 近郊の森
森の国の砦を守っていた指揮官は、斥候からの報告を聞いて戦の大勢が既に決していることを知った。
「では、敵の本隊は既に四散していると言う事か?敵の将軍は何処へ行ったか分からないのか?」
「はい、南の方へ逃げたようですが、敵将との間にはまだ多くの兵が残っていました」
「エルフの戦士たちはどうしているのだ?」
「我らも近寄れないのですが、恐らく南への追撃を始めていると思います」
「そうか、わかった。ならば我らも全軍で南へ進んでエルフの戦士たちと合流しよう」
実際の戦いの大部分をエルフの戦士、と言っても二人の娘たちに任せてしまったことを指揮官は恥じていたが、報告を聞くとその二人と仲間で敵を数千は倒してしまったようだ。
-弓の達人などと言う次元の戦いでは無い。何か新しい戦い方を始めたのだろう・・・
§
俺達は車とバギーに分乗して、ゆっくりと南に向けて森の中を進んだ。途中には傷つき倒れた火の国の兵が大勢いたが、俺達を見ると逃げ出して行くばかりで、向かって来る兵は居なかった。
街道までたどり着くと、口の周りから血を滴らせたラプトルとステゴもどきがぼんやりと立っていた。周りには馬の死骸が転がっている。どうやら、ここで敵兵と遭遇して騎馬に襲い掛かったようだ。ラプトル達が南東から襲い掛かったので、火の国の兵は東か北東に逃げたはずだ。
「リンネ、黒虎を出すから敵が何処に逃げたか探させてくれ」
「ああ、わかったよ。見つけたらどうするんだい?」
「戻って来て場所を教えさせてくれよ。できるかな?」
「大丈夫だよ。この子たちは賢いし、鼻も良いからね」
ピックアップトラックを街道に止めて、ストレージの中にいる黒い虎の魔獣を10匹呼び出して、ラプトルとステゴもどきと入れ替えた。リンネが黒虎達を撫でてやると、すぐに両側の森の中に走り込んで行った。俺とサリナは走りやすくなった街道をゆったりと車を走らせながら、無線でミーシャとこれからの事を相談し始めた。
「ミーシャ、火の国の王様と将軍だけど、森の国の王に見せに行こうと思うんだが、森の国の王はどうするだろう? 火の国の王を殺すかな?」
「いや、それは無いだろう・・・。かといって、森の国で捕らえることもしないと思うな」
「だったら無罪放免ってことか?」
「うん、無罪と言うわけでは無いが、今回の戦も攻めて来られたから戦っただけで、森の国の王は戦や争いを好んでいるわけでは無いからな・・・」
なるほど、森の国の王は優しいから、“二度と悪いことはするなよ”ぐらいで済ませてしまうのかもしれないな。だが、火の国の王が改心して二度と他の国を襲わないとはとても思えない。
「じゃあ、火の国の王の身柄は俺が預かっても構わないかな?」
「ああ、構わないはずだ。だが、いずれにせよ王に今回の件を報告しに行かないといけない。お前はどうしたいのだ?」
俺がどうしたいか? 本音を言うとどうでも良かったが、これだけの大事になった以上はそうは言えないだろう。
「ああ、火の国の元王は殺さないけど、どこかに幽閉するつもりだ。一度、水の国の摂政に相談してみる。それで解決しなかったら、誰かに頼んで閉じ込めてもらうつもりだ」
「そうか、わかった。ならば、いちど一緒に森の国の王の所へ行ってもらえるか?」
「もちろん、そのつもりだ」
俺は一緒にいられる間はミーシャと行動を共にするつもりだった。だが、恐らくこの戦いが終わったら、ミーシャと一緒にいることも無くなるだろう・・・、神の拳も巨大な狼も見つけたし、火の国との戦いも終わろうとしている。ミーシャが俺の力を必要とすることも無いのだ。
「戻って来たね。見つけてきたみたいだよ・・・。左の森の奥に固まって兵士達が居るらしいよ」
俺がミーシャとの別れの事を考えて黄昏れながら車を走らせていると、リンネが戻って来た黒虎から情報を貰ったようだ。話をするでもないが、リンネと死人達(死んだ獣も)は意思の疎通に言葉は必要無いようだ。
「そうか、ありがとう。黒虎達に周りを囲ませて逃げられないようにさせてくれ」
「ああ、もう囲んでいるから大丈夫さ」
「サリナ。左の森の奥に入って行くからついて来てくれ。周りに敵が居るかもしれないから、注意してくれよ」
「わかった! 任せて、何か居たらミーシャにやっつけてもらうから大丈夫♪」
その通りだ。二人の心配よりも、俺自身の心配をした方が良いはずだ・・・。
森の奥に人の塊があるのが見えてきた辺りで、車では進めないぐらい木が生い茂って来たので、ピックアップトラックから降りて敵を囲む準備を始めた。既に黒虎で囲んでいるから逃げられないだろうが、投降を促すときに逆襲されるのが嫌だったので、死人を20人出して先に歩かせた。
俺達は俺とミーシャがアサルトライフルを構えて死人について行く。サリナとサリナママがその後ろを、更にその後ろをショーイとリンネがキョロキョロするリカルドを挟み込むように連れて歩いている。ピックアップトラックの荷台には火の国の王が乗っているが番犬替わりに黒虎を2匹置いてあるから、人間はだれも近寄らないはずだ。
-なんだ!? あれは敵兵か? 魔獣は何処へ行った?
先行する死人を見て、囲まれている兵士達が騒ぎ始めたようだ。死人越しに見た感じでは既に100名足らずになっている。俺はストレージから拡声器を取り出して、前に出ずに大きな声で聞いてみた。
「お前達は完全に包囲されている。無駄な抵抗はやめて武器を捨てろ。お前たちの中に火の国の大将がいるのか? 居るなら出て来い。出て来れば、兵の命は奪わないと約束しよう」
-しょ、将軍! おやめ下さい!
将軍を守っていた兵達が引きとめようとしたが、奥から立派な甲冑をつけた男が俺達の方に進み出てきた。
「私が火の国の将軍バーラントだ。私の命に免じて、兵を助けてやってくれ!」
普通にまっとうなことを言った将軍は鋭いまなざしを俺達の方に向けている。目の前にいる死人達にも恐れることなく堂々としていた。
「ああ、大丈夫だ。お前の命も保証するよ。兵達には火の国へ帰るように命令して、お前だけが残ってくれ」
「わかった! 必ず約束を守ってくれ!・・・、良いのだ、お前達は生きて国へ帰るのだ。そして、火の国を再建してくれ・・・、それが国のためだ」
将軍は兵達に言い聞かせて、その場から離脱させた。渋る兵もいたが、黒虎の囲みを解いてやった方角から全員出て行って将軍一人が残った。俺はミーシャにバックアップを頼んで、将軍の手を手錠で拘束してから、車を止めた場所まで連れて戻った。
「あの黒い魔獣もお前達が操っていたのか!?一体どうやって!?」
「ああ、俺達は仲が良いんだよ。やり方は秘密だな。それよりも、俺はお前達に聞きたいことがあるんだ。これで全員そろったから、火の国と黒い死人達の関係についてきっちり聞かせてもらうぞ」
「全員? 一体何を・・・! 王! それに大臣も! こんな馬鹿な!」
将軍は荷台に積まれた元王と元大臣を見て驚愕の叫び声を上げた。二人とも大型犬の檻の中に閉じ込められて、毛布にくるまって小さくなっている。
「ああ、お前が二人の娘と戦っている間に俺はマリアンヌさんの解放と王様に引退勧告を告げに行ってたんだよ。それに・・・」
俺はストレージに収納していた黒い死人達のムーアのお頭-確かレントンと言う-も檻の中に入れてから地面に置いた。久しぶりに光を見たレントンは眩しそうに目を細めて周りを見回している。
「こいつが火の国にいた黒い死人のお頭だな。当事者が揃ったから、お前達が結託して何をしていたのか?それに、黒い死人達の首領が何処に居るのかを教えてくれ。悪いが答えるまで徹底的にやらせてもらうからな。早めに答えた方が良いぞ」
この戦いが終わっても黒い死人の首領を捕まえないと安心できない。サトル達がアジトを潰して回ったことは既に伝わっているはずだ。油断していると向こうに先手を取られてしまう。
-そう言えば さっきの土人形の中にいた死人の頭も・・・
俺はストレージの中に入れておいたバラバラの体の頭部も小さめの檻に入れて、取り出した。
森の国の砦を守っていた指揮官は、斥候からの報告を聞いて戦の大勢が既に決していることを知った。
「では、敵の本隊は既に四散していると言う事か?敵の将軍は何処へ行ったか分からないのか?」
「はい、南の方へ逃げたようですが、敵将との間にはまだ多くの兵が残っていました」
「エルフの戦士たちはどうしているのだ?」
「我らも近寄れないのですが、恐らく南への追撃を始めていると思います」
「そうか、わかった。ならば我らも全軍で南へ進んでエルフの戦士たちと合流しよう」
実際の戦いの大部分をエルフの戦士、と言っても二人の娘たちに任せてしまったことを指揮官は恥じていたが、報告を聞くとその二人と仲間で敵を数千は倒してしまったようだ。
-弓の達人などと言う次元の戦いでは無い。何か新しい戦い方を始めたのだろう・・・
§
俺達は車とバギーに分乗して、ゆっくりと南に向けて森の中を進んだ。途中には傷つき倒れた火の国の兵が大勢いたが、俺達を見ると逃げ出して行くばかりで、向かって来る兵は居なかった。
街道までたどり着くと、口の周りから血を滴らせたラプトルとステゴもどきがぼんやりと立っていた。周りには馬の死骸が転がっている。どうやら、ここで敵兵と遭遇して騎馬に襲い掛かったようだ。ラプトル達が南東から襲い掛かったので、火の国の兵は東か北東に逃げたはずだ。
「リンネ、黒虎を出すから敵が何処に逃げたか探させてくれ」
「ああ、わかったよ。見つけたらどうするんだい?」
「戻って来て場所を教えさせてくれよ。できるかな?」
「大丈夫だよ。この子たちは賢いし、鼻も良いからね」
ピックアップトラックを街道に止めて、ストレージの中にいる黒い虎の魔獣を10匹呼び出して、ラプトルとステゴもどきと入れ替えた。リンネが黒虎達を撫でてやると、すぐに両側の森の中に走り込んで行った。俺とサリナは走りやすくなった街道をゆったりと車を走らせながら、無線でミーシャとこれからの事を相談し始めた。
「ミーシャ、火の国の王様と将軍だけど、森の国の王に見せに行こうと思うんだが、森の国の王はどうするだろう? 火の国の王を殺すかな?」
「いや、それは無いだろう・・・。かといって、森の国で捕らえることもしないと思うな」
「だったら無罪放免ってことか?」
「うん、無罪と言うわけでは無いが、今回の戦も攻めて来られたから戦っただけで、森の国の王は戦や争いを好んでいるわけでは無いからな・・・」
なるほど、森の国の王は優しいから、“二度と悪いことはするなよ”ぐらいで済ませてしまうのかもしれないな。だが、火の国の王が改心して二度と他の国を襲わないとはとても思えない。
「じゃあ、火の国の王の身柄は俺が預かっても構わないかな?」
「ああ、構わないはずだ。だが、いずれにせよ王に今回の件を報告しに行かないといけない。お前はどうしたいのだ?」
俺がどうしたいか? 本音を言うとどうでも良かったが、これだけの大事になった以上はそうは言えないだろう。
「ああ、火の国の元王は殺さないけど、どこかに幽閉するつもりだ。一度、水の国の摂政に相談してみる。それで解決しなかったら、誰かに頼んで閉じ込めてもらうつもりだ」
「そうか、わかった。ならば、いちど一緒に森の国の王の所へ行ってもらえるか?」
「もちろん、そのつもりだ」
俺は一緒にいられる間はミーシャと行動を共にするつもりだった。だが、恐らくこの戦いが終わったら、ミーシャと一緒にいることも無くなるだろう・・・、神の拳も巨大な狼も見つけたし、火の国との戦いも終わろうとしている。ミーシャが俺の力を必要とすることも無いのだ。
「戻って来たね。見つけてきたみたいだよ・・・。左の森の奥に固まって兵士達が居るらしいよ」
俺がミーシャとの別れの事を考えて黄昏れながら車を走らせていると、リンネが戻って来た黒虎から情報を貰ったようだ。話をするでもないが、リンネと死人達(死んだ獣も)は意思の疎通に言葉は必要無いようだ。
「そうか、ありがとう。黒虎達に周りを囲ませて逃げられないようにさせてくれ」
「ああ、もう囲んでいるから大丈夫さ」
「サリナ。左の森の奥に入って行くからついて来てくれ。周りに敵が居るかもしれないから、注意してくれよ」
「わかった! 任せて、何か居たらミーシャにやっつけてもらうから大丈夫♪」
その通りだ。二人の心配よりも、俺自身の心配をした方が良いはずだ・・・。
森の奥に人の塊があるのが見えてきた辺りで、車では進めないぐらい木が生い茂って来たので、ピックアップトラックから降りて敵を囲む準備を始めた。既に黒虎で囲んでいるから逃げられないだろうが、投降を促すときに逆襲されるのが嫌だったので、死人を20人出して先に歩かせた。
俺達は俺とミーシャがアサルトライフルを構えて死人について行く。サリナとサリナママがその後ろを、更にその後ろをショーイとリンネがキョロキョロするリカルドを挟み込むように連れて歩いている。ピックアップトラックの荷台には火の国の王が乗っているが番犬替わりに黒虎を2匹置いてあるから、人間はだれも近寄らないはずだ。
-なんだ!? あれは敵兵か? 魔獣は何処へ行った?
先行する死人を見て、囲まれている兵士達が騒ぎ始めたようだ。死人越しに見た感じでは既に100名足らずになっている。俺はストレージから拡声器を取り出して、前に出ずに大きな声で聞いてみた。
「お前達は完全に包囲されている。無駄な抵抗はやめて武器を捨てろ。お前たちの中に火の国の大将がいるのか? 居るなら出て来い。出て来れば、兵の命は奪わないと約束しよう」
-しょ、将軍! おやめ下さい!
将軍を守っていた兵達が引きとめようとしたが、奥から立派な甲冑をつけた男が俺達の方に進み出てきた。
「私が火の国の将軍バーラントだ。私の命に免じて、兵を助けてやってくれ!」
普通にまっとうなことを言った将軍は鋭いまなざしを俺達の方に向けている。目の前にいる死人達にも恐れることなく堂々としていた。
「ああ、大丈夫だ。お前の命も保証するよ。兵達には火の国へ帰るように命令して、お前だけが残ってくれ」
「わかった! 必ず約束を守ってくれ!・・・、良いのだ、お前達は生きて国へ帰るのだ。そして、火の国を再建してくれ・・・、それが国のためだ」
将軍は兵達に言い聞かせて、その場から離脱させた。渋る兵もいたが、黒虎の囲みを解いてやった方角から全員出て行って将軍一人が残った。俺はミーシャにバックアップを頼んで、将軍の手を手錠で拘束してから、車を止めた場所まで連れて戻った。
「あの黒い魔獣もお前達が操っていたのか!?一体どうやって!?」
「ああ、俺達は仲が良いんだよ。やり方は秘密だな。それよりも、俺はお前達に聞きたいことがあるんだ。これで全員そろったから、火の国と黒い死人達の関係についてきっちり聞かせてもらうぞ」
「全員? 一体何を・・・! 王! それに大臣も! こんな馬鹿な!」
将軍は荷台に積まれた元王と元大臣を見て驚愕の叫び声を上げた。二人とも大型犬の檻の中に閉じ込められて、毛布にくるまって小さくなっている。
「ああ、お前が二人の娘と戦っている間に俺はマリアンヌさんの解放と王様に引退勧告を告げに行ってたんだよ。それに・・・」
俺はストレージに収納していた黒い死人達のムーアのお頭-確かレントンと言う-も檻の中に入れてから地面に置いた。久しぶりに光を見たレントンは眩しそうに目を細めて周りを見回している。
「こいつが火の国にいた黒い死人のお頭だな。当事者が揃ったから、お前達が結託して何をしていたのか?それに、黒い死人達の首領が何処に居るのかを教えてくれ。悪いが答えるまで徹底的にやらせてもらうからな。早めに答えた方が良いぞ」
この戦いが終わっても黒い死人の首領を捕まえないと安心できない。サトル達がアジトを潰して回ったことは既に伝わっているはずだ。油断していると向こうに先手を取られてしまう。
-そう言えば さっきの土人形の中にいた死人の頭も・・・
俺はストレージの中に入れておいたバラバラの体の頭部も小さめの檻に入れて、取り出した。
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