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Ⅱ-23 親子の再会 3

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■火の国 王都ムーア 南の森

 キャンピングカーに険悪な夫婦を置き去りにして、ピックアップトラックの荷台に積んだままの二人の様子を見に行った。ラインの領主と違ってちゃんと服は着たままだが、揺れる荷台の檻であちこちをぶつけたからだろう。二人とも痛みで涙をこぼしていた。

「き、貴様ら、覚えておれ、必ず首を刎ねてやるからな!」

 動物の檻に入っている割には、元王様は威勢が良かった。

「そうか、そうなる前に今お前を殺すことも出来るけど、そうした方が良いか?」
「い、いや、待て! 早まるな! 今、解放すれば罪には問わん! すぐに解放しろ!」
「そうか、それはありがたい・・・って言うわけないだろ!いい加減に立場をわきまえろ!」

 俺はノリ突っ込みをこなした後に、ストレージに格納していたゲルドの体を取り出した。ショーイが首と両手を切り落とした状態で収納していたのだが、念のために檻の中に入れてから取り出した。取り出した胴体は切り離された頭部と両腕を元通りにしようと体をねじり始めた。不思議なことに磁石で吸い寄せられたかのように、最初に右腕が胴体につながり、つながった右手で左手を持ってつなぎ、最後に両手で頭を胴体の上に自分で取り付けた。

 -スゲェな。 ギャグ漫画みたいな感じだな・・・

「よし、首が繋がったら、こいつも話せるんじゃないのか? お前はゲルドの分身? なのか? だけど、分身ってそもそも何だ? リンネは聞いたことないんだよな?」
「ないねぇ。こいつも死人だとは思うけど・・・、あたし達とは少し違うようだねぇ・・・」
「うごぉぇ、ごまげ・・・、なんげ ※○▲」

 ゲルドの体は何かを話そうとしたが、喉がつぶれているのか言葉としては聞き取れなかった。

「仕方がないな、甥っ子に聞いてみよう」

 王様と違ってすっかりおとなしくなっている元大臣の檻を荷台から降ろして、ゲルドの体と対面させた。

「これはお前の叔父さんなのか? あるいはその分身?」
「・・・」
「話してほしいんだけどな、痛めつけるのは本当に好きじゃないんだよ」
「・・・」
「そうか、嫌いだけど、痛めつけない訳じゃないからな」
「ギャァー!!」

 俺は牛追い棒と言われている電気ショックを与える道具を檻の中に突っ込んで元大臣の足を叩いた。過去にいろんな国で拷問道具として悪用されたそれは、元大臣の口を割るには十分な威力だったようだ。

「や、やめてくれ! 何でも話す。それは、私の叔父の分身だ・・・。叔父は土魔法と闇魔法を使って、自分の分身を作ることができるのだ」

 -やはり分身なのか・・・、土魔法と言う事は土でできているのか? それにしては見た目は人と同じだがな・・・

「そうか、本人は何処に居るんだ?」
「いつもはネフロスの本拠に居るはずだ・・・、いまは森の国へ・・・」
「ネフロスの本拠は何処にある? 森の国へは戦に行っているのか?」
「本拠は火の国の東の方らしいが・・・、本当に知らないのだ! 信じてくれ!」

 知らないと言うと罰を与えられると思っているようで、俺が何か言う前から必死になっていた。

「そうか、一旦信じることにするよ。それで森の国では何をしているんだ?」
「土の魔法士として火の国の軍勢に入っている」
「土魔法で戦うためなのか?」

 大物にしてはやることが小っちゃい気がするが・・・

「それもあるが・・・、お前達を探している」
「俺達を探して!? どういう意味だ?」
「風のように移動できる馬車を使って黒い死人達のアジトを襲っている奴ら・・・お前たちの事だよな? そいつらを見つけて・・・」
「見つけて倒すつもりなのか?」
「恐らくそうだろう。だけど俺は詳しくは知らないんだ! それは本当だからな!」

 最近はあちこちの街道を派手に走り回っていたから、敵に目をつけられたのは仕方がないだろう。アジト襲撃と結びつけられた理由は判らないが、不可思議な襲撃が続けば気が付いた人間が居てもおかしくなかった。

「ゲルドはどんな魔法が使えるんだ? 土魔法とはどんなものだ?」
「土で傀儡を作って思うように操ることが出来る。それに、叔父は死体も・・・土のように加工して操ることが出来るんだ」

 -それがこの分身ってことか・・・、待てよ!?

 俺は檻に入れたゲルドの分身をストレージの中に戻した。

「ひょっとして分身で見聞きしたことは本人に伝わっていたりしないか?」
「たぶん、聞えていると思う。どこまで聞えるのか判らないが・・・」

 -しまった! 俺達の顔や車の事がばれたかもしれない! だが、何処まで伝わったのだろう? 

「それ以外に、ゲルドは触れるだけで人を殺すことが出来たりするのか?」
「詳しくは知らないが、人の時の流れを早くすることが出来ると聞いたことがある。おそらくそれを使って寿命を奪うのだと思う」

 -それで、ショーイの両親が干からびて死んでいたのか・・・

「ゲルドも死人でネフロスの幹部なんだよな? だが、そんな大物がなんで土の魔法士の仲間に入る必要があったんだ? 俺達を探すにしても将軍と軍隊を使うことが出来ただろうに・・・」
「それは、将軍にも叔父の素性は伝えずに私が魔法士の中に入れたからだ。将軍や部隊長も詳しいことは知らずに、腕の立つ魔法士だと思っている」
「なぜそんなことを? 味方にも秘密にする必要があったのか?」
「・・・」

「どうした、刺激が足りないのか?」
「違う! 私にも理由は言わなかったのだ! だが・・・、将軍達にも普通の魔法士と思わせたかったと言う事だろうから・・・」

 -敵を欺くためにはまずは味方からという事だな。だが、何を欺くつもりなのだろう? 敵は俺達・・・、ミーシャとサリナならほぼ相手を全滅させるだろう・・・だが相手が死人なら?・・・マズイ!?

「ゲルドは死んだふりをして、俺達を襲うつもりだったんだな?」
「恐らくそうだと思う。闇の魔法が使える事を知らなければ、敵は死体に近づいて来るから、それを利用するつもりなんだろう」

 ミーシャやサリナがどれだけ強くても死人を殺すのは難しい。ましてや死人が死んだふりをしていれば・・・。

「ショーイ、今から森の国へ向かう。こいつらを荷台に積むのを手伝ってくれ。リンネは中の二人を呼んで来てくれ」
「おい、まさかまたこの上に乗せて走るのか!? もう無理だ! 打ち身がひどくて死んでしまうぞ!」

 元王は元大臣が積み込まれたのを見て元気よく文句を言っている。

「そうか、じゃあ、死んだら教えてくれ」

 荷台の檻を荷物用のベルトで固定して、携行缶でガソリンを給油しているとリンネがご夫婦を連れてキャンピングカーから出てきた。サリナママの眉間には深いしわが縦に刻まれている。

「サリナ達が心配なので、今から森の国へ向かいます」
「森の国ですか!? サリナに何かあったのでしょうか!?」

 サリナママは俺の話を聞いてすぐに心配そうな表情に変わった。

「いえ、そうと決まったわけでは無いけど、ゲルドが敵兵に紛れ込んで俺達-サリナとミーシャを狙っているみたいです」
「わかりました。ですけど、ここまでも1時間ぐらいかかっていましたよね。森の国は馬車で3日か4日の場所で戦になっているはずです・・・、今からで間に合うでしょうか?」
「わかりませんが、早く行くしかないですね」

 時計の時刻は14時35分だった。朝から王宮を襲って来たから日暮れまではあと4時間ほどある。普段のスピードなら森の国までは7時間以上かかるが、今回の俺は過去最速で走ることを決意していた。

 -多少の事故は許してもらおう。けが人は魔法で、荷馬車は金貨で償えば何とかなる・・・
 -俺達の事を知っている相手と戦うのはこれが初めてだ・・・何もなければ良いが・・
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