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Ⅱ-22 親子の再会 2

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■火の国 王都ムーア 南の森

 リカルドを閉じ込めたキャンピングカーが置いてある森に行く道中は、俺とサリナとの出会いから今日にいたるまでの話をサリナママに聞かせ続けた。エドウィンでの出会い、南方州への旅、バーンでのミーシャとの出会い・・・迷宮攻略、どれも思い返せば楽しい思い出だった。サリナママもハンスが片腕を失った話をすると息をのんで悲しそうな顔になったが、それ以外は笑顔で娘の成長を喜んでいたようだった。

「あの子と別れてから10年になります・・・、大きくなったのでしょうね」
「ええ、別れた時よりは大きくなっていますよ」

 15歳にしては小さいとはあえて言わなかった。

「ところで、後ろに積んだ元大臣の件ですが、あの男がショーイの親を殺した男の甥と言うのは知らなかったんですか?」
「ええ、さっき聞いて驚きました。私はショーイの父親と長い付き合いですが、そのゲルドと言う男には会ったことがありませんでしたから」
「火の国と黒い死人達が結託しているのは知っていたんですか?」
「ええ、知っていました。私も情報を集めていたんですが、大臣が相手の誰かとやり取りをしていたのは間違いないです」

 -それは素晴らしい、元大臣にゆっくりと話を聞かせてもらうことにしよう。

 森の奥のキャンピングカーに戻ると、リカルドは中のテーブルに座ってノートに一心不乱に何かを書いていた。ノートと鉛筆は俺が出かける前に渡してやったものだ。俺達が入って行っても、顔を上げなかった。

「リカルド」

 サリナママが声をかけると虚ろな目をして顔を上げたが、マリアンヌだと判ったとたんに目を見開いた。

「おお! マリアンヌ! 元気だったか!」
「ええ、あなたは相変わらずのようですね・・・」

 お互いに駆け寄って抱き合うシーンは無かった。むしろサリナママはかなり冷ややかなトーンで話をしていた。

 -この二人って夫婦なんだよな?

「ああ、マリアンヌ。この大きな箱を見てくれ、凄いんだ!見た事の無い物しかない。色もきれいだし、色々な仕掛けがあって・・・」
「そうですね。でも、その前に私に言う事があるんじゃないんですか」
「言う事? なんだろうか? この車の話はしたし・・・、そうだ! そこにいるサトルは初めて見る魔法をどんどん使うんだぞ! 何もないところから物を取り出したり・・・」
「そんなことではありません! でも・・・無駄ですね。あなたには何を言っても届かないのでしょう。あれほど村から出るなと言っていたのに、サリナを連れて勝手に出て捕らえられて・・・。サリナが攫われたのはあなたの所為なのですよ!」
「だけど、僕は次の旅に出ないと行けなかったんだよ。あの村にずっといるのは無理だから仕方がないじゃないか・・・。それに、サリナにも外の世界を見せた方が良いって君も昔は・・・」

「次の旅!? あなたの好奇心のせいで、サリナがどうなっても構わないと言うのですか!サリナが外の世界を見るためには準備が必要だったのが判らなかったのですか!」
「それは・・・、でも、サリナは無事だっただろう? 火の国の人は悪い人では無いんだよ。必要な資料は何でも持って来てくれたし、君たちには絶対危害を加えないって約束してくれたから」
「あなたと言う人は!いっそ見捨ててしまえばよかったわ!」

 サリナママは顔を紅潮させて激高していた。夫婦喧嘩と言うよりはかなり深刻な喧嘩が続きそうだったので、若干17歳の高校生が参入してみることにした。

「なんで、この人を見捨てなかったんですか? 話を伺っているとこの人ってロクデナシでしょ?」
「それは・・・、この人がサリナの父親だからです。どれだけ、ダメな人間でも父親を私が見捨てたと知られれば、傷つくのはあの子ですからね・・・」

 -なるほど、それには激しく同意だな。

 リカルドは俺にロクデナシと言われ、妻にダメな人間と言われても怒るそぶりを見せなかった。意味が判らないのではなく、興味が無いのだろう。

「じゃあ、お二人にしておきますから、ゆっくりと語り合ってください。俺は王と、いや、元王と元大臣に聞きたいことがあるんで、ショーイとリンネも付き合ってくれよ」

 二人とも頷きながら車の外に付いて来た、夫婦感動の再会となるはずがこのままだと殺し合いになる勢いだったから、中にいるのは居心地が悪かっただろう。もっともそうなれば、俺はママが勝つと思っているのでそれでも良かった。二人の会話を聞いていると、サリナが攫われたのはリカルドの責任のようだった。火の国の人は良い人と言っていたぐらいだから、ひょっとすると喜んで渡したのかもしれない。サリナを暗闇に閉じ込めたと思うと、俺はリカルドの事が心底嫌いになっていた。

■森の国 西の砦 近郊の森の中

 ミーシャがサリナに聞いた父親の話は不思議なものだった。父親は何処か他の国から来た人らしく、いつも紙に何かを書いていて、新しい物を見たり聞いたりするのが好きなようだった。サリナに物心がついたころから、村を出たいと言って母親と喧嘩が絶えなかったと言う。

「それでも、父親はお前の事は可愛がってくれたのだろう?」
「うーん、お父さんはそういう感じじゃないの。なんだろ・・・、お友達? 私には良く判らない話をたくさん喋って、いつもニコニコしてた」
「お前達が火の国に連れて行かれたのは、父親の所為なのか?」
「それも、良く判んない・・・、お父さんと一緒にいて、いつの間にか馬車に乗せられて・・・気が付いたら暗い部屋だったから」

 まさか自分の娘を敵に売り渡したのだろうか? だが、聞く限りではそういうタイプでもなさそうだ。

「それで、お母さんが私を部屋から出してくれて、別れる前に・・・『お父さんとはもう会えない。死んだものと思いなさい』って、そう言って私を抱きしめてくれたの」
「そうだったのか」

 ショーイに聞いた話では父親とサリナが捕らえられたために、母親は火の国の言いなりになったと言う事だったが、父親をあきらめたならサリナと一緒に逃げることも出来たはずだろうに・・・、なぜそうしなかったのだろう?サリナの母親は凄い魔法士だと聞いているから、その気になればいつでも逃げだせたはずだ。

 サリナの話を聞いて考えていたミーシャの目に遠くの木が風以外で揺れたのが見えた。

「サリナ、バギーを止めてくれ」
「うん、どうしたの?」
「たぶん、昨日の大きな人形がこっちへ向かっているようだ」
「ふーん、どうしようか? 風で吹き飛ばす?」
「それだと、近寄らせないといけないからな。大きい銃で壊していこう」
「わかった!」

 ミーシャはサリナの家庭事情をいったん忘れて、後部座席に積んであった50口径の対戦車ライフルを取り出した。バギーに積んでいるコンテナボックスの上に2脚を置いて銃を安定させてから土人形を探したが、揺れていた木は500メートル以上離れていたから、まだ動くものは見えなかった。

「サリナ、あの土人形の魔法はお前も使えるのか?」
「土の魔法は判らないの。お爺ちゃんもお母さんも使えなかったし」

 勇者の一族でも使えない魔法があるのか・・・、それとも敢えて?

 揺れていた木の方角から茶色い塊が木の中に現れた。一、二・・・、三体見えた。ミーシャは右側にいた土人形の膝辺りを狙ってライフルのトリガーを絞った。サトルはこの銃にも消音器をつけてくれたが、元々の発射音が大きいために勢いよく吹き出す空気の音が森に響いた。

 発射された弾丸は正確に土人形の足を捉えて粉砕した。左足を失った土人形はそのまま横倒しになって行く。結果を見ることもなく、二体目、三体目を倒していった。鈍重な動きの巨大な土人形はミーシャにとっては、狙いを定める必要のない標的だった。

「なんで、あんなのを作ったんだろうね? すぐに壊れるのに」
「そうだな、だが、それはこの銃やお前の魔法があるからだ、剣や弓矢ではあの硬い体には太刀打ちできないからな」
「ふーん、そっか」
「よし、じゃあ進もう・・・。いや、チョット待ってくれ」
「どうしたの?」

 ミーシャは倒した土人形を見ていると、三体とも手をついて起き上がろうとしていた。最初に倒した土人形は既に、上半身を起こして膝を地面に・・・、足が元通りになっている!

「ふむ、壊しても元通りになってしまうようだな。土だから幾らでも作れるのかもしれないな」
「えー!? じゃあ、どうするの? 壊しても終わらないの?」
「そうだな、昨日のヤツは壊しても元通りにならなかったし、途中で動きがとまったらしいからな・・・、どこかであれを操っている奴が居るはずだ。そいつらを見付けないといけないな・・・、よし、私が北に向かって回り込もう。サリナはバギーで南にゆっくりと戻りながら相手を引き付けてくれ。危ないと思ったら魔法で吹き飛ばしていいからな」
「うん、わかった! 無線のボタンを押しといてね!」

 サリナはバギーを転回させて、ゆっくりと南に向かって走り出した。ミーシャはたくさんの銃弾と銃床を畳んだアサルトライフル入れたリュックを背負い、手には重たい対物ライフルを持ちながら森の中を静かに北へと歩き出した。
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