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Ⅱ-7 組合長の行方
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■南方州の荒れ地
俺は6時にセットしたアラームの音を聞いてストレージの中で目覚めた。三日ほど人を撃たずに済んだので、ようやく心が落ち着いて来た。自分を納得させて悪人退治をしているものの、いまだに人を撃つことに抵抗を感じている。
キャンピングカーに入るとリンネは退屈そうにソファに寝そべっていた。ショーイのベッドが空になっているから二人とも起きているようなのだが・・・。
「ショーイは何処に居るんだ?」
「外さね。少し体を動かしてくるってさ」
窓の外を見ると刀を持って型の練習をしているショーイが見えた。俺には剣の構えはさっぱりだが、すり足で移動しながら剣を上下左右に振り回している。滑らかな足運びで流れるように剣筋が動いて行くのを見ていると、ついつい見入ってしまう。素人目にもショーイの剣の腕が確かなのが良く判った。
「ねぇ、今日も虎を狩るのかい?」
「そうだな、あと20匹ぐらいは仕留めたいな」
「ふーん、そうかい」
「どうした?嫌なのか?」
「嫌じゃないよ。だけど、あたしは黙って見ているだけだからね。退屈なのさ」
「退屈か・・・、昔は何をしてるのが楽しかったんだ? やっぱり食事か?趣味は何かあったのか?」
「趣味ねぇ、あたしは父親と同じで絵を描くのが好きだったんだよ。それで、領主の肖像画を描く父親について行ったのが、間違いだったんだ。見染められて、側室にしてもらったのは良いけど、前に話した通りの男だったからねぇ」
-領民を虐殺する領主だったな・・・
「そうか、絵が好きなんだ。よし、じゃあ絵を描く道具を用意するから、今日はここで絵を描いていろよ。俺とショーイは狩りを続けるからさ」
「ほ、本当かい!? 絵の道具もあるのかい?」
「ああ、あるよ。だけど、水彩で良いのかな・・・。まあ、一式出してやるから好きなの使えよ」
俺は水彩絵の具、筆やパレットとスケッチブック等を取り出して、テーブルの上に並べてやった。
「これは・・・何だい?」
リンネは箱に入った絵の具を不思議そうに眺めていた。
「それは絵の具だよ、このパレットに押し出して筆で水をつけながら・・・、ほら」
小さなバケツに水を入れて、パレットに押し出した緑色の絵の具を筆につけてスケッチブックに丸を書いた。
「こ、この小さいの数だけ色があるって事かい?」
「そうだな、24色あるからな」
「・・・、色は自分で作るもんだと思ってたよ・・・」
「ああ、もちろん混ぜても良いけどね。最初から色が判った方が便利だろ?」
「そうだねぇ。何にせよ、ありがたいね。大事に使わせてもらうよ」
リンネが感謝の言葉を述べてくれたところで、丁度ショーイが戻って来た。そろそろ朝食にして、今日の狩りを始めることにしよう。あの二人・・・サリナとミーシャは今日の朝食はどうするのだろうか? 二人には色々と持たせたものの、心配性の俺としては渡し忘れたものが無いか少し気になっていた。
■森の国 クラウス近郊の森の中
ミーシャは太陽が昇る前の森の音で目が覚めた。ミーシャが今までしてきた旅は殆どが野宿だった。バーンに行く長い旅の途中も宿で泊まったことは一度もない。森の中は虫や鳥や獣たちが動き出す音で朝を伝えてくれる。サトルが用意してくれた寝袋と言うものは非常に快適だった。暑くも無く、寒くも無く、朝までゆっくりと休むことが出来た。
隣のサリナはまだ寝ていたので、静かに寝袋から抜け出して寝袋を小さく畳んだ。サリナと自分のために朝食を車の中から持ち出してきてマットの上に並べる。サトルはカフェオレと硬いパンのような物を朝は食べろと言っていたが、どれも甘い味がついていてとても美味しいものだ。もっとも、焼き立ての食パンにバターを塗ったものの方がミーシャとしては気に入っていたのだが・・・。
「ふわぁーい。おはよぉ、もう朝なの?」
ミーシャの動く音でサリナが目を覚ました。
「ああ、日が昇ったところだ。もう少し寝ていても構わないぞ」
「うーん、でも、お腹が空いた!」
サリナも寝袋から上半身だけを出して、マットの上で背伸びをし始めた。背伸びをしてもやはり小さい体だと思う。ミーシャと一つか二つしか歳が変わらないが、身長は20㎝ぐらい低いはずだ。だが、この小さな体で昨日の夜は大勢の人間の命を救ってくれたのだ。
「サトルの用意してくれた朝食セットで良いのだろう?」
「うん!かふぇおれと、ちょこれーとと、なんとかっていう焼き菓子みたいなの!全部甘くて美味しいよね」
「ああ、どれも美味しいな。サトルの計算では20日以上はあると言っていたぞ」
「うん、でも決められた数しか食べちゃダメって言ってた。かふぇおれは一人1日一本だってさ。あんなにいっぱいあるのにね」
20日分・・・、果たしてその間に戦が終わっているだろうか?
■森の国 クラウスの王宮
甘い朝食をサリナと取ってから、顔を洗い歯磨きもして王宮に向かった。洗顔も歯磨きもシャワーも、全てサトルから教えられたことだが、今となってはやらないと気持ち悪くなってしまっていた。
だが、すっきりした気分で王宮に来たミーシャ達に王から残念な知らせが伝えられた。
「あの後すぐに組合長の家へ捕縛に向かったのだが、既に逃げた後だった。足取りも今のところは判っておらん。街道の関所には早馬を送って知らせておるが、今のところはは通っておらん」
「逃げるとすれば火の国でしょうが、一旦はセントレアに向かうでしょう」
「わしもそう思うが、戦を前にして捜索に割く人手はおらんからな、あきらめるしかないだろう」
「ですが、組合からの傭兵の中にも黒い死人達の手先が紛れ込んで居るかもしれません。そいつらを戦の前に見付けなければ、後ろから討たれることになります」
「その通りだが・・・」
ミーシャは話を聞いてどうするか悩んだ。今日は西の砦に向かう予定にしていたが、裏切者の組合長をこのままにしておくと、他の裏切者達の名前を知ることが出来ない。 かといって、何処に居るか判らない組合長の捜索で開戦に間に合わなければ本末転倒だ。
-サトルならどうするのだろうか?
「王よ、火の国は既に出兵したのでしょうか?」
「一昨日の時点ではまだ出兵しておらんかったが、準備はほぼ整っておると報告が入っておる。今日には出兵しておるだろう」
今日出兵なら早くても明後日までは西の砦にたどり着かないだろう。それなら、今日明日は組合長の捜索に時間を割いても大丈夫なはずだ。サトルなら車の移動で時間を稼ぐ作戦を立てるとミーシャは思っていた。
「では、私たちが明日まで組合長を探しましょう」
「だが、お前には西の砦に入ってほしいのだ」
「大丈夫です、明後日までには必ず砦に入りますので、ですが、組合長を見つけられない可能性もあります。念のために、砦に入っている組合からの傭兵については、一か所に集めて誰か信頼できるものに監視をさせてください」
「そうか、わかった。では砦にはそのように指示を出しておこう。お前達は本当に間に合うのか?」
「大丈夫です、新しい魔法で早く移動できる馬車がありますので」
「そうなのか!? ならば良いのだが・・・」
ミーシャは王宮を出るとサリナを連れて車を置いてある場所まで戻った。
「悪い人はどうやって探すの?」
「あいつは関所を避けて森の中を抜けてくるはずだが、最後の関所を抜ければ安心して街道に戻って来るだろう。私たちは最後の関所を抜けてセントレアの手前の街道でゆっくり待てばよい」
組合長のイアンは馬を用意しているはずで、馬を乗り継げば早ければ今日の夜にも最後の関所を抜けて行く。ミーシャは今晩から街道沿いで待ち伏せする計画を考えながら車にかけた網を取り外し始めた。
早馬より早い乗り物があることをを思い知らせてやるのだ。
俺は6時にセットしたアラームの音を聞いてストレージの中で目覚めた。三日ほど人を撃たずに済んだので、ようやく心が落ち着いて来た。自分を納得させて悪人退治をしているものの、いまだに人を撃つことに抵抗を感じている。
キャンピングカーに入るとリンネは退屈そうにソファに寝そべっていた。ショーイのベッドが空になっているから二人とも起きているようなのだが・・・。
「ショーイは何処に居るんだ?」
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「嫌じゃないよ。だけど、あたしは黙って見ているだけだからね。退屈なのさ」
「退屈か・・・、昔は何をしてるのが楽しかったんだ? やっぱり食事か?趣味は何かあったのか?」
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-領民を虐殺する領主だったな・・・
「そうか、絵が好きなんだ。よし、じゃあ絵を描く道具を用意するから、今日はここで絵を描いていろよ。俺とショーイは狩りを続けるからさ」
「ほ、本当かい!? 絵の道具もあるのかい?」
「ああ、あるよ。だけど、水彩で良いのかな・・・。まあ、一式出してやるから好きなの使えよ」
俺は水彩絵の具、筆やパレットとスケッチブック等を取り出して、テーブルの上に並べてやった。
「これは・・・何だい?」
リンネは箱に入った絵の具を不思議そうに眺めていた。
「それは絵の具だよ、このパレットに押し出して筆で水をつけながら・・・、ほら」
小さなバケツに水を入れて、パレットに押し出した緑色の絵の具を筆につけてスケッチブックに丸を書いた。
「こ、この小さいの数だけ色があるって事かい?」
「そうだな、24色あるからな」
「・・・、色は自分で作るもんだと思ってたよ・・・」
「ああ、もちろん混ぜても良いけどね。最初から色が判った方が便利だろ?」
「そうだねぇ。何にせよ、ありがたいね。大事に使わせてもらうよ」
リンネが感謝の言葉を述べてくれたところで、丁度ショーイが戻って来た。そろそろ朝食にして、今日の狩りを始めることにしよう。あの二人・・・サリナとミーシャは今日の朝食はどうするのだろうか? 二人には色々と持たせたものの、心配性の俺としては渡し忘れたものが無いか少し気になっていた。
■森の国 クラウス近郊の森の中
ミーシャは太陽が昇る前の森の音で目が覚めた。ミーシャが今までしてきた旅は殆どが野宿だった。バーンに行く長い旅の途中も宿で泊まったことは一度もない。森の中は虫や鳥や獣たちが動き出す音で朝を伝えてくれる。サトルが用意してくれた寝袋と言うものは非常に快適だった。暑くも無く、寒くも無く、朝までゆっくりと休むことが出来た。
隣のサリナはまだ寝ていたので、静かに寝袋から抜け出して寝袋を小さく畳んだ。サリナと自分のために朝食を車の中から持ち出してきてマットの上に並べる。サトルはカフェオレと硬いパンのような物を朝は食べろと言っていたが、どれも甘い味がついていてとても美味しいものだ。もっとも、焼き立ての食パンにバターを塗ったものの方がミーシャとしては気に入っていたのだが・・・。
「ふわぁーい。おはよぉ、もう朝なの?」
ミーシャの動く音でサリナが目を覚ました。
「ああ、日が昇ったところだ。もう少し寝ていても構わないぞ」
「うーん、でも、お腹が空いた!」
サリナも寝袋から上半身だけを出して、マットの上で背伸びをし始めた。背伸びをしてもやはり小さい体だと思う。ミーシャと一つか二つしか歳が変わらないが、身長は20㎝ぐらい低いはずだ。だが、この小さな体で昨日の夜は大勢の人間の命を救ってくれたのだ。
「サトルの用意してくれた朝食セットで良いのだろう?」
「うん!かふぇおれと、ちょこれーとと、なんとかっていう焼き菓子みたいなの!全部甘くて美味しいよね」
「ああ、どれも美味しいな。サトルの計算では20日以上はあると言っていたぞ」
「うん、でも決められた数しか食べちゃダメって言ってた。かふぇおれは一人1日一本だってさ。あんなにいっぱいあるのにね」
20日分・・・、果たしてその間に戦が終わっているだろうか?
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甘い朝食をサリナと取ってから、顔を洗い歯磨きもして王宮に向かった。洗顔も歯磨きもシャワーも、全てサトルから教えられたことだが、今となってはやらないと気持ち悪くなってしまっていた。
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「ですが、組合からの傭兵の中にも黒い死人達の手先が紛れ込んで居るかもしれません。そいつらを戦の前に見付けなければ、後ろから討たれることになります」
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