上 下
165 / 343

Ⅱ-4 心配事

しおりを挟む
■南方州の荒れ地

 俺達3人はエドウィンで情報収集をした後はクロカン4WDで更に南へ移動した。レイジーと言う町の南まで3時間弱のドライブだったが、ショーイもリンネも気持よさそうに寝ていた。

 このあたりがサリナやミーシャと違うところだった。二人なら俺が運転しているときは必ず起きていたし、周りに目を配ってくれた。やはり年上だからかショーイ達には悪い意味で余裕があるのかもしれない。

 荒れ地の中で車を止めて双眼鏡で獲物を探すと、500メートル程向こうにブラックティーガーが2頭いるのを見つけた。今回はリンネが使う新兵の募集だから、虎系の魔獣ぐらいでちょうどいいだろう。

 300メートルぐらいまで近づいて、狙撃銃の2脚を車のボンネットの上に置いて構えた。スコープの中のティーガーはこちらを見ているようだが、距離が遠すぎてお互いに脅威だとは思っていないようだった。

 ミーシャに教わった風の読み方だと少し左に流れて行くはずだったので、首の付け根より右側に十字線を動かしてトリガーを絞った。サプレッサーでくぐもった発射音の後にスコープの中で横倒しになったティーガーが見えた。すぐにもう一匹にターゲットを合わせてトリガーを引く。今度もきれいに首筋を撃ち抜くことが出来た。

 自分の腕前が上達していることに満足して、車を移動させて倒したティーガーをストレージに回収しておく。この調子なら明日の午前中には新兵の勧誘は終了しそうだ。まあ、勧誘と言うよりは徴兵制なのだが。

■森の国王都 クラウスの宿

 サリナはミーシャと一緒に居酒屋でテーブルに並んだ焼き串を食べていた。ミーシャが進めるだけあって、確かに美味しいお肉だった。

「美味しいね」
「そうだな、良い鶏肉と鹿の肉が入ったらしいからな」
「そうだね・・・」
「ああ・・・」

 二人は肉をかみしめながら、お互いの顔を見ていた。

「でも、ちょっと味が薄いかもね」
「そうだな、サトルが居ればな・・・」
「大丈夫! 良い物を持って来ているから!」

 サリナは腰に付けた大きなポーチの中から、シオコショウとサトルが言っていた物を取り出した。

「これを使うと美味しくなるって言ってたから!」
「ああ、それは里でも使っていたな。肉がさらに上手くなる。いつの間にそんなものを?」
「えーと、今日の朝にサトルが渡してくれたの。他にもマヨネーズとケチャップもあるよ」
「そうか、じゃあまずはシオコショウからだな」
「うん!」

 二人はサリナが取り出したシオコショウのボトルを肉に振りかけた。サリナは味のしなかった肉が急に美味しくなった気がしていた。

「やっぱり、味が全然違うな。私たちはすっかりサトルの味に慣れすぎてしまったようだ」
「そうだよね。サトルが居ないと・・・」

 朝別れたばかりだったが、サリナはサトルと会えなくて既に寂しくなっていた。しかも、炎の国との戦いはいつまで続くのかがわからない。

「ねえ、ミーシャ。いくさっていつまでやるのかな?」
「それは、炎の国を追い払うまでだからな。いつまでかは判らない」
「そっか・・・、じゃあ、早くやっつければ早く終わるんだよね」
「そうだ。今回の件はサリナにも迷惑をかけて申し訳ないな」
「ううん! そんなことは良いの! ミーシャとサトルはお兄ちゃんも助けてくれたし、魔法具も見つけてくれたし、こんどはサリナが頑張る! だけど・・・」

 サリナはミーシャを見て笑顔を作ろうとしたが無理だった。

「お前はサトルと一緒に居たいんだな?」
「うん、サトルも一緒が良い。ミーシャは違うの?」
「そうだな、アイツと一緒の方が楽しいな。昨日の焼肉も楽しかった」
「そう! サトルと一緒に食べる焼肉が最高なの!」

 そう、出してくれる食事が美味しいだけでは無い。サトルと一緒に食べるから美味しいのだ。

■南方州の荒れ地

 俺は日暮れまで狩りを続けて、虎系の魔獣を20匹程調達して今日の予定を終了した。キャンピングカーを荒れ地に呼び出して、リンネとショーイにシャワーを浴びるように言ってからストレージに入った。俺もシャワーを浴びてさっぱりしてから、これまで我慢していた尋問を再開することにした。

 ムーアで捕らえたお頭は3日以上暗闇の無音空間で放置してあった。そろそろ、ボッチが寂しくなって話をしてくれるかもしれないと思い、ストレージの空間の上の方から光を入れて声を掛けてみた。

「おーい! 生きてるか!? って死んでるんだよな・・・」
「お、お前! 居たのか!? ここは何処なんだ? 俺は死後の世界に行けたのか?」

 死後の世界? 死人のセリフだと意味がよくわからないな。

「教えて欲しければ、先にお前の名前を教えろ」
「名前は使っていない。俺達の組織では幹部は名前を使ってはいけないことになっている」

 使ってはいけない? 確かに今までのお頭も名前を名乗らないのが多かった。

「どうして、名前を使ってはいけないんだ?」
「名前を知られると・・・、呪い殺すことが出来るからだ」

 昔の中国や日本でも本名を隠すと言うのがあったような・・・

「だけど、生きてた頃の名前があるんだろ?それに、お前は死人だから今更死ぬこともないんだろ?」
「俺達も亡ぼすことのできる呪法だと聞いている。俺はレントンと呼ばれていた・・・が、大昔の話だ」
「そうか、じゃあレントンでいいや。レントンが黒い死人達の首領と呼ばれる一人なのか?」
「いや、違う。俺はムーアの町を任されているだけだ」
「そうなのか? だが、ムーアのアジトには色々隠していたじゃないか? あそこがお前たちの本拠地じゃないのか?」

「お前、床下を見つけたのか!? 」
「ああ、その中身も後で聞くが、その前に質問に答えろ。あそこが本拠地じゃないなら、お前たちの首領は何処に居るんだ?」
「それは俺にもわからない。首領は年に1回来るかどうかだ、殆どは使いが連絡してくる」

 こいつでも首領の情報は持っていないのか・・・

「お前たちとネフロスの信者はどんな関係なんだ?」
「俺達はネフロス信者じゃないが・・・、首領と使いはネフロスの信者だ。もともとはネフロス教の荒事を請け負う人間たちが集まって出来たのが今の黒い死人達だ。なあ、何でも話すからよ。水を貰えないか? 喉が渇いちまった」

 死人の喉が渇くのは不思議な気がしたが、随分と口が軽くなったようなので、ペットボトルの水を目の前に出してやった。

「な、なんだこれは!?」
「その水色の所を持って捻れば蓋が開く。違う! そうじゃなくて、細くなっているところを握って・・・、そうだ! そのまま回せば飲めるようになるはずだ。お前たち死人も喉が渇くのか?」
「ああ、飲まず食わずでも死ぬことは無いが空腹も感じるんだ」

 死人だと言うのに不自由な気もするが、リンネは美味い物が味わえるのは良いことだと言っていた。

「どうすれば、首領に会う事が出来る?」
「向こうから来るのを待つしかない」
「お前が会いたいときはどうしていたんだ?」
「俺から会いたいと言う事は無かったが、月に一度は使いが来るから必要なら言伝を頼んだだろう」

 その手は使えないから結局のところ俺が首領を捕まえるのは難しいようだ。

「よし、じゃあ、次は火の国との関係だ。お前たちは火の国と繋がって悪事を働いているんだろ? 王の命令なのか?」
「俺達は金を貰って頼まれたことをやるだけだ、その代わり火の国の中では多少の悪事は見逃してもらっている。火の国からの頼み事は首領を通してだから、王が命令しているかは知らねえ」

 それなら火の国から仕事を頼んでいる奴が見つかれば、首領達への連絡方法がわかるかもしれない。やはり、王を捕らえて口を割らせる必要があるだろう。

「じゃあ、最後に床下にあったものだが、あの髑髏と紙の巻物は何だ?」
「あれは預かり物だ。首領の使いが必要になる時が来るから預かっておけと言っていた」

 使い道が判りませんと・・・

「それと、木の箱があったけど。あれの開け方は判るか?」
「それならここに鍵がある。中には魔法具が入っているが、そっちも使い方は判らねえ」

 レントンは腰帯をほどいて裏側に隠してあった鍵を取り出して差し出した。俺は手も出さずにストレージの中で鍵を俺の手元に移動させた。

「き、消えたぞ! 確かにここに鍵が・・・?」
「安心しろ、俺が預かっただけだ」

 中身は魔法具だが使い道が判らないと・・・、色々聞けてもさっぱりだな。

「森の国との戦に備えて傭兵を集めていたんだろ? いつ戦が始まるかは判っていたのか?」
「いや、だが、すぐに始まっても良いようにしろと言われていた・・・、だけど・・・」

 ここまでスラスラと喋っていた男が最後に言いよどんだ。

「どうした? まだ隠し事か?」
「違う! ひょっとして、風の国で俺達のアジトを襲ったのもお前たちなのか!? あそこが一番傭兵の数が多かったのに、しばらくは送れないと連絡が入ったんだ」
「さあ? それは知らないな」

 こちらから情報を与える必要もないだろう。他に聞くことは・・・

「ところでお前はどうして死人になったんだ?」
「それは・・・、俺の両親がネフロスの信者だったからだ。馬車に引かれて死んだ俺を死人として蘇らせて、その代わりに二人とも死んだんだ」
「そのネフロスの信者と言うのは何処で集まっているんだ?」
「それは・・・、それだけは言えない」
「なぜだ? お前は信者じゃないんだろ?」
「・・・」

 その後は何も話さなくなった。それでも最低限の事は聞き出せた気がしたので、そのまま暗闇に放置することにした。また、しばらくしてから聞いてみることにしよう。

■森の国王都 クラウスの宿

 サリナはミーシャと同じ部屋のベッドで寝ていたが中々寝付けずに何度も寝返りを打っていた。

「どうした? 眠れないのか?」
「うん、ミーシャも起きていたの?」
「ああ、私も少し寝付けなくてな」
「そっか・・・、ねえ、車は大丈夫かな?」

 サリナはベッドに横になってから森の中に隠した車の事を思い出して、心配になっていた。

「お前も気になっていたのか。私もだ・・・、あれには大切なものが入っているからな」
「ミーシャも! そう、武器も車も、それに、かふぇおれ・・・」
「そうだが、まあ、明日の朝までだからな」
「でも・・・、もし・・・」
「・・・そんなに心配なら今から行くか?」
「えっ!? 良いの?」
「うむ、気になって眠れないぐらいなら車で寝た方がゆっくり休めるかもしれないからな」
「そうだね!じゃあ、行こう!」

 サリナとミーシャはリュックからライトを取り出して宿を出た。宿の外は明かり一つなく真っ暗闇だがライトの光で足元はしっかり見えている。

「おかしいな・・・」

ミーシャが足を止めて突然つぶやいた。

「どうしたの?」
「うん、こんな時間なのに走っている人間が大勢いるようだ」

ミーシャの耳には静かな町の中に響いている足音が聞えていたようだ。

-火事だぁ! 燃えているぞ!

今度はサリナにもはっきり聞こえた、町のどこからか大きな声がしている。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

とあるオタが勇者召喚に巻き込まれた件~イレギュラーバグチートスキルで異世界漫遊~

剣伎 竜星
ファンタジー
仕事の修羅場を乗り越えて、徹夜明けもなんのその、年2回ある有○の戦場を駆けた夏。長期休暇を取得し、自宅に引きこもって戦利品を堪能すべく、帰宅の途上で食材を購入して後はただ帰るだけだった。しかし、学生4人組とすれ違ったと思ったら、俺はスマホの電波が届かない中世ヨーロッパと思しき建築物の複雑な幾何学模様の上にいた。学生4人組とともに。やってきた召喚者と思しき王女様達の魔族侵略の話を聞いて、俺は察した。これあかん系異世界勇者召喚だと。しかも、どうやら肝心の勇者は学生4人組みの方で俺は巻き込まれた一般人らしい。【鑑定】や【空間収納】といった鉄板スキルを保有して、とんでもないバグと思えるチートスキルいるが、違うらしい。そして、安定の「元の世界に帰る方法」は不明→絶望的な難易度。勇者系の称号がないとわかると王女達は掌返しをして俺を奴隷扱いするのは必至。1人を除いて学生共も俺を馬鹿にしだしたので俺は迷惑料を(強制的に)もらって早々に国を脱出し、この異世界をチートスキルを駆使して漫遊することにした。※10話前後までスタート地点の王城での話になります。

おおぅ、神よ……ここからってマジですか?

夢限
ファンタジー
 俺こと高良雄星は39歳の一見すると普通の日本人だったが、実際は違った。  人見知りやトラウマなどが原因で、友人も恋人もいない、孤独だった。  そんな俺は、突如病に倒れ死亡。  次に気が付いたときそこには神様がいた。  どうやら、異世界転生ができるらしい。  よーし、今度こそまっとうに生きてやるぞー。  ……なんて、思っていた時が、ありました。  なんで、奴隷スタートなんだよ。  最底辺過ぎる。  そんな俺の新たな人生が始まったわけだが、問題があった。  それは、新たな俺には名前がない。  そこで、知っている人に聞きに行ったり、復讐したり。  それから、旅に出て生涯の友と出会い、恩を返したりと。  まぁ、いろいろやってみようと思う。  これは、そんな俺の新たな人生の物語だ。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~

こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。 それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。 かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。 果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!? ※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。

残滓と呼ばれたウィザード、絶望の底で大覚醒! 僕を虐げてくれたみんなのおかげだよ(ニヤリ)

SHO
ファンタジー
15歳になり、女神からの神託の儀で魔法使い(ウィザード)のジョブを授かった少年ショーンは、幼馴染で剣闘士(ソードファイター)のジョブを授かったデライラと共に、冒険者になるべく街に出た。 しかし、着々と実績を上げていくデライラとは正反対に、ショーンはまともに魔法を発動する事すら出来ない。 相棒のデライラからは愛想を尽かされ、他の冒険者たちからも孤立していくショーンのたった一つの心の拠り所は、森で助けた黒ウサギのノワールだった。 そんなある日、ショーンに悲劇が襲い掛かる。しかしその悲劇が、彼の人生を一変させた。 無双あり、ザマァあり、復讐あり、もふもふありの大冒険、いざ開幕!

異世界転生!俺はここで生きていく

おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。 同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。 今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。 だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。 意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった! 魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。 俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。 それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ! 小説家になろうでも投稿しています。 メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。 宜しくお願いします。

万能知識チートの軍師は無血連勝してきましたが無能として解任されました

フルーツパフェ
ファンタジー
 全世界で唯一無二の覇権国家を目指すべく、極端な軍備増強を進める帝国。  その辺境第十四区士官学校に一人の少年、レムダ=ゲオルグが通うこととなった。  血塗られた一族の異名を持つゲオルグ家の末息子でありながら、武勇や魔法では頭角を現さず、代わりに軍事とは直接関係のない多種多様な産業や学問に関心を持ち、辣腕ぶりを発揮する。  その背景にはかつて、厳しい環境下での善戦を強いられた前世での体験があった。  群雄割拠の戦乱において、無能と評判のレムダは一見軍事に関係ない万能の知識と奇想天外の戦略を武器に活躍する。

処理中です...