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Ⅰ-131 メッセージの効果

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■ライン領 マイヤーの町

「じゃあ、俺は正門が見える場所へ移動するから、ミーシャは裏門から誰か出てきたら、サリナの胸に話しかけて」
「わかった、正門に出てきたらどうするのだ?」
「サリナに伝えるから、ハンスといっしょに俺のところまで来てよ」
「承知した」

 俺は無線機をオンにして、正門が双眼鏡で見える場所まで森の中を歩き始めた。館は1㎞ほど離れた場所だが、5分もいかないうちに大きな声や物音が聞えてきた。まじめなメッセンジャーが屋敷にたどり着いたのだろう。さっき見た裏門の前には腰に剣を差した奴が立っていたが、暇そうに壁にもたれかかっているだけだった。デスハンターを見て、どんな風に反応したかに興味があったが、既に俺のいる位置からは裏門が見えなくなっている。

 正門のほぼ横ぐらいの場所で、裸眼で眺めていると門番は一人しかい無いようだが、外よりも屋敷の中を見ていた。門から屋敷までは100メートルぐらい離れているから、門番はデスハンターに会うことは無いだろう。

 いずれにせよ、走り回るだけのはずだから誰も襲わない。反対にデスハンターは攻撃を受けることになるかもしれない。別に戻って来なくても問題ない。変わりのメッセンジャー候補は他にもいる。

 屋敷の騒乱は10分ほどで収まったようだ、大きな声は聞こえてこなくなった。俺はその後も双眼鏡と裸眼で交互に正門をチェックしていたが、30分待っても動きは無かった。

 -裏から出てきたぞ。

 イヤーピースからミーシャの声が聞えてきた。

「わかった、戻るからミーシャに伝えてくれ」

 -うん、わかった。

 不思議なちびっ娘は機械や車の扱いはすぐに覚えてくれるから便利だ。頼りないように思うのは、単に経験が足りないのだろう。やはり、ハンスが保護者と言うのが問題のような気がする。

 ミーシャ達が居た場所に戻ると、リンネとミーシャの二人しかいなかった。リンネの横に居るデスハンターは石像のように固まっていたので、ストレージに戻しておいた。

「ハンスとサリナは二人で会いに行ったのか?」
「ああ、その方が良いらしい」

 少し危ない気がするがハンスの判断だから仕方ない。三人の会話は無線機で確認することが出来るはずだ。

「どのあたりだろう?念のために見える場所まで移動しよう。それとミーシャには銃も渡しとくから、ショーイが二人を襲いそうだったら助けてやってよ」
「わかった、じゃあ、左側から山の方に回り込もう」

 §

 お兄ちゃんが言ってた剣士の人は私が小さい頃にお母さんと一緒にいたらしい。でも、サリナの記憶には全然なかった。森の中を向こうから歩いて来た背の高い人は、お兄ちゃんを見て驚いたようだけど、そのままこっちに歩いて来た。

「ハンス!? お前があの化け物を?」
「ああ、お前と話がしたかったのだ」
「・・・そっちの娘はサリナか?」

 ショーイは笑顔を見せずにサリナを上から見下ろしている。あんまり機嫌は良くないみたいだ。

「それで、あの騒ぎは一体どういうことだ。おかげで俺は楽で大金が入る仕事をクビになったんだぞ!」
「ああ、丁度よかった。お前には私たちと一緒に来てほしかったのだ」
「丁度良かった!? ふざけんな! お前と一緒に、居もしない勇者や魔法具を探したって、魔竜なんか倒せねえんだよ!」

「大丈夫だ。勇者も魔法具も見つかった。それにサリナも勇者様の力で魔法士としての力を発揮している」
「魔法具が見つかった? そんな訳あるかよ。あんなもんは一生かかっても見つけられないんだよ!」
「だが、お前は見たのだろう? あの魔獣が屋敷の中を走り回っているのを。あれも勇者様が考えられたことだ。私たちには想像もつかないことを考えつく方なのだ。それに、信じられないなら、この刀を使ってみろ」

 お兄ちゃんはショーイに炎の刀を手渡そうとして近寄って行った。危ないかもしれないから、水のロッドを向けておこう。

「これが炎の刀? ボロボロじゃねえか・・・」

 ショーイは傷んでいる鞘から刀を抜いて刀身を光にあてているが、急に黙ってしまった。

「本物なのか?」
「本物だ、炎を出してみればすぐにわかる」

 ショーイは2・3歩下がってから刀を肩の上に構えた。

 -ブォッ!

 黒かった刀の刀身が真っ赤な炎に包まれている。サリナが出す魔法の炎よりももっと赤い色をしていた。

「ハッ!」

 短い掛け声とともに、振り返りざまに後ろにある木を斜めに切り下ろした。大人の体と同じぐらいの太さがある幹が、斜めにずれて・・・、音を立てて倒れて行った。木と刀がぶつかる音が全然聞えなかった。

「どうだ、間違いないだろう?」
「ああ、そうみたいだな・・・、何処でこれを?」
「南の迷宮だ、言い伝えは正しかったのだ」
「お前の腕はそこでか?」
「ああ、勇者様とサリナが助けてくれたのだ。二人が居なければ手だけでは済まなかった」

「ほう、サリナか、久しぶりだな。大きく・・・、なってねえな?お前はそろそろ15ぐらいだろう?」
「これから大きくなるの!」

 ショーイはサリナをみてニヤリとしている。さっきよりは機嫌が良くなったのかもしれない。

「それで、肝心の勇者は何処にいるんだ?」
「近くにいらっしゃる。お前と話が付いたら合わせるつもりだ」
「話しねぇ。その勇者は強いのか? 魔竜を倒せるぐらいに・・・」
「さっきの魔獣なら何十体も倒している。それに、仲間を使うのがお上手だ。屋敷に走り回らせるのは別の人間にやらせたのだ」

「わかった、お前の夢物語は夢じゃなかったってことだな。だが、これからどうするかは勇者と・・・、サリナ、お前は本当に魔法が使えるようになったのか?魔法具だけあっても使えないと意味がないんだぞ」
「サリナは魔法を使えるよ。サトルもお兄ちゃんも凄いって褒めてくれるもん」
「じゃあ、使ってみろ。デカい炎がだせたら、信じてやるよ」
「うん、良いよ。大きな・・・ ウアァ!」

 耳の中からサトルの声が聞えてきた。

「どうして?ショーイが見せてくれって言っているよ?」

「ヤダよー。言うこと聞くからお肉が欲しいーーー!」

「・・・、ハンス、お前の妹は気がふれたのか?」
「いや、違う。サリナは離れたところに居る勇者様と話が出来るのだ」
「ハァンッ!? お前も頭がおかしくなったのか?」

「二人とも、サトルがさっき切った木を撃つから、離れてろって言っているよ」
「ハンス、道具があっても狂人とは一緒に行けないぞ」
「いいから、黙って見てろ。お前は勇者様がどこにいるかわかるか?」
「いや・・・、近くに居ないのは間違いない」

 サトルはハンカチを切った木の上に置いておけって言ってるけど、返してくれるのかなぁ。

「え、穴が開くの? ダメだよ。お気に入りなのに。え、でも・・・、わかった。二人はその布を見ておけって言っている。たくさん穴が開くからって・・・」
「穴って、サリナ・・・、可哀想にな・・・!」

 -バシュッ!-バシュッ!-バシュッ!-バシュッ!-バシュッ!

 あーあ、ハンカチはもう使えなくなっちゃった。今度はどんな色にしてくれるのかな。新しいのは大事にしないと。
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