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Ⅰ-127 尋問

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■ハンスとサリナの宿

 サリナはサトルが用意してくれたハンバーガーとコーラの夕食を食べながら、黒い箱から聞こえるミーシャとサトルの声を聴いていた。イースタンさんの食事は凄いご馳走だったけど、サトルのハンバーガーには絶対に勝てない。久しぶりにサトルの食事を食べると涙が出そうになってきた。

「いまから、あいつらがそっちを襲いに行くけど、万一奴らが来ても、サリナは水の魔法以外は使うなよ。それも軽めだ、カ・ル・メ 判ったか。間違っても炎と風は使うなよ」
「うん、わかった。加減だよね?」
「そうだ、神様にすべての力とか絶対にお願いするなよ」
「うん・・・」

 サトルは建物が壊れたから怒っているみたい。でも、扉が鉄だったから全力でやらなきゃと思っただけなのに・・・。

「俺とミーシャは、あいつらが押し込みそうになったら、後ろから撃つ。それまでは三人ともベッドの陰で大人しくして置いてくれ。ミーシャは、出来るだけ殺さないようにな」
「判っている、足しか狙わない」
「サリナもはーい」

 サトルの声が聞えなくなった。姿の見えない遠くの人と話をするのは変な感じだけど、サトルの魔法はいつもオカシイから仕方ない。言われた通りに水のロッドを用意して、軽めで行けばいいのよね。でも、軽めってどのぐらいだろ?

■下町の路地

 売春宿に集まって来たのは20人を超えていた。俺一人だと加減が出来そうになかったので、ミーシャが見張っている宿の前で迎え撃つことにした。俺は松明とランプを持って宿に向かっているやつらの後ろを離れて歩いている。全員、剣を腰に帯びて、半分ぐらいのやつは槍も持っている。完全に戦争モードだ。それ以外に袋を持っているやつが居るが、何が入っているかは見えなかった。

 宿の前に着くと見張っていたやつらと合流して、大きな男を囲んで低い声で何か話し合っている。ミーシャの姿は見えないが、俺が隠れた路地から奴らを挟んだ向こう側に居るはずだ。ミーシャにはサプレッサーを付けたグロック17とマガジンを6個渡してあるから、今すぐにでも全員を倒すことも出来るだろう。

 集まっていたやつらの中から二人が、明かりの漏れている宿の扉から中に入って行った。すぐに物音がして、中から誰かを引き摺り出してきているのが見えた。暗くてはっきりしないが中年の男だろう。連れだされた男は、囲んでいるやつらの所に連れて行かれて、背の高い太った男の前で跪かされている。

 太った男は目の前の男の髪を無造作につかんで、何かを聞き出そうとしているように見えた。

「た、助けてくれ、全部話した通りだ! ガァッ」

 跪いた男の大きな声が聞えた時に、信じられない光景が見えた。大男は無造作に目の前の男の首筋を剣で刺したのだ。刺された男は剣を抜かれると同時に前のめりに倒れて、ピクリとも動かなくなった。

 -殺人だ・・・

 目の前で人が死ぬのを見るのは初めてだ、それも殺人・・・。驚きと恐怖が俺の中で駆け巡った。

 -あんなに簡単に人を殺すんだ・・・

 殺された男は宿の主人かも知れない。ハンス達の事を聞き出そうとしたのだろう。しかし、殺す必要は・・・。ダメだ、現世の常識は捨てなければいけない。こいつらが敵なら魔獣と同じように倒すしかないだろう。俺の中の恐怖が怒りにとって代わった。

 俺はサプレッサーを付けたサブマシンガンをストレージから取り出して、発射できるようにレバーを引いた。狙いをつけた目の前の男たちが・・・

「ミーシャ、撃ってくれ、俺もこっちから撃つ」

 俺は目の前の男たちが瓶から出ている布に火をつけたのを見ていた。火炎瓶を投げるつもりのようだ、炎で炙り出すつもりかもしれないが、宿には他にも客がいるはずだ。殺人に放火・・・、現世の常識よ、さようなら!

 無線で俺の声を聴いたミーシャは、既に撃ち始めていた。火炎瓶にを手にした男はその場で膝をついてうめいている。次々と周りも倒れはじめる。

「オイ、何だ! てめえらどうしたんだ!」
「あ、足がぁ! い、痛てぇ・・」

 悲鳴と大男の怒号が暗い通りにこだましている。俺もサブマシンガンで立っている男たちの膝辺りを狙って短くトリガーを何度も引き絞る。空気が噴き出す音が短く続いて、男たちは足を払われたように倒れて行く。俺とミーシャの掃討作戦は1分ほどで終わった。既に立てる奴はいなくなり、石畳の上で転げまわっている。

 それでも大男は剣で体を支えながら立とうとしていた。ライトの光を当てると、両方の太ももから血が流れている。

「てめえらは、一体何だ! 何をしやがった! こんなことして、ただじゃ置かねえからな!」

 近づいて行く俺に向かって大声を上げているが、ライトの中に見える顔には怯えが浮かんでいる。

「ハンス、表は片付いたから一人で降りて来てよ」

 大男の問いかけを無視して、ハンスを呼んでからテイザー銃で大男の胸を撃った。

「グゥーーー!!!」

 高圧電流が流れた大男は膝をついたままその場で痙攣して、手に持っていた剣を離した。

「ミーシャ、他の奴らが動いたら撃って。それと、火炎瓶の火は消しといて」
「承知した」

 俺の中で人を撃つことのハードルがいきなり下がってしまった。殺したいとは思わないが、こいつらに手加減は必要ないだろう。宿から出てきたハンスと二人で力の抜けた大男をストレージから取り出した担架に乗せて、近くにあった扉の無い空き家の奥に運び込んだ。もちろん、治療目的ではない。

 運んだ男はハンスよりも大きそうだったので、もう一度スタンガンをあてる。

「グゥーーー!!!」

 完全に動けないことを確認してから、両手に手錠をはめた。カンテラを取り出して男の顔が見えるようにしておく。

「ハンス、治療魔法で治すから、こいつが暴れそうだったら、その剣で刺して」
「判りました、どうして治療をされるのですか?」

「こいつがリーダーのはずだから、話せるようしないと。ハンスはこいつ等から聞き出したいことがあるんだろ?」
「なるほど、ありがとうございます。では、動けば死なない程度に刺しましょう」

 物騒な会話が自然とできるようになった俺は、大男に話しかけた。動けないが聞えているはずだ。

「じゃあ、治療してやるから。治っても動くなよ」

 無駄だとは思ったが一応警告しておいて、スタンガンを持っていない左手を男の顔辺りに向ける。

「ヒール!」

 掛け声と同時に左手から暖かい空気が大男に流れるのを感じた。そのまま男の顔を見ていると、男は目を開けた瞬間に俺にとびかかろうと・・・

「グゥーーー!!!」

 ハンスの剣より、俺のスタンガンの方が近かった。もう一度、治療をするが、また飛びかかろうと・・・、このやり方ではキリが無いようだ。不本意だが、魔獣たちと同じやり方で行くことにしよう。

「今からお前の足を痛めつける、そして治療する。何度もやるから、止めてほしくなったらそう言ってくれ」

 俺は感情を持たずに男の太ももをグロックで撃った。すぐに治療をして手ごたえ感じるともう一度撃つ、また治療をする・・・、徐々にスタンガンの痙攣が治まって来た大男は、10回ぐらいであきらめたようだ。魔法で元通りになると言っても、銃で撃たれる痛みを何度も味わいたい奴は居ないだろう。

「勘弁してくれ、いっそ殺してくれ・・・」
「じゃあ、ハンス。聞きたいことを聞いてよ」

「判りました、お前が黒い死人達のリーダーなのか?」
「ちがう、俺はゲイルの頭だ」
「お前たちの仲間でショーイと言う凄腕の剣士が居るはずだが、今は何処にいる?」
「ショーイ・・・風の剣士の事か? あいつなら、ラインの領主の用心棒をやってるよ」
「そうか、それと何年か前に森の国から大きな狼をこの国に運んできたはずだ、その狼は何処に運んだんだ?」
「おまえ、なんでそんなことを聞くんだ?」
「いいから、聞かれたことに答えろ」
「なんだ、知っているんじゃないのか、そっちもラインの領主の所だ」

 大男はずいぶんと素直になった。嘘を吐いているかもしれないが、尋問経験の無い俺には判らなかった。情報が真実ならラインの領主に会いに行かないといけないのだろう。

「嘘だったら戻ってきて、今度は100回ぐらい同じことをする。それと、今後俺達の前にお前らが現れても同じことをするからな。わかったか?」
「ああ、もう二度とお前らとは関わり合いにならないようにするさ」
「じゃあ、頑張って」

 俺はもう一度スタンガンを男に当ててから、ハンスと二人で部屋を出た。俺の異世界がずいぶんと生臭くなりつつある。
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