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Ⅰ-124 狭い部屋

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■風の国へ向かう街道

 イースタンの屋敷でハンスが風の国へ向かい、サリナ達が追いかけて行ったことを聞いて、俺はあきれ果てていた。

 ハンスは使命感が強いのは良いが自分の事を判っていない。あいつはドンクサイのだから、どうせすぐに黒い死人達に見つかるだろう。サリナが、追いかけて行った理由はわからないが、ハンスが心配だったのかもしれない。それなら最初から一緒に行けば・・・、それはハンスが許さないのか・・・。あいつは俺とサリナを一緒に行かせたがっていたからな。

 イースタンから話を聞いたミーシャはすぐに追いかけると言い出した。俺は・・・、いつものように車を走らせることにした。いい加減嫌になっているものの、やはり見捨てられないのだ。ミーシャと約束していたこともあるが、ちびっ娘の事も気になっている。あいつはこの世界で最初の友達だ、見捨てることなんてできるはずがない。リンネと一緒だと言うが、あいつも200年ぐらいは引きこもりで一般常識があるとも思えない。公共交通機関がないこの世界で女だけの二人旅とは思い切ったものだ。

 それでも、風の国までは馬車で5日か6日、俺のバギーなら5時間で着くと計算している。街道をいつもより早い速度で荷馬車を追い抜いているから、夕方までには着くはずだ。後はあいつらがそれまで大人しく・・・、いかん、これはフラグだな。

■ゲイルの交易商 グインの店

 副司教のポールは風の国で手広く商売をしているグインと言う男を紹介してくれた。ハンスは教会から30分ほど歩いて目当ての店を見つけることが出来た。小さい店構えだったが奥には大きな倉庫があって、店の裏側から馬車が出入りしているようだ。

「副司教の紹介状を持つ獣人ってのは珍しいね」

 小柄で白髪交じりのグインは、紹介状を見せるとカウンター奥にある打ち合わせテーブルへハンスを連れて行った。

「ポール副司教には昔からお世話になっております」
「そうかい、力を貸してくれって書いてあるけど、何をして欲しいんだい?」
「私は大きな狼を探しているのです。何年か前に北の森で捕らえられて、この国に連れて来られたと聞きました」
「・・・」

 向かいで笑顔を見せていた、グインの表情がハンスの話を聞いて急に険しくなった。

「なにか、ご存じなんですね!?」
「いや、何も知らない。悪いが俺では力にはなれないな。ポール副司教によろしく言ってくれ、これは・・・、返しとくよ」

 グインは紹介状の裏に机の上に置いてあったペンで走り書きをしてハンスに返した。ハンスの目を見て何も聞くなと合図している。

「わかりました、お邪魔してすみませんでした」
「ああ、他に仕入れたいものがあるなら、又寄ってくれよ。元気でな」

 ハンスは店を出て、歩きながら紹介状の裏を見た。そこには-ラインの領主-、それだけが書いてあった。

 ライン領はこの国の東側の大きな領地で、そこの領主マイヤーは前国王の弟、現国王の叔父にあたる人物だったはずだ。この国での評判は良くないと聞いているが・・・。もう少し情報を集める必要があるな。だが、まずは組合へ行くことにしよう。少し早いが昨日の二人がもう来ているかもしれない。

■下町の倉庫街

 お兄ちゃんの知り合いの親切な人は、サリナを大きな扉がある建物に連れて行ってくれた。宿からは10分ぐらいしか歩いていないと思う。

「ここに、ハンスが居るの?」
「ああ、居るはずだよ。ひょっとすると出かけているかもしれないけど、すぐ戻って来るから中で待って居よう」
「うん、わかった」

 大きな扉の横にあった通用口から中に入ると、窓が少なくて暗いじめじめした居心地の悪い場所だった。親切なオジサンは荷物が置いてある場所の右側にあった扉の中に私を連れて行くと、奥に座っている体の大きな人に何か耳打ちしていた。

「そうか! よくやった!」

 体の大きな人は何か喜んでいるようだ。その人は笑顔でサリナに話しかけてきた。

「ハンスさんは今出かけているからな、ここで待っていてくれよ。すぐに戻って来ると思うからな。それで、後の二人は一緒じゃないのか?」

- 後の二人? 誰の事だろう?

「二人って、誰の事ですか?」
「あー、ハーフエルフともう一人が一緒なんだろ?」
「あ、ミーシャとサトルですか?」
「そうそう、そうだった。ミーシャさんとサトルさんね。今は何処にいるんだい?」
「二人は森の国へ行ってます。お兄・・、ハンスは言ってませんでしたか?」
「いや、はっきりしたことは聞いてない。あんた達が来たら、ここで待ってもらうようにって、そう言ってたよ」
「そっか、ありがとうございます。ハンスはいつ頃戻ってきますか?」
「そうだな、早いとは思うけど、夜になるかもしれないな」

-夜かぁ、それなら先にリンネの所に行かないと。

「じゃあ、私は後でもう一度来ます」
「いや、あんたは外に出ると危ないから出さないでくれって言われているんだよ」
「でも、用事があるから・・・」

「おい、こいつを奥の部屋に連れていって、外から鍵を掛けとけ!」

 大きな体の人が突然怖い口調になると、後ろに居た親切なオジサンが両脇から手を入れてサリナを羽交い絞めにした。

「エッ!どうしたの!? 何!?」
「こっちの部屋で待っててくれよ、暴れるなよ怪我するぞ」
 親切だったオジサンはサリナを後ろから抱え上げて連れて行った。奥の部屋は石造りの壁で狭くて・・・、窓が無かった。

「いや、ここはダメ!待つなら外で待つからここはイヤー!」
「うるせえな、静かにしておけよ」

 突き飛ばされて尻もちをついたサリナの目の前で扉が閉められて、部屋の中が真っ暗になった。

「ダメ――――!!」

 怖い、暗い、狭いところに一人だ・・・、また、閉じ込められた・・・どうしよう!?

「お願いします、開けてください!」
「お願いー!!」

 大きな声で叫んでも返事が無い・・・。落ち着かなきゃ、一人でも頑張れるはず・・・、まずは明かりだ。サトルは洞窟でいつも明るくしていたもん。

「ふぁいあ!」

 うん、これで大丈夫。部屋は狭くて木箱がいくつか積んであるだけだ。
 扉は・・・

 -ゴン、ゴン、

 硬いのか、たぶん鉄なんだ。壁も石を積みあげた部屋だ。
 どうしようかなぁ、あの人たちはお兄ちゃんの知り合いじゃなかったのかな。
 うーん、やっぱりリンネが待ってるからここから出ないと。
 扉は鉄だけど頑張ればなんとかなるはず、狭いところは絶対に嫌!

 だけど、鉄だから加減は無しで、神様にたくさんお願いしないといけないかも。
 ロッドは水のロッドでやってみよう。

 -風の神ウィン様、私のすべての力でこの扉を吹き飛ばす風を与えてください。

「じぇっとぉーー!!」

 §

 サトルとミーシャはイースト商会に向かう途中で、
 リンネはイースト商会の前で、
 ハンスは下町に向かう途中で、 
 
 ・・・下町の方から響き渡ってくる轟音を聞いた。
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