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Ⅰ-123 網に・・・

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■風の国 王都 ゲイル

 獣人の見張りには8人を充てて、日に何度も報告するようにホリスは指示をしてある。砦でしくじった奴も一人張り付けてあるから、残りのやつが来ればすぐにわかるだろう。今もホリスの元には見張りの一人が報告に来ていた。

「それで、組合で獣人が会っていたやつらは何者なんだ?」
「はっきりとは判りませんが、獣人に金で雇われたようです。そいつらは、何軒か飲み屋を回って、俺達にどうやったら繋ぎがつけられるかを聞いています」

 なるほど、俺達の事を探るのはあきらめていないんだな。

「そいつらはまだ酒を飲んでいるのか?」
「まだ飲み屋にいると思いますが」
「だったら、俺達を紹介できる人間を知っているって、そいつらに吹き込んで、明日、獣人をおびき寄せるんだ。で、獣人の方はどうしてる?」
「宿に戻りました」
「じゃあ、明日、獣人を捕まえたらオメエは宿代を払いに行って、書置きを預けてこい」
「書置きをですか?」
「ああ、獣人の知り合いが来たら渡してもらうように金を掴ませろ」

 獣人が消えれば仲間が探しに来るだろう。上手くいけば、4人とも・・・

 ■ゲイル大教会

 ゲイルの大教会は今でも教会としての役割だけを果たしている。水の国と違って風の国の王宮は教会とは別の場所に新しく立派なものが作られているからだ。だが、大きな教会の中には人影が少なかった。昔のように教会が国の全てを動かしているわけではないから、祈りだけのために足を向ける人間は、今ではほとんどいないのだろう。

 ハンスは朝からここの副司教に会いに来た。教会士は獣人のハンスが現れたことに驚いていたが、用件を伝えると取次ぎをしてくれて、副司教がすぐに会ってくれることになった。副司教の部屋は2階に上がってすぐの場所にあり、教会士に連れられて開いた扉から中に入ると懐かしい顔が奥の机から立ち上がった。

「久しぶりですね、ハンス」
「ご無沙汰しています、ポール様」

 副司教のポールは聖教典の教えを今でも忠実に信じている一人で、以前からハンスに力を貸してくれている。今から3年前にこの国へ来た時も、住むところなどの世話をしてくれていた。今日も柔らかい笑顔でハンスをソファーに座らせたが、すぐに表情を曇らせた。

「腕はどうしたのだ?」

 ポールは悲しそうな表情を浮かべてハンスの失われた左腕を見ていた。

「南の方で魔獣に襲われました」
「南か・・・、魔法具探しはどうなったのだ?」
「魔法具は全部見つかりました」
「全部! そんな!? どうやって!?」

 ポールやハンスは先の勇者や魔法具の存在を信じてはいたが、隠された魔法具を見つけるのは困難を極めることを理解していた。

「はい、神が新しい勇者様を使わされたのです」
「勇者様!? まことか!?どんな方なのだ?」
「それが・・・、ご本人は勇者では無いと言っております」
「どうしてなのだ? 神の思し召しなのであろう?」
「理由は私にも判らないのですが、魔竜討伐からは距離を置きたいようです」
「そうか・・・、勇者はその心のままに・・・、見守るしかないのだな」

 ポールはソファーの背もたれに体を預けて天井を仰ぎ見た。

「ええ、私とサリナは近いところで見守るつもりです」
「わかった、それで、今日はそれを伝えるために?」
「それもありますが、この国に連れて来られた狼の事で情報を集めています」
「狼?」

 ハンスはミーシャの名前は出さずに、伝説のオールドシルバーが黒い死人達によってこの国へ運ばれたことをポールに説明した。

「残念だが、私はその狼の事は聞いたことがないな。だが、この国の中で色々と知っている者に心当たりがあるので、紹介状を書いてやろう。その者なら、お前の力になってくれるはずだ」

 ■イースト商会前

 イースト商会の場所を御者の人はちゃんと知っていた。そう、誰かに聞けば色々と教えてもらえる。サトルも初めての町ではいつも親切な人達に教えてもらっていた。リンネが町の手前で馬車を降りて行ったから不安だったけど、ゲイルに入るときも一人でお金が払えたし、ここまで来ることが出来た。御者の人が居なくなって、本当にサリナ一人になっちゃった・・・、でも、大丈夫!

 ここのイースト商会はセントレアの半分ぐらいの大きさだけど、周りの建物よりはずっと大きい。人や馬車がたくさん出入りしているから、ぶつからないように気を付けないと。

 建物の中にも人がたくさん居る。カウンターにはオバサンが座っているけど、こっちを見て笑ってくれた。セントレアの嫌な人とは違うみたい。

「こんにちは! サリナです。ここにお兄・・、ハンスさんからの伝言がありませんか?」
「ハンスさん、獣人の方ですね? それでしたら、昨日お手紙をお預かりしましたが、セントレアに送ってしまいました」
「手紙? そっか、まだ向こうに居ると思っているのか・・・」
「ですが、お泊りになっているところは聞いていますよ?」
「本当!? 教えて!・・・ください」

 サリナはカウンターの上に身を乗り出して優しいオバサンを見つめた。

「ええ、もちろんです。ですが、あまり治安のよい場所ではないですから、一人で行ってはいけませんよ」

 - そうなんだ、でもお兄ちゃんに早く会わないと・・・、サリナには魔法もあるし大丈夫!

「はい、誰かと一緒に行ってもらいます!」

■ハンスの宿

 せっかく来たけど、お兄ちゃんは出かけてた。でも、部屋が空いていたからお金だけは払ってリンネと泊まれることになった。銀貨1枚と銅貨2枚だったけど良かったのかな?今までの宿よりも汚いのに。それで、これからどうしよう?リンネとの待ち合わせまではまだ時間があるし・・・

「お嬢ちゃん、お嬢ちゃんはあの獣人の知り合いかい?」

 宿を出たサリナに薄汚れた男が話しかけてきた、腰に剣を差しているが兵士では無いようだ。

「獣人ってお兄・・・、ハンスのこと?」
「ああ、そうそう、そのハンスさんから、お嬢ちゃんが来たら連れてきてほしいって言われてるんだよ」
「本当に!?」

 良かった、やっぱりこの町にも親切な人がいた。先にお兄ちゃんの所に行ってから、リンネが待っているイースト商会に一緒に戻ろうっと。
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