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Ⅰ-118 サトルの歓迎会

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■皇都セントレア

 二人でハンスを追いかけると言ったら、イースタンは怒っていた。それでも、サリナの意思が変わらないことが判ったので、最後は馬車を出してくれる店を教えてくれた。馬車のお金を出してくれなかったのは当たり前だと思う。

 サリナは討伐で稼いだお金をたくさん持っている。自分でこんな大金を持ったことがないので、どう使ってよいかも判らないが、サトルやミーシャが居なくても、風の国に行かなければならない。

 -そもそも馬車ってどうやって借りるんだろ?

「リンネは馬車を借りたことがある?」
「ないねぇ、領主と一緒の時は館の馬車があったし、それ以外は乗合だったからねぇ」
「そっか、うん、わかった!」

 イースタンが紹介してくれた店の前には沢山の馬がつながれている。馬車も大きいのと小さいのがあるようだ。荷馬車よりも車輪が大きくて、乗る箱にドアがついている。前にサトルが助けたランディさんが乗っていたのと似ていることを思い出した。

 店の中に入ると、ホールになっている場所に丸テーブルと椅子が5組ほど並べてある。奥にあるカウンターの中に、オジサンが一人座っているが、サリナが入っても手元にある何かを見て居て顔を上げない。

「あの、馬車を貸してください!」
「・・・馬車を? お嬢ちゃんが借りるのか?」
「はい、風の国まで行きたいんです!」

 カウンターのオジサンはサリナと後ろにいるリンネを上から下まで眺めてからリンネに言った。

「この子はお前さんの娘なのかい?」
「よしとくれ、あたしはこの子の付き添いだよ。一緒に風の国へ行くのさ」
「そうか、金はあるのか?」

「あります! たくさんあります!」
「バカ、この子は何を!」

 サリナはポーチの中にあった金貨をわしづかみにして、カウンターの上に置いた。リンネは止めようとしたが、オジサンは何十枚もある金貨を手元に引き寄せている。

「ほお!これを馬車賃で良いのかい、それなら任せてくれ!」

 男は予想外の臨時収入が入ったことで、どうやって帳簿をごまかすかをすぐに考えていた。

「ちょっと、待ちな! それは多すぎるだろ! いつも通りの値段にしな!」
「仕立て馬車は時価だからな、その日によって値段は違う。今日はこの子の言い値だよ」
「チッ、ふざけたことを言うんじゃないよ! 良いのかい? あたしたちはイースタンさんの所の客だよ!? あくどい商売してたって、後でしれたら大変なことになるよ!」
「い、イースタンさんの!? な、なんだ、それならそうと早く言ってくれないと・・・」

 男は手元に引き寄せていた金貨をあわててサリナの方に戻した。イースタンの名前は絶大な効果があるようだ。

「風の国までは急いでも片道3日はかかる。片道だけなら御者の食事代込で金貨1枚と銀貨7枚だな。お前さん達が宿に泊まっているときは、御者は馬車の中で寝かせてもらう。それで良いかい?ここいらでは普通の値段のはずだ」
「ああ、サリナもそれで良いかい?」
「うん、大丈夫・・・」
「どうした、元気がないじゃないか。それにあんた、外ではお金持ってるなんて言ったらだめだよ。悪い奴らがいっぱいいるんだからね」
「うん、わかった。気を付ける」

 リンネが一緒で良かった、せっかくサトルが分けてくれたお金だから大事にしないと。そういえば、サトルもお金は細かくしてから持つようにしていた。サトルとミーシャがいた時は、ついて行くだけだったから、私は何も考えてなかったのかぁ・・・。

 サトルとミーシャはどうしてるんだろう? やっぱり、二人に早く会いたい・・・。 

 弱気になっちゃダメ! 私が頑張るって決めたんだから!。
 お金は大事に使う、そして魔法も頑張る!  うん、きっと大丈夫!

■エルフの里

 俺の歓迎会は日暮れとともに始まった。特に出し物があるわけではない。集会所の大きなテーブルに座れるだけの人が入って飯を食い、酒を飲んでいる。みんなは楽しそうにしているが、俺は両側を長老たちに挟まれて、豪華な・・・食事を振る舞われていた。何の肉かは判らないが、いろんな種類の肉が焼かれて出てくる。残念ながら、どれも味がついていない。肉本来の味が味わえて・・・、やはり無理だった。リュックの中から、味付塩コショウを取り出して自分の肉にかけて、隣の長老に勧めてみる。

「国の秘伝の味つけです、皆さんも試して下さい」

 エルフの長老は素直に木の串に刺さった肉へ振りかけて口にした。

「ホォ! 塩だけでなく辛味があるのですね。肉の旨みが引き立ちますね」

 気に入ってもらえたので、リュックからもう一つ取り出して反対に座るドワーフの長老に渡すと、自分の肉にかけて隣のエルフに回してくれた。大きなテーブルの両側から調味料が回って行き、最終的に集会所の外に向かったようだ。

 集会所の中にも見た目が若いエルフが居るが、基本的には年長者が中にいて、若いエルフ達は外で食べているのだろう。俺が来た時には既に椅子を持って来たり、敷皮を敷いたりして外で座って楽しそうに飲み始めていた。

 俺は長老達との話題が思いつかずに困っていた。ドワーフ長老に酒を勧められたので舐めてみたが、思わず顔をしかめると、それ以上は勧めてこない。ミーシャも離れたところで座っていて、俺を助けてくれそうにない。塩コショウ以外の話題は無い・・・

「前の勇者は白い何かを野菜等につけておったぞ。あれも美味かった」

 ドワーフ長老が塩コショウの掛かった肉を食いながら突然話しかけてきた。

「白い物ですか? 野菜・・・マヨネーズですか!?」
「名前は判らんが、美味かったことだけは覚えておる」

 焼酎にマヨネーズ、ナックルダスターもだが、前の勇者も俺と同じようにストレージに入れて転移してきたのだろうか?とりあえず、マヨネーズぐらいならリュックに入っていたことにしてみるか・・・

「これですかね?」

 リュックの中から大き目のマヨネーズを取り出して長老に見せる。

「ふむ、形と・・・赤い色が違うの。前はガラスの綺麗な器に入っておったぞ」
「これは赤い蓋を取ると・・・、この筒からマヨネーズが出てきます」

 皿にマヨネーズを出してやると、長老は指ですくって口に入れた。

「オォッ この味じゃ! 間違いない!」

 やはり、マヨネーズの事だったか。だが、ガラスの器と言うことはこの世界でマヨネーズを作ったのかもしれないな。材料さえあれば作れるはずだ。

 マヨネーズも大きなテーブルを回って行きだした。確実に足りなくなると思ったので、リュックの中をごそごそ探すふりをしながら、もう一本同じものを反対側から回してもらう。

 口にしたエルフ達はみんな笑顔が広がり、俺の方を嬉しそうに見てくれる。もっと出してやれるが、このぐらいでやめないと不自然だろう。無限に出てくるリュックになってしまう。

「おぬしは、勇者ではないと言っておるそうじゃな?」
「ええ、私は勇者ではありません」
「そうなのか・・・、じゃが、前の勇者と同じ国からきておるのだろうが?」
「それは、お会いしていないので判らないです」

 前の勇者は間違いなく日本からきているようだが、トボけるに限ると判断した。勇者伝説に関わるとろくなことは無い。

「ふむ、わしは間違いなくおぬしも勇者だと思うがのう。じゃが、勇者はお前たちの神により招かれしものじゃ、わしらが決める事ではないのも確かじゃ」

 ドワーフ長老は少し寂しそうな感じで話を止めた。前の勇者とはかなり親しくしていたのかもしれない。ショーチュウで酒盛り? 俺には無理だ。

 それよりも、何とか席替えをして、素敵なエルフ女子と交流をしたいのだが・・・
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