上 下
107 / 343

Ⅰ-107 リンネの別れ

しおりを挟む
■リンネの小屋

 ミーシャ達が床で寝なくて済むように、小さいベッドを並べてやってから俺はストレージに入った。リンネを信じてよいかは判らなかったが、ミーシャが大丈夫だと目で合図を送ってくれた。リンネの話しが全て本当なら恐ろしく、そして悲しい話だ。200年も死人と暮らす・・・、俺なら気が狂うか、ゾンビの被害を忘れてどこかに逃げ出すだろう。

 明日は燃え残しが無いように、しっかりと燃やすことにしよう。その為には・・・

 §

 朝起きて、良いニュースが二つと悪いニュースが一つあった。悪い方はハンスが、いまだに目覚めないと言うことだ、薬で眠らされているなら、そろそろ目覚めてよいはずなのだが・・・。良い話の一つ目は死人しびと達が休まず頑張ってくれたおかげで、立派な深い穴が掘られていた。リンネの指示通りに斜めのスロープを作って、どんどん深くしていったようだ。今は穴の中に立って待っている。穴の目的を判断する能力は無いようで安心した。

 もう一つの良い話は、ミーシャの狼についてリンネが情報を持っていたことだ。ミーシャとリンネは、昨日の晩はベッドに入ってからも話を続けていた。もっぱらリンネが話していたようだが、狼は東にある風の国へここの砦から運ばれていったらしい。だが、残念ながら具体的な行先については知らなかった。

 死人達は深さ5メートルある穴の中に70人ぐらい居た。上を見上げるでもなく、身動きせずに満員電車のように立っている。

「リンネ、じゃあ、始めるけどお別れは良いのか?」
「ああ、大丈夫だよ。こいつらの体がなくなっても、あたしの中では生き続けるからね」

 既に死んでいる人間に対して変な会話だが、200年の歴史は侮れないだろう。

「サリナ、やってくれ。風弱めでな」
「うん、ふぁいあ!!」

 炎のロッドから、いつもよりも太くて大きな火炎が穴の底に広がる。死人達は炎の中で身じろぎもせずに立っているが、肉が焼かれる匂いが穴の中から漂って来た。俺達は風上に立っているのだが、穴から熱風が吹き上げてあたりの温度が上昇してくのが判るほどだった。サリナは魔法で疲れることも無いだろうが、あまり時間を掛けたくもなかったので、俺は地面に座って攻撃型手榴弾と焼夷手榴弾をサリナの横から交互に投げ入れ続けた。攻撃型手榴弾は狭い範囲の爆発力が強い、死人も小さくなった方がより早く燃えるはずだ。焼夷手榴弾は燃焼時間も短く、範囲も狭いのだが4,000度以上で燃焼するから、連続で投げ続ければ穴の底の温度は一気に上がるはずだった。

 俺が投げ込むたびに、穴の底から手榴弾の爆音と熱風が次々に吹き上がってくる。穴の底は半分ぐらいしか見えないが、30分ぐらい続けると立っているやつ居なくなったようだ。サリナに炎を止めさせて穴の中を確認すると、まだ満足のいく状態では無かったので、15分延長して焼夷手榴弾をひたすら投げ続けた・・・。

 死人達が骨となって眠る穴はサリナの風魔法で土を戻して埋めた。少しへこんでいるが、問題ないはずだ。供養のために、名前の無い墓石をストレージから出して真ん中に置いた。これでゆっくりと眠る事が出来るはずだ。永遠に休んでほしい。

 小屋に戻っても、ハンスは目覚めていなかった。呼吸はしっかりしているから、命にかかわる状態ではないようなのだが。

「リンネ、本当に薬で眠らされているのか?」
「寝てたから、そう思ったんだけど、あいつらが薬の量を間違えたのかもね」

 間違いでは済まされないが、このままでは身動きが取れない。副作用がなさそうな気付け薬を使ってみるか・・・。
 タブレットで検索したアンモニアの気付け薬をハンスの鼻の前で、二つ折りに・・・。

「フンガァー!!」

 ハンスは絶叫と共に飛び起きた。気付け薬のアンモニア臭は強烈だった、鼻から頭に突き抜けるような臭さだ。

「こ、ここは? サトル殿!?」

 刺激臭で涙をボロボロ流しながら俺達を見ている。

「ハンスは何処まで記憶があるの?」
「私は・・・、シリウスの町を出て、夜明け前に砦の近くで様子を見ていたのですが・・・、そうです、首に矢を受けてしびれたところで頭を後ろから・・・、どうやら待ち伏せされていたようです。それで、みなさんはどうしてここに?」
「助けに来たにきまってるだろ。ミーシャとサリナが行くって言うから、俺の馬車で連れて来た。ここはリンネさんの家だよ、リンネさんがハンスを助けてくれたことになるね。ひょっとすると炎の国に売られていたかもしれない」
「リンネさん?」
「やっぱり、起きても男前だね、この人達は連れて帰るっていうけど、あんたが良ければこのままずっと此処に居ても良いんだよ」

「リンネ殿、助けて下さったことに感謝します。ですが、私にはやらねばならぬことがありますので、ここに居るわけには行きません」
「硬いのね、冗談に決まってるでしょ!」
「だが、ハンスよ、リンネは私のオールドシルバーについての情報を教えてくれたのだ、お前が危険を冒してここに来てくれたおかげだ感謝する」
「いえ、このように無様な結果で、ミーシャ殿にご迷惑をおかけし面目次第も無い。それでオールドシルバーは何処に?」
「風の国だが、詳しい場所は判らない。だが、黒い死人しびと達の線を追いかければ、手がかりが見つかるはずだ。私は一度森の国とエルフの里に戻ってから東の国へ向かうつもりだ」

 なるほど、そういう予定なのか。俺もメモしておかないと。

 §

 リンネの小屋を引き上げて街道まで歩いた後は、大型のピックアップトラックに乗って、5人で王都セントレアへ戻ることになった。ミーシャとハンス、そしてリンネ本人の希望でリンネが同乗している。ミーシャは狼を探しに行くときにリンネを風の国へ連れて行くと約束していたのだ。黒い死人達の足取りを追うのを手伝わせるらしい。俺のプランでは、風の国も二人旅のはずだったのだが・・・、エルフの里までで我慢しよう。

 明日には森の国へ二人で出発できる、恋が始まる予感・・・
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

月が導く異世界道中extra

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  こちらは月が導く異世界道中番外編になります。

転生したら武器に恵まれた

醤黎淹
ファンタジー
とある日事故で死んでしまった主人公が 異世界に転生し、異世界で15歳になったら 特別な力を授かるのだが…………… あまりにも強すぎて、 能力無効!?空間切断!?勇者を圧倒!? でも、不幸ばかり!? 武器があればなんでもできる。 主人公じゃなくて、武器が強い!。でも使いこなす主人公も強い。 かなりのシスコンでも、妹のためなら本気で戦う。 異世界、武器ファンタジーが、今ここに始まる 超不定期更新 失踪はありえない

彼女をイケメンに取られた俺が異世界帰り

あおアンドあお
ファンタジー
俺...光野朔夜(こうのさくや)には、大好きな彼女がいた。 しかし親の都合で遠くへと転校してしまった。 だが今は遠くの人と通信が出来る手段は多々ある。 その通信手段を使い、彼女と毎日連絡を取り合っていた。 ―――そんな恋愛関係が続くこと、数ヶ月。 いつものように朝食を食べていると、母が母友から聞いたという話を 俺に教えてきた。 ―――それは俺の彼女...海川恵美(うみかわめぐみ)の浮気情報だった。 「――――は!?」 俺は思わず、嘘だろうという声が口から洩れてしまう。 あいつが浮気してをいたなんて信じたくなかった。 だが残念ながら、母友の集まりで流れる情報はガセがない事で 有名だった。 恵美の浮気にショックを受けた俺は、未練が残らないようにと、 あいつとの連絡手段の全て絶ち切った。 恵美の浮気を聞かされ、一体どれだけの月日が流れただろうか? 時が経てば、少しずつあいつの事を忘れていくものだと思っていた。 ―――だが、現実は厳しかった。 幾ら時が過ぎろうとも、未だに恵美の裏切りを忘れる事なんて 出来ずにいた。 ......そんな日々が幾ばくか過ぎ去った、とある日。 ―――――俺はトラックに跳ねられてしまった。 今度こそ良い人生を願いつつ、薄れゆく意識と共にまぶたを閉じていく。 ......が、その瞬間、 突如と聞こえてくる大きな声にて、俺の消え入った意識は無理やり 引き戻されてしまう。 俺は目を開け、声の聞こえた方向を見ると、そこには美しい女性が 立っていた。 その女性にここはどこだと訊ねてみると、ニコッとした微笑みで こう告げてくる。 ―――ここは天国に近い場所、天界です。 そしてその女性は俺の顔を見て、続け様にこう言った。 ―――ようこそ、天界に勇者様。 ...と。 どうやら俺は、この女性...女神メリアーナの管轄する異世界に蔓延る 魔族の王、魔王を打ち倒す勇者として選ばれたらしい。 んなもん、無理無理と最初は断った。 だが、俺はふと考える。 「勇者となって使命に没頭すれば、恵美の事を忘れられるのでは!?」 そう思った俺は、女神様の嘆願を快く受諾する。 こうして俺は魔王の討伐の為、異世界へと旅立って行く。 ―――それから、五年と数ヶ月後が流れた。 幾度の艱難辛苦を乗り越えた俺は、女神様の願いであった魔王の討伐に 見事成功し、女神様からの恩恵...『勇者』の力を保持したまま元の世界へと 帰還するのだった。 ※小説家になろう様とツギクル様でも掲載中です。

異世界転生!俺はここで生きていく

おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。 同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。 今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。 だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。 意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった! 魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。 俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。 それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ! 小説家になろうでも投稿しています。 メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。 宜しくお願いします。

悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~

こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。 それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。 かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。 果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!? ※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。

成長率マシマシスキルを選んだら無職判定されて追放されました。~スキルマニアに助けられましたが染まらないようにしたいと思います~

m-kawa
ファンタジー
第5回集英社Web小説大賞、奨励賞受賞。書籍化します。 書籍化に伴い、この作品はアルファポリスから削除予定となりますので、あしからずご承知おきください。 【第六部完結】 召喚魔法陣から逃げようとした主人公は、逃げ遅れたせいで召喚に遅刻してしまう。だが他のクラスメイトと違って任意のスキルを選べるようになっていた。しかし選んだ成長率マシマシスキルは自分の得意なものが現れないスキルだったのか、召喚先の国で無職判定をされて追い出されてしまう。 一方で微妙な職業が出てしまい、肩身の狭い思いをしていたヒロインも追い出される主人公の後を追って飛び出してしまった。 だがしかし、追い出された先は平民が住まう街などではなく、危険な魔物が住まう森の中だった! 突如始まったサバイバルに、成長率マシマシスキルは果たして役に立つのか! 魔物に襲われた主人公の運命やいかに! ※小説家になろう様とカクヨム様にも投稿しています。 ※カクヨムにて先行公開中

異世界召喚されたら無能と言われ追い出されました。~この世界は俺にとってイージーモードでした~

WING/空埼 裕@書籍発売中
ファンタジー
 1~8巻好評発売中です!  ※2022年7月12日に本編は完結しました。  ◇ ◇ ◇  ある日突然、クラスまるごと異世界に勇者召喚された高校生、結城晴人。  ステータスを確認したところ、勇者に与えられる特典のギフトどころか、勇者の称号すらも無いことが判明する。  晴人たちを召喚した王女は「無能がいては足手纏いになる」と、彼のことを追い出してしまった。  しかも街を出て早々、王女が差し向けた騎士によって、晴人は殺されかける。  胸を刺され意識を失った彼は、気がつくと神様の前にいた。  そしてギフトを与え忘れたお詫びとして、望むスキルを作れるスキルをはじめとしたチート能力を手に入れるのであった──  ハードモードな異世界生活も、やりすぎなくらいスキルを作って一発逆転イージーモード!?  前代未聞の難易度激甘ファンタジー、開幕!

処理中です...