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Ⅰ-91 未開地 その5

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■未開地

 野営をした丘から迷宮のある山地までは残り20km程だ。この丘を下りきった場所からは緩やかな上りが続いているので、丘の上からは森の状況が良く見える。双眼鏡で探すと、大きなヤツはたくさんいる訳ではなかったが、左前方にさっきと同じ大ティラノを1匹みつけた。距離は3km程ほど先になるが、襲われるよりも準備をして倒す方が安全だろう。

「ミーシャ、サリナ、今のをもう一頭倒しに行くから、ミーシャはピックアップトラックの後ろで周囲の警戒をヨロシク。サリナはいつもどおり俺が合図したら車を回してくれ」
「承知した」
「わかった!」

 重機関銃を載せたピックアップに乗り込んで、サリナの運転でゆっくりと丘を下っていく。徐行に近いスピードでアクセルよりもブレーキを踏んでいる時間の方が長いが、不整地で大きな木をかわしながら進んでいかなければならない。時おり車が大きく弾むため、俺もミーシャも片膝を突いて車のへりを掴んでいる。30分程掛けて獲物が居るはずの場所から1km程手前で車を止めた。双眼鏡で探すが見つからない。逃げたのだろうか?

「ミーシャ、何処に行ったかわかるか?」
「安心しろ、左の前から走ってきている、早いから撃てるように準備しておけ」

 ミーシャの言う通り車の左前方の木が揺れて、巨体が走ってくるのが見えた。

「サリナ、右に回して!」
「わかった!」

 手順どおりに車を回しながら、重機関銃の銃座を獲物に向かって回転させて行く。大きさはステゴもどきのほうが大きいかもしれないが、迫ってくる大ティラノはスピードが全然違う。どんどん黒い皮膚をした巨体が頭を振りながら近づいてくる。それでも一直線に突っ込んでくるので狙いはつけ易かった。走ってくる手前の地面を狙ってレバーを引くと、爆発するような発射音が続き、曳光弾を含む銃弾の線が綺麗に伸びて行く。やはり手前過ぎたようなので、連射しながら少し狙いを引き上げる。地面から伸び上がった銃弾の線が大ティラノの腹を引き裂き、前方に受身を取らずにダイブする姿勢で地面へ突っ込んで止った。

 ソ連で開発された23mm弾は銃と言うよりは砲と呼ぶべき破壊力を持っている。大ティラノが8トンぐらいある巨体だとしても、軽装甲車や旧式戦車の装甲を貫通する破壊力ならば1発当たれば体内に致命的な損傷を与えたはずだ。折角なので、車を回して焦げていない大ティラノも回収しておく。老後にすることが無くなったら、恐竜博物館でも開くと楽しいかもしれないと思い始めていた。

 大物が多い場所は他の恐竜が少ないのかもしれない。大ティラノを倒した後は、ほとんど獲物を見つけられないまま森の中を山地の手前2km地点まで進んできた。

 問題はここから先だ・・・、山地の入り口付近で2匹の翼竜が旋回しているのが見えている。高度は300メートルぐらいだと思うから、あまり近寄ると一気に降下して咥えられるかもしれない。撃つためにはもう少し近づくしかないだろうが、地面を走るやつとはスピードが違うから俺は結構ビビッていた。さらに進んで残り1kmぐらい・・・重機関銃が届く距離だが当てる自信が全然無い。残り700メートル・・・

「サリナ、車を左に回して止めてくれ」
「うん、わかった!」

「ミーシャとサリナは回りの警戒を引き続きヨロシク、ミーシャは大きいライフルも置いてあるから、大物が来たらそっちで追い払ってくれ。俺はしばらく上のヤツだけを狙うから」
「承知した」
「サリナは思いっきりやっても大丈夫かな?」
「ああ、構わない。ここなら見つけたやつは全部焼き払っていいぞ」
「やったー!任せてね」

 二人とも全く恐れていない。3人の中で一番ビビってるのは間違いなく俺だろう。二人の度胸を見習いたい物だ。

 重機関銃の銃座に座って、銃口を上方に向けながら銃座ごと獲物に向けて回転させる。本来は対空機関砲として作られたものだから、飛んでいる獲物は得意なはずだが、俺にとっては初体験だ。正直言って空だと何処に飛んで行くかも判っていない。獲物のいない空に向かって撃ちまくっては見たものの、目標の無い空では命中率等は想像もつかなかった。まあ、とりあえず撃ってみるか・・・

 翼竜-ケツァルと言うらしい-は翼を広げて大空を滑空するように飛んでいる。羽ばたいている時間は短いから、上昇気流に乗ってゆったりと獲物を探しているのだろう。照準器の中に獲物が来た瞬間にレバーを引きっぱなしで連射した。台座ごと揺れる振動と発射の爆音が続き、薬莢が大量に飛んで行った。銃弾の線は翼竜よりもかなり下を抜けていくので上方に銃口を上げたが、今度は翼竜の後ろを弾は抜けて行った。見えている翼竜は何事も無かったようにそのまま飛び続けている。弾帯には100発の23mm弾をセットしているが、およそ15秒の連射で撃ちつくしてしまう。次の弾帯をセットして、もう一度狙ってみる。今度は翼竜の手前に射線をイメージして飛んできたタイミングで銃口を上下させるつもりだ。気持ちよく飛んでいる翼竜が照準器に入る直前に発射レバーを引いてやると、銃弾は今度も下を抜けそうになった。しかし、銃弾の上を飛びぬけるタイミングで銃口を上に引き上げてやると、銃弾の線は胴体と翼を切り裂いて、肉片が空中へ飛び散るのが見えた。肉塊と化した翼竜は重力の力で回りながら落ちていった。 

 相棒が居なくなったのに、もう一匹飛んでいるヤツは気にせず旋回していた。こいつも結構手間取ったが、逃げる様子が無いので弾帯1本で何とか撃ち落とすことが出来た。俺は予定通り空の脅威を排除できてご機嫌だが、気になることに、俺が撃っている間も、ミーシャが重機関銃の爆音の横で膝を突いてアサルトライフルを何発も撃ち始めていた。

「ミーシャ、何が居るの?」
「デスハンターだな、かなりの数に囲まれている」

 返事をしながら、ミーシャは次々と撃っていく。サリナが担当している方向をみると、何匹も、いや何十頭もの頭が動いているのが見えてきた。

やはり、こいつらは集団で狩りをする程の知恵があるのだろうか?
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