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Ⅰ-80 バーンの組合長

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■バーンの組合ギルド 

 シグマ周辺で3日間の特訓を行って満足な成果が得られたので、未開地の情報を得るためにバーンの組合ギルドに約束どおりやってきた。ここはシグマと違って相変らず活気がある。ホールも人でごった返していたし、二階に上がれば掲示板には求人と仕事が溢れるほど貼り付けてある。しかし、俺達が組合の中で目立つのは得策でないので真っ直ぐに受付の美人なお姉さんのところに行って、名前を伝えて組合長に会いたいと伝えたのだが・・・。

「組合長はお約束が無い方とはお会いになりません」
「約束ですか?・・・組合長が来いって言ってたはずなんですが?」
「ご用件はなんでしょうか?私が代わりに伺いましょう」
「いや、だからここの組合長が俺達に会いたいとシグマの組合に連絡したんだろ?」
「そのようなことを、一介の組合員に言うわけが・・・」

 全く話が通じずに俺のことを疑って掛かるお姉さんに切れそうになっていた。別にこっちが会いたい訳ではないから帰ろうかと思っていたが、運よく白い旅団のロッペンが受付の奥のほうから出て来たので利用することにさせてもらう。

「ロッペンさん、ここの組合長って人を知ってたら紹介してもらえるかな?」
「お前は、黒の旅団の!」
「えっ!?この若い子が黒の旅団!失礼しました。すぐに組合長にお取次ぎしますので、少々お待ちください」

 そうか、お姉さんが取り次いでくれなかったのは、俺が自分で決めた旅団の名前を忘れていたせいだったか。勢いで名前を決めたけど、はっきり言って忘れていたし、あれ以来使ったことが無いからな。

「それで、今日は何しに組合へ来たんだ?」
「組合長が会いたいって聞いてきたから・・・、そうだロッペンは未開地に行ったことは無いかな?」
「未開地?行ったことないさ、行ってたら生きてはいないだろ?」

 なるほど、行くと帰らぬ人になる訳ですか。でも、危ないって情報が有る以上は帰って来たやつもいるんじゃないのか?

「帰って来た人を知ってたら、紹介してくれないかな?お礼はちゃんとするからさ」
「そうか、それなら旅団の中で聞いてみるが、未開地は俺達の旅団の縄張りが一番遠いからな、あまり期待はすんなよ。組合長に会った後で下のホールに寄ってくれ。いい情報があったら礼はしっかり頼むぜ」

 ロッペンは大きな体をゆすって一階への階段を下りて行った。見た目はいかついが、以外と良いやつなのかもしれないと思い直して見送った。

「お待たせしました、組合長がお会いになるそうです」

 美人のお姉さんは、最高の微笑を浮かべて俺達を奥の部屋まで案内してくれた。通された組合長の部屋は、シグマとは比べ物にならない広さと設備だった。床は分厚い絨毯が敷かれていて、大きな窓の手前には彫刻で飾りが施された大きな執務机があり、部屋の真ん中にはビロード張のソファーが大理石のような大きなテーブルの周りを囲んでいる。机の横に立っている背の高いほっそりとした男が組合長だった。

「貴方たちが黒の旅団と名乗る方々ですか、私はここの組合長を務めているグラハムと言います。どうぞ、お掛けください」
「俺はサトル、こっちは仲間です」

 短く自己紹介をして、勧められたソファーに俺を真ん中にして三人並んで座った。

「お越しいただいてありがとうございます。皆さんがかなりご活躍されていると、この組合では噂になっていますよ」
「そうですか」
「ですが、私が決めた縄張りが守られていないと他の旅団、特に赤の獣爪団《じゅうそうだん》から私のところに苦情が入っておりまして、それなら自分達も縄張りを守らないと言い出して困っているのですよ」
「なるほど」
「それで、皆さんにも縄張りを守っていただくように、改めて私のほうからお願いをしたいのですが・・・」

 正直、未開地以外に迷宮は残っていないから縄張りを守っても良いのだが、言われっぱなしは癪に障るのと、赤か緑の縄張りを通過しないと未開地にたどり着けないと言う問題がある。

「お話はわかりましたが、俺達はどこの旅団にも入っていないから、縄張りには縛られないはずですよね?」
「まあ、理屈ではそうなんですが・・・、旅団側はそうは思っていませんので、このままですと皆さんの身にも危険が及ぶかもしれません」
「それは、脅しってことですかね?」
「いえ、決してそう言うわけではありませんが、旅団は力を持っていますので私の目の届かないところで何をするかまでは責任が持てません」

 本当に心配してくれているのか、それとも面倒事を減らしたいだけなのかは判らないが、この組合長のいう事も事実なのだろう。歩みよりも必要かもしれないな。

「でしたら、私達にも縄張りをください。そうすれば他の旅団の縄張りでの狩りはしませんので、もちろん通過する時に襲われれば退治しますけどね」
「しかし、他の旅団の縄張りを皆さんにお渡しすることは・・・」
「いえ、俺が欲しいのは未開地だけです。それと未開地までの通行権をください。それ以外で他の旅団の縄張りに入ることはしないと約束しますよ」
「未開地!しかしあのように危険な場所に行くおつもりなのですか?」
「まだ、決めていませんが、いずれは行って見ようと思ってます」
「お若いのに、命を粗末にされない方がよろしいと思います。これまでに未開地を目指したパーティーで無事に帰って来た者たちはおりません」
「組合長はどんな魔獣が居るのかご存知ですか?」
「あそこには危険な恐竜が沢山いると記録されています。ケツァルと言う大空を飛ぶ竜、デスハンターと言う素早い竜、そして大きな口で岩をも砕くといわれている大型の竜・・・判っているだけでもこれだけの恐竜たちが未開地には生息しています」

 デスハンターと言うのは俺達がラプトルと呼んでいるヤツで、翼竜は解説書に乗っていたヤツ、最後のが判らないがおそらくティラノ的なヤツだろう。どれも危険だというのは間違いない。

「未開地から生きて帰って来た人を知りませんか?」
「赤の獣爪団には何人かいると思いますが、私は存じ上げません」

 赤い旅団か、そこに聞きに行くとケンカになりそうだから無理だな。せっかく聞きに来たけど役に立つ情報もないし、そろそろ帰ることにしよう。

「それで、俺達の縄張りと通行権はもらえるんでしょうか?」
「一度旅団の団長たちとも相談してからお返事をさせていただくという事ではいかがでしょうか?」

 ずるずる引き延ばされるのは面倒だしな・・・

「お返事は明日の朝までにお願いします、それを過ぎれば今までどおり勝手にやらせてもらいますから」
「・・・わかりました、今日中に相談しておきます」

 自分の父親ぐらいの組合長に失礼な態度かもしれないが、この世界では年齢を気にしていたら文字通り生きていけない。自分の力が全ての世界だから、交渉ごとも命がけでやっていかないと。

 俺達は組合長室をでて、ロッペンが居るはずの1階ホールへ向かった。だが、階段を下りている途中で体の大きい獣人たちが下りた階段の先を囲むように立っているのが見えた。階段の後ろを振り返ると同じ赤い布をつけている奴らが二人降りてきた。

 どうやら赤いヤツらが俺たちを待ち構えていたようだ。
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