上 下
57 / 343

Ⅰ-57 換金と配分

しおりを挟む
■シグマの町

バーンの北にあるシグマの町はバーンへの最終拠点としてそれなりに栄えている。
前回ランディの護衛のために泊まった時には立ち寄らなかったギルドへ行って、精算してもらうついでに、この世界の服を何点か買い揃えておくことにした。

マントで目立たないとはいえ、カーゴパンツやTシャツ類はこの世界に存在しないので何処で目を付けられるかわからないからだ。
俺以外の3人にも好きな服を買ってもらった。
サイズが大小の2種類しかないズボンは腰で紐を縛るようになっているタイプで長い裾は折ったり、切ったりするようだ。
シャツのようなものは丸首に切り込みが縦に入ったプルオーバータイプが多かった。
デザイン的な発想は無いようだ、色は何種類かあるがくすんだ色が多い。
サリナが欲しがった真っ白のTシャツというのは、ここに並べば非常に綺麗に見えるだろう。

お代は全部で銀貨1枚と銅貨7枚だった。
高いか安いかは全然わからない。この世界の金は地図、魔獣解説書、宿代ぐらいしか使っていないから、手元には金貨が40枚ほどある。
むしろ問題なのはこれから行くギルドだろう。

■シグマのギルド

ここのギルドはこぢんまりとしていた。もっとも、バーンのギルドを見たからそう思うのかもしれないが、ホールの食堂にも一組しか座っていない。

笑顔で迎えてくれた受付のお姉さんに青く色が変っている組合員証を見せると、顔を引き攣らせてすぐに奥へすっ飛んでいった。
来る前に予想は付いていた、既に累計の報奨金は金貨1,000枚を超えているのだ。
ここにある金貨では足りないのかもしれない。
ちなみに最も高額な報奨金はクレイジーライナーで金貨50枚、最も多く倒したのは赤ムカデで68匹を倒していた。第一迷宮で虫を何匹殺したかなんて、全く興味が無かったが記録上ではそうなっている。

「サトル様、奥の部屋で組合長がお話しをしたいと言っていますので、お越しいただけるでしょうか?」

丁寧にご案内された奥の部屋は責任者の部屋のようだった。
奥にある大きな机から、背の低いあごひげを生やした男が立ち上がってくる。

「シグマ組合長のチャーリーといいます、かなりご活躍されたそうですな」

チャーリーは俺達へ打ち合わせテーブルにある長いすを勧めてくれた。

「ええ、移動する度に魔獣に襲われて、気が付いたらこれだけの数になっていたみたいです」

全て真実だ。

「これだけの数をお一人で倒されたのですか?」

「いえ、パーティー登録を忘れていたのですが、この4人で倒したものです。報奨金は公平に分配するつもりです」

「なるほど、4人でしたか。それにしても・・・、クレイジーライナー、ホーンティーガーを両方倒した方々を目にするのは初めてです。何か秘訣があるのでしょうか?」

「それは、秘密ですね。教えることは出来ません」

「それはそうですな、失礼しました。そこで、二つ相談があるのですが、一つはこれだけの金貨をすぐに用意するのは難しいので、とりあえず金貨500枚だけ用意させていただいて、残りは後日、あるいは別の組合で受け取っていただけないでしょうか?」

「構いませんよ、ですけど金貨50枚は銀貨490枚と銅貨100枚に崩して置いてください」

「それは、できると思いますが、重くなっても大丈夫でしょうか?」

「大丈夫です、力持ちが居ますから」

俺は笑顔でハンスを見た。

「わかりました、もう一つのお願いですが、クレイジーライナーとボーンティーガーの角を持ち帰られているのでしたら、私どもの組合に譲っていただけないでしょうか?」

あの角か、解体しないといけないな。

「お値段次第ですね、幾らで買っていただけるんですか?」

「・・・、クレイジーライナーは金貨150枚、ボーンティーガーは1頭あたり金貨200枚でいかがでしょうか?」

ミーシャを見たが、小さく頷いてくれたので妥当な金額のようだ。
全部で金貨950枚! って大金なんだろうな。

「いいですよ、ですけどまだ角が切り離せていないので、今日お渡しするのは難しいですね」

「ありがとうございます、こちらも金貨の用意が必要なので、1週間ほどお待ちいただければ助かります」

「では、そのぐらいでここに立ち寄るようにしますので、よろしくお願いします」

そのまま組合長の部屋で待っていると、麻袋に入れた硬貨を受付のお姉さんたちが手分けしてドッサリもって来てくれた。
念のためその場で数を数えたが、ちゃんと金貨500枚分の硬貨があった。
別に疑っているわけではないが、親が銀行員だった俺は子供の頃から『現金その場限り』と教育を受けている。

ハンス達と精算をしたかった俺はそのまま組合長の部屋を貸してもらうことにした。
チャーリーは笑顔で承知して、すぐに部屋を出て行ってくれた。

「じゃあ、金貨150枚を俺、サリナ、ミーシャで分けて、残りの50枚をハンスで良いかな? 何処で倒したヤツかが判らないんだよね。ハンスは最初の迷宮の時は居なかったし、攻撃に参加できないから少なめだけど良いかな?」

「少ないなどと、金貨50枚あれば・・・働く必要が無いほどの金額です。いただきすぎだと思います」

日本円では500万円ぐらいと検討をつけているが、それだけで生きていけるのか?

「私もそれで良いが、本当に良いのか?私が昨日倒した分は私の報奨となっているのだから、やはり、もらいすぎだろう。別に無くても構わないぐらいだ」

「サリナは要らないけど、お兄ちゃんが要るならお金を渡してあげたい!」

殊勝な心がけだが、こいつは俺に食わせてもらうことが前提のような気がして、チョットいらつく。

「俺も、お金は今のところ使い道が無いんだよね。ハンスはこれから旅でお金が要るでしょうから、やっぱり持って行ってよ。そのうち、何かで返してくれればいいからさ。ミーシャとサリナは少しだけ手元に持って置いて、残りは俺が預かっておこうか?」

「かたじけない、ではサトル殿のご好意に甘えさせていただきます」

「私はそれで構わない」

「サリナも大丈夫♪」

二人とも強欲なことを言わないのは素晴らしいことだ、だが俺が預かっている状態をしっかり理解させるにも良い機会だ。

「念のために言っておくけど、預かっている物とかお金とかは無くなったりはしないけど、俺が死んだら取り出せないからね。念のために伝えておくけどさ」

「「?」」

大事な物をストレージで預かれば、俺を守ってやろうという動機付けになるかもしれない。
間違って後ろから焼かれないようにしないとね。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

とあるオタが勇者召喚に巻き込まれた件~イレギュラーバグチートスキルで異世界漫遊~

剣伎 竜星
ファンタジー
仕事の修羅場を乗り越えて、徹夜明けもなんのその、年2回ある有○の戦場を駆けた夏。長期休暇を取得し、自宅に引きこもって戦利品を堪能すべく、帰宅の途上で食材を購入して後はただ帰るだけだった。しかし、学生4人組とすれ違ったと思ったら、俺はスマホの電波が届かない中世ヨーロッパと思しき建築物の複雑な幾何学模様の上にいた。学生4人組とともに。やってきた召喚者と思しき王女様達の魔族侵略の話を聞いて、俺は察した。これあかん系異世界勇者召喚だと。しかも、どうやら肝心の勇者は学生4人組みの方で俺は巻き込まれた一般人らしい。【鑑定】や【空間収納】といった鉄板スキルを保有して、とんでもないバグと思えるチートスキルいるが、違うらしい。そして、安定の「元の世界に帰る方法」は不明→絶望的な難易度。勇者系の称号がないとわかると王女達は掌返しをして俺を奴隷扱いするのは必至。1人を除いて学生共も俺を馬鹿にしだしたので俺は迷惑料を(強制的に)もらって早々に国を脱出し、この異世界をチートスキルを駆使して漫遊することにした。※10話前後までスタート地点の王城での話になります。

おおぅ、神よ……ここからってマジですか?

夢限
ファンタジー
 俺こと高良雄星は39歳の一見すると普通の日本人だったが、実際は違った。  人見知りやトラウマなどが原因で、友人も恋人もいない、孤独だった。  そんな俺は、突如病に倒れ死亡。  次に気が付いたときそこには神様がいた。  どうやら、異世界転生ができるらしい。  よーし、今度こそまっとうに生きてやるぞー。  ……なんて、思っていた時が、ありました。  なんで、奴隷スタートなんだよ。  最底辺過ぎる。  そんな俺の新たな人生が始まったわけだが、問題があった。  それは、新たな俺には名前がない。  そこで、知っている人に聞きに行ったり、復讐したり。  それから、旅に出て生涯の友と出会い、恩を返したりと。  まぁ、いろいろやってみようと思う。  これは、そんな俺の新たな人生の物語だ。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~

こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。 それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。 かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。 果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!? ※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。

異世界転生!俺はここで生きていく

おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。 同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。 今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。 だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。 意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった! 魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。 俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。 それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ! 小説家になろうでも投稿しています。 メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。 宜しくお願いします。

万能知識チートの軍師は無血連勝してきましたが無能として解任されました

フルーツパフェ
ファンタジー
 全世界で唯一無二の覇権国家を目指すべく、極端な軍備増強を進める帝国。  その辺境第十四区士官学校に一人の少年、レムダ=ゲオルグが通うこととなった。  血塗られた一族の異名を持つゲオルグ家の末息子でありながら、武勇や魔法では頭角を現さず、代わりに軍事とは直接関係のない多種多様な産業や学問に関心を持ち、辣腕ぶりを発揮する。  その背景にはかつて、厳しい環境下での善戦を強いられた前世での体験があった。  群雄割拠の戦乱において、無能と評判のレムダは一見軍事に関係ない万能の知識と奇想天外の戦略を武器に活躍する。

退屈な人生を歩んでいたおっさんが異世界に飛ばされるも無自覚チートで無双しながらネットショッピングしたり奴隷を買ったりする話

菊池 快晴
ファンタジー
無難に生きて、真面目に勉強して、最悪なブラック企業に就職した男、君内志賀(45歳)。 そんな人生を歩んできたおっさんだったが、異世界に転生してチートを授かる。 超成熟、四大魔法、召喚術、剣術、魔力、どれをとっても異世界最高峰。 極めつけは異世界にいながら元の世界の『ネットショッピング』まで。 生真面目で不器用、そんなおっさんが、奴隷幼女を即購入!? これは、無自覚チートで無双する真面目なおっさんが、元の世界のネットショッピングを楽しみつつ、奴隷少女と異世界をマイペースに旅するほんわか物語です。

処理中です...