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第一章 千の剣帝、ゼロクラスの教師となる

第23話 爆発

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 ハルトがクリスに自らの正体を明かしてから数日後、ハルトとクリスティアは授業終了後に闘技アリーナにて他クラスの生徒による訓練に混じり、魔剣精同士の剣の打ち合いをしていた。本日は午前中までの授業ということもあり、現在は正午―――太陽が空の頂点に届いてから間もない時間である。

 キィィン、キン、キィィンッ!

 二人の剣戟による不規則な金属音が辺りに響く。クリスティアが歯を食いしばりつつ洩れた息は、微かな熱に包まれている闘技アリーナに淡く溶けた。

 ハルトの鋭い声と気配がクリスティアへと突き刺さる。


「クリス、もっと剣の軌道を読め! 相手の呼吸、視線、挙動、すべてを観察して次に相手が起こす攻撃の一手先を読むんだ!!」
「はっ、くぅ……ッ! は、はい、ハルトさん!!」


 ハルトは防戦一方のクリスティアへと声を掛けつつも、剣を振るう手を一切休めることは無い。

 必死にハルトの剣に喰らい付く彼女だが、額には汗が浮かぶ。ハルトが振るう魔剣精シャルロットの白銀の刃と、クリスティアが振るう魔剣精クラリスの朱い鞘付きの剣が何度もぶつかり合い、二人の眼前には火花が散った。

 剣を振るうハルトによる鋭く重い衝撃がクリスティアに襲い掛かる。いくらクリスティアの腕力が他者よりも強いとしても、手を痺れてしまう程の衝撃を逃がす術は身に付けていない。
 彼女は長い金髪を振り乱しながら、なんとか気合いを入れ直す。

 刹那、ハルトがクリスティアを狙って上から振り落とすように剣を振るった。彼女は身をじらせて回避しようとする。
 剣の切先がクリスティアの目の前を通り過ぎるのを確認し、回避できたことに思わず安心して気を緩ませた一瞬、素早く剣の軌道を変えたハルトが振るう剣先がクリスティアの剣に当たってしまった。


「あっ…………!?」


 それでクリスティアは気付く。始めからハルトは身体を狙っていたのではなく、攻撃手段である剣を狙っていたのだと。剣に攻撃が当たってしまったのではなく、”当てた”のだと。

 結果的に彼女は魔剣精クラリスを手放してしまった。空中に放り投げられた魔剣精クラリスは放物線を描きながら地面に音を立てて落下した。


「よし、クリス。ちょっとだけ休憩するか」
「は、はい……っ! ありがとうございました!」
「訓練として俺と剣を交えるようになってから、だいぶ耐久時間が伸びてきたんじゃないか? 前は俺の攻撃に一分も持たなかったのに、今じゃ二分も持つようになった。剣の速度にも追い付けるようになってきてるしな」
「ハルトさんのおかげです! まぁ、それでも未だに剣技練度ソードアーツの数値が一向に上がる気配はないですけど……」
「あんまり気負うなよ? 剣技練度ソードアーツの数値は、あくまで魔剣使い個人に秘められた能力を統合した数値に過ぎない。成長の仕方は人それぞれなんだからな」
「はい、心得ています。ハルト先生!」


 クリスティアは今までの劣等感が吹っ切れたように返事をする。

 ハルトがクリスティアに護衛任務の経緯や魔剣精クラリスに関することなどをすべて打ち明けると、彼女は始めこそ固い表情をしていたものの、ハルトがすべて話し終えると彼女の瞳の奥には決意が込められていた。

 そしてハルトに対して次のような言葉を言い放ったのだ。


『ハルト様、私の護衛をお引き受けして下さりありがとうございます。それと負担は重々承知なのですがお願いします―――私を、鍛えて下さい!』


 そう言ってクリスティアはハルトとシャルロットの前で頭を下げた。

 結果的にハルトは彼女のその願いを了承。こうして授業以外でも鍛錬として剣を交えるようになったのだった。


「よし、それでなんだが―――そこでいつまで隠れているつもりだ、リーリア」
「――――――ッ!」
「え、えぇ、リーリアさんが!? どこですか!?」
「俺らがこうして授業とか授業以外で鍛錬をしている時……まぁ、俺に負けてからはほとんどだよなー?」
「……最初から、わたくしが覗いていたことに気付いていましたの?」


 そう言って入口からひょこっと顔を出すリーリア。ライトグリーンの綺麗な巻き髪が重力に従って下に下がる

 ハルトにばればれだった恥ずかしさからか、頬を赤く染めながら気まずそうにぷいっと視線を横に逸らすリーリアだったが、とうとう観念したのか姿を現した。


「まぁ俺くらいになれば人一人の気配を読むことなんざ朝飯前だからなっ! ……で、なんでお前はストーカー染みたまねなんてしてたんだ?」
「ス、ストーカーだなんて人聞き悪いですわねっ! わたくしはただ……っ! ただ……っ」
「リーリアさん……?」
「~~~ッ、あぁもうっ! 言いますわよ言えば良いんでしょう!?」


 高飛車な彼女らしからぬ動揺さを見せたかと思いきや、ハルトをキッと睨み付けると隣にいたクリスティアに視線を向けた。


「―――レーヴァテイン皇国第三皇女クリスティア様」
「は、はい……!?」
「あのときは激情に駆られたとはいえ、皇女に無思慮な言葉や剣技能スキルを放ってしまったのはわたくしの至らない所でしたわ。申し訳ございませんでした」
「えっ、あ、えと……っ!?」
「クリス」


 目を伏せて頭を下げるリーリアに対し、急に謝罪されたクリスティアは慌てる。

 今までクリスティアが学院内でされてきた様々な侮辱を考えると、有り得ないことだったのだろう。事実、周囲の生徒は訓練を中断してクリスティアに頭を下げるリーリアを見てひそひそとしていた。

 だが、このリーリアの行動には明らかに誠意が籠っていた。ハルトにとって彼女と関わる機会など剣を交えたときくらいだったが、プライドの高い彼女が不必要に周囲に注目されるのは意にそぐわない筈だろう。

 そんな彼女がクリスティアに頭を下げた。きっと、根は真面目なのだろう。

 ハルトがクリスの名を呼ぶと、彼女は目を見開いたのち表情を整える。頭を下げるリーリアを見つめると口を開いた。


「―――リーリアさんの謝罪、しかと受け取りました。お顔を上げて下さい」
「…………はい、ですわ」
「一つだけ、お尋ねしたいことがあります」
「……いったい、なんでしょうか」
「"力は痛みからしか生まれない”……。何故、そのような考えに至ったのかを聞きたいのです」
「それは……」


 リーリアが片腕をもう片方の手でギュッと掴み、視線を横に逸らして語り出そうとしたその瞬間―――。


 ―――闘技アリーナの壁が突如爆発した。


「きゃッ!?」
「な、何事ですの……!?」
「………………!」


 クリスティアやリーリアは爆風から腕で身を守りつつ驚愕の声をあげた。彼女等の側にいたハルトは瞬時に警戒、目を細めながら発生源を見つめる。

 やがて砂塵が含まれた煙が晴れると、そこには―――、


『―――これより、第三皇女暗殺任務を開始する』


 素顔を隠す覆面、全身黒い装束に身を包んだ中肉中背の暗殺者らしき人物が、ピンク髪の少女を脇に抱えて佇んでいた。





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