18 / 36
第一章 千の剣帝、ゼロクラスの教師となる
第18話 ハルトの剣技、基本剣技能【スキル】の可能性
しおりを挟む「一つだけの剣技能、ですか……。しかし、これまで一度も剣技能を発動出来なかった私に、出来るでしょうか……?」
「ふむ、誰にも破れない唯一無二の剣技能を鍛え上げるということか……。面白い!」
「確かにたった一つだけなら覚えやすいし簡単かもー!」
「よーし、それじゃあお前らが覚える剣技能は……」
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!!」
ゼロクラスの生徒に覚えて貰う剣技能を言い放とうとするハルトだったが、突如ミヤビが声を上げる。ハルトは思わず怪訝な目で彼女を見遣るが、ミヤビはそんな視線に気にすることも無く言葉を続けた。
そこにあるのは隠しようも無い焦燥感。
「たった一つ!? たった一つの剣技能を極めるだけじゃ強くなんてなれるわけないじゃない!? それよりももっとこう、とっておきの強力なオリジナル剣技能を何個か伝授するとかなんかないの!?」
「ないな。つーかミヤビ、お前なんか勘違いしてない?」
「な、なによ……?」
「強くなる為の近道なんてねぇんだよ。努力に努力を重ねて、目標に向かって一歩ずつ着実に前に進んでいくしかねぇんだ。強力な剣技能を何個も覚えたとしても剣を振る基本が出来てねぇんじゃ意味が無い。そうだな……。エイミー先生、魔獣質量再現装置の準備を頼みます。系統は龍、ワイバーンでお願いします」
「え、あっ、はい! わ、わかりました!」
今まで見るより雰囲気の違うハルトと生徒のやり取りを呆然としながら交互に見ていたエイミーだったが、慌てて作業に取り掛かる。
彼女が懐から取り出したのはプレート型の装置で、魔力を込めて起動すると画面が光り出す。淀みなく指で画面を押しながら操作すると、ハルトたちの前方には龍系魔獣であるワイバーンが出現した。
ギャオオッッ!!と耳障りな鳴き声を轟かせるが、その様子に怯えるクリスティアとカナエ以外は、平然とした表情のままだった。
本来群れで街を襲えば、一晩で焼け野原にしてしまう恐ろしい魔獣である筈なのに。
「ねぇ、いきなりワイバーンなんか出現させてどうするのよ……?」
「ワイバーンなんかねぇ……。なぁエイミー先生、この認識ってこいつらだけじゃなくて全クラス共通なんですよね?」
「……えぇ。大変嘆かわしいのですが、魔獣質量再現装置の模造魔獣の戦闘能力値がその個体本来の戦闘能力だと認識しています。……剣技練度が優秀なSクラスでさえも」
「なーるほど、そりゃ驕る筈だ」
苦虫を噛んだような表情でそのように内情を語るエイミーに、ハルトはのんびりと答えた。
現在エイミーが操作している魔獣質量再現装置というのは帝国の科学力で作成された、レーヴァテイン魔剣学院生や帝国軍人の訓練用装置。
あらゆる魔獣のデータがその装置には保存されており、操作することで任意の模造魔獣を対象の空間に出現させることが可能な、帝国の技術力が込められた魔具だ。なお、操作するには国家資格が必要。
しかしあくまで訓練用として開発されたので、そのままの既存設定では魔獣本来の凶暴性や獰猛性が一切なく、戦闘能力値が低い。それゆえ一般の学院生はそれが魔獣本来の強さであると認識している。
その理由は、主に帝国軍が魔獣出現の際にすべて対処している為だった。
「エイミー先生、悪いけど設定変更お願いしまっす。脅威度、100パーセントで」
「え……!? ハルト先生、いったいなにを考えて……ッ!?」
「お願いします」
「~~~っ、あぁもう分かりました! その代わり危険だと判断したらすぐに言って下さいね! 解除しますので!!」
「ありがとうございます、エイミー先生」
ハルトがエイミーに向かって感謝を告げると、彼女は魔獣質量再現装置に情報を入力していく。
すると、ワイバーンに変化が訪れた。
『ギャオオオオオオオッッッ!!!!』
先程よりも猛々しいワイバーンの鳴き声が闘技アリーナ中に響き渡る。やがて、大きく両翼を広げたワイバーンは空中に飛び立った。
圧倒的なプレッシャーや鳴き声の轟音。明らかに一変した雰囲気にゼロクラスの一同は目を見開いた。
「ヒッ……!? ハ、ハルト先生……ッ!!」
「ウソ……!? ワイバーンって、教科書に載っている被害が大げさなだけの、弱い魔獣なんじゃなかったの……!?」
「うむ……、これほど肌が粟立つほどの威圧感だとはな……っ」
「こわー」
各々慄いたように言葉を洩らす少女たち。彼女らを見据えたハルトは、腰からゆっくりとシャルロットを抜いた。
「これから基本中の基本である剣技能を使ってワイバーンを斬る。良く見とけよ? ―――これが、お前らが最初に目指すべき到達点だ。ふ……っ!」
「ギャアァァァァァァッッ!!?」
ハルトはワイバーンの懐へと一気に跳躍。体格差ではワイバーンの方が圧倒的に有利だったが、勢いよくワイバーンの首に回し蹴りするとそのまま吹き飛ぶ。闘技アリーナの壁に体躯が叩き付けられると飛行能力を失ったのか、ワイバーンはそのまま地面に落下した。
ギャアギャアと苦しみに呻くワイバーンだったが、やがて起き上がると紅く鋭い眼光でハルトを威嚇する。次の瞬間、ワイバーンが低空飛行しながらハルト目掛けてつっこんできた。クリスティアは思わず両手で口を塞ぐ。もし巨大なワイバーンの体躯がハルトに衝突したら怪我どころでは済まないだろう。
刹那―――、
「まず一つ目の剣技能、―――『パリイ』」
「ギャウッッ!!?」
「なっ!? あの迫り来るワイバーンの巨体とその衝撃を弾いて受け流したのか……ッ!?」
カナエが心底驚いたような声をあげる。故郷にいたときから剣の扱いに慣れていた彼女は、ワイバーンのようなとてつもない体積を持つ魔獣を剣でいなすことの難しさを理解していた。
『パリイ』を受けたワイバーンはそのまま上空に弾き飛ばされるも、再び下にいるハルトに向かって襲い掛かる。
ハルトは余裕げな表情でシャルロットを構えた。
「次、二つ目の剣技能―――『スラッシュ』」
「ギャァァァァァウッッ!!」
「す、凄い……! あれだけ大きな片方の翼を、根元から斬り裂いて……っ!」
片翼を斬りとばされ、バランスを完全に失ったワイバーンは音を立てて地面に転がる。なおも生きながらえようとジタバタと抵抗するワイバーンだったが、その様相はまさにまな板の上の鯉。
なんとか立ち上がるも、息も絶え絶えだった。
次にハルトは、魔剣精シャルロットを空中に放ると逆手に持つ。
「三つ目最後の剣技能―――『スタブ』」
「わぉ、脳天に剣を突き刺してトドメかぁ~。エグイけど、獲物を仕留めるには有効な手だねー!」
やがてワイバーンは絶命。青白い粒子となってその亡骸は消えていく。ハルトはそれを見据えると静かにシャルロットを鞘に納めた。
ハルトが放つ剣技能の手際はとても滑らかで、無駄のない動作ばかりだった。
強者に相応しい比類ない剣技に卓越した精度。今まで蔑まれながらもがむしゃらに頑張るしかなかったゼロクラスの少女たちだったが、ハルトが示す到達点という目標を目にした少女たちは底知れぬ興奮を抱いていた。
―――一筋の、希望が見えたから。
「ふぃ。―――よっし、それじゃあお前らー! このハルト先生が、さっきの基本的な剣技能を極められるようにびしばし鍛えちゃうぞー!」
片目を閉じたハルトはそう言っておどけた。
0
お気に入りに追加
36
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜
駄作ハル
ファンタジー
異世界の大貴族レオ=ウィルフリードとして転生した平凡サラリーマン。
しかし、待っていたのは平和な日常などではなかった。急速な領土拡大を目論む帝国の貴族としての日々は、戦いの連続であった───
そんなレオに与えられたスキル『英雄召喚』。それは現世で英雄と呼ばれる人々を呼び出す能力。『鬼の副長』土方歳三、『臥龍』所轄孔明、『空の魔王』ハンス=ウルリッヒ・ルーデル、『革命の申し子』ナポレオン・ボナパルト、『万能人』レオナルド・ダ・ヴィンチ。
前世からの知識と英雄たちの逸話にまつわる能力を使い、大切な人を守るべく争いにまみれた異世界に平和をもたらす為の戦いが幕を開ける!
完結まで毎日投稿!

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。
アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。
両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。
両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。
テッドには、妹が3人いる。
両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。
このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。
そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。
その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。
両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。
両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…
両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが…
母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。
今日も依頼をこなして、家に帰るんだ!
この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。
お楽しみくださいね!
HOTランキング20位になりました。
皆さん、有り難う御座います。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

高身長お姉さん達に囲まれてると思ったらここは貞操逆転世界でした。〜どうやら元の世界には帰れないので、今を謳歌しようと思います〜
水国 水
恋愛
ある日、阿宮 海(あみや かい)はバイト先から自転車で家へ帰っていた。
その時、快晴で雲一つ無い空が急変し、突如、周囲に濃い霧に包まれる。
危険を感じた阿宮は自転車を押して帰ることにした。そして徒歩で歩き、喉も乾いてきた時、運良く喫茶店の看板を発見する。
彼は霧が晴れるまでそこで休憩しようと思い、扉を開く。そこには女性の店員が一人居るだけだった。
初めは男装だと考えていた女性の店員、阿宮と会話していくうちに彼が男性だということに気がついた。そして同時に阿宮も世界の常識がおかしいことに気がつく。
そして話していくうちに貞操逆転世界へ転移してしまったことを知る。
警察へ連れて行かれ、戸籍がないことも発覚し、家もない状況。先が不安ではあるが、戻れないだろうと考え新たな世界で生きていくことを決意した。
これはひょんなことから貞操逆転世界に転移してしまった阿宮が高身長女子と関わり、関係を深めながら貞操逆転世界を謳歌する話。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる