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『セントパール魔術学園~学園ダンジョン編~』

第43話『セントパール魔術学園』⑤

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◇◆◇


 
「おっ邪魔しまーす! エリーを連れてきましたー!」
「し、失礼します」
「………失礼しますわ」


 移動中も何も説明が無いままリーゼに手を引かれて学長室に入室する。入室する際の声が投げやり気だったのはエリーの気のせいか。

 部屋は教室のニ分の一程度の広さほどしかないが、中心には大きな来客用のテーブルやソファが置いてあり窮屈さを感じさせない。
 窓際には観葉植物が置かれ、周りには最低限な調度品や絵画のみ飾られている簡素なもの。床には赤い絨毯が敷かれており端の所々には金色の線で刺繍されている。
 若干内装がちぐはぐしている部分もあるのだが逆にそれが一体感を生み出していた。

 部屋の入り口から左奥にはさらに扉があり、手前に横幅に広い木製のテーブルが置いてある。そこには一人の妙齢の女性が手を組んで静かにたたずんでいた。その周囲には有名な見知った学生もいる。
 リーゼとランカはそのことを知っていたのだろう、気にもせずに足を進めると学長の机をばんっと勢い良く手で叩きながら、


「ねぇ、今からでも考え直さない? あそこは危険だってママ・・も―――」
「リーゼリット、何度も言うようですがここは学園内です。私の事は先生か、学園長と呼びなさい。それと、そのことはこれから彼女に説明します」


 すると女性はリーゼから視線を外すとエリーを射抜くように見つめる。片眼鏡の奥の黄土色の瞳には鋭さがあるが、優しさが垣間見えていた。
 強張っていた表情から、ふと表情を崩すと語り掛けるように話し出す。


「数日ぶりですねエリーさん。学園生活はもう慣れましたか?」
「は、はい、フランシーヌ学園長、お久しぶりです。以前は魔術を使えなくなってしまったせいで学園に多大なご迷惑をお掛けしました。申し訳御座いません」


 フランシーヌと呼ばれた女性は椅子に掛けながら静かに首を振ると、


「その件は、エリーさんの精神的なケアを怠った学園全体に非があります。貴方が謝罪する必要など全くありません。寧ろ、貴方への誹謗中傷や悪質な嫌がらせを容認してしまった私自身の責任でもあります。―――改めて、この場で謝罪を」
「………おい学園長ッ!」


 学長が座ったまま深々と頭を下げると、周りから微かに息を呑むような雰囲気が感じられた。直後、横から割り込むように男の鋭い声が部屋中に響く。
 エリーがその声の主を見ると、その人物は制服を着崩しておりウルフカットな燃え盛るような赤い髪は雰囲気からして荒々しい。そんな男子学生がこちらを憎々し気に睨み付けていた。


「学園一の権力者であるアンタが謝る必要はねぇ。誹謗中傷? 嫌がらせ?………ハッ、そんなモンに屈して逃げ出す方が悪いに決まってンだろうが。なぁ、セイヴフィール?」
「………………グレン」
「輝かしい地位から魔術を使えなくなった途端無様に転落。たった二年は耐えたようだが、大勢のあらゆる悪意に溺れる気分はどうだったァ? オレは清々した気分だったよ」


 赤髪の少年は歯に着せぬ言い方でエリーを攻め立てる。思わず押し黙ってしまうが、グレンの語る事実は決して間違ってなどいない。
 その挑発気味な言葉に対し、不思議とさざめかない心にエリーは僅かに違和感を覚えるが、そのことを悟られないように目を細めて視線を交える。

 するとグレンの隣にいた別の金髪の少年がペラペラと快活に話しだす。一瞬エリーを観察するように向けられた視線は好奇心を隠しきれていなくて、


「―――おやおや、同じ公爵家なのに随分とうら若き乙女に対して過激な言い回しだねグレン! 五大公爵家の『火』を司るバーナード家らしい荒々さだ! ま、それが君の個性だと考えれば可愛げがあるモノだと納得するのだがね! あぁそうそうエリー、あの頃は品の無い態度をとってしまったがこの僕、『光』を司るライディーン家のライオットはキミを歓迎するよ! 互いに遺恨はあるだろうが水を流そうじゃないか! 因みにローエルはどうだい?」
「………私に関係なければ、どっちでも良い………………」
「チッ、相変わらずうざってぇ野郎だ」
「―――みなさん、気は済みましたか?」


 フランシーヌは一本に編み込むように結われた亜麻色の髪を自身の身体の前に流すと三人、特にグレンへと鋭い視線を向ける。その双眸には浮き出てはいないが、奥底には激しい感情が込められていた。
 同時に彼女の身体から微かに漏れ出る濃密な魔力にエリーは僅かに目を見開くが、当の本人やこの場にいる他の者は気付いている様子は無い。精々ランカが強張った表情をして瞳を細めた程度だろうか。フランシーヌは一つ息を吐くと表面の魔力の放出を収めた。
 

「エリーさん、ごめんなさいね。せっかく来てくれたのに………」
「い、いえ、全く気にしていないので大丈夫です。それよりも、私を呼んだ理由は何故でしょうか? ここに各五大公爵家のみんながいる、ということは、何か学園に関わる案件ですか?」


 この部屋に入った瞬間、各属性の五大公爵家の学生がいる事には少々驚いたが、リーゼからは何も用件を聞かされていない。ここに来る間に彼女へ何度の説明するように尋ねたのだが、その端正な顔にしわを寄せながら「詳しい事はお母さんから聞いて」の一点張りだった。
 学長は頷くと、


「えぇ。学園、というよりも下手をすると王国全体に影響を及ぼします」
「王国に………!?」
「簡潔に言うと―――」


 エリーは驚きに表情を歪ませると、彼女は肘を机に置き手を組みながら衝撃の言葉を言い放った。

 

「―――この学園の地下に、ダンジョンが発生しました」

 

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