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ジャンケン① 『夏休み突入! 暇だったので来ちゃいましたー!』
しおりを挟む無事終業式が終わり高校は既に夏休みに突入。まるで常夏をぎゅっと凝縮したかのような暑さが外を支配しているけど、クーラーの効いている俺の家なら何の問題も無い。あー涼しい。
今何をしているのかって? ………そうだねー、とりあえずリビングのソファに座っているよ。
「………あ、あー、外暑かったよね美雪! アイスコーヒーでいい、よね? あっ、美雪の好きなコーヒーゼリー作ってるんだった! えーとそれと、漫画の最新刊部屋にあるけど取ってくる?」
「あっ、うん。でも、今は漫画は大丈夫、かな。………わ、私も手伝うよ暮人?」
「い、いやいや! ゆっくりしてて大丈夫だよ! うん、大丈夫!!」
「そ、そう………? ありがとう、暮人」
テーブルを挟んだ真正面には微妙に顔を赤らめながらモジモジしてる美雪がいるが。特に用事はない筈だがどうしたのだろうと思う暮人。………はぁ、どうしよう。ちょっと気まずいなぁ。と同時に心では溜息を吐く。
―――あの出来事から今の暮人と美雪はこんな感じである。あのとき美雪が心配でベットの側で見守っていたがいつのまにか眠ってしまっていたようだった。置き手紙を見たので無事女神である聖梨華の力のおかげで体調が戻ってから家に帰宅したようで安心したが、深く息を吐きながら脱力した時の気持ちは決して忘れないだろう。
それは、脱水症状に掛かっていたにもかかわらず幼馴染である美雪を性的な目で見てしまった『罪悪感』。
いつもと異なる幼馴染の姿にドキドキしたのは確かなのだ。だが普通ならば介抱するべきで、彼女の体調を思いやるべきだった。正直、あの状態が続けばあのまま何をしていたのかは分からない。
朦朧とした彼女の言葉があったとしても、己の勢いだけの劣情で幼馴染で大切な彼女を傷つけていたらと思うと、暮人はゾッとした。
しかし奇しくもこの時暮人は美雪と同じことを考えていた。『罪悪感』というエッセンスが混ざりながら。
次の日、案の定というべきか幼馴染な彼女は話しかけても顔を赤らめ、顔を直視できないようだった。それもそうだろう、いくら朦朧としていたとはいえ自らを受け入れるような言葉を発したのだ。幼馴染とはいえ、一時の気の迷いだったので恥ずかしいのだろう。
………と、思ったのだがどうやら美雪は自分の言葉を覚えていないらしい。『ご、ごめんね暮人。私、詳しく覚えてないんだけど、さ、最後なにか言っちゃってたかなー、なんて………?』と言ってたので一息吐きながら慌てて誤魔化したが、彼女へ抱いた罪悪感は胸に残ったまま。
そして互いに気まずさだけが残ったまま―――今に至る。
「………どうしよう」
冷蔵庫に保存してあるコーヒーゼリーを取り出しながら呟く。あのときの美雪の姿を思い出して顔を赤くしてしまうが、胸がぐるぐると苦しくなる。こんな時に小梅が居てくれればと思うのだが、小梅は友達との約束で出掛けている。
残念ながら聖梨華が都合良く訪ねて来るということも無いだろうし………と内心で盛大に溜息を吐いているとインターホンのチャイムが鳴った。
ゼリーを切り分ける手を止めると、玄関へと向かう。扉を開けるとそこには―――、
「こっんにちはー! 暇だったので来ちゃいましたー!!」
「………にいに、ただいま」
涼しそうな麦わら帽子を被った聖梨華と出掛けた筈の小梅がいた。二人の表情は正反対で、片方はニコニコとしておりもう片方が若干ぶすっとした無表情。おしゃれな私服姿を抜きにしても二人は美少女なのでこんな対比でも非常に絵になる。
あーもう小梅天使。あと聖梨華さんナイス女神。
「聖梨華さんはともかく、小梅はどうした? 友達と一緒に遊ぶんじゃなかったっけ?」
「なんか、集合場所に行ってから『ごめんね、熱が出たから遊べない』って連絡がきた。だから近くの本屋で雑誌を見てから帰ってきたの。そしたら………」
「ぐーぜん『あー暇だなー………そうだ、如月さん家に行こう!』と思い立ち自宅に向かっていた私とばったり運命の再会を果たしたんですよねー! もーか―わーいーいー、頭ワシワシ~!!」
「チッ、醜い脂肪の塊が………柿の如く捻って捥いであげようか」
「ひゃんっ………! ち、ちょっといきなり鷲掴みなんて随分大胆で………い、痛っ! と、とれる~!!」
聖梨華が小梅の頭をたわわな胸元へ引き寄せると撫でまくる。小梅が何かを呟いたようだったが顔全体が大きな胸へ埋まっているので聞こえなかった。
同時に小梅の手が聖梨華の豊満な胸を片手で鷲掴みしてるが力を入れ過ぎたのだろう、ぐにゅりと形が分かるほどで、聖梨華が悩ましげな声から痛みを訴えかける声へと変わっていた。
そんな二人を見ていると、ふと気が緩む。
「ありがとう、こんなタイミングで来てくれるなんて本当に天使と女神………!」
「実際女神ですからね!! でもどうしたんです、マジのほっこり安心顔じゃないですか?」
「………むっ、このパンプス、さらに恋してる乙女特有のこの雌臭い匂い。美雪ちゃんが来てる気配がする………っ!」
いつもの可愛らしいウィスパーボイスよりさらに小声で何かぼそぼそと呟いた小梅は、とたとたと急いで靴を脱ぎ家を駆けた。
その様子を微笑ましく見つめると、残された聖梨華へリビングにあがるように声を掛けた。彼女は「おっ邪魔しまーす!」と元気に言葉を発するのを見届けると中断していた切り分ける作業を再開する為に台所へと向かった。
「持ってきたよー………って、え?」
三人分のゼリーが入った容器と飲み物を三人がいるリビングへ持っていくと、それぞれ表情が異なる三人がいた。
しきりに手の甲をなぞりながら先程と変わらず俯いて顔を赤めた美雪。
その様子をニヤニヤとしたり顔で見つめてる聖梨華。
ジトッとした視線で二人を見つめている小梅。
「えーと、どういう状況なんだろう………?」
「なっ、なんでもないんだよ! うん、全然、問題なっしんぐ!!」
明らかに動揺しており最後の言葉が美雪らしくない事に気が付くが、それをあえて気が付かない振りをする。
すると、
「あっそうだ、良いこと考えましたぁ………!」
「明らかに嫌な予感がする笑みだね、聖梨華さん………」
ぽんっ、と手を動かしながらこれまで何度も見慣れたニヤニヤとした表情を見せる聖梨華。用意したコーヒーゼリーや飲み物を彼女たちの前に置くと、聖梨華は綺麗に並んだ白い歯を見せながら親指を立てた。
「―――ジャンケン、しましょっか!!」
「「「ジャンケン………?」」」
突拍子のない彼女の言葉を思わず反芻する暮人、美雪、小梅。
これから、ジャンケンという名(迷)勝負が始まる………!
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