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ケーキ④ ケーキ作りは甘い空間製造機
しおりを挟む「よっし、これでどうだ………!」
「うっわ、言った私も私ですけどよくこれだけのケーキを作りましたね。男のくせに引きますわー」
「ちょっと表に出ようか駄女神さん」
「あっついにその言葉を言いやがりましたね如月さんっ!! いつか天罰が下りますよ、天罰!!」
現在の時刻は午後二時。熱気による暑さで額に浮かんだ汗をぬぐって目の前に光景に満足気な吐息を吐くが、隣のエプロン姿の聖梨華の言葉により台無しになった。
そもそも自分がケーキ作りをすることになったのは聖梨華の強い要望があったからである。突如脈絡も無く彼女が言い放ったケーキを作りましょうという言葉。
珍しく突っかかるようにして『にいにの手を煩わせないで』という小梅の思いやり溢れた言葉に胸を打たれるが、そういえば小梅に二回ほど作ったきりケーキは挑戦していないなと思い至ったのでどちらかというと小梅の為に再度ケーキ作りするという部分が大きい。
聖梨華が「ケーキ、作りましょう!!」と言ったのもどうやら深夜にテレビで見たスイーツバイキングの影響らしい。その映像を見て普通ならば食べたいと思うのだろうが、彼女も神といえど女の子。料理創作意欲が刺激されてもおかしくはない。
しかし彼女は自分でスイーツ系、もっと言えばケーキは作ったことはないのだとか。確かにケーキはスポンジから作るのには手間がかかる。そして分量などが正確でないとその分失敗してしまう確率が上がるのだ。
彼女は文明の利器であるスマホでも作り方は簡単に調べられるが、どうせなら暮人を巻き込んでやろうと思ったとの事。
全くはた迷惑な話だが、小梅に久々に作ってあげられるし丁度良い機会。
そうと決まればとスーパーへ三人で買い物に行くと偶然店の中でばったり美雪と遭遇。朝の出来事を美雪に伝えると暮人の肩をがしっと掴みながら「私も食べたいから行くねっ! 絶対だよ!」との言葉があった。もちろん幼馴染である彼女の事も誘うつもりであったが、有無を言わさず話すのは珍しい事だ。
美雪は甘い物が大好きなので、おそらくケーキを食べたいからあんなに圧が出ていたのだろう。
さて、材料を購入し聖梨華も手伝った調理中もなんやかんやあったがようやくケーキが完成した。リビングにいる小梅と準備してきた美雪はリビングで紅茶や皿の準備をしている。
台所で今暮人がテーブルに並べているケーキの数は三つ。そして調理する者の特権としておまけで作ったマシュマロチョコをオーブンで焼いたものがそこにはあった。
「でもホール三つって作り過ぎじゃありません? てっきり一つだけと思っていたのですが」
「生クリームケーキ、チーズケーキ、抹茶シフォンケーキ。まぁ作るのは久しぶりだったけど案外作れるもんだね。それに種類は多い方が多く楽しめるし、余ったら家に持って帰って食べても良いでしょ? ………あ、それとも体重のこと気にする?」
「あったりまえじゃないですか!? こちとら今は華の女子高生ですよJKですよ!? 食べても太らないとか抜かしてる無神経女たちと一緒にされちゃ困りますよ!! 普通なら糖分過剰摂取しただけでもブークブクですからね!」
「えー、なんかスイッチ入った………?」
聖梨華はまるで鬼の形相でぐりんと目を剥きながらこちらを見ると熱弁し始める。
「神女子会でスイーツバイキングに行ったとき私、天照ちゃん、フォルトゥナちゃん、アルテミスちゃんのメンバーで行ったんですけどね。みんな食べるんですよ、全種類たくさん。でアルテミスちゃんから『食べなよ~。太るときは一緒だよ~』って勧められる訳ですよ。そんなこと言われても体重ヤバいなぁと思いつつもみんなに勧められて食べて数日後、それはもう見事に体重が増えました。○イザップも真っ青な太り方です。そのとき愚かにも私はきっと他のみんなも同じだろうと思ったんですけどね、この私の切実な思いは裏切られたんです!」
「おぉう………そこで他のみんなは太らない体質だと知ったんだね」
「神女子会に顔を出したら私を見た某月の女神から『あれぇ~、結構太った~?』って無駄にポヤポヤした猫撫で声で言われるんですよムカつきます! みんな自分が! 太らない体質だと知ってて! 私がブクブク太るように仕向けたんですよ!!」
両手をわなわなとさせながらそのときの状況を思い出すように熱く語る聖梨華。そこでふと暮人は気になった事を聞いた。
「そんなに聖梨華さんって体重が増えたとか太ったとか気になるの? 女神なのに」
「神でも女の子ですし。如月さんだってもし自分が好きな女の子が太ったらいやでしょう? 例えば、例えば! もし私が如月さんのこ、恋人だったとして、太った状態で如月さんにべたべたしたら嫌でしょう?」
「いや全然」
「………は?」
数瞬の間を空けることも無くすぐさま返答する暮人に対し呆気にとられた表情を浮かべる聖梨華。まるでハトが豆鉄砲を喰らったかのような口の開け方だが、しばらく固まる彼女のその隙を見てスプーンでマシュマロチョコを口に放り込む。
そのトロリとした甘さにはっと気が付いたようで、ようやく咀嚼を行なうが、その動作はゆっくりだ。暮人は構わずに言葉を続ける。
「だって、もし太ったとしても聖梨華さんは聖梨華さんでしょ? 見た目が少しふくよかになったとしても性格や心は変わらない。だったらそれで良いじゃん。流石に命を狙われるのはもう慣れたから良いけど………。俺だったらそんな些細な事で聖梨華さんを嫌いになったりしないよ」
「は、い………そうですか……………そ、そうですかぁ」
暮人がそう答えると、始めは表情の変化が無いまま顔を赤らめながら返事をした聖梨華だったが、次第にはにかむような笑みを見せた。
「じゃ、じゃあ! ケーキも完成したことですし持っていきましょう、ね!!」
「あ、う、うん………?」
頬が赤くなったことを取り繕うように暮人を促す聖梨華は三つのケーキの内の一つ、抹茶シフォンケーキを持っていく。その姿を見送ると、身に纏っていたエプロンを外した。
暮人は今の返事に何か顔を赤らめる要因はあっただろうかと首を傾げる。自分の意見を口にしただけだったんだけど、と彼女の反応に疑問を浮かべた。
一方、ぱたぱたと慌てるようにして抹茶シフォンケーキをリビングへ持って行った彼女といえば―――、
「………………甘い、です。あまあまです」
と噛みしめるような、によによとした笑みを浮かべながら嬉しそうに呟いた。
それはマシュマロチョコの甘さの事なのか、それとも彼の言葉なのか。彼女のみぞ知るひとりごとだった。
因みにこのあとケーキを食べたのだが、美雪、聖梨華、小梅による『暮人にケーキをあーん合戦』がさり気なく行われたのは言うまでもない。
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