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56話 イリア、ギリアン国へ
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「お父さんの居場所が・・・?」
リュシエール様の手の中で、羊皮紙のようなモノは火をあげた。
紙が燃え尽きて、消えてしまうのを見つめながらリュシエール様は言った。
「うん、まあ、詳しくは言えないけどね・・・というか、言っても今のイリアには理解できないと思うから、説明を省くけど。前にイリアの父さんは魔法で追跡できないって言ったでしょ。ところがね、最近、ギリアン国のある場所で怪しい魔力の放出があってね。調査させたら、どうやらソレはマグノリアとつながってるんだ」
本当に、説明を省かれても、よく分からない。
「つながってる?」
「うーん・・・ギリアン国にいる誰かがマグノリアの中の誰かに接触してる、って言えばわかる?」
「ギリアン国から?」
「うん」
ギリアン国なら、私のみている夢もギリアン国なんだよね。なにか関係があるのかな。
「リュシエール様、実はね、私・・・」
私は最近よくみる夢の内容をリュシエール様に話した。
リュシエール様は最初「ふんふん」と聞いていたけど、その夢の中の男の人が私を呼んでいる、ってところまで話したら、急に眉間にシワを寄せた。
「その夢、いつからみるの?」
「うーんと・・・リュシエール様が、私を本当の許嫁にした日の夜からです」
リュシエール様は呟くような声で「一致してるな」と言った。
「イリア、その夢は、本当かもしれない。イリアが見るその男の人はきっと君の父さんだよ」
「えっ」
「さっき、父親の居場所が分かったって言ったでしょ?その場所がギリアン国の元の君の家だったんだよ。君の夢から推察すると、君の父さんが何らかの理由で君を呼んでいる。魔力を放出すればマグノリアに知られる危険があるのに、それでも君を呼ばなきゃならない理由があるんだ」
お父さんが私を呼ぶ理由?
「僕は、君の父さんの捕縛に特級魔法使いをギリアン国に派遣しなくちゃいけない。本来ならね。でも、君の父さんが素直に捕まってくれなくて、抵抗でもしたら、特級魔法使いたちはその場で罪人を処刑する権限を持ってる」
その場で?じゃあ、もしかして私はお父さんに会うことができないの?
私の顔色が変わったのを見たリュシエール様は優しい声で言った。
「処刑をしてしまえば、イリアの呪いは消えるけど・・・イリアはそれじゃ嫌なんでしょ?だから、僕はしばらく捕縛のための派遣はしない。君がまず、ギリアン国に向かうんだ。家に行ってごらん。そして、父さんと話してみるんだ」
「リュシエール様・・・いいんですか?だって、そんなことしたら・・・」
物知らずな私だって分かる。リュシエール様の立場なら、私のお父さんを捕まえるのを優先しなきゃならないはずだ。
私のために、そこに居ると分かっている罪人を見逃すなんて・・・
「大丈夫だよ。僕は魔教皇に失望されるのも叱責されるのも慣れているからね」
ケロリとした顔で言うから、つい笑ってしまうけど・・・。
私は真顔になって、深く頭を下げた。
「ごめんなさい、ありがとうございます」
「ギリアン国には魔法使いの入国許可をとってあるから、心配しないで行っておいで。そして、何かあったら無理をしないで、逃げるんだよ。僕のところに帰っておいで」
そうだ、もし危ないことがあっても私はもう瞬間移動の魔法が使えるんだ。リュシエール様のところに帰ればいいんだ。
でも、罪人といっても、私のお父さんなんだし。聞きたいこといっぱいあるから。
リュシエール様が魔教皇様に怒られる覚悟で私をお父さんに会わせてくれるんだ。私がちゃんと説得して、罪を償ってもらおう。
「イリア、余計なことは考えないで、君は呪いを解いてもらうことに専念するんだよ」
リュシエール様が私の気負いを読んだように、釘を刺した。
「本当は僕もついていってあげたいけど、僕がいっしょだと君の父さんは警戒するだろうからね」
「大丈夫です。一人でも、ちゃんとやれます」
そう、これは自分のことだから。
行ってきます、と言おうとしたら、リュシエール様が白い羽根のアザのある私の手のひらを手で包み込んだ。
「忘れないで、イリア。この羽根を見たら、僕を思い出すんだよ。君は僕の許嫁だ」
白い羽根が輝きを増したように私には見えた。
リュシエール様の手から流れ込んだ温もりに勇気をもらった私は「行ってきます。ちゃんと帰ってきます」と答えて、一人、ギリアン国に向かった。
まさか、また帰ってくる日が来るとは思わなかった。
すべてを失って逃げたあの日から、ずいぶん月日が流れたように感じた。
本当はそんなに年月はたっていないけど、色んなことがあったから。
そういえば、私の魔力が暴れ出したのって、お母さんを処刑されたのがきっかけだった。驚いて、悲しくて、辛くて、気持ちが抑えきれなくなって。
この世のみんな、私の敵だと思った。私を処刑するために捕まえにくるんだと、思った。
レーナ様が温かく抱きしめてくれて、私に優しさを思い出させてくれたから、私は忌み嫌われる混血種から魔法使いになれた。
そして、信頼できる人たちも、友だちも得た。大好きな人もいる。
今、幸せだから、もう過去を思い出しても泣きたいほど辛いとは思わない。
私は木々の生い茂る中、住む人なく、庭の荒れ果てた粗末な家の前に立っていた。
懐かしいという気持ちはなく、ただ緊張で体が固くなった。
外からは中の気配は感じられないけれど、本当にお父さんがいるんだろうか。
お父さんと話せば、きっとすべてが分かるはずなんだ。
私は意を決して、小さな扉の取っ手に手をかけた。
リュシエール様の手の中で、羊皮紙のようなモノは火をあげた。
紙が燃え尽きて、消えてしまうのを見つめながらリュシエール様は言った。
「うん、まあ、詳しくは言えないけどね・・・というか、言っても今のイリアには理解できないと思うから、説明を省くけど。前にイリアの父さんは魔法で追跡できないって言ったでしょ。ところがね、最近、ギリアン国のある場所で怪しい魔力の放出があってね。調査させたら、どうやらソレはマグノリアとつながってるんだ」
本当に、説明を省かれても、よく分からない。
「つながってる?」
「うーん・・・ギリアン国にいる誰かがマグノリアの中の誰かに接触してる、って言えばわかる?」
「ギリアン国から?」
「うん」
ギリアン国なら、私のみている夢もギリアン国なんだよね。なにか関係があるのかな。
「リュシエール様、実はね、私・・・」
私は最近よくみる夢の内容をリュシエール様に話した。
リュシエール様は最初「ふんふん」と聞いていたけど、その夢の中の男の人が私を呼んでいる、ってところまで話したら、急に眉間にシワを寄せた。
「その夢、いつからみるの?」
「うーんと・・・リュシエール様が、私を本当の許嫁にした日の夜からです」
リュシエール様は呟くような声で「一致してるな」と言った。
「イリア、その夢は、本当かもしれない。イリアが見るその男の人はきっと君の父さんだよ」
「えっ」
「さっき、父親の居場所が分かったって言ったでしょ?その場所がギリアン国の元の君の家だったんだよ。君の夢から推察すると、君の父さんが何らかの理由で君を呼んでいる。魔力を放出すればマグノリアに知られる危険があるのに、それでも君を呼ばなきゃならない理由があるんだ」
お父さんが私を呼ぶ理由?
「僕は、君の父さんの捕縛に特級魔法使いをギリアン国に派遣しなくちゃいけない。本来ならね。でも、君の父さんが素直に捕まってくれなくて、抵抗でもしたら、特級魔法使いたちはその場で罪人を処刑する権限を持ってる」
その場で?じゃあ、もしかして私はお父さんに会うことができないの?
私の顔色が変わったのを見たリュシエール様は優しい声で言った。
「処刑をしてしまえば、イリアの呪いは消えるけど・・・イリアはそれじゃ嫌なんでしょ?だから、僕はしばらく捕縛のための派遣はしない。君がまず、ギリアン国に向かうんだ。家に行ってごらん。そして、父さんと話してみるんだ」
「リュシエール様・・・いいんですか?だって、そんなことしたら・・・」
物知らずな私だって分かる。リュシエール様の立場なら、私のお父さんを捕まえるのを優先しなきゃならないはずだ。
私のために、そこに居ると分かっている罪人を見逃すなんて・・・
「大丈夫だよ。僕は魔教皇に失望されるのも叱責されるのも慣れているからね」
ケロリとした顔で言うから、つい笑ってしまうけど・・・。
私は真顔になって、深く頭を下げた。
「ごめんなさい、ありがとうございます」
「ギリアン国には魔法使いの入国許可をとってあるから、心配しないで行っておいで。そして、何かあったら無理をしないで、逃げるんだよ。僕のところに帰っておいで」
そうだ、もし危ないことがあっても私はもう瞬間移動の魔法が使えるんだ。リュシエール様のところに帰ればいいんだ。
でも、罪人といっても、私のお父さんなんだし。聞きたいこといっぱいあるから。
リュシエール様が魔教皇様に怒られる覚悟で私をお父さんに会わせてくれるんだ。私がちゃんと説得して、罪を償ってもらおう。
「イリア、余計なことは考えないで、君は呪いを解いてもらうことに専念するんだよ」
リュシエール様が私の気負いを読んだように、釘を刺した。
「本当は僕もついていってあげたいけど、僕がいっしょだと君の父さんは警戒するだろうからね」
「大丈夫です。一人でも、ちゃんとやれます」
そう、これは自分のことだから。
行ってきます、と言おうとしたら、リュシエール様が白い羽根のアザのある私の手のひらを手で包み込んだ。
「忘れないで、イリア。この羽根を見たら、僕を思い出すんだよ。君は僕の許嫁だ」
白い羽根が輝きを増したように私には見えた。
リュシエール様の手から流れ込んだ温もりに勇気をもらった私は「行ってきます。ちゃんと帰ってきます」と答えて、一人、ギリアン国に向かった。
まさか、また帰ってくる日が来るとは思わなかった。
すべてを失って逃げたあの日から、ずいぶん月日が流れたように感じた。
本当はそんなに年月はたっていないけど、色んなことがあったから。
そういえば、私の魔力が暴れ出したのって、お母さんを処刑されたのがきっかけだった。驚いて、悲しくて、辛くて、気持ちが抑えきれなくなって。
この世のみんな、私の敵だと思った。私を処刑するために捕まえにくるんだと、思った。
レーナ様が温かく抱きしめてくれて、私に優しさを思い出させてくれたから、私は忌み嫌われる混血種から魔法使いになれた。
そして、信頼できる人たちも、友だちも得た。大好きな人もいる。
今、幸せだから、もう過去を思い出しても泣きたいほど辛いとは思わない。
私は木々の生い茂る中、住む人なく、庭の荒れ果てた粗末な家の前に立っていた。
懐かしいという気持ちはなく、ただ緊張で体が固くなった。
外からは中の気配は感じられないけれど、本当にお父さんがいるんだろうか。
お父さんと話せば、きっとすべてが分かるはずなんだ。
私は意を決して、小さな扉の取っ手に手をかけた。
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