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52話 イリアの父親
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頭の中が暗転してグルグルと回ってる。
ぐるぐるぐるぐる。
私は今、どうなってるんだろう。ちゃんと立ってる?
今、何を話した?
リュシエール様はなんて言ったっけ。
私の。
お父さんが。
「私の、お父さんが、逸れ魔導士?」
そう言ったんだよね。リュシエール様は。
しかも今、マグノリア国の司法省が探してるお尋ね者なんだ。
私は・・・じゃあ、罪人の子供?
お母さんも罪人の汚名をきせられて処刑されたのに、お父さんまで。
ううん・・・お父さんは汚名じゃない。禁止されてる魔法を使って、人を苦しめた。本当の罪人だ。
お父さんのせいで、苦しまなくていい人が苦しんだ。奪われなくていい命が奪われた。
私のお父さんは、悪い人、なんだ。
「お父さん・・・」
あれ、私の声、なんで震えてるんだろう。
「イリア」
誰かが私の名前を呼んでる。
「イリア。僕の声が聞こえる?」
あ。リュシエール様の声。
「イリア、僕を見て」
見る。
リュシエール様を見る。
目の焦点が目の前の美しい顔に合った。リュシエール様の顔が潤んでいるのは、私が泣いてるせいだって気がつくのに時間がかかった。
「リュシエール様・・・私のお父さんは・・・」
「うん・・・本当に、なんてことだろうね。こんなこと、思ってもみなかった。ごめんね、イリア」
リュシエール様はなにを謝っているんだろう。
「マグノリアは君の父親を探し出して、罰せなければならない・・・逸れ魔導士の犯した罪は魔法国の責任だから」
リュシエール様は司法省を束ねてるって、セレナーダさんが教えてくれた。じゃあ、私のお父さんを罰するのはリュシエール様なの?
「お父さんを、処刑するの?」
処刑、って口にして、私は凍えたように震えた。
怖い言葉だ。
「処刑はしないよ・・・イリアはそれを望まないだろう?」
「うん」
たとえ、罪人でも、お父さんなんだ。
「それに、捕まえたら、まず君の『歪みの印』を解いてもらわなくちゃね。イリアが立派な魔法使いになるために呪いを解いて欲しいって、そうお父さんに言おう?」
リュシエール様の声が優しく胸に響いて、気持ちが落ち着いてきた。
「うん、お父さんに言わなきゃ・・・」
会って、話しを聞かなきゃ。なんでこんなことをしたのか。
私の呪いのことも、人間に生き返りの魔法をかけたことも、聞かなくちゃ。
お父さんのこと、私はよく知らないもの。
落ち着きを取り戻した私に安堵したリュシエール様は、いつもの明るい笑みを浮かべて言った。
「それからね、イリア。さっき言ったことは、本当だよ」
「さっき言った?」
「イリアを僕の許嫁にする・・・本物の許嫁にするってこと」
「へ?」
そういえば、さっき、言われた気がする。私を守るために許嫁にするって。
「司法省には緘口令をひいたけど、信用ならないからね。君が逸れ魔導士の子供で、混血種だって、漏らす奴がいるかもしれない。そのときに君が僕の花嫁なら守ってあげられるから。僕は誰にもイリアを迫害させたりしない」
・・・・
そこまでなら完璧にステキなセリフだったのに。
リュシエール様は続けて「イリアをイジメていいのは僕だけだ」と言ってしまったので、私はとっても微妙な気持ちになった。
ありがとうございます。も、素直に言えなくて、私はリュシエール様に大切なことを尋ねた。
「リュシエール様。真面目に答えてくださいね。許嫁とか花嫁とか、簡単に言うけど、それって本当に好きになった女性じゃないとダメだって思うんです。リュシエール様は私を好きなんですか?」
「うん、好きだよ」
軽いよ。
私は緊張した身体の力が抜けて、倒れそうになった。
「じゃあ、逆に聞くけど、イリアは僕が好き?僕の花嫁になりたいって思ってる?」
うっ。
私は言葉に詰まった。軽く言えるはずがない。
好きだけど、軽い気持ちじゃないことをどう言ったら伝えられるのか、私は考え考え、口にしてみた。
「私は・・・最初・・・リュシエール様のことを、何とも思ってませんでした。あ、もちろん、恩人だから、感謝はしてました。レーナ様に感謝するのと同じくらい・・・でも・・・仮初の許嫁になって、リュシエール様の側にいて、うんとたくさんリュシエール様のことを知ったら・・・」
リュシエール様は生徒の答えを待つ先生みたいに、静かに耳を傾けている。
「好きだって、気持ちが溢れてきて。いっしょにいると泣きたいくらいに幸せで。もし、仮初の許嫁をやめなきゃいけなくなったら・・・って思うと悲しくて辛くて。いつまでも、ローマリウスにリュシエール様といられたらいいのに、って思いました」
そこまで言ったら、リュシエール様は私を抱きよせて背中をポンポンと優しく叩いてくれた。
居心地がよくて、温かくて、幸せな気持ちになるリュシエール様の腕の中だ。
「イリアが僕の側にいたように、僕もイリアの側にいたんだよ。同じ気持ちになっても不思議じゃないと思わない?」
あっ。
私は顔を上げて、間近でリュシエール様の顔を見上げた。
「僕も、イリアとずっとローマリウスにいたかった。それができたらどんなに幸せだろうか、って思った。でも、僕は次期魔教皇だから・・・」
あ・・・・。
ローマリウスから帰るときに、物凄く素っ気なかったのは、未練を見せないためだったんだ。
同じ気持ちだった。
私とリュシエール様。
「私、リュシエール様のことが、大好き。リュシエール様の側にずっと、いたい」
やっと、素直に自分の気持ちを言えた。
怖くて伝えられなかった想いを、ちゃんと伝えることができた。
リュシエール様は何も言わずに万象を慈しむ天使のような顔で、私に2度目のキスをしてくれた。
ぐるぐるぐるぐる。
私は今、どうなってるんだろう。ちゃんと立ってる?
今、何を話した?
リュシエール様はなんて言ったっけ。
私の。
お父さんが。
「私の、お父さんが、逸れ魔導士?」
そう言ったんだよね。リュシエール様は。
しかも今、マグノリア国の司法省が探してるお尋ね者なんだ。
私は・・・じゃあ、罪人の子供?
お母さんも罪人の汚名をきせられて処刑されたのに、お父さんまで。
ううん・・・お父さんは汚名じゃない。禁止されてる魔法を使って、人を苦しめた。本当の罪人だ。
お父さんのせいで、苦しまなくていい人が苦しんだ。奪われなくていい命が奪われた。
私のお父さんは、悪い人、なんだ。
「お父さん・・・」
あれ、私の声、なんで震えてるんだろう。
「イリア」
誰かが私の名前を呼んでる。
「イリア。僕の声が聞こえる?」
あ。リュシエール様の声。
「イリア、僕を見て」
見る。
リュシエール様を見る。
目の焦点が目の前の美しい顔に合った。リュシエール様の顔が潤んでいるのは、私が泣いてるせいだって気がつくのに時間がかかった。
「リュシエール様・・・私のお父さんは・・・」
「うん・・・本当に、なんてことだろうね。こんなこと、思ってもみなかった。ごめんね、イリア」
リュシエール様はなにを謝っているんだろう。
「マグノリアは君の父親を探し出して、罰せなければならない・・・逸れ魔導士の犯した罪は魔法国の責任だから」
リュシエール様は司法省を束ねてるって、セレナーダさんが教えてくれた。じゃあ、私のお父さんを罰するのはリュシエール様なの?
「お父さんを、処刑するの?」
処刑、って口にして、私は凍えたように震えた。
怖い言葉だ。
「処刑はしないよ・・・イリアはそれを望まないだろう?」
「うん」
たとえ、罪人でも、お父さんなんだ。
「それに、捕まえたら、まず君の『歪みの印』を解いてもらわなくちゃね。イリアが立派な魔法使いになるために呪いを解いて欲しいって、そうお父さんに言おう?」
リュシエール様の声が優しく胸に響いて、気持ちが落ち着いてきた。
「うん、お父さんに言わなきゃ・・・」
会って、話しを聞かなきゃ。なんでこんなことをしたのか。
私の呪いのことも、人間に生き返りの魔法をかけたことも、聞かなくちゃ。
お父さんのこと、私はよく知らないもの。
落ち着きを取り戻した私に安堵したリュシエール様は、いつもの明るい笑みを浮かべて言った。
「それからね、イリア。さっき言ったことは、本当だよ」
「さっき言った?」
「イリアを僕の許嫁にする・・・本物の許嫁にするってこと」
「へ?」
そういえば、さっき、言われた気がする。私を守るために許嫁にするって。
「司法省には緘口令をひいたけど、信用ならないからね。君が逸れ魔導士の子供で、混血種だって、漏らす奴がいるかもしれない。そのときに君が僕の花嫁なら守ってあげられるから。僕は誰にもイリアを迫害させたりしない」
・・・・
そこまでなら完璧にステキなセリフだったのに。
リュシエール様は続けて「イリアをイジメていいのは僕だけだ」と言ってしまったので、私はとっても微妙な気持ちになった。
ありがとうございます。も、素直に言えなくて、私はリュシエール様に大切なことを尋ねた。
「リュシエール様。真面目に答えてくださいね。許嫁とか花嫁とか、簡単に言うけど、それって本当に好きになった女性じゃないとダメだって思うんです。リュシエール様は私を好きなんですか?」
「うん、好きだよ」
軽いよ。
私は緊張した身体の力が抜けて、倒れそうになった。
「じゃあ、逆に聞くけど、イリアは僕が好き?僕の花嫁になりたいって思ってる?」
うっ。
私は言葉に詰まった。軽く言えるはずがない。
好きだけど、軽い気持ちじゃないことをどう言ったら伝えられるのか、私は考え考え、口にしてみた。
「私は・・・最初・・・リュシエール様のことを、何とも思ってませんでした。あ、もちろん、恩人だから、感謝はしてました。レーナ様に感謝するのと同じくらい・・・でも・・・仮初の許嫁になって、リュシエール様の側にいて、うんとたくさんリュシエール様のことを知ったら・・・」
リュシエール様は生徒の答えを待つ先生みたいに、静かに耳を傾けている。
「好きだって、気持ちが溢れてきて。いっしょにいると泣きたいくらいに幸せで。もし、仮初の許嫁をやめなきゃいけなくなったら・・・って思うと悲しくて辛くて。いつまでも、ローマリウスにリュシエール様といられたらいいのに、って思いました」
そこまで言ったら、リュシエール様は私を抱きよせて背中をポンポンと優しく叩いてくれた。
居心地がよくて、温かくて、幸せな気持ちになるリュシエール様の腕の中だ。
「イリアが僕の側にいたように、僕もイリアの側にいたんだよ。同じ気持ちになっても不思議じゃないと思わない?」
あっ。
私は顔を上げて、間近でリュシエール様の顔を見上げた。
「僕も、イリアとずっとローマリウスにいたかった。それができたらどんなに幸せだろうか、って思った。でも、僕は次期魔教皇だから・・・」
あ・・・・。
ローマリウスから帰るときに、物凄く素っ気なかったのは、未練を見せないためだったんだ。
同じ気持ちだった。
私とリュシエール様。
「私、リュシエール様のことが、大好き。リュシエール様の側にずっと、いたい」
やっと、素直に自分の気持ちを言えた。
怖くて伝えられなかった想いを、ちゃんと伝えることができた。
リュシエール様は何も言わずに万象を慈しむ天使のような顔で、私に2度目のキスをしてくれた。
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