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5話 朝食をいっしょに
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朝起きて、私はこの世の果てにまで届きそうな溜息を吐いた。
あの後(私に『契りの魔法』をかけた後)リュシエール様は「じゃ、またね~」とか、意気揚々と帰っていき、私はロウソクの火が消えるまで頑張ったけど、やっぱり宿題は終わらずにヤケになって寝た。
もそもそと起き出して、夜着を脱いで木綿のワンピースに着替えて灰色のローブを纏った。
とにかく、もう悩んでもしょうがないので、朝ごはんを食べようと食堂棟に向かう。
朝の食堂棟はざわざわとにぎやかで、私はいつものように外級魔法使い用の食堂の扉を開けようとした。
「イリア~おはよ~、こっちだよ~」
上級魔法使い用の食堂から聞こえる間延びした声に、思わず私は脱兎のごとく逃げ出したくなった。
「イリア~~」
無視しよう。聞こえないふりだ。
耳を塞いだ私の目の前にふわっと天使のように美しい顔が現れた。
「僕の声が聞こえてないの?イリア」
聞こえないのじゃなくて、聞きたくないのです。
「・・・なんでしょう。リュシエール様。私になにか用ですか?」
ああ。周りの好奇の目が痛い。
なんでリュシエール様が外級魔法使いなどにお声をかけていらっしゃるのだ、みたいな視線の声が聞こえる。
「いっしょに朝ごはん、食べよ。上級魔法使い用の食堂に行こうよ。それとも、僕が外級魔法使い用を食べたほうがいい?」
私は悲鳴を上げて逃げだしたくなった。
ガクガクと震えながら「あ、あ、あ、朝ごはんは・・・食べたく、ないです」
「ダメだよイリアは成長期なんだから、ちゃんと食べないと。あ、じゃ、部屋食にしようか。僕の部屋においで」
ごめんなさい。勘弁してください。
ごめんなさい。勘弁してください。
ごめんなさい。勘弁してください。
ブツブツと繰り返す私をリュシエール様は引きずっていった。
私を見送る魔法使いたちの視線がまるで夢を見たかのように唖然としていた。
きっとその後、騒然となるのだろう。
いったいアレはなんだったんだ、と。
私は初めて足を踏み入れた上級魔法使い用の住居に口を開けたまま固まった。
ローマリウスのお城も豪華だったけど、ここはそれ以上に・・・なんかすごい。
私の身長の何倍もある高い天井にはすき間もないほど絵が描かれていて、足元のジュウタンも踏むのを躊躇うくらいに美しい刺繍がされている。
自然と忍び足になる私を見て、リュシエール様は
「イリア、僕は許嫁の君にベタ惚れなんだからね。そんな感じでふるまうよ。・・・そう、見本はキリウスかな」
私はまた悲鳴を上げそうになった。
あの、ローマリウス国の国王のキリウス様が見本って・・・・怖すぎる。
私はキリウス様のレーナ様への溺愛っぷりを思い出す。
「お、お願いです。許嫁はかまいませんけど・・・キリウス様を見本にするのだけは」
お許しくださいと、涙目で訴えたけど、リュシエール様は「そのくらいしないと、本物っぽくないでしょ」とイタズラっ子のように片目をつぶった。
リュシエール様の部屋に入ると、私は目がくらんだ。
めまいがするほどの豪華な装飾品と調度品に囲まれた部屋。調度品といえば鏡つきのタンスしかない私の部屋とは大違いだ。
部屋の中ほどに置いてあるテーブルを見て、私は感嘆の声を上げそうになった。色とりどりの野菜と果物のサラダ。3種類のスープからはホカホカと湯気があがっていて、それぞれに違う味になっている。白くてふわふわのパン。お肉の燻製もある。
そして、給仕をしてくれるのが赤いローブの中級魔法使いの男性だった。
私は急に自分の灰色のローブが恥ずかしくなった。今までそんなこと思ったこともなかったのに。
灰色ローブの娘に給仕するなんて、きっと中級魔法使いの男性はものすごく屈辱なんじゃないかしら。そう思うと豪華な朝食もほとんど口にできなかった。
「どうしたの?イリア。口に合わなかった?お菓子のほうがいい?なら用意させるよ」
リュシエール様がもぐもぐしながらそう言ったから、私は慌てて首をふった。
まさか、中級魔法使いが気になってご飯が喉を通らない、なんて言えない。
「今朝は食欲がなくて・・・」
適当にごまかそうとしたけど、リュシエール様は人の中を見通すような目をして「イリアはどこも悪くないよね」
さすがに治癒魔法も上級だ。見ただけで体の悪いところも分かってしまうんだ。
すごくヤッカイ。
しかたないので、正直に言う。
「私はぜんぜん役に立たない外級魔法使いなんですよ?こんな食事も給仕も私にはもったいなさすぎです」
リュシエール様はつと立ち上がって私の横にくると、私の手を取って白い羽根のアザを優しく撫でた。
「じゃ、これから慣れないとね。僕の許嫁ってことはそういうことなんだよ」
穏やかな口調だけど、有無を言わせない感じがして、私は黙ってうつむいた。
「それに、ローブの色なんかに惑わされちゃダメだよ。イリアは僕が上級魔法使いだから好きになったの?」
「いいえ、そんなことはないです」
あれ?私はなんで、そんなこと言ってるんだろう。
私がリュシエール様を好きみたいなこと言ってる。
「僕だって、イリアがどんな色のローブを纏っていても関係ないよ。イリアがイリアだから好きになったんだ」
あ、と私は気がついた。
そうか、給仕の中級魔法使いがいるから、許嫁ごっこしてるんだ。
「私だって、リュシエール様が・・・リュシエール様だから、す・・・す・・・き?に、なっ」
言い慣れないことを言おうとしてどもってしまった。
「ああ、なんて可愛いんだろう!僕のイリアは」
私を見つめるリュシエール様の青緑の瞳はイタズラっぽく笑っていた。
あの後(私に『契りの魔法』をかけた後)リュシエール様は「じゃ、またね~」とか、意気揚々と帰っていき、私はロウソクの火が消えるまで頑張ったけど、やっぱり宿題は終わらずにヤケになって寝た。
もそもそと起き出して、夜着を脱いで木綿のワンピースに着替えて灰色のローブを纏った。
とにかく、もう悩んでもしょうがないので、朝ごはんを食べようと食堂棟に向かう。
朝の食堂棟はざわざわとにぎやかで、私はいつものように外級魔法使い用の食堂の扉を開けようとした。
「イリア~おはよ~、こっちだよ~」
上級魔法使い用の食堂から聞こえる間延びした声に、思わず私は脱兎のごとく逃げ出したくなった。
「イリア~~」
無視しよう。聞こえないふりだ。
耳を塞いだ私の目の前にふわっと天使のように美しい顔が現れた。
「僕の声が聞こえてないの?イリア」
聞こえないのじゃなくて、聞きたくないのです。
「・・・なんでしょう。リュシエール様。私になにか用ですか?」
ああ。周りの好奇の目が痛い。
なんでリュシエール様が外級魔法使いなどにお声をかけていらっしゃるのだ、みたいな視線の声が聞こえる。
「いっしょに朝ごはん、食べよ。上級魔法使い用の食堂に行こうよ。それとも、僕が外級魔法使い用を食べたほうがいい?」
私は悲鳴を上げて逃げだしたくなった。
ガクガクと震えながら「あ、あ、あ、朝ごはんは・・・食べたく、ないです」
「ダメだよイリアは成長期なんだから、ちゃんと食べないと。あ、じゃ、部屋食にしようか。僕の部屋においで」
ごめんなさい。勘弁してください。
ごめんなさい。勘弁してください。
ごめんなさい。勘弁してください。
ブツブツと繰り返す私をリュシエール様は引きずっていった。
私を見送る魔法使いたちの視線がまるで夢を見たかのように唖然としていた。
きっとその後、騒然となるのだろう。
いったいアレはなんだったんだ、と。
私は初めて足を踏み入れた上級魔法使い用の住居に口を開けたまま固まった。
ローマリウスのお城も豪華だったけど、ここはそれ以上に・・・なんかすごい。
私の身長の何倍もある高い天井にはすき間もないほど絵が描かれていて、足元のジュウタンも踏むのを躊躇うくらいに美しい刺繍がされている。
自然と忍び足になる私を見て、リュシエール様は
「イリア、僕は許嫁の君にベタ惚れなんだからね。そんな感じでふるまうよ。・・・そう、見本はキリウスかな」
私はまた悲鳴を上げそうになった。
あの、ローマリウス国の国王のキリウス様が見本って・・・・怖すぎる。
私はキリウス様のレーナ様への溺愛っぷりを思い出す。
「お、お願いです。許嫁はかまいませんけど・・・キリウス様を見本にするのだけは」
お許しくださいと、涙目で訴えたけど、リュシエール様は「そのくらいしないと、本物っぽくないでしょ」とイタズラっ子のように片目をつぶった。
リュシエール様の部屋に入ると、私は目がくらんだ。
めまいがするほどの豪華な装飾品と調度品に囲まれた部屋。調度品といえば鏡つきのタンスしかない私の部屋とは大違いだ。
部屋の中ほどに置いてあるテーブルを見て、私は感嘆の声を上げそうになった。色とりどりの野菜と果物のサラダ。3種類のスープからはホカホカと湯気があがっていて、それぞれに違う味になっている。白くてふわふわのパン。お肉の燻製もある。
そして、給仕をしてくれるのが赤いローブの中級魔法使いの男性だった。
私は急に自分の灰色のローブが恥ずかしくなった。今までそんなこと思ったこともなかったのに。
灰色ローブの娘に給仕するなんて、きっと中級魔法使いの男性はものすごく屈辱なんじゃないかしら。そう思うと豪華な朝食もほとんど口にできなかった。
「どうしたの?イリア。口に合わなかった?お菓子のほうがいい?なら用意させるよ」
リュシエール様がもぐもぐしながらそう言ったから、私は慌てて首をふった。
まさか、中級魔法使いが気になってご飯が喉を通らない、なんて言えない。
「今朝は食欲がなくて・・・」
適当にごまかそうとしたけど、リュシエール様は人の中を見通すような目をして「イリアはどこも悪くないよね」
さすがに治癒魔法も上級だ。見ただけで体の悪いところも分かってしまうんだ。
すごくヤッカイ。
しかたないので、正直に言う。
「私はぜんぜん役に立たない外級魔法使いなんですよ?こんな食事も給仕も私にはもったいなさすぎです」
リュシエール様はつと立ち上がって私の横にくると、私の手を取って白い羽根のアザを優しく撫でた。
「じゃ、これから慣れないとね。僕の許嫁ってことはそういうことなんだよ」
穏やかな口調だけど、有無を言わせない感じがして、私は黙ってうつむいた。
「それに、ローブの色なんかに惑わされちゃダメだよ。イリアは僕が上級魔法使いだから好きになったの?」
「いいえ、そんなことはないです」
あれ?私はなんで、そんなこと言ってるんだろう。
私がリュシエール様を好きみたいなこと言ってる。
「僕だって、イリアがどんな色のローブを纏っていても関係ないよ。イリアがイリアだから好きになったんだ」
あ、と私は気がついた。
そうか、給仕の中級魔法使いがいるから、許嫁ごっこしてるんだ。
「私だって、リュシエール様が・・・リュシエール様だから、す・・・す・・・き?に、なっ」
言い慣れないことを言おうとしてどもってしまった。
「ああ、なんて可愛いんだろう!僕のイリアは」
私を見つめるリュシエール様の青緑の瞳はイタズラっぽく笑っていた。
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