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私、天才かも!

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 アランが戻ってきたのは翌日だった。いや、足速すぎるでしょ! どうなってるのよ。 アラン曰く、隣村は快く受け入れてくれたらしい。それなら、いいのだけれど。




 ある日のことだった。「いよいよ、クリスマスの時期じゃのぉ」と村長が言ったのは。


 え、まだ11月末のはず。クリスマスって12月25日じゃないの!?


「ジャンヌ、まさかクリスマスの準備期間を忘れたのか? ここのところ、お前さんの言動はおかしいの」


 どうやら、顔に出ていたらしい。準備期間ね。日本でもクリスマスツリーの設置とかあったなぁ。


「あの、それは誰がやるのかしら。まさか、私も手伝うの?」


「当たり前じゃ!」


 うわ、マジで!? 私、高いところ苦手だから、てっぺんの作業は誰かに任せよう。そうだ。アランにやらせよう。彼なら断るはずがない。少し、罪悪感があるけれど。


「あれ? でも、クリスマスって普通、教会でもお祝いとかするんじゃないの? 教会、壊れたままだけど」


「そう、それが問題じゃ……」


 そうか、最近村長がため息をついてばっかりだったのは、それが理由か。偉い人は大変だねぇ。でも、教会にこだわる必要はあるのかしら。


「家でもお祝いはするんでしょ? それで十分じゃん」


「そうはいかん。クリスマスは教会があってこそ。みなが交流するのが大事なのじゃ」


 交流か。日本ではそんなもの縁がなかったけれど、ここじゃあ大切なのね。しばらく住んで分かったけれど。うん? 交流?


「じゃあ、これはどう? くじ引きをして、グループを作るの。それで、クリスマスはそのグループで過ごす。そうすれば、教会がなくても、交流はできるわ」


「ジャンヌ、ナイスアイデアじゃ! 善は急げ。さあ、みんなに提案するのだ」


「え、私が!?」


「わしは人の手柄を横取りするのは嫌いでの。さあ、広場で演説じゃ! スピーチの内容は任せる!」


 それって、スピーチするのが面倒なだけじゃないの!?




 私の提案はすんなりと受け入れられた。広場の真ん中でしゃべるのは、緊張したけれど。でも、これで終わりじゃない。まだ、提案すべきことがある。


「みんな、聞いて。今度、再建する教会は小規模にしましょう!」


「おい、ジャンヌ! 神聖な場所を小さくしろなんて、何を言ってるんだ!」


 周りからもヤジが飛ぶ。やっぱり、そうなるよね。でも、これなら納得するはず。


「確かに、大きさも重要よ。でも、小規模なら村のみんなでも再建できるわ! クリスマスでも交流はできる。でも、再建を目指して一致団結すれば、もっと村は素敵になるはずよ」


 この考えは、一回胸にしまっていた。でも、スローライフを送るのなら、居心地を良くしておきたい。静寂が訪れる。あ、これはダメらしい。その時だった。村長が拍手をしたのは。


「ジャンヌの言うとおりじゃ! みな、もっと柔軟に考えるのだ。教会が壊れたのも、神様が与えた試練なのじゃ」


 あの、それは私がお告げを断ったからなんだけれど。まあ、いっか。


「そうと決まれば、それぞれ手分けしてコンクリートの材料調達じゃ! さあ、わしがグループを作るから、指示に従うように」




 私を含めた女性陣は体力の観点から、砂や水の調達係になった。そりゃ、隣村まで火山灰を取りに行け、なんて言われたら、殴っていたかもしれない。さすがに、それはないか。子供たちは楽しそうにクリスマスツリーの飾り付けをしているし、いい感じじゃん。これぞ、スローライフ。


「ねえ、ジャンヌ聞いてる?」


「え、何か言った?」


 砂を集めるのに夢中になりすぎたらしい。


「もう、とぼけちゃって。アランがあなたを好きなのは分かってるでしょ? それで、どうするの?」


 うーん、どうするって言われても……。


「分かったわ!ジャンヌ、恥ずかしいのね。代わりに私が想いを伝えてくるわ!」


 ちょっと待て。私は女性を引き止める。危うく、めんどくさくなるところだった。まあ、クリスマスのグループ分けでアランと同じだから、これまた面倒だけど。あとは、クリスマスプレゼントを何にするかが問題ね。プレゼント交換だから、誰がもらっても使えるものにしなきゃ。さて、どうするかな。




 クリスマス当日。何をプレゼントとして用意するか悩んだが、これなら誰がもらっても大丈夫。自信を持て、私。あとは家にみんなが来るのを待つだけだ。と、思っていたら、一人目の客人の到着だ。やはり、一番乗りはアランだった。分かりやすいな。あとは村長と神父。二人が来るのに時間はかからないだろう。村の交流と言いつつも、いつもの顔ぶれになってしまった。まあ、小さい村だから、当たり前かもしれない。




「こいつはすげぇや!」とアラン。


 テーブルに並べられたのはローストチキンにフルーツパイ。それと、スパイスパンにワイン。これなら、誰も文句を言うまい。


「全部、ジャンヌが作ったんだろ?」アランが目を輝かせる。


「残念でした。全部、お母さんが作ったのよ」


 嘘である。半分は私が作った。事実を言うとアランが喜びのあまり昇天しそうだからだ。あれ、これだと私の料理で喜ぶ前提じゃない。あれ、私、もしかして、アランを意識してる……? まさか。頭を振る。


「あらあら。ジャンヌったら嘘をつくことはないじゃない。そのフルーツパイなんて、全部自分で作り上げたじゃないの。恥ずかしがることないのに。アラン君、ごめんね」


 お母さんのバカ! 余計なことを。あ、アランのやつ、メインのローストチキンよりも先にフルーツパイを食べ出した。単純だな。まあ、それがいいところでもある。




 ディナーは村長や神父からも好評だった。


「いやあ、たらふく食べたわい」


 いつのまにか、村長のグラスが空になりそうだ。継ぎ足さなきゃ。慌ててボトルに手をやる。


「ジャンヌ、大丈夫じゃ。もう、飲めそうにはない。それに、そこの若者に睨まれておるしのぅ」


 村長の視線の先にはアランがいた。なるほどね。


「さて、次はプレゼント交換会ですね」


 あ、そうだった。神父に言われるまで、完全に忘れてた。さて、どうやって交換するか。今の時代、録音機なんてない。音楽が止んだ時のプレゼントをもらう、という方法はできないのだ。


「提案があります! 俺がクリスマスキャロルを歌います。それで、歌うのをやめたら、その時のプレゼントをもらう。これでどうですか?」


 なるほど、合理的だ。みんながプレゼントを手に持つと、アランがクリスマスキャロルを歌い出す。プレゼントが時計回りに渡されていく。さて、私のプレゼントを受け取るのは誰かな? と、考えていたら、アランは歌うのをやめてしまった。いや、やめるの早すぎない!? 待った、アランの手にあるの、私のプレゼントじゃん! これが理由か。


「お、これは手袋だな! ジャンヌ、サンキュー」アランが包みを開けつつ言う。


 そう、私は悩んだ末に手袋を編むことにした。趣味の編み物には自信があったから。手袋なら、誰がもらっても気に入ってくれると思ったし。


 あれ、私の手元にあるの、アランが持ってきたプレゼントじゃない? 袋から取り出すと、シンプルなペンダントが出てきた。取り出すと同時に羊皮紙が舞い落ちる。そこには、ミミズのような文字でお祝いの言葉が書かれていた。私が読み書き講座を開いたのも無駄ではなかったらしい。


「わしは外で酔いを覚ましてくるわい」


「私もご一緒します」


「じゃあ、私は片付けをしてくるわね」


 あれ、三人がいなくなったら、この部屋にいるのって、私とアランだけ!?


「ジャンヌ、話があるんだ」


 これはまさか。しかし、アランが言葉を続ける前にバタンと音がして扉が開く。


「雪が降ってきた。教会に防雪対策をしておらん!」


 やばい。すっかり忘れてた!


「俺に考えがあります」


 そう言うアランの顔は自信に満ち溢れていた。
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