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ダンジョンへの第一歩

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 これが魔王討伐へ続くダンジョンの入り口か。


 鬱蒼とした森の中、光がほとんど届かない暗闇に包まれた場所に、その入り口はひっそりと佇んでいた。


 森の木々は密集していて、太い幹が空を覆い隠し、まるで生き物のように絡み合った枝が道を阻む。まるで蛇みたいで、今にも動き出しそうだ。なんか、ニョロっと細いものが動く。それは本当に蛇だった。蛇の舌だった。うわぁ、そうくるか。俺は蛇が苦手だから、咄嗟にとびのく。


 周囲の木々は年季が入っていて、苔が一面に広がっている。地面は枯れ葉と湿った土に覆われ、足を踏み入れるたびに軽い沈み込みを感じさせた。つまり、踏み固められていないことを示す。


 ということは、歩いた人が少ないってこと!? え、まさかダンジョン攻略を目指す人の方が少ないのか!? 草原に人が多かったのって、みんな草原で過ごすことを選んだから? そういえば、魔王の言葉を受けても微動だにしなかった人は、この世界に住み慣れたってことか。


 細い獣道のような通路が、森の奥へと続いている。道の両脇には高い草が生い茂り、ところどころに棘を持つ植物が見え隠れする。


「新米冒険者かい? 大変だねぇ」


「そうなんだよ。いきなりこんな世界に飛ばされて『ダンジョンを攻略しろ』だなんて。無茶苦茶すぎでしょ……」


「分かるよ、その気持ち」


「この世界に俺の気持ちを分かってくれる人がいるなんて。え……?」


 俺は周りを見渡すが、そこには誰もいない。今のは俺の幻聴だったのか?


「おーい、冒険者よ。上じゃ、上」


 上を見ても一面の新緑の葉っぱとそこから木洩れ出る太陽の光だけだ。でも、声は頭上から聞こえてくる。


 すると、一本の枝が細かく揺れ動く。よく見ると、その木には口があった。なるほど、ゲームでよくいる「喋る木」ってやつか。


「気づいてくれたようじゃのう」


 それは大木だった。樹齢数百年は経っているに違いない。


「わしは困っている冒険者を助けるのが生き甲斐でのう。お主はこの世界は初めてじゃろ。何でも聞くがよい」


「じゃあ、いくつか質問を。この世界にはダンジョンの中に武器屋なんかはあるのか? 俺が天使からもらったのはこの木の枝なんだが……」


 目の前でぷらーんと枝を垂らすと、大木はため息をつく。


「おお、お主も被害者じゃったか! あの天使、やることがエゲツないからのう。おお、武器屋の話じゃったな。もちろん、あるとも。他には宿もあれば食事処もある。まあ、生活に困ることはないじゃろう」


「じゃあ、次の質問。知ってるならで構わない。このダンジョン、塔のように上に伸びているが、一番頂上までいったやつは何階まで行ったんだ?」


「一階じゃ」


「あの、もう一度」


じゃよ」


「え、一階!? ちょっと待てよ、この塔は何階まであるんだよ……」


「それは分からん」


「そうだよな、クリアした人がいないんだから」


「まあ、そう心配するでない。わしはお主ならいい線いくと思うぞ。天使はステータスをバランスよく振るべき、と言ったはずじゃ。それは間違いじゃ。この世界では何かを極めるのが良い。ステータスによって出来ることが変わるからのう。シンプルイズベストじゃよ」


「そういうもんかねぇ。一つ気になったんだけど、なんでそんなに詳しいんだ?」


「それはのう、あと一歩で二階というところで命を落とした冒険者は、わしじゃからよ」


「はい?」


「わしも昔は冒険者じゃった。この世界ではのう、デスしても希望があればダンジョンの一部になれるのじゃ。まあ、どこに配置されるかはランダムじゃから、二階より上のものたちは退屈じゃろうて」


「ふーん、なるほどね。最初に会えたのがあんたで良かったよ。意地悪な奴じゃなくて」


 正直なところ、天使より有益な情報をもらえた。この大木を案内役にする方が良さそうだが、あの魔王のことだ、そんなことはしないだろう。


「おい、後ろじゃ、後ろ!」


 大木の声に従って後ろを振り向くと、そこには今にも俺を食い殺そうとするオオカミの姿があった。まずい。咄嗟に木の枝で殴ると、バキッと音を立てて割れてしまった。ここで死ぬのか。


 目をつぶったが一向にオオカミの牙が襲いくることはない。恐る恐る目を開けると、そこには瀕死のオオカミの姿があった。


「ほれ、言った通りじゃろう? 枝が折れたのはお主の攻撃力に耐えられなかったからじゃよ。その証拠に枝で攻撃されたオオカミは瀕死じゃ。まあ、攻撃力が高くても、この調子では武器が何本あっても足りなさそうじゃが」


 俺は目の前で真っ二つに折れた枝を二刀流のように構えるが、どうもしっくりこない。これじゃあ、敵を攻撃しても効果がなさそうだ。


「ふむふむ。少し待つのじゃ。これをこうして……ほれ、これを受け取るが良い」


 すると、頭上から木の枝が落ちて来た。いや、単なる木の枝じゃない。木刀だった。


「もしかして、俺にこれを……?」


「久しぶりに会話をして楽しかったからの。それにお主は有望じゃ。いずれ、魔王を倒すと見込んだ」


「よし、ありがたくもらうぜ」


 俺はダンジョンの入り口に向かって一歩踏み出す。


「待つのじゃ、名前を聞いておらん」


「俺の名前はコウ! 友達からはそう呼ばれている。ダンジョンを攻略したら、ここに来るよ。冒険談を手土産に持って」


 次の瞬間、俺は下へと落下する。痛い! どうやら単純な落とし穴に引っかかったらしい。


「そうじゃった、お主の『運』は0じゃったな。まあ、心配はいらんじゃろ。その力ですべて薙ぎ払えばよかろう」


 俺は落とし穴から這い上がると、頷く。そして、改めてダンジョンの入り口を見る。


 この先にどんな困難があろうとも大丈夫だ。すべて攻撃力でぶっ壊す!
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