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律儀な死神③

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僕はどこかに横たわっていた。どうやら、死んだらしい。これが死ぬということか。案外、悪い感覚はしない。
「あ、あ、明彦ぉぉ」
 母が僕の体にしがみつく。あれ、これは夢?
「痛い!」
 いつの間にか声が出ていた。
「あぁ、本当によかった! 無事でよかった」
 母はますます強く抱きしめてくる。
「痛い、痛いよ!」
「奥さん、大丈夫ですか!?」
 扉をガラッと開けて、白衣の女性がやって来る。母の声が大きかったらしい。
「まあ、先生に伝えないと!」
 その女性は、勢いよく扉の向こうに消えた。
「もう、心配したのよ! 先生が言っていたのよ。『軽トラックにはねられて、重症です。もって数日でしょう。運が良くても植物状態です』って!」

 しばらく、母は僕のそばで泣きじゃくっていたが、父に連絡すると言って病室を出ていった。
「よぉ、お前、人が好過ぎないか? 人のために自分の命を投げ出すなんて」
 背後から聞こえる声に振り返る。そこには――昨日の死神が立っていた。
 死神? あれ、昨日のは夢じゃなかった? それとも、これが夢? どっちだ?
「きょとんとするな。言ったはずだ。『お前の寿命はあと一年だ』と」
「ど、どういうこと……?」
「お前の寿命はあと一年――正確にはあと三百六十四日――だと。つまり、それまでお前には猶予があるんだ。いきなり死なれちゃあ、余命宣告したのに、嘘をつくことになる」
「死神って、いきなり命を奪うんじゃないの?」
「それは違う」
 死神の言うことはにわかには信じがたい。死神が律儀に約束を守ることなんて、あるのだろうか?
「なんにせよ、俺の手を煩わせるな。お前は、命つきるまで大事な人と過ごせばいいのさ」
 僕は疑問に思った。
「ねぇ、一個質問していい?」
「一個だけだぞ」
「それって、君が僕のそばにいる限り、不死身に近いってこと?」
「まぁ、そういうことになるな」
「ありがとう」
 まぶたが重くなってきた。起きて早々、無理をし過ぎた。
「またな」
 そう言うと、死神は去っていった。
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