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サウジアラビアをオスマン帝国から救え!

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 サウジアラビア。それは、未来では石油で栄えている国だ。そんなサウジアラビアだが、大航海時代ではオスマン帝国の支配下にあった。


「サウジアラビアを日本の領土にするのはいいけどさ、どうやって手に入れるのか、戦略はあるんだろうな?」と凪。


「ああ、もちろんだ。この時期、サウジアラビアの住民たちは、オスマン帝国に対して不満がある。重税や圧政がひどかったからな」


「つまり、住民たちを焚き付けて暴動を起こそうというわけか」


「いや、それは言い過ぎだ。住民たちを味方につけて、オスマン帝国を追い払う」と訂正する。住民を無理に煽るわけではない。彼らの不満を利用し、彼ら自身が独立を望むように導くことが重要だ。


「なるほどねぇ。そうなると、陸地戦がメインだから、大和の出番はないわけだ。主砲で叩き潰すの、快感なんだけどな」


 俺は苦笑いすると、こう言った。「武士が住民たちと陸地から攻める間に、大和もアラビア海を北上して、海から援護する」と。


「なるほど、それは合理的だ。それで、誰がどうやって住民たちと交渉するのだ?」との秀吉の問いに沈黙が訪れる。俺も、そこまでは考えていなかった。


「ちょっと、しっかりしてよね。この時代のサウジアラビアはオスマン帝国の支配下にあるわ。でも、メッカを治めるシャリーフたちは地元に対して強い権威と影響力を持っている。彼らをこっち側に引きずり込むのよ」とミオが力説する。


「それで、そのシャリーフとやらに、どうやって接触するんだ?」凪が問いかける。


「これよ」そう言ってミオが取り出したのは、イスラム教独特の服だった。長いローブとターバン、そして彼女が巻いたヴェールは、まるで現地の民そのものに見える。「私たちは彼らに成りすまして潜入するわ」




「あっちぃ」俺は今、サウジアラビアの砂漠地帯を歩いている。同行しているのはミオ一人だ。さすがに秀吉を連れて行くわけにはいかなかった。


「で、接触した後、具体的にどうするんだ?」


「そうね、まずは相手と徐々に信頼関係を築くのが大事ね」とミオ。


「徐々にねぇ。つまり、時間がかかると? 秀吉が嫌そうな顔するぞ……」俺は彼のせっかちな性格を思い浮かべて苦笑した


「『急いては事を仕損じる』よ。秀吉のことは忘れなさい。この前、せっかくインドのムガル帝国と貿易をすることになったじゃない。今度はインド経由でシャリーフたと貿易をするのよ。彼らに利益があることを示す必要があるわ」


 正しいことは分かるが、他に手がありそうな気もする。


「なあ、シャリーフたちが持っているのは、独立した宗教的な自治権じゃないだろ? 仏教は宗教に寛容だ、と主張するのはどうだ? 経済じゃなくて宗教面から攻めるんだ。インドのムガル帝国みたいに」


「それもありね。両面作戦といきましょうか」




 そんなわけで、シャリーフたちの前にいるわけだが。


「お前たちは、この地域の者ではないな。部外者が何用だ?」と詰問されている。


「確かに私たちは、ここの出身ではありません。ですが、イスラム教の教えに感銘を受けました。ですから、このような服を着ているのです」


 ここはミオに任せるのが無難そうだな。下手に口出しして、反感を買いたくはない。


「だが、お前たちにも神がいるはずだ。貴様たちの信仰心はその程度なのか?」


「いいえ、違います。私たちは仏教という宗教を信仰しています。しかし、仏様は寛容なので、他の宗教を信じることも許してくださるのです。そして、あなたたちが望めば、オスマン帝国を追い払うのに手を貸したいのです。彼らの圧政から逃れるために」


 シャリーフは何か考えているようで、目を閉じている。こういう時は、相手の考え事を妨げてはいけない。沈黙があたりを包む。


「お前たちの言い分は分かった。何か策はあるのか? それにオスマン帝国への反乱が失敗したらどうする?」


「我々には戦艦という武器があります。海を自由自在に動く大砲のついた要塞です。これで、海上から攻撃します。そして、武士があなた方の軍と連携して、オスマン帝国の総督《ワリ》を襲撃します」


「総督《ワリ》を襲撃? あの警備部隊をどう突破するんだ?」


「武士は一対一の戦闘が得意です。彼らが奇襲を仕掛けた後に、あなた方が攻撃するのです。そうすれば、そちらの被害は少なくて済みます」


 よし、ここからは俺でも言える。


「圧政から解放した後は、インドを経由して貿易をしたいと考えています。オスマン帝国とは違い、平等な立場での交易です。関税も低減します」


「ふむ、悪くない。よし、話に応じよう。これが、このあたりの地図だ。ここが総督《ワリ》たちの拠点で……」




「その表情を見るに、成功したみたいだな。ご苦労であった。それで、どんな内容だ?」


 俺は手短に秀吉に説明する。


「なるほど、経済面からも攻めたか。ようやく、正攻法以外の手段を覚えたわけだ。この世界征服が終わるころには、一政治家としても成長するに違いないな」


 秀吉は誉め言葉のつもりかもしれないが、未来の政治家のことを思うと、複雑な心情になった。


「ともかく、闇夜に紛れて大和を移動させる必要があります。彼らにはここで降りてもらい別行動となります」


 俺は出番が来るのを待っていた武士たちを指す。


「あなたには、大和から戦況を見ていただきます」と言ったと同時に、「それは武士の士気にかかわる!」と猛反対された。


「もし、あなたに万が一のことがあった場合の方が心配です」とフォローする。


「そうね。部下を信頼して、任せることも大事よ」とミオが諭す。


「……。分かった、言う通りにしよう。大和の威力、奴らに見せつけようぞ」




 いよいよだ。今日が作戦決行の日。もうすぐ夜が明ける。そろそろ頃合いかもしれない。武士の大部分を陸地に降ろしているので、甲板の上は空っぽに近い。今回は秀吉の希望で、主砲のスイッチを押すのは彼だ。スイッチを押すことで、戦の火ぶたを切りたいらしい。「武士たちに号令をかける意味でも、この戦いの責任者としてもこれだけはやらせてくれ」というのが秀吉の主張だった。


 秀吉はスイッチを押す決意をしたのか、蓋を開ける。彼がスイッチを押すと同時に、海に水の柱が次々と立ち上がる。おそらく、地上でも戦いが始まったに違いない。凪が指揮を執る武士たちの奇襲が。




 その日の夕暮れ。総督《ワリ》たちの拠点からモクモクと煙が立ち上るのが見えた。こうして、オスマン帝国との戦いは幕を閉じた。


「では、シャリーフたちとの話し合いにいくぞ。二人が話をつけてくれたおかげで、仕事が早く済みそうだ」秀吉はウキウキを隠そうとしていなかった。


「それで、次はどこを攻め落とすつもり? やっぱり、アフリカ方面かしら」


「ミオの言うとおりだ。アフリカを沿岸沿いに南下しながら、喜望峰を目指す。そこを抑えれば、日本から西はアフリカまで、支配下に置くことに成功する。つまり、世界の半分は日本のものになる」


 しかし、それはあくまでも折り返し地点だ。世界統一の道はまだまだ遠い。この先にどのような苦難が待ち受けているのか想像はできない。しかし、終わった時には笑顔で未来に帰りたい、そう思わずにはいられなかった。
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