4 / 8
李舜臣の襲撃
しおりを挟む
「くそ、これは予想外だぞ!」
「おい、湊、舵を切れ! 攻撃をまともにくらうぞ!」
凪の怒声が聞こえてくる。しかし、潮風と轟音によって聞きづらい。
「言われなくても、分かってる!」
俺たちは思わぬ事態に巻き込まれていた。朝鮮半島を拠点にしている李《り》舜臣《しゅんしん》率いる水軍の奇襲によって。別に、それだけならば蹴散らすことは簡単だ。しかし、向こうは近海の海賊と手を組んでいる。そして、明の軍も応援に駆けつけ、奥の方で停泊している。俺たちを潰すためなら、普段は敵であっても手を組むのは自然か。
本来ならば強行突破するが、船員は生身の人間だ。俺たちは軍用のスーツを着ているが、武士たちはそうではない。だから、無理は出来ない。
「くそ、ちょこまかと動きおって! どうにかならんのか!」秀吉は怒り狂って、顔を真っ赤にして欄干を叩く。
「そうしたいのは山々ですが、向こうは船が小さいことを活かして、機動力で撹乱しています。こっちの主砲は長距離向けですから、簡単に撃破できないんです!」
ハエのように動き回る敵船への唯一の対抗策は機銃だ。しかし、武士たちは扱いに慣れていない。主砲とは違い、スイッチ一つでは動かせない。彼らは四苦八苦して動かすも、反動でひっくり返っている。「くそ、卑怯者どもが! 漢なら一対一で戦わないか!」と叫びながら。
「これじゃ、埒があかない。なあ、凪! いい案ないか?」
「あったら、とっくの昔に言ってるわ!」
やはり、凪も対策が思い浮かばないらしい。ミオはというと、何やら双眼鏡で遠くを観察をしている。
「おい、ミオ。ボーっとしてないで、こっちを手伝ってくれ!」
「ちょっと待って! もうすぐ突破策が見つかりそうだから!」
突破策? どうやって、この小蝿どもを蹴散らすんだ? 大和の主砲が通じない以上どうにもしようがない。
「ねえ、あれを見て!」ミオの指差す先には明の大きな船が見える。この時代、明は朝鮮に有事があれば、助けるのが自然だった。史実で豊臣秀吉が朝鮮へ出兵したときもそうだった。
「それがどうした? 俺が知りたいのは、こいつらをどう撃破するかなんだが!」
ちょこまかと動く小舟にイライラした俺は、とても人に聞かせられないような悪態をつく。
「ちょっと、明の船は停泊中よ! あれなら、大和の主砲で撃沈できるわ。目の前の敵は放っておけばいいのよ!」
ミオのいう通りに遠くを見ると、明の船は狭い湾内で身動きが取れないのか、動く気配がない。あれなら、仕留められる。俺は狙いを定めると主砲のスイッチを押す。数秒後、遠くで轟音を立てながら、炎と煙をあげて一隻の船が沈み出す。そして、炎が隣の船に飛び移り、連鎖的に爆発が起こる。
「よっしゃぁ」
やはり、主砲の一撃で仕留めるのは、一種の快感がある。今までの鬱憤を晴らすのに最高の手段だ。さて、反撃開始だ!
後ろの明の大型船の爆発を見たからか、前方にいる朝鮮や海賊たちの船の動きに乱れが見られる。ボスを失った手下の朝鮮軍は右往左往している。この調子でいけば、小型船も散り散りに逃げ去るに違いない。この様子を見た秀吉は「でかした! 畳みかけろ!」と顔を紅潮させて興奮している。
数時間後、目の前には無惨にも焼き焦げた船の残骸だけが漂っていた。
「さて、これで銀を取り戻せるってもんだ」と凪。
「凪、銀を取り戻すのはもちろんだが、もう一つやるべきことがある」
「やること?」凪は首を傾げる。
「ああ、これ以上明に攻め込まない条件として、李《り》時珍《じちん》を要求する」
「リジチン? 誰だ、それ。聞いたことがない名前だな」
「この時代の医療に詳しい人物さ。大和には船医がいないからな。この交換条件なら、損はしないさ」
そんな話をしていると、秀吉が階段を降りて近づいてくる。
「なるほど、実に合理的だ。では、交渉は任せた。こっちは銀を回収して、どう使うか考える」
「ええ、お任せください。さて、明の次はどこを攻めるかな」
「おいおい、気が早いぜ。それは医学者を手に入れてから考えようぜ」凪が俺の肩を叩く。
「まあ、それもそうだな」
どうやら俺は急ぎすぎていたらしい。しかし、次のターゲットは決まっている。スペインの植民地のフィリピンだ。いよいよ、ヨーロッパ相手に戦うことになる。これが日本の未来を決める第一歩だ。今回の件もある。相手をみくびってはいけない。確実に仕留めてみせる。そして、未来を切り開いてやる。
「おい、湊、舵を切れ! 攻撃をまともにくらうぞ!」
凪の怒声が聞こえてくる。しかし、潮風と轟音によって聞きづらい。
「言われなくても、分かってる!」
俺たちは思わぬ事態に巻き込まれていた。朝鮮半島を拠点にしている李《り》舜臣《しゅんしん》率いる水軍の奇襲によって。別に、それだけならば蹴散らすことは簡単だ。しかし、向こうは近海の海賊と手を組んでいる。そして、明の軍も応援に駆けつけ、奥の方で停泊している。俺たちを潰すためなら、普段は敵であっても手を組むのは自然か。
本来ならば強行突破するが、船員は生身の人間だ。俺たちは軍用のスーツを着ているが、武士たちはそうではない。だから、無理は出来ない。
「くそ、ちょこまかと動きおって! どうにかならんのか!」秀吉は怒り狂って、顔を真っ赤にして欄干を叩く。
「そうしたいのは山々ですが、向こうは船が小さいことを活かして、機動力で撹乱しています。こっちの主砲は長距離向けですから、簡単に撃破できないんです!」
ハエのように動き回る敵船への唯一の対抗策は機銃だ。しかし、武士たちは扱いに慣れていない。主砲とは違い、スイッチ一つでは動かせない。彼らは四苦八苦して動かすも、反動でひっくり返っている。「くそ、卑怯者どもが! 漢なら一対一で戦わないか!」と叫びながら。
「これじゃ、埒があかない。なあ、凪! いい案ないか?」
「あったら、とっくの昔に言ってるわ!」
やはり、凪も対策が思い浮かばないらしい。ミオはというと、何やら双眼鏡で遠くを観察をしている。
「おい、ミオ。ボーっとしてないで、こっちを手伝ってくれ!」
「ちょっと待って! もうすぐ突破策が見つかりそうだから!」
突破策? どうやって、この小蝿どもを蹴散らすんだ? 大和の主砲が通じない以上どうにもしようがない。
「ねえ、あれを見て!」ミオの指差す先には明の大きな船が見える。この時代、明は朝鮮に有事があれば、助けるのが自然だった。史実で豊臣秀吉が朝鮮へ出兵したときもそうだった。
「それがどうした? 俺が知りたいのは、こいつらをどう撃破するかなんだが!」
ちょこまかと動く小舟にイライラした俺は、とても人に聞かせられないような悪態をつく。
「ちょっと、明の船は停泊中よ! あれなら、大和の主砲で撃沈できるわ。目の前の敵は放っておけばいいのよ!」
ミオのいう通りに遠くを見ると、明の船は狭い湾内で身動きが取れないのか、動く気配がない。あれなら、仕留められる。俺は狙いを定めると主砲のスイッチを押す。数秒後、遠くで轟音を立てながら、炎と煙をあげて一隻の船が沈み出す。そして、炎が隣の船に飛び移り、連鎖的に爆発が起こる。
「よっしゃぁ」
やはり、主砲の一撃で仕留めるのは、一種の快感がある。今までの鬱憤を晴らすのに最高の手段だ。さて、反撃開始だ!
後ろの明の大型船の爆発を見たからか、前方にいる朝鮮や海賊たちの船の動きに乱れが見られる。ボスを失った手下の朝鮮軍は右往左往している。この調子でいけば、小型船も散り散りに逃げ去るに違いない。この様子を見た秀吉は「でかした! 畳みかけろ!」と顔を紅潮させて興奮している。
数時間後、目の前には無惨にも焼き焦げた船の残骸だけが漂っていた。
「さて、これで銀を取り戻せるってもんだ」と凪。
「凪、銀を取り戻すのはもちろんだが、もう一つやるべきことがある」
「やること?」凪は首を傾げる。
「ああ、これ以上明に攻め込まない条件として、李《り》時珍《じちん》を要求する」
「リジチン? 誰だ、それ。聞いたことがない名前だな」
「この時代の医療に詳しい人物さ。大和には船医がいないからな。この交換条件なら、損はしないさ」
そんな話をしていると、秀吉が階段を降りて近づいてくる。
「なるほど、実に合理的だ。では、交渉は任せた。こっちは銀を回収して、どう使うか考える」
「ええ、お任せください。さて、明の次はどこを攻めるかな」
「おいおい、気が早いぜ。それは医学者を手に入れてから考えようぜ」凪が俺の肩を叩く。
「まあ、それもそうだな」
どうやら俺は急ぎすぎていたらしい。しかし、次のターゲットは決まっている。スペインの植民地のフィリピンだ。いよいよ、ヨーロッパ相手に戦うことになる。これが日本の未来を決める第一歩だ。今回の件もある。相手をみくびってはいけない。確実に仕留めてみせる。そして、未来を切り開いてやる。
1
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
大日本帝国、アラスカを購入して無双する
雨宮 徹
歴史・時代
1853年、ロシア帝国はクリミア戦争で敗戦し、財政難に悩んでいた。友好国アメリカにアラスカ購入を打診するも、失敗に終わる。1867年、すでに大日本帝国へと生まれ変わっていた日本がアラスカを購入すると金鉱や油田が発見されて……。
大日本帝国VS全世界、ここに開幕!
※架空の日本史・世界史です。
※分かりやすくするように、領土や登場人物など世界情勢を大きく変えています。
※ツッコミどころ満載ですが、ご勘弁を。
大日本帝国領ハワイから始まる太平洋戦争〜真珠湾攻撃?そんなの知りません!〜
雨宮 徹
歴史・時代
1898年アメリカはスペインと戦争に敗れる。本来、アメリカが支配下に置くはずだったハワイを、大日本帝国は手中に収めることに成功する。
そして、時は1941年。太平洋戦争が始まると、大日本帝国はハワイを起点に太平洋全域への攻撃を開始する。
これは、史実とは異なる太平洋戦争の物語。
主要登場人物……山本五十六、南雲忠一、井上成美
※歴史考証は皆無です。中には現実性のない作戦もあります。ぶっ飛んだ物語をお楽しみください。
※根本から史実と異なるため、艦隊の動き、編成などは史実と大きく異なります。
※歴史初心者にも分かりやすいように、言葉などを現代風にしています。
Another World〜自衛隊 まだ見ぬ世界へ〜
華厳 秋
ファンタジー
───2025年1月1日
この日、日本国は大きな歴史の転換点を迎えた。
札幌、渋谷、博多の3箇所に突如として『異界への門』──アナザーゲート──が出現した。
渋谷に現れた『門』から、異界の軍勢が押し寄せ、無抵抗の民間人を虐殺。緊急出動した自衛隊が到着した頃には、敵軍の姿はもうなく、スクランブル交差点は無惨に殺された民間人の亡骸と血で赤く染まっていた。
この緊急事態に、日本政府は『門』内部を調査するべく自衛隊を『異界』──アナザーワールド──へと派遣する事となった。
一方地球では、日本の急激な軍備拡大や『異界』内部の資源を巡って、極東での緊張感は日に日に増して行く。
そして、自衛隊は国や国民の安全のため『門』内外問わず奮闘するのであった。
この作品は、小説家になろう様カクヨム様にも投稿しています。
この作品はフィクションです。
実在する国、団体、人物とは関係ありません。ご注意ください。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
8分間のパピリオ
横田コネクタ
SF
人間の血管内に寄生する謎の有機構造体”ソレウス構造体”により、人類はその尊厳を脅かされていた。
蒲生里大学「ソレウス・キラー操縦研究会」のメンバーは、20マイクロメートルのマイクロマシーンを操りソレウス構造体を倒すことに青春を捧げるーー。
というSFです。
蒼穹(そら)に紅~天翔る無敵皇女の冒険~ 五の巻
初音幾生
歴史・時代
日本がイギリスの位置にある、そんな架空戦記的な小説です。
1941年5月、欧州大陸は風前の灯火だった。
遣欧軍はブレストに追い詰められ、もはや撤退するしかない。
そんな中でも綺羅様は派手なことをかましたかった。
「小説家になろう!」と同時公開。
第五巻全14話
(前説入れて15話)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる