食事はひとりで、もしくは君と

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13. ほろにが焼肉

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 サキから、「大成功だった」という連絡がきたのは、それからすぐのことだった。「お礼に肉、奢らせて」という誘いに乗るかずいぶん迷ったものの、押し切られる形で約束の日を迎えた。

「本当は食べたフリでよかったんだよ」

 くーっと生ビールをあおり、サキは何度目か分からない話を繰り返す。「舞台上で食べちゃったら、その後のセリフが言えないでしょ? だから食べなくてよかったのに、『美味しそうな匂いだったから、かじっちゃった』って」

「よかったね」

 網の上の肉をひっくり返しながら、心の底から言った。嬉しそうな彼を見ていると、こちらまで嬉しくなってくる。だから、ちくちく胸を刺す痛みは忘れることにした。ぼうっと焼いていた肉はいつの間にか焦げていて、たれをつけているのにどこか苦い。

「終演後の打ち上げで、もったいないから予備で作ったやつ食べてもらったんだけど、みんなに旨い旨いって言ってもらえてさ。なんか、自分の作ったもので誰かに喜んでもらえるって、こんなに嬉しいんだって、感動しちゃったよ」

 それもこれも、るたくんのおかげです、と急にしゃんと背筋を伸ばしたサキが、額をぶつける勢いで頭を下げるもんだから、慌てて皿を避ける羽目になった。

「もういいって」
「だってさあ」

 えへへ、と赤くなった頬を緩ませながら笑んだサキが、ふと真顔になってこちらを見つめる。

「るたくん、なんか調子悪い?」
「全然」

 そう? と訝しむ視線から逃れるようにウーロン茶を傾ける。味を堪能できなくなるので、食事中にアルコールは飲まない主義だ。彼も同じと言っていたけど、さすがにきょうはお祝いらしく、次々にビールのジョッキを空けている。

 誰にどんな言葉を掛けられたのか、それがどれだけ嬉しかったのか。酔った口でそれこそ演じるように逐一語るから、彼がどれほど劇団の人から愛されているのか、手に取るようにわかった。きっと菓子作りのように綿密に、コツコツと、ていねいに積み上げてきた時間。でき上がった関係性はきっと、クッキーに負けないほど素晴らしい。

 自分とは大違いだ。

 サキさんが嬉しそうで嬉しい。その成功に自分が貢献できたことも嬉しい。なのに、話を聞けば聞くほど、苦しくなっていく。
 自分に協調性がないことも、それが社会で生きていくうえで甘えや怠惰だと見なされることも、ずっと昔に納得していたはずだった。翼のない生き物が飛ぶことを諦めるように、承知していたはずなのだ。なのに、冷蔵庫の奥からダメになった食材を見つけてしまったときのような、小さくて深い後悔が消えない。

 どうして自分は、きちんと人と関わってこなかったのだろう。他者と交わる努力を、放棄してきてしまったんだろう。

「でも、るたくんに友達がいなくて、本当によかった」

 飲み干したジョッキをまたひとつ机の端に寄せながら、サキは朗らかに言った。サウナから出てきたばかりの人みたいに、つるんとすっきりした顔で言うものだから、何を言われたか一瞬理解できなかった。

「いま、すごいひどいこと言わなかった?」
「え? 何が?」
「友達がいなくてよかった、って」
「そうだよ?」

 それがなにか? みたいな顔をする。

「だって、るたくんに友達がいたら、るたくんはきっとその人とあのエビから揚げの店に行ったでしょ。そしたら俺、会えなかったでしょ。クッキーは不味いままだったでしょ」
「他の人に教わったんじゃない」
「そうかもしれないけどさ」

 行儀悪く机に右頬をくっつけて、サキは目を細めた。

「俺は、るたくんから教わることができてよかった」
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