食事はひとりで、もしくは君と

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3. 至高のエビから揚げ-3

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 突然ダイレクトメッセージを寄越してきた「サキ」と名乗る人物は、すらりとした細身の、二十そこそこくらいの男の人だった。大学生だろうか。あらかじめ男性と聞いていたから驚かなかったけど(知らない異性となんて、それこそ得体が知れなさ過ぎて食事を共にしたくない)、つんつん跳ねた短い髪に、女性受けしそうな甘く垂れた目元の彼に手を振られると、まだ何も話していないのに、もう気後れしてしまう。

「『るた』さん、ですか?」

 本名の「丸(まる)佑(たすく)」から取った「るた」というアカウント名を呼ばれる。案外気さくな声で、慣れた様子にますます警戒が強まる。
 自分みたいな、見るからに人間関係の縁が薄そうな人間に、こうもフレンドリーに話しかけてくる人間は、本物の人好きか、もしくは企みをもった人間だ。

「きょうはありがとうございます」
「いや、こちらこそ」

 ぎこちなく話をしながら店まで移動し、席に着く。予約をしていたおかげか、すぐに料理が出てきたのはありがたかった。

「すんません、写真、撮ってもいいです?」

 前菜のシーフードサラダがやってきたときにそう訊かれて、一瞬身構えた。なんのことはない、料理の写真だ。藍色の器に緑とイカの白さが映える一品は、たしかに美しかった。
 角度を変えながら何枚も連写する男は真剣で、いまどきだなあと思った。佑だって撮るけどあくまで記録用だし、見栄えを気にしたことはない。
 コース料理は全部で八品。メインのエビから揚げも、それ以外の料理も全て美味しかった。シェア前提の大皿に、最後のから揚げが転がったとき、初めて顔を上げたくらいだ。同じタイミングでこちらを見た相手は、そこでようやく佑の存在を思い出したかのように「あ」と喉ぼとけを動かした。

「俺、六つ食べました」

 サキと名乗る男が自己申告する。

「僕も六つ」
「まじか、奇数かよ……」
「店の人もいちいち数えてないんじゃない」

 一桁くらいの数ならともかく、十何個なんていちいちカウントしてられない。

「じゃんけんします?」

 譲る気の一切ない目に、おやと思う。本気で食事を楽しみに来たようだ。少なくとも今のところ、食事をダシに変な勧誘ををしようとしている感じはない。

「いいよ」

 三回のあいこの後、勝ったのは向こうだった。「やった」と遠慮の欠片もなく箸先でかっさらっていく相手に、不思議と悔しさは感じなかった。じゃんけんなんて、いつぶりだろう。下手をすると小学校以来かもしれない。

「おいしかった」

 すっかりきれいになった皿たちを前に、佑はしみじみ呟いた。待ち合わせ場所に、大学生みたいな子がやってきたときはどうしようかと思ったけれど、同じ熱量で料理を味わえる相手と食事を共にするのは、まあ悪くなかった。
 最後のひとつを目を閉じて味わっていたサキは、大切そうにごくりと飲み込むと、「俺も」と笑った。
 会計のころになって、サキが慌て始めた。トートバックを引っ掻きまわし、ズボンとジャンパーのポケットを叩いて、顔を青くさせている。

「財布忘れた?」
「そうみたい。るたさん、ポイペイやってる?」
「やってない」

 キャッシュレス支払いの類は手を出していなかった。

「いいよ。たぶん僕の方が年上だし。大した金額でもないし」

 佑は財布からクレジットカードを取り出すと、二人分をまとめて支払った。安いものだ、と思った。これが彼の狙いだとしても、目当てのエビから揚げを食べられたし、そこそこ満足な時間を過ごせたし、下手な勧誘なんかよりよっぽどましだ。
 店を出ると、サキは険しい顔をして「絶対返すから」と宣言した。

「気にしなくていいのに」
「俺、こう見えて一応働いてるから。自分の食べる分、払えるくらいは稼いでるんで」

 そう胸を張って、「次の土曜とか空いてる?」とサキはスマホのスケジュールを開いた。
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