食事はひとりで、もしくは君と

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0. 焼き立てベーグル

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 食事はひとりで、そして誰かが作ってくれた物を食べるに限る。
 二十六年生きて確信に至った信念のもと、まるたすくは、平日の朝六時からパン屋の前に並んでいる。通勤経路から一駅外れた場所にあるそのパン屋は、最近フランスから帰ってきたシェフの作るベーグルサンドが絶品とのことで、早朝にも関わらず十人以上が並んでいた。
「やばいー寒いー」
「あとちょっとだよ」
 三月も半ばとはいえ、朝は冷える。散り始めた桜の花弁が溜まる排水溝の上に並び、ようやく見えてきた道路に面するショーケースを眺めていると、後ろのカップルの会話が耳に入ってきた。
「ベリーベーグルサンドまだ残ってるかな」
「それ食べたいの?」
「口コミで一番美味しいって。あ、でもサーモンクリームチーズも美味しそうだな」
「じゃあ俺がそれ頼むよ」
「え、いいの?」
「うん。半分こしよ」
「やさし~大好き」
 彼女が彼氏に抱きついている気配を背中に感じる。心の中で、こっそり彼氏に手を合わせる。
 かわいそうに。
 自分の好きなベーグルを諦め、相手に合わせることが甲斐性なら、一生ひとりでよいとすら思う。
 ようやく自分の番が巡ってきた。ショーケースの中は空きが目立ち、もう少し早く来るべきだったと後悔しながら、野菜オムレツサンドとゴマチーズベーグルを注文する。二つでも十分だろうけど、そういえばきょうは朝から重たい会議があった。糖分を取りたくなって視線を迷わせたとき、ピンク色のベーグルが目に留まる。
「あと、このベリーベーグルサンドをひとつ」
 はーい、と愛想よく返事をした店員が、最後のひとつのベリーベーグルサンドを袋に詰めてくれた。料金を払って品物を受け取り、列を抜ける。何気なく顔を上げると、すぐ後ろに並んでいた女性がこちらを睨んでいた。
 意地悪で注文したわけではない。本当に食べたくて購入したわけだし、その権利が、先に並んだ自分にはある。だから佑はあっさりその視線を無視すると、地下鉄の駅に向かった。紙袋に入ったベーグルは、まだほかほかと温かい。
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