金懐花を竜に

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幕間【6章~終章の間のお話】

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 あの日、地の底でミスミを抱きしめたときに、もう後悔したくないとあれだけ思っていたはずなのに。自分はまた保身で大切なものを失うのかと、悔いた。
「いくな」と言っておきながら、ミスミはいつだって俺を置いていく。金懐花のことも、その責任も、マシェや雲民のことだって、全部全部何もかも黙ったままで、にっこり笑って去って行ってしまう。
 もう、置いていかないでくれ。
 雷鳴と共につぶやいた言葉は、ミスミに届かなかったようだ。不思議そうに見上げてくる視線に耐えかねて、ジーグエはいったん身体を離し、ミスミの身体をひっくり返すと、背中を撫で下して腰だけ高く上げさせた。思い通りになる身体に、なぜか泣きたくなるほど安心して、青白い背中を見おろしながら、精で汚れた窄まりへ舌をのばす。尖らせた舌先で押すようにつつくと、大げさな程身体が震えた。
「や、なにして――っああっ」
 悲鳴を無視し、逃げようとした腰を両手でつかんで固定して、唾液を擦りつけるように往復させれば、まだ快楽を忘れていないそこはひくひくとわななきだす。わずかにほころんだそこに舌先をねじ込み、犯す。
 激しい雨音は続いているというのに性感がそのまま滴ったような水音は脳髄によく響いた。鼻先を谷間に埋め、攣りそうになるほど舌をのばして中をこすると、おもしろいくらいによく締まる。
「やだ、ジーク、そこはいやだって……んあ、あっ!」
 胸の奥にひたひたと迫る冷たさから逃げるように、ジーグエは興奮を求めた。ささやかな刺激にすら、熱いものに触れたときみたいに激しい反応をするミスミの身体は、十分な興奮と安心をもたらした。その安寧をもっと貪りたくて、弱々しい拒否も抵抗も力でねじ伏せ、栓を開けたように湧き続ける唾液を満足するまで送り込む。
 まるで内側から溢れ出てきたみたいに十分に濡らしたそこから顔をあげ、熟れた果実にかぶりついたみたいにべたつく口元を乱雑にぬぐって、代わりに腰元を沈めていった。
「……っは、」
 根元まで押し込んでから背中にぴったりと覆いかぶさって、敷布をにぎりしめるミスミの手に上から手を重ねる。
 ミスミを抱いた腹側は燃えるように熱く、夜にさらされた背中はひたひたと冷たい。その寒暖差にぞくぞくする。露わになったうなじに吸い付きながら、そういえば初めて抱いたときもこの体勢だったな、とふいに思い出していた。
 薬物によって発熱する身体はそれでもジーグエを拒まなくって、はじめての男の身体に尻込みするジーグエを優しく迎え入れてくれた。ああ、はじめてじゃないんだな、と分かりきった報告書を読むように思った記憶がある。
 そう、最初から自分たちは、お互いだけだ、なんて約束をしていない。それはいまでも変わっていなくて、どこにいようが誰と寝ようが、関係ないはずだった。なのにいま、ジーグエは、この男を失うことが、どうしても耐えがたい。
「あっ、や、あ、ジーク、また……っ」
「いけよ」
 刻み込むように肩に歯を立てて、ミスミをとろかす所を切っ先で何度も刺激する。「このまま、ここで」
 ぐ、とひと際つよく最奥を突く。肉同士がこれ以上ないほどぴったりと嵌り合って、蕩けそうな快感が腰からつま先まで広がっていく。ばたばたと敷布を打つ音は、ミスミの精だろう。雨音に混じってなお消えないその数滴にとてつもなく満たされ、そのあと潮が引くように空虚さが胸に広がった。
 しばらくそのまま動けなかった。先に動いたのはミスミで、息を荒くしながらも、ぐっと腕を立てると身体をひねってこちらを向こうとするので、ジーグエはしぶしぶ身体を離す。上体を起こし、座り込んだミスミは手をのばすと、指の背でジーグエの目元をなぞった。まだ熱の残る指先が、ひやりと冷たい涙を攫って行く。
「あなたが好きです」
 湧き出る涙を何度も拭きとりながら、ミスミが言った。
「だから、あなたのことを守りたかった。これ以上、迷惑を掛けたくなかった。……けど、結果的に傷つけていたんですね」
 ごめんなさい、と謝ってみせる男に向かって、ジーグエは「このうそつきが」と悪態を吐く。
「反省なんかしてないくせに」
「ばれました?」
 目じりをぬぐう指先を捕まえる。ミスミはうれしそうに笑った。「かわいいですね、あなた」
 捕まえた指を食ってやろうか。
 泣いているところを見られた恥ずかしさと悔しさでそんなことを画策していると、ぐっと距離を縮めたミスミにくちびるを奪われる。機嫌をとるように数回軽く押し付けられてから、薄い舌でそっとあわいをなぞられ、観念して口を開いた。
 顔を傾け、ゆっくりと内側を晒し合う。はじめて自室に来た友人みたいに、うきうきとジーグエの口内を巡っていた舌を舌で捕まえて、じれったく吸い上げた。ん、と鼻から息が抜ける。
 二度も達したというのに、性懲りもなく欲望が下腹部に溜まっていくのを感じた。くったり力を失くした舌の表面を撫でながら、ジーグエはそっとミスミの身体に腕を回し、右手を髪の間に差し込んで、ぐっと頭ごと引き寄せる。息を奪うように口づけを深くし、熱い口蓋を舌でこすれば、簡単に力が抜けていく。
「呼んで、いいんですか。あなたのこと」
 腰を引き寄せ、膝の上に身体を誘導する。硬く反り返った熱同士がかすめ合うたび息を乱しながら、ミスミは少しだけ低い声で訊ねる。「僕はたぶん、これからも、自分のやりたいようにしか動けない。あなたの不利益になることだってあるでしょう。それでも?」
「仕方ないだろ」ジーグエは自らに言い聞かせるみたいに言った。「諦めるから、大切にさせてくれ」
 どうしても手放したくなくって、けれど腕に囲って弱らせるのも嫌で、なのにいなくなれば激しく傷ついて、触れ合えば止まらなくなる。そんな無二の相手を手放そうなんて、土台無理だったのだ。
 ミスミは腰をあげ、首筋に顔を埋めるようにして抱き着いてきたので、どんな顔をしていたのかはわからなかった。首にまわされた腕の震えが、少なくとも嫌がってはいないことを伝えていた。
 どちらからともなくくちびるを合わせ、互いの熱を重ねてこすり合う。二回も精を吐いているというのに、性懲りもなく快楽に攫われる。そのまま昇りつめようとしたジーグエの手を押しとどめて、ミスミは震える脚に力をいれて膝立ちになると、指で自らを開き、ゆっくりと熱を咥える。
「は、熱……」
 すっかりほどけた内側は旺盛にジーグエを歓迎し、先端を飲み込まれただけで痺れのような気持ちよさが脳を貫く。そのまま突き上げたくなる衝動を抑えて、「無理するな」とジーグエは抱いた身体を優しく撫でた。
「体力、落ちてんだろ。もう、十分だ」
「ぼくが、欲しいんです」
 優しくするなとばかりに二の腕に爪を立て、額をくっつけたままミスミは目元を染める。「いま、あなたのこと、欲しくてたまらない」
 来て、ジーグエ。
 ぐう、と獣の唸りのような音が喉から漏れる。目の前の身体を思いっきり抱き寄せ、一気に腰を落とさせた。びくん、とひと際大きくミスミが震える。甘やかすように吸い付いてくる内側を余すとこなく味わいながら、何度も何度も腰を突き立てる。
「あ、ああ、ジーク、ジーク……っ」
 背を反らして揺さぶられてなお、もっとと求めるミスミを床に引き倒し、正面からのしかかる。少し離れただけでも引き止めるように追いかけてくるミスミの身体に、どうしようもなく口元がゆるむ。
「っは、いくらでも、するから」
 ミスミのうえで激しく動きながら、ジーグエは下敷きになった身体を掻き抱く。胸と胸がこすれ合って、その熱でさえ愛おしくてまた鼓動が早くなる。ぐぐ、と精がせり上がって、少しでも早くこの獲物を自分のものにしろと叫ぶ本能をねじ伏せ、ジーグエは刻みつけるように何度も中を穿った。この身体が、魂が、誰の傍にあるべきなのか、もう忘れないように。
 どうか、傍に。
 身の内も外もぴったりと抱きしめ合う。骨が溶け合うような快楽に、ふたり一緒に落ちていく。泣きたくなるほど幸せだった。
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