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※26.陽、溺れる
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カップを置くようにそっとくちびるをほどき、けれど水岡は身体を起こさず抱擁を深め、耳介に舌をのばす。
しめった熱が触れた先からびりびりと甘い痺れが背中を走り、熱い息がもれる。背筋をぞくぞくさせながら、陽は目の前にある首にまわした片手を、そっと下腹部へのばした。身体の間をさぐると、ゆるやかにたちのぼる熱源を見つける。そっと指先で触れると、腕の中の胴が大きく震えた。
じっとこちらをうかがう表情は、ようやく慣れてきた目でもよく分からない。
けれど、水岡がちゃんと興奮しているのはわかった。身体半分も離れていない肉体から放たれる熱で、浅くなった呼吸で、なにより指先に感じる硬さで。
単なる寝かしつけのための作業じゃなく、ちゃんと同じ温度で重なっていられることに安堵した。ふっと力が抜けたのを見計らったように、手のひらが下腹部にもぐり込んでくる。
「っあ」
上向き始めていた熱をそのままにぎられて、陽は思わず身体を丸めた。
そういえば、しばらくしてなかった。
神経をそのまま羽毛でこすられたようなむずがゆさはすぐに快感に代わり、緩やかに上下されるたびに体中の神経が一点に集まっていく。
自分だけ良くなるのが嫌で、ふるえる腕に鞭打って、陽も水岡の熱に手を伸ばし、するとさっと躱される。おもちゃを取り上げられた子どもみたいに思わずにらみ上げると、困ったように視線を逸らされた、ように見えた。
「いや?」
「いや、ではないですけど」
「じゃあなんで」
水岡は困ったように手を止めて、それからそっと陽の鎖骨に額をすりつけた。
「し」
「……し?」
「刺激的すぎる」
消えそうに小さな声でつぶやかれた。
なんだこのかわいい生き物。
心にひっぱられるようにうっかり血流をあげてしまって、太く強く脈打った鼓動が優しい快感を与える手のひらを押し上げた、のがわかった。
ぱっと水岡が顔をあげる。見えていないとわかりつつ直視できなくて、陽は思いっきり首をひねった。
「あの」
「言わないで」
いい大人が照れたり恥じらったり、いったい何をしてるんだろう、と情けなくなる。情けないのに、下半身は正直で、もっともっとと本能がうるさい。
とっくに伝わってしまっているだろう自分の興奮をどうにか共有したくて、陽は熱をつつむ水岡の手をにぎった。
「じゃあ、一緒にしよ」
気を遣ったわけじゃなかった。だって絶対、そっちのほうが気持ちいい。
陽がもう一度手を伸ばすと、もう逃げられはしなかった。硬く張った欲が同じ形で待っている陽の熱に触れただけでくらくらする。
「~~っあ」
一番敏感な先端同士が触れあった瞬間、たまらず声を上げてしまう。熱い。硬い。気持ちいい。
もう遠慮も恐れもなかった。二つまとめて擦り上げられて、思いっきりあごを反らす。その首筋に吸い付かれて、泣きそうになった。
気持ちいい、うれしい。いきたい。このまま。
眠りとは小さな死だとどこかで読んだ。なら、眠りたいと望むことは、死を望むことになるんだろうか。
それはまちがっていないと陽は思った。だっていま、この気持ちよくて幸せな瞬間で終わってしまえたら。荒い息と激しくこすれるシーツと叫び出したくなる快感の奔流のなかで息絶えられたら、これほどの幸福はない。
「あ、や、ああ……っ」
「……っ」
ぎゅ、と真上の身体にしがみついた瞬間、同時に果てる。熱い飛沫を腹に受けながら、多幸感のなか、陽は意識を手放した。
しめった熱が触れた先からびりびりと甘い痺れが背中を走り、熱い息がもれる。背筋をぞくぞくさせながら、陽は目の前にある首にまわした片手を、そっと下腹部へのばした。身体の間をさぐると、ゆるやかにたちのぼる熱源を見つける。そっと指先で触れると、腕の中の胴が大きく震えた。
じっとこちらをうかがう表情は、ようやく慣れてきた目でもよく分からない。
けれど、水岡がちゃんと興奮しているのはわかった。身体半分も離れていない肉体から放たれる熱で、浅くなった呼吸で、なにより指先に感じる硬さで。
単なる寝かしつけのための作業じゃなく、ちゃんと同じ温度で重なっていられることに安堵した。ふっと力が抜けたのを見計らったように、手のひらが下腹部にもぐり込んでくる。
「っあ」
上向き始めていた熱をそのままにぎられて、陽は思わず身体を丸めた。
そういえば、しばらくしてなかった。
神経をそのまま羽毛でこすられたようなむずがゆさはすぐに快感に代わり、緩やかに上下されるたびに体中の神経が一点に集まっていく。
自分だけ良くなるのが嫌で、ふるえる腕に鞭打って、陽も水岡の熱に手を伸ばし、するとさっと躱される。おもちゃを取り上げられた子どもみたいに思わずにらみ上げると、困ったように視線を逸らされた、ように見えた。
「いや?」
「いや、ではないですけど」
「じゃあなんで」
水岡は困ったように手を止めて、それからそっと陽の鎖骨に額をすりつけた。
「し」
「……し?」
「刺激的すぎる」
消えそうに小さな声でつぶやかれた。
なんだこのかわいい生き物。
心にひっぱられるようにうっかり血流をあげてしまって、太く強く脈打った鼓動が優しい快感を与える手のひらを押し上げた、のがわかった。
ぱっと水岡が顔をあげる。見えていないとわかりつつ直視できなくて、陽は思いっきり首をひねった。
「あの」
「言わないで」
いい大人が照れたり恥じらったり、いったい何をしてるんだろう、と情けなくなる。情けないのに、下半身は正直で、もっともっとと本能がうるさい。
とっくに伝わってしまっているだろう自分の興奮をどうにか共有したくて、陽は熱をつつむ水岡の手をにぎった。
「じゃあ、一緒にしよ」
気を遣ったわけじゃなかった。だって絶対、そっちのほうが気持ちいい。
陽がもう一度手を伸ばすと、もう逃げられはしなかった。硬く張った欲が同じ形で待っている陽の熱に触れただけでくらくらする。
「~~っあ」
一番敏感な先端同士が触れあった瞬間、たまらず声を上げてしまう。熱い。硬い。気持ちいい。
もう遠慮も恐れもなかった。二つまとめて擦り上げられて、思いっきりあごを反らす。その首筋に吸い付かれて、泣きそうになった。
気持ちいい、うれしい。いきたい。このまま。
眠りとは小さな死だとどこかで読んだ。なら、眠りたいと望むことは、死を望むことになるんだろうか。
それはまちがっていないと陽は思った。だっていま、この気持ちよくて幸せな瞬間で終わってしまえたら。荒い息と激しくこすれるシーツと叫び出したくなる快感の奔流のなかで息絶えられたら、これほどの幸福はない。
「あ、や、ああ……っ」
「……っ」
ぎゅ、と真上の身体にしがみついた瞬間、同時に果てる。熱い飛沫を腹に受けながら、多幸感のなか、陽は意識を手放した。
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