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第2部番外編
フェーズ8-? 後編
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旅行二日目は、レンタカーでビーチや観光名所を巡った。ランチは地元の名物料理を堪能し、夕方には美しいサンセットの景色を楽しんだ。どこも一生記憶に刻みつけておきたいくらいの素敵な場所だった。白い砂浜、透明度の高い海、そんな海に沈む夕日はまるで絵画のようだった。やはりここは楽園だ。沖縄まできてよかった。
ホテルに戻る前に市場に寄った。新鮮野菜や海産物、果物などがずらりと並ぶ町の台所だ。観光客だけでなく地元の買い物客も多く訪れるようだ。外には地元グルメを集めた屋台村があり、こちらもにぎやかだ。
おみやげの他、ホテルで食べようとお菓子や飲みものも買った。店から出たところで、背後から声がかかった。
「神河くん」
振り返ると飛行機の中で涼と一緒に急病人の対処に当たった、あの「元カノ二号」がいた。
「サトミ」
サトミ!? 呼び捨てにしてるじゃない。麗子さんのときもそうだった。涼はポロっと呼び捨てにしたのだ。思った通り、この人も涼の元カノなんだ。
「また会えたわね。奥様も、こんばんは」
笑いかけられて、私も作り笑顔で「こんばんは」と返すのが精いっぱいだった。
「そうだ。ねえ、よかったらこれ……」
サトミさんが持っている荷物の中をごそごそとあさり始めた。もしかして、連絡先交換のための名刺でも取り出すのだろうか。
「あっちのお店見てるね」
二人が仲よくしてるところを見たくない。私はその場を静かに離れた。
「あまり離れるなよ」
屋台村のほうへ行ってみる。名物スイーツやグルメがたくさんだ。かき氷にサーターアンダギー、ピザやカレーなどの軽食もある。
トロピカルな店構えのフレッシュジュース専門店が目に留まった。私はおすすめのパッションフルーツのジュースを買うことにした。元カノといちゃいちゃしてる人の分はどうしようか。買わなくていいかと思ったが、今日一日運転してもらったし、そもそも今回の旅費も涼が支払ってくれてるから、私は同じものを二つ注文した。私のことをすっかり忘れてサトミさんとそのへんのベンチで話し込んでいるようだったら、このジュースをぶっかけて先にホテルへ帰ろう。
会計で小銭を出すのに手間取っていたら、後ろから手が伸びてきて私の代わりにトレーに千円札が置かれた。もちろん涼だった。
「ありがと」
お釣りとジュースを受け取り、近くのテーブルについた。
「お話はもう済んだの?」
「ああ、これもらっただけ」
見ると買い物をした袋の中にワインボトルのような細長いビンが入っていた。
「地元の酒だって。奥様とどうぞ、って」
連絡先の交換ではなかったんだ。
ストローでジュースを吸う。酸味があってさわやかだ。
「やっぱり付き合ってたんでしょ、あの人と」
じろりと見ながら訊ねる。
「え?」
「呼び捨てにしてた。『サトミ』って」
涼が苦笑いを浮かべた。
「サトミは名字だよ。里山の里に見るで里見」
そうだったんだ。名字とわかって安心したが、元カノの線が消えたわけではない。
あまりしつこく問いただすようなことはしたくはない。涼が「そうだよ」と認めるとも思えない。昨日の飛行機では誘いを断ってたし、今もこうしてすぐに追いかけてきてくれたから、もういいか。
ホテルのレストランでの豪華な夕食から部屋に戻ってきた。ひと休み後、涼はナイトプールを一人で楽しんでいる。疲れた私はテラスのリクライニングチェアで休んでいた。
「今日は入らないのか?」
涼がプールに浸かりながら私に訊ねた。
「うん。ちょっと疲れたから」
「だいぶはしゃいでたもんな」
何か飲みたくなって、部屋の冷蔵庫を開けた。夕方に寄った市場で買ったパインジュースのペットボトルと、涼が里見さんからもらったお酒のボトルを取り出す。夕食時に飲んでいたのはグラスワイン一杯だけだから、まだ飲めるだろう。グラスも二つ用意してテラスに戻った。私も少しいただきたいところだけど、まだ十八歳だしもしも気分を悪くしたら旅行が台無しになってしまうからやめておこう。
「せっかくもらったんだし飲んだら? 今日は病院に呼び出される心配もないし」
「そうだな」
涼もプールから上がってリクライニングチェアに腰を下ろした。夜風が心地いい。
お酒とジュースをそれぞれのグラスに注ぎ、乾杯をしてから口をつけた。パインが濃厚で甘くておいしい。
「明日にはもう帰らなきゃいけないんだね。残念だなあ。またこれたらいいなあ」
夢のような時間が明日には終わってしまう。明日の今頃はもうマンションだ。
「またこれるよ。っていうかお前、泊まるところ泊まるところみんなまたきたいって言ってるな」
隣で涼が笑いながら言った。卒業旅行の贅沢な露天風呂つき旅館も、ジェットバスが楽しかったラブホテルも、またきたいと思える場所だった。涼と一緒だから余計に楽しいんだと思う。
「だって、どこも素敵なんだもん。特にここはプールもあって最高だよ」
「それなら新居はプールつきの家にする?」
「そんなにがんばらなくていいです。ビニールプールで十分です」
「ビニールプール」
また笑った。
「庭かバルコニーにプール置いて、どっちかが子ども入れて、どっちかがそれを眺めてるんだろうな」
なんとなく入れてる側はパパのイメージがあるなあ。日曜日の家族サービスで。プールはできたら滑り台つきがいいな。いろんなおもちゃとかボールとかも浮かべて楽しくわいわいできたらいいな。
幸せなイメージを膨らませているうちに私は眠ってしまったようで、目が覚めたときにはベッドの上だった。
「なんか、気持ちいい……?」
見ると下着まで脱がされ、脚を広げられ、舐められていた。
「やっ……待って、私まだお風呂入ってないっ」
「汗かいたままレストランに行きたくないって言って、夕食前にシャワー浴びたろ」
あ、そうだったっけ。
「だ、だけど、あまり時間なかったから軽く汗を流したくらいで……」
「平気だよ」
「あっ!」
涼が舌の動きを再開すると、私の意識はあっという間に気持ちよさに支配されて、眠気も抵抗する気も完全に消え失せた。
「悪いな、彩、余裕ない」
「え? あ、あっ……あ……っ」
私の手首をベッドの上で押さえつけながら、涼が入ってきた。
「あっ、あん!」
腰を打ちつける涼の体から、ふわりと石鹸の香りが漂ってくる。私がひと眠りしている間にお風呂に入ったらしい。
「寝る前に、一緒に入ろ、と思ってた、のにっ……」
「終わったら入ろ。な?」
私を見つめながらそう言った涼の目は、いつもするときよりも熱を帯びている気がした。視線だけではない。体温も熱い。そういえばさっきお酒を飲んでたっけ。
「ひゃ……あぁん!」
私が達するのとほぼ同じタイミングで一層奥深くに押し込まれ、涼が動きを止めた。
一気に上げられた熱が緩やかに落ち着きを取り戻していく。入っていたものがずるりと引き抜かれ、涼がコンドームの処理をする。息を整えながらその様子を何気なく見ていたら、涼のそこはもう復活していた。というか衰えてない? その証拠に涼はそのまま二枚目を装着して、私の上に戻ってきた。
「お前の中に入りたくてたまらない」
「え……あっ!」
間髪入れずにまた入れられてしまった。
「あっ……あっ!」
求められるのはうれしいんだけど、さっきから涼の様子がなんだかへんだ。余裕がないと言っていたけど、そんなものではなくてまるで飢えた獣のように猛っている。
「たぶん、さっき飲んだ酒のせい、だ」
「お、お酒……?」
「強い媚薬効果でもあるんじゃないの……」
媚薬なんてAVやエッチな漫画の中だけのイメージで、私には縁がないものだと思っていた。お酒にも入ってるんだ。
「テラスでうとうとしてたお前をベッドに運んで寝かせてから、風呂に入ってたら急にムラムラしてきた」
「そ、そういうこと……」
「彩……、俺を離すな」
「ん……受け止める、から、大丈夫……あっ! あっ……っ」
獣のような力強い腰使いで激しく突かれ続けて、何がなんだかわからなくなるくらい何度も絶頂した。
終わった頃には二人とも力尽きてしまい、結局お風呂に入ることなくそのまま眠りに落ちた。翌朝に目が覚めた私はぎょっとした。ベッド脇の床の上に、空のコンドームの袋がたくさん落ちていたからだ。お酒の効果は凄まじい。
隣に涼がいない。パジャマを羽織ってリビングを覗くと、パンツを穿いただけの涼が例のお酒のボトルを見つめていた。
「あいつ、それで『奥様とどうぞ』なんて言ったのか」
涼の背後から顔を覗かせて、私もそのボトルを見てみた。エキゾチックな花が描かれたピンク色のラベルが貼られている。見た目のかわいらしさとは裏腹にあんなとんでもない効果があるとは。
「もう大丈夫?」
「ああ。今日は運転しないから残りは朝から飲もうと思ったが、こんな危険な酒を飲むわけにはいかないな。申し訳ないけど処分……」
「もったいないよ。持って帰ろうよ」
私の提案に、涼は呆れた目つきで私を見た。
「何、また俺に飲ませて狂わせたいの」
「うん」
私は頬を赤らめながら答えた。普段はなかなかないくらいの乱れっぷりだったから、また見てみたい。
「こんなの飲んだあとに病院に呼び出されたら、誰かと浮気しちゃうかもよ」
「じゃあ、私が飲む」
「まだダメ」
もし二人で飲んだらどうなってしまうんだろう。私は少し怖さも入り混じった好奇心を抱いていた。
帰りの飛行機内で、またしてもあの人に遭遇した。里見さんだ。搭乗して座席についたところで、ちょうど横の通路を彼女が通りかかったのだ。
「神河くん!」
まさか帰りの飛行機まで同じだなんて驚いた。彼女の里帰りも二泊三日の日程だったようだ。
「ごめんなさい。昨日渡すお酒間違えちゃった」
「そういうことか」
涼が苦笑いをする。
「でも奥様との旅行だし問題ないわよね?」
両手を合わせて謝ると、後ろがつっかえてしまうため、「じゃあね」と短く言って足早に自分の席へ進んでいった。
里見さんはあのお酒を自分で飲むつもりで買ったのか、それとも誰かへのおみやげだろうか。彼女は沖縄でどんな夜を過ごしたのだろうと、少し気になった。
楽園での夢のような時間は終わり、この飛行機で私は現実に帰っていく。涼は明日からまた仕事だ。
昨夜無理したせいか、離陸から十分も経たないうちに涼はうとうとし始めて私の肩にもたれかかってきた。私は帰りの機内ではドクターコールがかからないことを祈った。
ホテルに戻る前に市場に寄った。新鮮野菜や海産物、果物などがずらりと並ぶ町の台所だ。観光客だけでなく地元の買い物客も多く訪れるようだ。外には地元グルメを集めた屋台村があり、こちらもにぎやかだ。
おみやげの他、ホテルで食べようとお菓子や飲みものも買った。店から出たところで、背後から声がかかった。
「神河くん」
振り返ると飛行機の中で涼と一緒に急病人の対処に当たった、あの「元カノ二号」がいた。
「サトミ」
サトミ!? 呼び捨てにしてるじゃない。麗子さんのときもそうだった。涼はポロっと呼び捨てにしたのだ。思った通り、この人も涼の元カノなんだ。
「また会えたわね。奥様も、こんばんは」
笑いかけられて、私も作り笑顔で「こんばんは」と返すのが精いっぱいだった。
「そうだ。ねえ、よかったらこれ……」
サトミさんが持っている荷物の中をごそごそとあさり始めた。もしかして、連絡先交換のための名刺でも取り出すのだろうか。
「あっちのお店見てるね」
二人が仲よくしてるところを見たくない。私はその場を静かに離れた。
「あまり離れるなよ」
屋台村のほうへ行ってみる。名物スイーツやグルメがたくさんだ。かき氷にサーターアンダギー、ピザやカレーなどの軽食もある。
トロピカルな店構えのフレッシュジュース専門店が目に留まった。私はおすすめのパッションフルーツのジュースを買うことにした。元カノといちゃいちゃしてる人の分はどうしようか。買わなくていいかと思ったが、今日一日運転してもらったし、そもそも今回の旅費も涼が支払ってくれてるから、私は同じものを二つ注文した。私のことをすっかり忘れてサトミさんとそのへんのベンチで話し込んでいるようだったら、このジュースをぶっかけて先にホテルへ帰ろう。
会計で小銭を出すのに手間取っていたら、後ろから手が伸びてきて私の代わりにトレーに千円札が置かれた。もちろん涼だった。
「ありがと」
お釣りとジュースを受け取り、近くのテーブルについた。
「お話はもう済んだの?」
「ああ、これもらっただけ」
見ると買い物をした袋の中にワインボトルのような細長いビンが入っていた。
「地元の酒だって。奥様とどうぞ、って」
連絡先の交換ではなかったんだ。
ストローでジュースを吸う。酸味があってさわやかだ。
「やっぱり付き合ってたんでしょ、あの人と」
じろりと見ながら訊ねる。
「え?」
「呼び捨てにしてた。『サトミ』って」
涼が苦笑いを浮かべた。
「サトミは名字だよ。里山の里に見るで里見」
そうだったんだ。名字とわかって安心したが、元カノの線が消えたわけではない。
あまりしつこく問いただすようなことはしたくはない。涼が「そうだよ」と認めるとも思えない。昨日の飛行機では誘いを断ってたし、今もこうしてすぐに追いかけてきてくれたから、もういいか。
ホテルのレストランでの豪華な夕食から部屋に戻ってきた。ひと休み後、涼はナイトプールを一人で楽しんでいる。疲れた私はテラスのリクライニングチェアで休んでいた。
「今日は入らないのか?」
涼がプールに浸かりながら私に訊ねた。
「うん。ちょっと疲れたから」
「だいぶはしゃいでたもんな」
何か飲みたくなって、部屋の冷蔵庫を開けた。夕方に寄った市場で買ったパインジュースのペットボトルと、涼が里見さんからもらったお酒のボトルを取り出す。夕食時に飲んでいたのはグラスワイン一杯だけだから、まだ飲めるだろう。グラスも二つ用意してテラスに戻った。私も少しいただきたいところだけど、まだ十八歳だしもしも気分を悪くしたら旅行が台無しになってしまうからやめておこう。
「せっかくもらったんだし飲んだら? 今日は病院に呼び出される心配もないし」
「そうだな」
涼もプールから上がってリクライニングチェアに腰を下ろした。夜風が心地いい。
お酒とジュースをそれぞれのグラスに注ぎ、乾杯をしてから口をつけた。パインが濃厚で甘くておいしい。
「明日にはもう帰らなきゃいけないんだね。残念だなあ。またこれたらいいなあ」
夢のような時間が明日には終わってしまう。明日の今頃はもうマンションだ。
「またこれるよ。っていうかお前、泊まるところ泊まるところみんなまたきたいって言ってるな」
隣で涼が笑いながら言った。卒業旅行の贅沢な露天風呂つき旅館も、ジェットバスが楽しかったラブホテルも、またきたいと思える場所だった。涼と一緒だから余計に楽しいんだと思う。
「だって、どこも素敵なんだもん。特にここはプールもあって最高だよ」
「それなら新居はプールつきの家にする?」
「そんなにがんばらなくていいです。ビニールプールで十分です」
「ビニールプール」
また笑った。
「庭かバルコニーにプール置いて、どっちかが子ども入れて、どっちかがそれを眺めてるんだろうな」
なんとなく入れてる側はパパのイメージがあるなあ。日曜日の家族サービスで。プールはできたら滑り台つきがいいな。いろんなおもちゃとかボールとかも浮かべて楽しくわいわいできたらいいな。
幸せなイメージを膨らませているうちに私は眠ってしまったようで、目が覚めたときにはベッドの上だった。
「なんか、気持ちいい……?」
見ると下着まで脱がされ、脚を広げられ、舐められていた。
「やっ……待って、私まだお風呂入ってないっ」
「汗かいたままレストランに行きたくないって言って、夕食前にシャワー浴びたろ」
あ、そうだったっけ。
「だ、だけど、あまり時間なかったから軽く汗を流したくらいで……」
「平気だよ」
「あっ!」
涼が舌の動きを再開すると、私の意識はあっという間に気持ちよさに支配されて、眠気も抵抗する気も完全に消え失せた。
「悪いな、彩、余裕ない」
「え? あ、あっ……あ……っ」
私の手首をベッドの上で押さえつけながら、涼が入ってきた。
「あっ、あん!」
腰を打ちつける涼の体から、ふわりと石鹸の香りが漂ってくる。私がひと眠りしている間にお風呂に入ったらしい。
「寝る前に、一緒に入ろ、と思ってた、のにっ……」
「終わったら入ろ。な?」
私を見つめながらそう言った涼の目は、いつもするときよりも熱を帯びている気がした。視線だけではない。体温も熱い。そういえばさっきお酒を飲んでたっけ。
「ひゃ……あぁん!」
私が達するのとほぼ同じタイミングで一層奥深くに押し込まれ、涼が動きを止めた。
一気に上げられた熱が緩やかに落ち着きを取り戻していく。入っていたものがずるりと引き抜かれ、涼がコンドームの処理をする。息を整えながらその様子を何気なく見ていたら、涼のそこはもう復活していた。というか衰えてない? その証拠に涼はそのまま二枚目を装着して、私の上に戻ってきた。
「お前の中に入りたくてたまらない」
「え……あっ!」
間髪入れずにまた入れられてしまった。
「あっ……あっ!」
求められるのはうれしいんだけど、さっきから涼の様子がなんだかへんだ。余裕がないと言っていたけど、そんなものではなくてまるで飢えた獣のように猛っている。
「たぶん、さっき飲んだ酒のせい、だ」
「お、お酒……?」
「強い媚薬効果でもあるんじゃないの……」
媚薬なんてAVやエッチな漫画の中だけのイメージで、私には縁がないものだと思っていた。お酒にも入ってるんだ。
「テラスでうとうとしてたお前をベッドに運んで寝かせてから、風呂に入ってたら急にムラムラしてきた」
「そ、そういうこと……」
「彩……、俺を離すな」
「ん……受け止める、から、大丈夫……あっ! あっ……っ」
獣のような力強い腰使いで激しく突かれ続けて、何がなんだかわからなくなるくらい何度も絶頂した。
終わった頃には二人とも力尽きてしまい、結局お風呂に入ることなくそのまま眠りに落ちた。翌朝に目が覚めた私はぎょっとした。ベッド脇の床の上に、空のコンドームの袋がたくさん落ちていたからだ。お酒の効果は凄まじい。
隣に涼がいない。パジャマを羽織ってリビングを覗くと、パンツを穿いただけの涼が例のお酒のボトルを見つめていた。
「あいつ、それで『奥様とどうぞ』なんて言ったのか」
涼の背後から顔を覗かせて、私もそのボトルを見てみた。エキゾチックな花が描かれたピンク色のラベルが貼られている。見た目のかわいらしさとは裏腹にあんなとんでもない効果があるとは。
「もう大丈夫?」
「ああ。今日は運転しないから残りは朝から飲もうと思ったが、こんな危険な酒を飲むわけにはいかないな。申し訳ないけど処分……」
「もったいないよ。持って帰ろうよ」
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「うん」
私は頬を赤らめながら答えた。普段はなかなかないくらいの乱れっぷりだったから、また見てみたい。
「こんなの飲んだあとに病院に呼び出されたら、誰かと浮気しちゃうかもよ」
「じゃあ、私が飲む」
「まだダメ」
もし二人で飲んだらどうなってしまうんだろう。私は少し怖さも入り混じった好奇心を抱いていた。
帰りの飛行機内で、またしてもあの人に遭遇した。里見さんだ。搭乗して座席についたところで、ちょうど横の通路を彼女が通りかかったのだ。
「神河くん!」
まさか帰りの飛行機まで同じだなんて驚いた。彼女の里帰りも二泊三日の日程だったようだ。
「ごめんなさい。昨日渡すお酒間違えちゃった」
「そういうことか」
涼が苦笑いをする。
「でも奥様との旅行だし問題ないわよね?」
両手を合わせて謝ると、後ろがつっかえてしまうため、「じゃあね」と短く言って足早に自分の席へ進んでいった。
里見さんはあのお酒を自分で飲むつもりで買ったのか、それとも誰かへのおみやげだろうか。彼女は沖縄でどんな夜を過ごしたのだろうと、少し気になった。
楽園での夢のような時間は終わり、この飛行機で私は現実に帰っていく。涼は明日からまた仕事だ。
昨夜無理したせいか、離陸から十分も経たないうちに涼はうとうとし始めて私の肩にもたれかかってきた。私は帰りの機内ではドクターコールがかからないことを祈った。
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