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第1部

フェーズ4-1

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 車内ではずっと無言だった。涼はやっぱり怒っているように見える。謝ったほうがいいよね。でも謝るって何を? 正木さんの嘘を見抜けずに、のこのこお見舞いにいったこと? 弁解したいと思いながらも、どう言えばいいかわからなかった。
 向かった先は私の家ではなく、涼のマンションだった。涼は黙ったまま、着替えるために寝室に入ってしまった。涼が着替えて一息ついたら、ちゃんと説明しよう。
 キッチンのケトルでお湯を沸かし始める。急だったし、涼と会う予定ではなかったから、婚約指輪はつけてこなかった。涼の家にいて指輪をしていないのは変な気分だ。指輪をつけるのは二人で会う日だけと話してあるから、涼は理解してくれると思う。
 今のうちに家に連絡しておこう。急に出てきてしまったから心配しているはずだ。私は携帯電話を取り出し、「病院で涼と会って一緒にいるから遅くなる」と母にメッセージを送った。明日は土曜日で学校は休みだ。私は泊まっても問題ないけど、涼は明日も仕事だろうから、話したら帰ろう。
 いつもは一、二分で着替え終わるのに、なかなか戻ってきてくれない。もしかして、私の顔を見たくないほど怒っているのか。それならここに連れてきたのはおかしい。違うと思いたい。どちらにしろこのまま出てきてくれなかったら困る。不安になり、私は寝室を覗いてみることにした。
 涼はすでに部屋着に着替え終わっていた。デスクの前に立ち、帰ってきたときに郵便受けから取り出した郵便物に目を通していた。顔を覗かせたまま声をかけられずにいたら、気配を感じたようで目が合った。
「あの……怒ってる?」
 恐る恐る訊いてみる。
「あいつとはもう会うなと」
 やっぱり怒ってた。
「あんな電話もらったら、友だちだから放っておけない」
「連絡先交換してたのか」
「七月に週刊誌のことがあったときに。でもあれ以来、一度も連絡はしてないよ」
「あんな電話って?」
「『死ぬ、助けて』って」
 涼はため息をつくと、寝室の入口に立ったままの私の前まできて、私を見据えた。
「お前は友だちのつもりでもあいつは違う」
「そんなこと、ないと思う」
 自信がなくて、涼から目をそらした。
「じゃあなんで、あいつは今さらお前を呼び出したんだ? 嘘ついてまで」
 携帯をいじってたら私の名前が出てきて、なんとなく気になったから連絡しただけじゃないのかな。でも、重病人のふりをしてまで私を呼んだ理由は――。
「……わかんない」
 涼がイラっとしたのがわかった。私は腕を引っ張られ、ベッドに押し倒された。
「犯すぞ」
「いいよ? 嫌じゃないもん」
 即答したものの、澄先生の「あいつ、ケダモノになるかも」という言葉を思い出して、内心はドキドキしている。だとしても、かまわない。涼がナニモノでも、私はかまわない。
 涼が激しくキスをする。私は目を閉じてそのキスを受け入れた。舌を絡ませ合いながら、彼の首に腕を回す。
 キスをしながら彼の手がゆっくりと服の中に入ってきた。前に途中で止めたときは服の上からだったのに。ブラジャーの上から胸を優しく揉まれる。全身がぞくりとした。
 服がめくり上げられ、ブラジャーがあらわになる。涼の唇が私の唇から離れ、位置を下げていった。
「……っ!」
 涼がブラジャーをずらして、露出させた先端を吸った。思わず出かかった声を、喉の奥に留めた。でも我慢できたのは最初だけ。舌を動かされると堪えられなくなった。
「あ……っ」
 舐められているのは胸なのに、別のところも反応してくる。吸ってない側もブラジャーの中に手を入れられ、直接揉まれている。「犯す」なんて言われてドキッとしたけど、手の動きも舌の動きも決して乱暴ではなく、優しい。涼はケダモノなんかじゃない。彼は絶対に私を傷つけない。
 ふいに涼の動きが止まった。
「これ以上は本当にまずい」
 触れられていた手が離れ、ぬくもりも遠ざかった。そして涼は私の目を見ないようにしてベッドからも降りてしまった。
「頭冷やしてくる」
 それだけ言って、涼はバスルームに向かった。私も体を起こし、乱れた服を元に戻す。鼓動がいつになく速まっていた。手のひらにはかすかに汗が浮かび、体全体が熱くなっているような気がした。
 深呼吸をして息を整えた。ベッドサイドに置かれた時計に目をやる。もう二十一時だ。涼はお腹空いてるはず。私は出かける前に家で晩ご飯を済ませていたから、病院を出る前に院内のコンビニで涼のお弁当だけ買った。味噌汁くらい作ってあげよう。
 料理を作った日に余った食材を冷凍保存してあるから、こういう急な場合でもさっと作ることができる。味噌汁の味見をしていたところで、涼がバスルームから出てきた。濡れた髪をタオルで拭いている。本当に頭を冷やしたのかもしれない。
「どうする。泊まる? 帰る?」
 今日は金曜日で時間ももう遅い。泊まりたいけど、さっきのことを考えると難しいかもしれない。
「一緒に寝るだけって、無理?」
 一応、確認してみる。無理ならおとなしく帰ろう。でも涼は、
「無理じゃないよ」
 と微笑みながら言ってくれた。
「ただし、キスとお触り禁止」
 条件つきだった。お触り禁止って、触ってくるのは涼のほうなんだけどな。
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