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第1話 ナマケモノになりたい!

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ドリームメイクプロジェクトを立ち上げて1週間…まだ依頼は1件も来てない…
「ルネさん、やっぱり無茶だったんですよこのプロジェクト…やっぱりみんな珍妙すぎると思って寄り付かないんですよ…」
「山田…立ち上げたときも言ったでしょ?今は受け入れられなくてもきっと時がたてば大衆は受け入れてくれる…さるかに合戦の話は知っているわね?カニは食べればなくなるおにぎりを手放して育てれば毎年柿が食べられる柿の種を選んだ…カニは先を見ておにぎりという今よりも柿の種という未来を選んだ…我々はそのカニを見習って先を見て今はじっと待つのよ…待てばこのプロジェクトも大きな実をつけるはずだから…」
…おっと読者諸君に説明が遅れたわね…冒頭で私に反発していたこの人は山田。前回も私のプロジェクトに反発してた私のスタジオのメンバー兼マネージャーよ…私とは中学からの同級生…作品作りでは結構頑張ってくれてるけどマネージャーとしてはまだまだね…スケジュール管理とかはもっぱら私がやってるわ…でも、仕事中以外は起きてる間ほとんどネットばっか観てるからネット上の反応には明るいのよ…

「ルネさん…やっぱネットニュースでもさんざんたたかれてますよ…日本史上最悪の負のプロジェクトとか…このスタジオの人間は一から社会や経済の勉強をやり直せとか…みんなやっぱりこのプロジェクトは無謀だと思ってるんですよ…先を見ろとか言ってましたけど先を見るべきは我々のほうでは…」
「いいえ、そうでもないみたいだわ…ついに一つ実を結んだのよ…」
「実を結んだってまさか…」
「来たのよ、最初の依頼が…数分前にね。」
「ほ、ほんとですか!?いたずらとか間違いメールじゃないっすよね!?」
「紛れもなく本当よ…今回の依頼人は小学生の女の子からよ。今から読み上げるわね。
こんにちはルネさん。私は4人家族の長女の小学2年生です。うちのママはちょうど一年前に弟が生まれてから毎日忙しくしてます。ママはつかれたときに”生まれ変わったらナマケモノになって森の中ででのんびりしてみたい”とよく口にしています。そこでルネさんたちにお願いしたいです!ママを特殊メイクでナマケモノに変身させて森林浴をさせてください!温泉やエステよりも最高の癒しになると思います!お代は私とお父さんがお小遣いから出し合います!」
「ほ、本当に来ちゃったんですね…でもこの子はお父さんとお小遣いから出し合うって言ってますけど…正直赤字じゃないですかこのプロジェクト…依頼をくださったのはありがたいですけど、平凡な家庭の親子のお小遣いじゃ儲けにならないですよ…」
「山田…これは人々の願いをかなえるためのプロジェクトよ…儲け目的でやってるわけじゃないの…」
「ご、ごめんなさい…」

それから数日後、依頼主一家がナマケモノ変身の準備のためルネのアトリエへ…
「あなたが依頼をくれた子ね。どうもありがとう…」
「こちらこそ、引き受けてくださってありがとうございます!」
「ナマケモノになりたいお母さんはそちらですね?」
「は、はい!私の願い叶えてくれるんですね!?」
「ええ。でも連絡しました通り特殊メイクの素材づくりにはいろいろ準備が必要ですから今から進めていきましょうね…スタッフ一同!採寸の準備!」
「御意!!」
ルネと山田をはじめとするスタッフたちは依頼主の母の採寸を開始。
父「すごい手際…さすがプロだ…さながらF1のピットインのようだな」
娘「ねえルネさん、メイクって顔にするのに体型を採寸する必要あるの?」
「これはナマケモノのスーツを作るための採寸よ。お母さんの体に合わせてピッタリのを作るために採寸してるのよ。」
「採寸完了しました!」
「よし!次はライフマスクをとりますよ!固まるまで時間かかりますけどじっとしててくださいね。」
娘「ライフマスクって?」
「特殊メイクの素材を作るためにその人の顔の作りを確認するために取る顔型のことよ。」
ルネは依頼者の母の顔に型取り用の素材を塗っていく。その様子を見て娘は…
「ルネさん、うちのママ顔でっかいから塗りやすいでしょ?」
「何を~!言ったわね~!!」
「す、すみません!型が崩れるのでどうか動かないで!!」
そんなこんなで30分後…
「では、固まったので外していきます!まぶしいですよ!」
…いろいろあったけど型取り完了。
「わ~っ!!やっぱりママの顔型でっか~い!!」
「また言ったわね~!!」

それから2週間後…いよいよナマケモノになる日。アトリエに訪れた依頼者一家はアトリエ内にセットアップされていたメイク用の素材とスーツがいきなり目に飛び込んできた!
母「今日はよろしくお願いします…わあ!これがメイクの素材とスーツ!?さすが!ハリウッドが認めるルネクオリティーですね!」
「あらあら、褒めてもなんも出ませんよ…それでは今からメイクをしていきますのでそこで座ってください…」
いよいよ特殊メイク開始。まずは顔にマズルを貼り付け、その後、顔を白塗りしていく。白塗り用のドーランは普通のものとは違う特殊な配合のもの。生き物的な質感を出すことができる。
娘「ハハハwwwママお化けみた~い!いつもより怖~い!」
母(…あの子ったらまた言ってくれたわね…メイク中だから喋れないことをいいことに…)
ルネ「お母さんはふだんは怖いのかな?」
「うん!私がちっちゃいころにママが大事にしてた花瓶を割っちゃったときなんか朝から晩まで怒り散らしてたもん!」
母(あの子ったらまたまた言ってくれて…)
「でも、いつも家族のために頑張ってくれてる本当はやさしいママだよ!だから今日は癒しをプレゼントしたくてルネさんにお願いしたの!」
「あなたって本当にお母さん思いなのね…」
母(あの子ったら…もう泣きそう…メイクが崩れちゃうじゃない…)

そんなこんなで1時間半かけてメイク完成。スーツも装着して完全にナマケモノになった自分と対面した母は…
「わっ!もう自分の面影がない!!ルネさんありがとうございます!」
「どういたしまして…それでは本題の森の中に行きましょうか。
…ここからが本題だ。”森の中でのんびりしたい”という願いをかなえるため、許可を経て借りた個人所有の樹林へ車で向かう。
母「この衣装だとなかなか乗りずらいわね…」
父「大丈夫か?手伝うぞ!」
娘「私も!」
家族に手伝ってもらい、ナマケモノの母もなんとか乗り込み完了。
山田「本当に仲のいい家族ですね…依頼者第一号があの家族で本当によかったと思いますよ…」
「山田、しみじみするのはいいけど運転お忘れなくね…」

そんなこんなで山田の運転で目的地の樹林へ。
ルネ「許可はとってありますからぜひ自由にくつろいでください…木にくっついてもいいですがくれぐれも傷つけない程度にお願いしますね…ここの木々たちは所有者さんにとっては大事な家族同然の存在ですからね…」
娘「本物のナマケモノじゃないんだから調子に乗って木登りしちゃダメだよ!」
「子供じゃあるまいしそんなことしないわよ!!…それにしても空気が美味しい…ずっとここにいたい…本物のナマケモノも自然ではこんな風に毎日森の香りを感じてるんだろうな…」
すっかりナマケモノの気分になった母は自然の空気を味わいながらその場でだらーん…
娘「ママすっかり本物のナマケモノになっちゃったね!」
父「ばっちり癒されてるみたいだしルネさんにお願いして正解だったな!…そうだ!母さんがやりたいって言ってたことを忘れてた!」

父はスマホを取り出し、ビデオ通話をつないでナマケモノになった母の顔を写す。通話先は母の両親…すなわち依頼主の祖父母。今回の撮影のため幼い長男は彼らにあずかってもらってるのだが、長男と両親にも自分の姿を見てもらいたいとお願いしてたのだ。だが祖父母たちは母がナマケモノになっていることを知らない…
祖父「こんにち…わっ!野生のナマケモノじゃ~!大丈夫か!襲われてないか!」
祖母「アナタ、ナマケモノは人を食べたりしませんし、それに野生のナマケモノなんて日本にいるわけないじゃないですか…って本当じゃ~!」
娘「おじいちゃんおばあちゃん!このナマケモノはママだよ!」
母「は~い!驚かせてしまってごめんなさ~い!ナマケモノに変身してみました~!特殊メイクで~す!」
祖父「なんだ…びっくりした…それにしてもすごいクオリティじゃのう…言われなきゃ本物だと思ってしまうわい…」
母「すごいでしょ!ところであっくん(長男)は元気?起きてたら連れてきてくれる?」
祖父「おう!あっくんならちょうどいま起きてるぞ!変わらず元気にやっとる!ちょっと待っておれ…」
祖父は長男を連れてきてカメラの前でナマケモノになった母とご対面。
母「あっく~ん!ママですよ~!おじいちゃんのところでいい子にしてましたか~?ママはナマケモノになっちゃいました~!」
一方あっくんは…
祖母「なんだかポカンとしてるわね…何が起こってるかわかってないみたい…ムンクの叫びみたいに口開いたまま黙っているわ…」
祖父「まあ1歳の子にこの状況は理解できんわな…」
娘「まあビックリしちゃうよねそりゃ!」

その後も樹林の中で写真を撮ったり、木の香りを味わったりしながらすっかりひとときのナマケモノライフを満喫した母。大満足で初依頼は大成功。
それから数日後、娘からルネのもとにお礼のメールが。
「ルネさん、先日はありがとうございました!ママにとってはとってもいい癒しになったようです!大変貴重な体験をさせていただいてありがとうございましたと言っていました!私からもお礼をさせていただきます!本当にありがとうございます!もっといろんな人たちの夢をかなえるためにこれからも頑張ってください!このプロジェクトがもっと大きく評価されることを願っています!」
山田「初依頼は大成功でしたね!」
「ええ…これが初めの一歩ね…初めてこのプロジェクトが世間の誰かから認められた瞬間よ…でもこれで本当に大衆から認められたとまでは言えないわ…天狗になっちゃダメ。本当に認められる日までまだまだ頑張るのよ…」
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