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第4部 漫画・出版史

好きが高じて生まれた22世紀の野球~ドラベース~

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2000年、コロコロにて国民的マンガ「ドラえもん」といつの時代も普遍的に人気のあるスポーツである「野球」が出会い、革新的な野球マンガが産声を上げた。その名は「ドラベース」。作者は「藤子・F・不二雄最後の弟子」むぎわらしんたろう先生。
ドラえもんの世界観を舞台にした野球マンガ。22世紀を舞台にネコ型ロボットたちの草野球チーム「江戸川ドラーズ」を中心に繰り広げられる熱血ストーリー。

この作品ではネコ型をはじめ様々なロボットたちが選手として登場する。
主人公は黒猫型ロボットの「クロえもん」。そのライバルは荒川ホワイターズのエースである白猫型ロボットの「シロえもん」。ふたりは元々ロボット学校の同級生で落ちこぼれ仲間だったが、ある時を境に口をきかなくなってしまい、ふたりが再開したときにはクロとドラーズは落ちこぼれで、一方のシロは日本の草野球界を代表する大投手に成長していたという王道ながらも熱いライバル関係。
このほか、ドラーズのメンバーをとっても大きな鈴がトレードマークの「スズえもん」虎ネコの「トラえもん」腕にバネがしくまれてピョコっと伸びる「ピョコえもん」など見た目や特徴が個性的かつ覚えやすい名前のロボットたちが多数登場。より作品をにぎやかにしている。
さらには名前がそのまんまな「ドラ一朗」や某鉄人から名前を拝借した「キヌえもん」これまた某オレ流の方をモデルにした「オレえもん」など実在の野球人をモデルにしたキャラも多数登場する。
ちなみに肝心なドラえもんはというと、1話にドラーズのピッチャーとして登場したっきり(ちなみにのび太も顔だけ登場)で後は終盤の回想シーンまで登場せず。だがドラーズの名付け親は紛れもなくドラえもんだったりする。

この作品の野球は「22世紀型野球」。といっても「ある点」を除いて現代の野球とルールは全く同じである。
では現代と唯一違う「ある点」とは何かというと「ひみつ道具の使用」である。22世紀の高度な文明の象徴・ひみつ道具は野球界にも進出しているのだ。
例えば相手のホームラン性の打球が飛んで来たらタケコプターで飛んでキャッチしてアウトにするといった具合で、道具を使って試合を有利に進めることができるのだ。
これだけみればピンチを道具で回避できて、チャンスも道具で高確率でものにできるから都合がよすぎでは?とお思いだろうがさすがにそこまで都合は良くない。
使用できるのは試合前にランダムで指定された3種類の道具のみ。指定された道具をどのタイミングでどのように使うかが見ものなのである。
もし道具の指定も制限もなく、自由に使えるルールならばどのチームのピッチャーもエースキャップをかぶるだろうし、ピンチやチャンスになったらどのチームももしもボックスを使って「もしもピンチをおさえられたら」とか「もしもここでホームランが打てたなら」ってやるだろう。だが道具が制限されればそうはいかない。「都合の良い存在を都合よくしない」むぎわら先生の力量といえよう。
この作品にはメジャーな道具からマイナーな道具まで多数登場する。空気砲でバックホームを狙うこともあれば、ウルトラミキサーで相手選手を貝と合体させて無能化させたり、動物ドロップでゾウに変身して怪力で打とうとするも鼻に当たってデッドボールになったり(個人的に類似の効果を持つ「動物変身ビスケット」のほうがメジャーだと思うのにあえてマイナーなほうを選んだ事に先生のドラ知識の深さに感銘を受けた。)…といった感じに意外な道具を意外な形で使って、時に有利になったり、時にかえって不利になってしまったりと試合が面白く動いていく。一見試合に役に立ちそうもない道具でも「そうきたか!」って感じの使い方をみせる。22世紀野球は道具の使い方をうまく考える「アドリブ性」もモノを言うスポーツといえよう。
むぎわら先生は少年時代からの熱狂的ドラマニアで、F先生のアシスタントとなった後も道具の再登場に備えて各道具が登場する話数をまとめたスクラップブックを作るほどひみつ道具の知識もバッチリ。幅広い道具が見せる試合展開は先生のドラ愛とドラ知識が生きているのだ。

道具は時にルールすら変えることもある。
WABC(ワールドアマチュアベースボールクラシック。ざっくりいえばWBCの草野球版)1回戦で日本代表と対戦したイギリス代表が「ひっこし地図」を使って生み出したのは「逆走ルール」。1塁と3塁を入れ替えたために打ったら1塁方向ではなく3塁方向に進まなければならないというややこしいルールにクロたち日本代表は翻弄された。
サッカー選手であるロナえもんは試合中ではないがもしもボックスで「もし野球とサッカーがひとつのスポーツになったら」ととなえて野球とサッカーを合体させてドラーズと対決。ピッチャーの球はバットはもちろん、足でけりかえしてもOK。投球も投げるだけでなく足でけってもOK。両翼にはサッカーゴールも置かれてそこに入ればホームラン…というイナズマイレブンもびっくりな超次元ルールだ。単にキックベースにしないところがオツ。

野球マンガというスポーツマンガのキングオブキングといえるジャンルに、自身のドラえもん知識を入れ込んで全く新しいスポーツマンガとして昇華させたドラベースは11年にわたるロングランとなり、続編の「新ドラベース」も連載された。
「好きこそものの上手なれ」。ドラベースはドラえもんと野球をこよなく愛するむぎわら先生だからこそかけた作品だ。
「好きを極めれば自分の好きなものでこんな面白いマンガが描けるんだ!」創作の道を志す現代の子供たちにはぜひドラベースを読んでもらってそのことを感じてもらって、より好きなことを極めて素晴らしい作品を生み出してもらいたい。
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