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第3部 アニメ・特撮総合史

水田ドラが国民に受け入れられるまで

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2005年4月15日、水田わさびさん以下、新キャストによる新たなドラえもんがスタートした。
声優の変更に対する風当たりというのはどのような作品でも避けては通れないものだが、水田ドラは特に大山ドラに慣れ親しんだ世代からのバッシングが強かった。
交代から5年以上経過した時点でも「声優を戻せ」とか「受け入れられない」といったバッシングを多く見かけた。それほど大山さんをはじめとする旧キャストのイメージが国民に焼き付いていたという証拠であり、長らく「○○といえばこれ」とあたりまえのように深く焼き付いていたものが急に変わると拒絶反応を起こしてしまいがちな日本人の性が強く出たともいえる事例である。
だがまもなく交代から20年を迎えようとする2024年現在では最初は拒絶していた人たちも含め、現在のドラえもんのキャスト陣はすっかり受け入れられ、「ドラえもんの声は水田わさび」と多くの人々に浸透している。時代が流れ、大山ドラより水田ドラのほうが多く見ている世代も社会に進出していくうちに現在のキャスト陣はすっかり認められた。そのことは交代してからの放送がすでに20年弱続いていることが証明している。旧作世代からバッシングを受けていた初期の頃だって多くの子供たちは「新しいドラえもん」を受け入れてくれた。新たな世代からも受け入れられなかったらとっくに終わっているはずだ。世代交代の成功の証明だ。
今回はそんな水田ドラの特徴や大山ドラとの違いなどの比較から、水田ドラが国民に受け入れられるようになるまでを分析していこう。

まずは大山ドラの声優陣の放送開始時点での年齢を見てみよう(敬称略。年齢は満年齢)
大山のぶ代(ドラえもん)46歳
小原乃梨子(のび太) 44歳
野村道子(しずか) 41歳
たてかべ和也(ジャイアン) 45歳
肝付兼太(スネ夫) 44歳
…ご覧のようにすでに放送開始時点ですでに全員40代を超えており(これには当時まだ声優というのは俳優の延長線上という認識が強く、顔出しの演技で芽が出なかった人たちが声優に移るという風潮があったというのもあるが)、小原さんやたてかべさんはタイムボカンシリーズの三悪、野村さんはサザエさんのワカメちゃん(ちなみに大山ドラ終了と同時にワカメ役からも退いている)といった国民的アニメのレギュラーで知られており、肝付さんは銀河鉄道999の車掌で知られたほか、ジャングル黒べえの黒べえ役など藤子アニメの出演経験も豊富だ。そして大山さんもすでに女優としても、声優としても様々な役を演じてきた重鎮。皆声優という業界の黎明期から活躍し、今日に至るまでの声優業界の礎を築いた人たちのうちの5人といっても過言ではないだろう。。一方水田ドラのメンバーの放送開始時の満年齢は以下の通り。

水田わさび(ドラえもん) 31歳
大原めぐみ(のび太) 30歳
かかずゆみ(しずか) 32歳
木村昴(ジャイアン) 15歳
関智一(スネ夫)   33歳
…ごらんの通り放送開始当時まだ中学生だった木村さんを除いて全員が当時満30代前半。フレッシュすぎず、ベテランすぎずのちょうどよく脂ののった顔ぶれだ(現在ジャイアンの母ちゃん役を務める竹内都子さんはオーディション当時40代でドラえもん役のオーディションに参加していたので特に年齢の制限はなかったと思うが)。
キャリアを見てみると、最も実績を積んでいたのはすでに芸歴15年近くの関さん。すでに「RAVE」のハル役などの主役も経験するなど、多数のメイン級をキャリア初期からこなしてきた。芸歴も実績も当時の時点でこのメンバーの中では一番確かだ。
一方水田さんもすでにメイン級は何度か担当したが、オーディションで勝ち取ったのは10年以上のキャリアでドラえもん役が初だという。オーディションに推薦したのは先代ジャイアン役のたてかべさん。たてかべさんはこれ以前にも矢島晶子さんを野原しんのすけ役のオーディションに推薦するなど後進の育成に力を入れており、その目利き力も高く評価されていた。
かかずさんも「東京ミュウミュウ」のミュウミント役などのメイン級も数こなし、着実に実績を重ねてきた。
そんな中で大原さんは30代を迎える年にしてこの年デビュー。水田ドラ開始2ヵ月前に発売されたゲーム「THE鑑識官」がデビュー作であった。
だが最も異彩を放つのは当時中学生の木村さんだろう。「ジャイアン役は中学生」…ただでさえ国民的アニメの新たな声優に多くの国民が注目していた中で多くの新聞記事やニュースに踊ったこのフレーズは多くの国民に衝撃を与えた。もちろん5人の中では唯一の平成生まれだ。
木村さんはジャイアン役のオーディションの2次審査の際、のび太を追いかけるセリフの時に必要ないのに走り回ってしまい、他の参加者が驚く中自分でも「落ちた」と思ったらしいのだが、逆にこう言った子供らしさが評価されて合格となったのだ。
弱冠15歳(放送開始時点)で国民的ガキ大将の声優に抜擢された少年が、その後国民的子供番組の司会を務め、番組出演本数ランキング上位にランクインする「国民的声優」のひとりになるとはこの時点でだれが想像できただろうか?

水田ドラが大山ドラから変わったのは声優陣だけではない。ビジュアル面も大きく変更された。
原作のキャラデザよりわりと乖離があった大山ドラのキャラデザに対して、水田ドラのデザインはより原作重視になった。
例えばドラえもんの目は大山ドラでは白めの中に小さな点の黒目というデザインだったが、水田ドラでは黒目が大きくなってその黒目の中に白目が描かれるというデザインとなりジャイアンの目も大山ドラでは常に白目が描かれていたが、水田ドラでは原作同様感情が高ぶった時などの表情の変化時を除いて白目は描かれなくなった。
「原作寄り」と一口にいっても原作のドラえもんも時代によって絵柄が大きく変わっている。水田ドラのデザインは単行本30巻前後のデザインが近いとされる。

さらにストーリー面でもより時代の流れや現代の子供たちの感覚に合わせる形で原作から変更されたシーンなどが存在する。
例として名作「ぞうとおじさん」が2007年に水田ドラではじめてアニメ化されたときはストーリーのキーとなる戦時中のゾウの話をする人物がのび助の弟(=のび太の叔父)であるのび郎からのび太たちが訪れた動物園の飼育員のおじいさんに変更。原作が執筆されたころはまだ読者の親世代にも戦争経験者が多かった時代であったが、当時の子供たちにとって戦争経験者といえばおじいちゃんやおばあちゃん。こういった時代の流れに合わせて変更していった。この10年後に水田ドラにおける2度目のアニメ化の際には冒頭シーンとラストの現代帰還後のシーンは原作に忠実となったが、ゾウの話を担当するのはのび太の大叔父にあたるアニメオリジナルの「のび四郎」に変更となった。
キャラクターの口調をとっても女性キャラの口調はしずかや玉子などのメイン級のキャラは昔ながらの女性語を使うものの、のび太のクラスメイトの女子などのモブキャラやゲストの女性キャラに関しては現代の子供たちの感覚に合わせ「~だね・だよ」といったユニセックスな言葉遣いになっていることも多い。
大山ドラの時代から年代設定は常に(放送当時の)現代という設定は貫かれてきたが、水田ドラはそれをより色濃く発展させ、携帯電話やタブレットも登場するようになった。スタッフはかつて「一昔前の設定のイメージで書いているのでのび太に携帯は持たせない」と考えていたそうだが、時代の流れとともにやはり現代を描くにあたってこう言ったデジタル機器が登場しないのはおかしいと考えたのであろう。(といってもあくまでも作中に登場したというだけで、2024年時点でも野比家は誰一人携帯をもってないし、パソコンもタブレットも持ってないが)
ドラえもんの性格も、のび太の保護者的側面が強まっていった大山ドラと比較するとそのイメージは控えめになっており

パロディネタにおいても原作のネタのうち現代の子供にわかりにくいネタは現代的なネタに変更されているケースが多く見受けられる。2020年代以降の話であるが、「キャラクター商品注文機」では原作における「建設巨神イエオン」が当時放送されていた「魔進戦隊キラメイジャー」のパロディである「測量戦隊キラメジャー」に変更され、「かめライダー」も当時放送されていた「仮面ライダーゼロワン」のパロディの「かめライダー02」、ガンダムのパロディの「バンダム」は元ネタが現代でも認知度のある作品ではあるが、より子供にわかりやすいネタという配慮のためか、「アベンジャーズ」のパロディの「アバンジャーズ」(そのメンバーも「キャプテンイタリア」と「超人パルブ」とこれまた元ネタのパロディ)に変更。同じく20年代の「アニメばこ」では「シンセキの巨人」や「すっぱいファミリー」といった近年のヒット作のパロディが登場した。

また、原作のドラえもんといえば読んだことのある方ならお分かりであろうが結構ブラックな要素も強い(特に初期)。大山ドラでもこういった原作譲りのブラックな展開が特に初期に顕著にみられた。
だがこれまた時代の変化や、声優交代時点ですでにドラえもんというブランドが親子二代の支持になっていたこともあり、より親が子供に安心して与えられる作品を目指してそういった要素は削られ、より親子二代で楽しめる作品となった。
一方で誕生日スペシャル等の長編・前後編系の作品においても劇場版に負けず劣らずの重農で時にシリアスなストーリーが展開されることとなり、ドラえもんがリセットされてしまう危機に陥る「ドラえもんが生まれ変わる日」や
ドラえもんが指名手配ロボットと入れ替わってしまったり、牢獄送りにされてしまうなど時に子供たちが泣き出してしまいそうなぐらいの大ピンチも描かれてきた。
時代が変わっても、声優が変わっても、絵柄が変わっても、子供たちに夢を驚きと感動を与える作品であることは決して変わらない。当時水田ドラを非難していた人たちは声だけ聴いて非難していた人たちも多いはず。だが作品の本質は時代に応じた変化を加えつつも大山ドラの時からの良いところは守り続けている。ドラえもんは常に子供たちとともに成長していく作品であることをしっかり証明したのだ。

だが先に書いたように、交代早々に多くの国民から新しい声優陣が受け入れられたとは言い難かった。やはり大山ドラに慣れ親しんだ世代からは大きな反発があったのだ。水田さんも後年交代当初のバッシングについてネットで見かけたどころか、電車でも耳にしたと振り返っている。先代のび太役の小原さんも「前の方に慣れていれば、前の方がよかったという声も聞こえてくるはず。新しいものをやるときは必ずそういう洗礼を受ける」と2015年に行われたイベントにて現在の声優陣に向かって語っていたが、まさしくそれが日本人の習性であろう。冒頭にも書いた通り、今まで当たり前のように触れていたものが突然変われば拒絶反応を起こしがちなのが日本人の性だ。当然「新しいのが気になる」という人も多いが新しいものに期待しすぎていざフタを開けてみれば「前のほうが良かった」となることはあるあるだ。水田ドラに文句を言ってた人たちはそういう期待しすぎていた人たちも多いだろう。
確かに水田ドラの声優陣の声と大山ドラの声優陣の声には大きな乖離がある。現ジャイアン役の木村さんもオーディションでは「(先代ジャイアン役の)たてかべさんに寄せないように」との指示があったと話す。これは決して「先代のイメージを大事にしない」という意味ではなく「今までの枠にとらわれない新しいドラえもんを目指す」という意味であろう。現に絵柄だって変わっているのだからスタッフとしても「声優だけ変えて今までと全く同じドラえもんを作る」のではなく「今までのいいところは守りつつ、時代に合わせた枠にとらわれない新しい形のドラえもんを作る」ことを目指していたのだろう。
新しいものはすぐには受け入れられないことなんてザラだ。だがそれも時代が流れるにつれて変わっていく。
交代から時がたち、次第に水田ドラに慣れ親しんだ世代も成長していき、まもなく交代から20年を迎えようとする今ではすっかり現在の声優陣は認知され、国民に支持されている。交代当初非難していた人たちの中にも時がたって親となり、再びドラえもんに触れる機会ができたことにより現在の声優陣の声を聞き、「今のドラえもんもいいな」とその良さを感じ取った方も多いだろう。時代のニーズに合わせて変化していくドラえもんは、時代の流れによってまた支持を広げていったのだ。

次回は水田ドラの劇場版初期3作を分析してみよう。




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