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第3部 アニメ・特撮総合史
さようなら大山ドラえもん~ドラえもん声優交代を分析する~
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2004年11月22日、日本中を揺るがすニュースが突如列島を走った。
ドラえもんの声優陣交代。1979年の放送開始以来四半世紀にわたってドラえもんたちに命を吹き込んできた大山のぶ代氏以下、レギュラーメンバーが翌2005年の3月をもって卒業するとのニュースだ。
この衝撃の知らせは朝日新聞がこの日の1面で独占で第一報を掲載し、国民の知ることとなった。
視聴者はもちろん、新聞にTV局…その他のメディア関係者にとっても全く予想外の話であり、他の新聞もこの日の夕刊で急遽記事を掲載し(産経新聞は翌日朝刊)、翌日のスポーツ紙もこの話題を取り上げ、各局のワイドショーもこの一大ニュースを時間を割いて伝えるなど、まだ今よりもアニメの地位が低かった時代に「国民的アニメの声優一斉交代」という大ニュースが大きな国民的関心事となり、「ドラえもん」というブランドが持つ国民への影響力の強さを証明した。
ではテレビ朝日が社をあげて親会社の朝日新聞に注目を集めてもらうために特ダネとしてこの声優交代の一報を独占で売り込んだのか?と考える方も多いだろうが、実はこの時テレ朝の社員でさえもほぼ全くの寝耳に水。ドラえもんのスタッフ以外は誰一人このことを知らず、新聞記事で皆初めて目の当たりにしたのだ(ドラえもんスタッフが秘密裏に朝日新聞側に売り込んだということも考えられるが)。
今回はそんな声優交代決定のいきさつや前後の動きについて分析していこう。
実はドラえもんの声優交代に関する動きはこの3年前である2001年ごろにもあった。きっかけとなったのは大山さんのがんによる入院である。
この時大山さんは他の仕事はセーブしていたが、ドラえもんだけは休まずに収録に参加していた。
だがこの時大山さんは大病を患ったことで「自分にもしものことがあったらドラえもんに傷がついてしまう」と自分とドラえもんの今後のことを考え始め、病床ではドラえもんのぬいぐるみに「私だけいなくなったら、アンタどうするの?」などと涙ながらに語りかけていたほどだと言う。それほど大山さんにとってドラえもんが我が子同然の存在だったのは想像に難くないだろう。
そしてこの時に大山さんはスタッフに直々にドラえもん役の降板を申し入れたが、この時はスタッフの説得もあり引き留められた、一方この頃からスタッフも「大山さんの後任」について考え始める。すでにこの時メインキャスト5人は全員60代を超えており、5人の中で最年少のしずか役の野村道子さんも63歳であった。
それから3年たった2004年春、スタッフから大山さんに卒業を打診し、他の声優陣との話し合いの結果2005年春をもっての卒業が決まったといういきさつだ。
声優交代が決まったのは前述のように2004年の春であることは大山さんの夫である故・砂川啓介さんの書籍で言及されているが、具体的に春とはどのあたりのタイミングであるかは不明だ。春と言えば映画の公開時期。映画の公開前のタイミングなのか、それとも上映期間中か、はたまた映画の上映が終わったゴールデンウィーク終了前後あたりか。
なぜこのことを僕が気にするのかというと理由がある。大山ドラの映画最終作となったこの年の映画「のび太のワンニャン時空伝」の内容だ。
ワンニャン時空伝はのび太が拾った野良犬のイチをはじめとする野良犬・野良猫たちを「進化・退化光線銃」で進化させてタイムマシンで向かった自由に暮らせる3億年前の世界に放す。その後イチの様子を見に行くためにタイムマシンで3億年前に向かうが、途中の事故によりイチを放した時代より1000年後に不時着してしまう。しかしその時代では人間並みに知能の発達した犬猫たちが社会を築いていた…という内容だ。
このようにのび太の行動が未来(といっても3億年前の1000年後だからのび太の時代からは大昔の話だけど)につながるという「進化や発展」や「世代の受け継ぎ」が大きなテーマとして描かれており、映画のキャッチコピーも「ぼくたちまた会えるよね」というまるで声優交代を示唆しているかのようなフレーズ。さらにエンドロールもメインキャラがひとりひとり手を振るというこれまた別れを示唆する演出だったのだ。ただ、エンドロールの件は後年「製作中には交代の件は伝わってなかったと思う」と当時のシンエイ動画プロデューサーの山田俊秀氏は語っている。だがあくまでも「すべてのスタッフには交代の件は行き届いてなかったというだけで、一部のスタッフの間で声優交代についてすでに秘密裏に動き始めていた」のではないかと僕は考える。さらに監督の芝山努氏曰く、制作時に「これが最後のドラ映画になるかも」との話が持ち上がったという。この「最後」というのは大山ドラの映画が最後という意味か、ドラえもん映画自体が最後という意味かは不明だが、やはり制作時に交代への動きは少なからずあったと考えていいだろう。もしかしたら「声優交代があったところで、次の声優でも同じように映画が作れるかはわからない」との話もあったのかもしれない。
以下、声優交代までのいきさつをチャートとしてまとめた。
-2004年春 スタッフが大山さんに卒業を申し入れ、話し合いの結果翌年春の卒業が決定。
-2004年3月6日 ワンニャン時空伝公開
-2004年7月15日 この日発売のコロコロコミックで次回の映画が2006年公開と発表。(声優交代はまだ発表前)
-2004年11月22日 この日初めて声優交代が公に発表される。
-2005年3月18日 大山ドラ本編最終回
-2005年3月25日 この日のワンニャン時空伝地上波放送後のお別れコメントをもって、大山ドラ声優陣は完全卒業
…このように正式決定してから卒業までほぼ丸一年、公に発表してから卒業までは約4か月のブランクが、正式決定してから公に発表されるまで実に半年ほどのブランクがあった。
当時は今ほどネットが普及してなかったとはいえ、ニュースサイトや他の報道機関に情報をキャッチされずに11月末の新聞発表までしっかり情報をガードしたアニメスタッフもすごい。(今だったら内部で話が出たらネット上にあることないことすぐ飛び交いそう)
声優交代に際しては、ドラえもんの声は大山さんの合成音声を使うとの検討もあったそうだが、大山さんは「合成なんかじゃなくて、あの子(ドラえもん)の気持ちを理解してくれる人に託したい」との思いを持っており、次なるレギュラー陣はオーディションで決めることとなった。
国民的アニメの声優の卒業というだけでこれだけの国民的注目が集まった事例である。当然、その後任が誰になるかも日本中が注目した。
次回は水田わさびさん以下、新たなドラえもんの声優陣と水田ドラの作風等を分析していこう。
ドラえもんの声優陣交代。1979年の放送開始以来四半世紀にわたってドラえもんたちに命を吹き込んできた大山のぶ代氏以下、レギュラーメンバーが翌2005年の3月をもって卒業するとのニュースだ。
この衝撃の知らせは朝日新聞がこの日の1面で独占で第一報を掲載し、国民の知ることとなった。
視聴者はもちろん、新聞にTV局…その他のメディア関係者にとっても全く予想外の話であり、他の新聞もこの日の夕刊で急遽記事を掲載し(産経新聞は翌日朝刊)、翌日のスポーツ紙もこの話題を取り上げ、各局のワイドショーもこの一大ニュースを時間を割いて伝えるなど、まだ今よりもアニメの地位が低かった時代に「国民的アニメの声優一斉交代」という大ニュースが大きな国民的関心事となり、「ドラえもん」というブランドが持つ国民への影響力の強さを証明した。
ではテレビ朝日が社をあげて親会社の朝日新聞に注目を集めてもらうために特ダネとしてこの声優交代の一報を独占で売り込んだのか?と考える方も多いだろうが、実はこの時テレ朝の社員でさえもほぼ全くの寝耳に水。ドラえもんのスタッフ以外は誰一人このことを知らず、新聞記事で皆初めて目の当たりにしたのだ(ドラえもんスタッフが秘密裏に朝日新聞側に売り込んだということも考えられるが)。
今回はそんな声優交代決定のいきさつや前後の動きについて分析していこう。
実はドラえもんの声優交代に関する動きはこの3年前である2001年ごろにもあった。きっかけとなったのは大山さんのがんによる入院である。
この時大山さんは他の仕事はセーブしていたが、ドラえもんだけは休まずに収録に参加していた。
だがこの時大山さんは大病を患ったことで「自分にもしものことがあったらドラえもんに傷がついてしまう」と自分とドラえもんの今後のことを考え始め、病床ではドラえもんのぬいぐるみに「私だけいなくなったら、アンタどうするの?」などと涙ながらに語りかけていたほどだと言う。それほど大山さんにとってドラえもんが我が子同然の存在だったのは想像に難くないだろう。
そしてこの時に大山さんはスタッフに直々にドラえもん役の降板を申し入れたが、この時はスタッフの説得もあり引き留められた、一方この頃からスタッフも「大山さんの後任」について考え始める。すでにこの時メインキャスト5人は全員60代を超えており、5人の中で最年少のしずか役の野村道子さんも63歳であった。
それから3年たった2004年春、スタッフから大山さんに卒業を打診し、他の声優陣との話し合いの結果2005年春をもっての卒業が決まったといういきさつだ。
声優交代が決まったのは前述のように2004年の春であることは大山さんの夫である故・砂川啓介さんの書籍で言及されているが、具体的に春とはどのあたりのタイミングであるかは不明だ。春と言えば映画の公開時期。映画の公開前のタイミングなのか、それとも上映期間中か、はたまた映画の上映が終わったゴールデンウィーク終了前後あたりか。
なぜこのことを僕が気にするのかというと理由がある。大山ドラの映画最終作となったこの年の映画「のび太のワンニャン時空伝」の内容だ。
ワンニャン時空伝はのび太が拾った野良犬のイチをはじめとする野良犬・野良猫たちを「進化・退化光線銃」で進化させてタイムマシンで向かった自由に暮らせる3億年前の世界に放す。その後イチの様子を見に行くためにタイムマシンで3億年前に向かうが、途中の事故によりイチを放した時代より1000年後に不時着してしまう。しかしその時代では人間並みに知能の発達した犬猫たちが社会を築いていた…という内容だ。
このようにのび太の行動が未来(といっても3億年前の1000年後だからのび太の時代からは大昔の話だけど)につながるという「進化や発展」や「世代の受け継ぎ」が大きなテーマとして描かれており、映画のキャッチコピーも「ぼくたちまた会えるよね」というまるで声優交代を示唆しているかのようなフレーズ。さらにエンドロールもメインキャラがひとりひとり手を振るというこれまた別れを示唆する演出だったのだ。ただ、エンドロールの件は後年「製作中には交代の件は伝わってなかったと思う」と当時のシンエイ動画プロデューサーの山田俊秀氏は語っている。だがあくまでも「すべてのスタッフには交代の件は行き届いてなかったというだけで、一部のスタッフの間で声優交代についてすでに秘密裏に動き始めていた」のではないかと僕は考える。さらに監督の芝山努氏曰く、制作時に「これが最後のドラ映画になるかも」との話が持ち上がったという。この「最後」というのは大山ドラの映画が最後という意味か、ドラえもん映画自体が最後という意味かは不明だが、やはり制作時に交代への動きは少なからずあったと考えていいだろう。もしかしたら「声優交代があったところで、次の声優でも同じように映画が作れるかはわからない」との話もあったのかもしれない。
以下、声優交代までのいきさつをチャートとしてまとめた。
-2004年春 スタッフが大山さんに卒業を申し入れ、話し合いの結果翌年春の卒業が決定。
-2004年3月6日 ワンニャン時空伝公開
-2004年7月15日 この日発売のコロコロコミックで次回の映画が2006年公開と発表。(声優交代はまだ発表前)
-2004年11月22日 この日初めて声優交代が公に発表される。
-2005年3月18日 大山ドラ本編最終回
-2005年3月25日 この日のワンニャン時空伝地上波放送後のお別れコメントをもって、大山ドラ声優陣は完全卒業
…このように正式決定してから卒業までほぼ丸一年、公に発表してから卒業までは約4か月のブランクが、正式決定してから公に発表されるまで実に半年ほどのブランクがあった。
当時は今ほどネットが普及してなかったとはいえ、ニュースサイトや他の報道機関に情報をキャッチされずに11月末の新聞発表までしっかり情報をガードしたアニメスタッフもすごい。(今だったら内部で話が出たらネット上にあることないことすぐ飛び交いそう)
声優交代に際しては、ドラえもんの声は大山さんの合成音声を使うとの検討もあったそうだが、大山さんは「合成なんかじゃなくて、あの子(ドラえもん)の気持ちを理解してくれる人に託したい」との思いを持っており、次なるレギュラー陣はオーディションで決めることとなった。
国民的アニメの声優の卒業というだけでこれだけの国民的注目が集まった事例である。当然、その後任が誰になるかも日本中が注目した。
次回は水田わさびさん以下、新たなドラえもんの声優陣と水田ドラの作風等を分析していこう。
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