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第2部 女児向けアニメ史

土曜朝女児包囲網~02年女児向けアニメ革命~

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今回はどれみ最終年に当たる2002年に放送された女児向けアニメを分析していくのだが…前回のラストで語った通り、この年、テレ東の土曜朝に革命が起きた。
この革命を説明するには、この年の4月に子供たちの生活に起こった革命について説明せねばならない。「学校完全週5日制導入」だ。
土曜が完全に休みになり、土曜に学校に行く時代は終わりを告げた。(ちなみに僕が幼稚園に入園したのがこの翌年なので、僕もバリバリの”土曜に学校行ってた時代を知らない世代”である。)
そんな中でテレ東はこれをにらんで子供層の視聴者を獲得すべくそれまで8時台前半までだった土曜朝のアニメ枠を8:30台と9時台にも拡大。おりしも当時は他局のゴールデンや夕方のアニメ枠が減少し始めた頃でもあり、この「土曜朝枠拡大」が他局を含めたアニメ全体の土日へのシフトにつながっていったのは間違いない。2024年現在もこれらの枠で多数のアニメ・特撮が放送されている。
その第1弾として8:30枠で開始したのがちゃお原作の「わがまま☆フェアリーミルモでポン」。しかし注目すべきはミルモだけでなく既存の7:30枠と8:00枠もしかり。
前者にはりぼん原作の「満月フルムーンをさがして」、後者にはなかよし原作の「東京ミュウミュウ」が入り、ミルモとセットで異なる3大少女漫画雑誌原作アニメが実に1時間半にわたって続くという「土曜朝女児包囲網」が完成したのだ。
今回はそんな3作品を放送時間が早い順から分析していこう。

まずは7:30からの「満月をさがして」。
すでに「神風怪盗ジャンヌ」でヒットを飛ばした種村有菜氏にとって同作以来2度目のアニメ化作品である。
ジャンルは「変身ヒロイン×アイドル」作品であるが、主人公は喉に病を持ち、余命1年と宣告される、作中の重要的な存在である「死神」の正体が「生前自殺した人間」、主人公の監視役のひとりである死神のタクト(ちなみに声は芸人としてブレイクする前の故・桜塚やっくんさん。本名名義で出演していた)も声帯摘出により自殺を図ったなど土曜朝とは思えないハードな設定のオンパレード。
アイドルものというジャンルも当時からすでにあったが、まだ今ほどそのジャンルの数が多くなかった中では異彩を放った存在と言えよう。
原作のほうは後にドイツにおける日本漫画の年間売り上げ1位(種村作品はドイツでの人気が高い)になるなど高く評価されているが、アニメのほうは予定通りの1年で終了。やはり土曜の朝に一見単なる変身ヒロインものと思わせて死生観をぶちこんだ作品はきつかったのか。

続いて8:00からの「東京ミュウミュウ」。2022~23年にかけての新作アニメも記憶に新しい。
セーラームーンにレイアースと集団変身ヒロイン・バトルヒロインもののパイオニアとなったなかよしが21世紀に送り出したバトルヒロインものは「絶滅危惧種×変身ヒロイン」。後にプリキュアシリーズでもプリアラやわんぷりのように動物モチーフの作品が登場しているが、ミュウミュウは「動物モチーフ集団バトルヒロイン」の草分けではないだろうか。
単なる動物ではなく「絶滅危惧種」に目を付けたのもそれまでの変身ヒロインと一線を画している。主人公・ミュウイチゴのモチーフは比較的メジャーな「イリオモテヤマネコ」、ミュウザクロは一般的にオオカミと言えばこれのことを指す「ハイイロオオカミ」だが、他のメンバーはミントが「ノドジロルリインコ」(フランスやニュージーランドに生息)レタスが「スナメリ」(イルカの仲間)プリンが「ゴールデンライオンタマリン」(ブラジルに生息するサル)といったかなりマイナーな動物がモチーフ。この作品でこれらの動物を知った方も多いかと思われる。これらのモチーフから察せられるようにこの作品は「環境問題」がテーマのひとつとなっている。
変身ヒロインものにして異色のテーマだが、テーマ故に時にシリアスになりながらもしっかりとその世界観に落とし込めている。
他にストーリー面として特徴的なのは「主人公たちが店(カフェミュウミュウ)で働きながら戦いに励んでいる」部分だ。主人公が店で働くという要素はどれみとも共通するが、あまたの店舗業態の中でも「カフェ」という業態は女児層にとってあこがれの業態であり、とっつきやすいということから選ばれたのだろう。前年の「も~っとおジャ魔女どれみ」の舞台も「お菓子屋」という似た形態であったわけだし。
他に印象的なのは、終盤にプリンと敵であるタルトとの友情が描かれたこと。善玉側と悪玉側の枠を超えた友情を描くのもそこまで珍しいことではないのかもしれないが、ここもストーリー面での独自性を出そうとしたのが見て取れる。
ミュウミュウもまた、予定通りの1年で終了したのだが、近年再アニメ化したことを考えればおジャ魔女やハム太郎、後述のミルモなどの強力な布陣の中で当時の視聴者に強く印象がついたのは間違いない。

最後に紹介するのは8:30の「ミルモでポン!」
ヘソ曲がりな妖精ミルモとパートナーの人間楓、その周辺の人物と妖精たちが織り成すファンタジーラブコメだ。
この作品で特徴的なのは「小道具のモチーフを身近なものにとったこと」。
妖精たちはマグカップから現れ、魔法を使う時はミルモはマラカス、リルムはタンバリンといったようにそれぞれ異なる楽器を使う。妖精たちが飛行するときは羽根使うわけでもそのまま浮遊するわけでもなくうちわを両手に持ってパタパタ飛ぶ…といった具合にだ。
小中学生向けのちゃおの原作とは言え、アニメになればそれよりも下の世代にも作品が届くことになる(実際アニメ版は幼児誌でも記事が載っていた)。これらの設定は原作からあったとはいえ、身近なものを小道具に取ることにより、本来のちゃおの読者層より下の世代からしてみれば「ウチのマグカップからも妖精が出てくるかも!?」とか、「自分もマラカス振れば魔法が使えるかも!?」とか「うちわ使えば自分もいつか飛べるようになるかも!?」とかって夢を見させてくれる存在なのだ。
そんなミルモの人気は上々。第1期の平均視聴率は6.8%、最高視聴率は9.4%と土曜朝のアニメとしては異例な高視聴率を記録。ポケモン・ドラえもん・ハム太郎という当時の小学館の子供向け雑誌3本柱の当時の視聴率に匹敵する数字をたたき出し、満月やミュウミュウが1年間の放送期間を全うした後もミルモは延長し、最終的に土曜朝では2003年9月までの1年半放送された。その翌月からはタイトルに「ごおるでん」の副題を付けて火曜夜のゴールデン帯に移動。その後「わんだほう」(2004年度)「ちゃあみんぐ」(2005年4月~9月)と改題しながらさらに2年、土曜朝時代からの通算では計3年半続いたのだ。
商品展開でも、前回触れたトミー(現タカラトミー)からの玩具のほか、明治製菓からは作中に登場するミルモの好物である「くもっちょ」が商品化された。これはチョコ味の綿菓子で、同社が当時発売していた「わたガム」や「わたパチ」と同様の形状をしており、シールがおまけでついていた。僕もあの頃よく食べたものだ。
ミルモの人気は少女漫画原作としては珍しく男子からの支持もあったと言われる。コロコロで記事が載ったこともあるし、アニメ放送期間中に刊行された「おはスタネタ帳」では「男女ともに人気」と紹介された。実際僕も男子だけど観てたし。

…さて、次回はロンドンがどんよりな天気であろうが、パリが晴れようが、おジャ魔女とプリキュアの空白期間に1年間放送された「あの作品」を分析してみよう。運命の向こう側を旅した少女は、なぜその先の天下をつかめなかったのか。




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