上 下
203 / 226
最終章 勇者として

最後の一人

しおりを挟む
 諒太は気付けばアルカナの世界に転移していた。
 明確に異なる視界。自身はサポートセンター内にポツリと立っていた。
 受付らしきNPCと目が合うも、苦笑いを返して諒太はサポートセンターをあとにしていく。

 外はセイクリッド世界と大差がなかった。中立国アルカナはメインとなる建物が密集していたために、諒太にも馴染みがある感じだ。さりとてプレイヤーの姿は少ない。大勢が暮らしているセイクリッド世界とは賑わいが異なっている。

 直ぐさま諒太はクランメニューを開いて、夏美たちの様子をチェック。
「もうイロハは130か。現在地大木の森ってことはこれから移動するってことだな……」
 ならば諒太は先回りするだけだ。焔の祠は攻略したばかり。リバレーションで飛べば確実に先行できるはず。

「今は大賢者だし、人目を避けなきゃいけない……」
 正教会の裏側から諒太はリバレーションを唱える。先ほど戦った焔の祠へと転移しようとして……。しかし、呪文が発動しない。魔力が減る感覚すらなかった。

「マジか……。こっちでは大賢者にジョブチェンしてるからか?」
 世界に勇者は一人。有線接続にて出張したわけではない諒太は勇者以外のその他となっていた。つまりは転移魔法が使えない。恐らくは神聖力もなくなっているはずだ。

「まあエデルジナスまでポータルで飛べば問題ないな……」
 既に諒太は金銭的な問題を抱えていない。よってポータルの使用料を節約する必要はなかった。

 アルカナからエデルジナスまで転移し、諒太はワイバーンを借りる。急がねば夏美の転移魔法で先に飛んでいく可能性があったのだ。

「ボス部屋に入る前に合流しないと……」
 道中に夏美の様子を確認すると、どうやら夏美は焔の祠に行ったことがないのだと分かる。エデルジナスに飛んだ彼女たちはワイバーンを借りるはずなのだ。

「とりあえずは大丈夫そうだな……」
 諒太は先んじて焔の祠へと到着。あとは夏美たちの到着を待つだけだ。かといって、待ったとして十分程度である。エデルジナスから焔の祠までの移動はワイバーンならば大した距離ではない。

「隠れていた方が面白いかもしれない……」
 上空から見つかる祠の前よりも、岩肌に隠れていようと思う。ワイバーンに帰れと命令してから、諒太は岩の影へと身を隠す。夏美が驚く様子を見てみたくなった。

 しばらくすると、上空にワイバーンの影が出現する。その背にはもちろんプレイヤーも確認できた。彼らが祠の前へと降りてくるまで、諒太は息をひそめて隠れているだけだ。

「やぁっと着いたね!」
「勇者ナツよ、暇があればルイナーが眠る火口にも行っておけ。我らが一番乗りするためにな!」
「火口は行ったことあるから問題ないよ」
 到着したマヌカハニー戦闘狂旗団はこれから戦う悪魔王アスモデウスではなく、ルイナーについて話している。楽勝だと考えているのか、まるで気にしていない。

 彼らが降り立った瞬間に現れるべきであったのだが、諒太はタイミングを逃している。実際に見る彼らは勇者一行に相応しい。各々がオーラを纏っているように見えて、正直に圧倒されていたのだ。

「あれ? 最後の一人が近くにおるんよ!」
 次の瞬間、チカが声を上げる。どうやら彼女は諒太が近くにいることを確認したようだ。

「ええ? 嘘っ!?」
 やはり夏美は驚いている。諒太がどうやってログインしたのか、彼女には分からなかったはずだ。
 今こそが登場のタイミング。諒太は少しばかり緊張しながら、岩陰から姿を現す。

「よ、よう……」
「リョウちん!?」
 事前に説明しておくべきだったかもしれない。戸惑う夏美は何を口走るか分からなかったからだ。ならば、先に適当な話をしておくべきだろう。

「俺はアスモデウスを倒したばかりなんだ。だから待たせてもらった。急に用事がなくなってログインできたんだ。ナツにはログインできないと話してたけど……」
 諒太が先に話し出すことで夏美が落ち着けばそれでいい。何かしらの方法があるのだと察してくれるだけで良かった。

「リョウちん君……、君は一体……?」
 しかしながら、夏美よりも彩葉が困惑していた。彼女は諒太が異世界の勇者だと聞かされたのだ。以前に共闘したことがあったけれど、普通にログインしてくるなんて騙されたような気になっていることだろう。

「イロハ、俺はちょいと特殊なんだよ……」
 雰囲気を察して先に誤魔化す。夏美から話は聞いていたものの、彼女は本当に異世界の勇者であると信じていたらしい。

「わーわー! その大槌カッコいいんよ!」
 チカが早速と近付き、諒太の土竜叩きに触れている。諒太としては格好悪いと考えていたのだが、そこは残念なる幼馴染みの廃フレなのだろう。

「大槌とか不遇装備だな? 大賢者リョウ、貴様はそれでアスモデウスと戦ったのか?」
 ここでタルトが近付き諒太に右手を差し出している。ロークアットの創作本で見たままだ。漆黒のフルプレートはタルトに違いない。

 諒太は直ぐさまその手を取り、彼の質問に答え始める。
「最後に回避不能な火属性魔法を使うから、体力値が怪しい者には先立って回復魔法を使うべきだ。俺は金剛の盾を持っているから問題なかったけど……」

「なるほど、ならば同行願えるか? 聖王騎士イロハのレベルがまだ推奨値であるし、大司教チカは体力値がゴミなのだ」
「ゴミはないんよ! わたしは防御力と耐性値で生き残るし!」
 笑みを浮かべる諒太。やはりパーティーを組むのは楽しいと思う。こういった遣り取りがMMORPGの醍醐味なのだと。

「もちろん、そのつもり。俺はSランク魔法を使う。五発も撃てば倒せるはずだ」
「む? そういえばこのダンジョンからSランクスキルが解放されたのだったな……」
「地形変化は起きないから景気よく使ってくれ。あとアスモデウスには聖属性系の剣技や魔法が有効だから……」
 タルトは頷きを返している。恐らくは聖属性スキルを所有しているのだろう。この辺りは流石にトッププレイヤーであった。

「ならば大賢者リョウ! よろしく頼む!」
「ああ、こちらこそ!」
 大賢者と呼ばれるのは新鮮である。しかし、ジョブは明確に大賢者となっていた。諒太が望んだままに大賢者として合流できている。

「しかし、リョウはソロで倒したのか?」
 ここでアアアアが聞いた。レベルマであるのは分かっていたけれど、それでも超高難度クエストをソロでクリアしたなんて信じられない。

「アアアアさん、リョウちんはずっとソロだよ。教室でもソロなんだから!」
「うるせぇ。ボッチは好きでやってるんじゃない!」
 夏美が割り込んだことで笑い話となっている。流石に信じられないだろう。これまでの全てを口にしたとして、アアアアには理解できないはずだ。

「皆の者、出陣だ! 聞いたように聖属性スキルで圧倒するぞ!」
 ここにマヌカハニー戦闘狂旗団の六人が勢揃いをしている。

 意図せず訪れたクランデビュー戦。諒太は目一杯に暴れてやろうと思うのだった……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

戦闘職をしたくてVRMMOを始めましたが、意図せずユニークテイマーという職業になったので全力でスローライフを目指します

地球
ファンタジー
「え?何この職業?」 初めてVRMMOを始めようとしていた主人公滝沢賢治。 やろうと決めた瞬間、戦闘職を選んでいた矢先に突然出てきた職業は【ユニークテイマー】だった。 そのゲームの名はFree Infinity Online 世界初であるフルダイブ型のVRゲームであり、AIがプレイヤーの様子や行動を把握しイベントなどを考えられるゲームであった。 そこで出会った職業【ユニークテイマー】 この職業で、戦闘ではなくてスローライフを!! しかし、スローライフをすぐにはできるわけもなく…?

月が導く異世界道中extra

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  こちらは月が導く異世界道中番外編になります。

バランスブレイカー〜ガチャで手に入れたブッ壊れ装備には美少女が宿ってました〜

ふるっかわ
ファンタジー
ガチャで手に入れたアイテムには美少女達が宿っていた!? 主人公のユイトは大人気VRMMO「ナイト&アルケミー」に実装されたぶっ壊れ装備を手に入れた瞬間見た事も無い世界に突如転送される。 転送されたユイトは唯一手元に残った刀に宿った少女サクヤと無くした装備を探す旅に出るがやがて世界を巻き込んだ大事件に巻き込まれて行く… ※感想などいただけると励みになります、稚作ではありますが楽しんでいただければ嬉しいです。 ※こちらの作品は小説家になろう様にも掲載しております。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

もふもふで始めるVRMMO生活 ~寄り道しながらマイペースに楽しみます~

ゆるり
ファンタジー
ようやくこの日がやってきた。自由度が最高と噂されてたフルダイブ型VRMMOのサービス開始日だよ。 最初の種族選択でガチャをしたらびっくり。希少種のもふもふが当たったみたい。 この幸運に全力で乗っかって、マイペースにゲームを楽しもう! ……もぐもぐ。この世界、ご飯美味しすぎでは? *** ゲーム生活をのんびり楽しむ話。 バトルもありますが、基本はスローライフ。 主人公は羽のあるうさぎになって、愛嬌を振りまきながら、あっちへこっちへフラフラと、異世界のようなゲーム世界を満喫します。 カクヨム様にて先行公開しております。

召喚されたけど要らないと言われたので旅に出ます。探さないでください。

udonlevel2
ファンタジー
修学旅行中に異世界召喚された教師、中園アツシと中園の生徒の姫島カナエと他3名の生徒達。 他の三人には国が欲しがる力があったようだが、中園と姫島のスキルは文字化けして読めなかった。 その為、城を追い出されるように金貨一人50枚を渡され外の世界に放り出されてしまう。 教え子であるカナエを守りながら異世界を生き抜かねばならないが、まずは見た目をこの世界の物に替えて二人は慎重に話し合いをし、冒険者を雇うか、奴隷を買うか悩む。 まずはこの世界を知らねばならないとして、奴隷市場に行き、明日殺処分だった虎獣人のシュウと、妹のナノを購入。 シュウとナノを購入した二人は、国を出て別の国へと移動する事となる。 ★他サイトにも連載中です(カクヨム・なろう・ピクシブ) 中国でコピーされていたので自衛です。 「天安門事件」

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

『特別』を願った僕の転生先は放置された第7皇子!?

mio
ファンタジー
 特別になることを望む『平凡』な大学生・弥登陽斗はある日突然亡くなる。  神様に『特別』になりたい願いを叶えてやると言われ、生まれ変わった先は異世界の第7皇子!? しかも母親はなんだかさびれた離宮に追いやられているし、騎士団に入っている兄はなかなか会うことができない。それでも穏やかな日々。 そんな生活も母の死を境に変わっていく。なぜか絡んでくる異母兄弟をあしらいつつ、兄の元で剣に魔法に、いろいろと学んでいくことに。兄と兄の部下との新たな日常に、以前とはまた違った幸せを感じていた。 日常を壊し、強制的に終わらせたとある不幸が起こるまでは。    神様、一つ言わせてください。僕が言っていた特別はこういうことではないと思うんですけど!?  他サイトでも投稿しております。

処理中です...