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第四章 穏やかな生活の先に
お知らせ
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夏美はゴールデンウイーク最終日ともいえる、こどもの日を迎えていた。明後日は週末であったけれど、連休という一応の区切りがこどもの日である。
今日も今日とてクレセントムーンを装着し、夏美はゲームを始めていた。
ところが、
『新しいデータがあります』
どうやらアップデートがあるらしい。連休の区切りという妙なタイミングに苦笑しつつも、夏美はアップデート内容に期待をしながら、OKと念じていた。
割と大きなデータであるようだ。ダウンロードは10分ばかり続いている。修正パッチ程度かと思いきや、意外なことに新たなコンテンツが含まれている感じだ。
ダウンロードが終わるや、即座にお知らせがポップアップする。
夏美は息を呑んだ。想像すらしないお知らせ。何がどうなれば、そんなことになってしまうのかと。
「うそ……?」
にわかには受け入れられない。そのお知らせには疑問しか思い浮かばなかった。
【運命のアルカナⅡ発売決定!】
大好評いただいております運命のアルカナの続編です!
舞台は三百年後。かつて封印した暗黒竜ルイナーが再び目覚めようとしています。プレイヤーは再び世界を救う使命を負うことに……。
アルカナⅠで寄せられた不満点を全て解消したⅡの世界。より一層のヴァーチャル感と共に新しい冒険が始まります。
続編ではⅠのプレイデータにより様々な特典がもらえます。またⅠも継続してプレイ可能です。どうぞご期待ください!
【先行ダウンロード販売】6月1日より。
「どうすんのこれ……?」
夏美が動揺したのは運命のアルカナⅡの告知だけではない。続くお知らせが彼女を困惑させていたからだ。
【ルイナー封印作戦】
【日時】5月14日(土)夜9:00~15日0:00まで
【参加資格】全サーバー・全プレイヤー(途中参加可能)
【注意事項】
・勇者が参加できない場合は翌週同時刻に順延されます。以降の予備日は追ってご連絡いたします。
・参加プレイヤー全員に竜種特効5%付与。(封印式は勇者のみ)
【勝利条件】
・ルイナーに一定以上のダメージを与え、勇者が封印式を唱える。
【敗北条件】
・プレイヤーの全滅。
・勇者の死に戻り。
【報酬】
・ゲームクリアを達成した全員に続編を有利に進められるアイテムをプレゼント。
・クリアが早いほど豪華な景品がもらえます。
【捕捉】
プレイヤー並びに使役NPC・従魔の最大レベルは150。
今回クリアできなかったサーバーもご安心ください。運命のアルカナⅠは今後もサービスを継続いたします。定期的にルイナー封印イベントを開催いたしますので、ご心配なく! さあ暗黒竜ルイナーを封印しよう!
どうやら運営は本格的に続編へと移行させたいらしい。今も盛況である運命のアルカナであるが、続編を発売することで更なる利益を生み出そうとしているのかもしれない。
「三百年後……」
夏美は続編の発売よりも、その設定に驚いていた。
何しろ三百年後は勇者リョウの世界。異世界であるセイクリッド世界と同じ年代となる。夏美がプレイを始めると、またも歴史が書き換えられてしまうはず。
「あとでリョウちんに聞いてみよう……」
夏美はお知らせの続きに目を通す。他にもまだ重大なアップデートがあるのではないかと。
【超ハピル祭り】
【期間】アップデートより5月末日まで
【内容】超大経験値がもらえる超ハピルを狩ろう。超大経験値を手に入れるチャンス!
【推奨】Lv100以上(パーティー推奨)
【注意】超ハピルは強敵です。レベルが100未満では勝てる見込みはありません。攻撃を仕掛けなければ、戦闘を回避できます。
【ヒント】三大国の全てで出現。森を好むらしい。
次なるお知らせは新モンスターに関するもの。こちらもゲームクリアを促進するようなものであり、このアップデートに関しては問題ないと思われる。
【NPC育成キャンペーン】
【内容】お気に入りのNPCを育てよう!
これまであったレベル固定を撤廃します。NPCはプレイヤーごとにレベル管理されますので、自分が育てたNPCを他人に使われるという事態は起こりません。またパーティ内に同じNPCを組み入れることはできませんので悪しからず。
またNPC・従魔・子供の育成をすると続編で使用できる成長チケットを配布! 今のうちに育成をしてアルカナⅡで得しちゃおう!
【変更】NPC育成機能の実装により、従魔や子供の成長がこれまでよりも早くなります。
四つ目の告知はキャンペーンであった。何でもNPCが育てられるようになったらしい。NPCを育てたり、結婚をして子供を育てたり。六人未満のパーティーであれば、有効な選択肢となるだろう。
【新ダンジョン情報】
スバウメシア聖王国の南部【焔の祠】を解放します。最強の魔物【悪魔王アスモデウス】を君は討伐できるか!? 超高難度ダンジョンです!
【耳より情報】新ダンジョンはSランクスキル及び魔法が使用可能です。地形変化は起きません。
【推奨】Lv130以上(パーティー平均120以上)
【備考】続編に適合させるため、多岐に渡る仕様変更を実施いたします。既存プレイヤーの不利益には繋がりません。悪しからずご了承くださいませ。
最後のお知らせは新ダンジョンに関するもの。これも気にする内容ではなかった。最初の二つが衝撃的すぎて何の感想も思い浮かばない。
夏美は過度に不安を覚えつつもログインしていく。アアアアを迎えに行く約束なのだ。本日もマヌカハニー戦闘狂旗団での活動が予定されていたから。
真っ先にアアアアと合流し、夏美たちはエクシアーノの大通りへと転移する。向かう先はチカのお金で購入したクラン員専用施設。既に約束の時間を過ぎていたから、三人は夏美たちの到着を待っているはずだ。
「こんちゃす!」
夏美が扉を開くと、予想通りに全員が揃っていた。待ちかねていたようで直ぐさま挨拶が返されている。
「タルトさん、どうすんの? 何だか続編が出るみたいだけど……」
早速と夏美は尋ねている。ここにいるのは廃プレイヤーばかりだ。従って夏美は彼らの返答を分かっていたのだが……。
「当然、移行するぞ! しかし、セイクリッドサーバーは最速でクリアを目指す! それだけは譲れぬ!」
とりあえずは安心である。夏美としても負けるつもりはなかったけれど、14日にあるというルイナー封印作戦。どうやらタルトは延期をして強化を図るだなんて考えていないようだ。
「しっかし、いきなりだね?」
彩葉が呆れたようにいう。それもそのはず事前に何の情報もなかったのだ。一ヶ月以内の発売だなんて急すぎると思う。
彼女の話に頷いたのはアアアアである。
「プレイヤーマスターにはそれとなく通知があった。どうも現状のままであれば、不満の解消が難しかったらしい。アップデート対応を止めて、新作にて対応するとマスターメールに書いてあった。基本的にフィールドや敵キャラは変わらん。夏休み前に出す予定だったアップデートディスクを改良して新作にしたらしい」
アアアアが経緯を説明する。プレイヤーマスターであった彼は送りつけた数々の要望に、そのような返答をもらったという。
「そうそう、次は勇者のシステムを撤廃するんよ! 全員が勇者の子孫っていう設定みたいやね。スタートする国も最初に選べるねんて!」
同じくプレイヤーマスターであるチカが続けた。どうやら戦争イベントが成功しなかった運営はアクラスフィア王国から始まるという設定を撤廃したらしい。加えて数多くの問題を抱えた勇者についてもプレイヤー全員が勇者の末裔ということにしたようだ。
「アルカナⅠをプレイしとったら、追加料金は千円だけなんよ。レベルに応じて優遇処置もあるし、続編というより大規模な修正やね」
「なるほど、確かに根幹を変更するならば一旦終わらせて、新たに始める方が適切かもしらんな。既に勇者は全サーバーにいるのだから」
タルトも納得したようだ。プレイヤーマスターが理不尽な要求を突きつけた結果が続編という結果になったらしい。価格も既存ユーザーには割引販売があったりと、再炎上しないように頑張っているようだ。
「んでさ、アアアアさん……」
ここで彩葉が話題を変える。彼女は続編の話に興味がなかったのかもしれない。
「結婚しよ?」
非常に軽く切り出されたその話に一堂揃って唖然としてしまう。特に求婚されたアアアアはかなり動揺している。
「け、け、結婚!?」
「そう! 子供を育てたいのよ! 続編で成長チケットがもらえるなんて最高じゃん!」
刹那にガクリと肩を落とすのはアアアアである。どうも彼はリアルと混同してしまったらしい。
「なんだよ、ゲームの話か……」
「リアルのわけないっしょ? 私これでも引っ込み思案なんだから!」
「アホか。イロハが引っ込み思案だったら、この世に陽キャなんて存在しねぇよ……」
どうやらアアアアは彩葉の日常を知らないらしい。ゲームでの彼女は社交性に溢れており、現実の彼女がコミュ障であるなんて思いもしていないようだ。
「アアアアさん、それマジだから。現実のイロハちゃんは声ちぃぃぃぃっさいし、あたしくらいしかまともに会話できない」
「嘘だろ!? 信じられん……」
「今は陽キャロールなのよ! ゲーム以外では話しかけないでね!」
ひょんなことで彩葉の日常をアアアアは知ることになった。何だかおかしくて彼女の頭をポンポンと叩いている。
「旦那様と呼ぶのなら結婚してやろう……」
「ああん? ざっけんな。じゃあ、タルトさんと結婚すんわ!」
「ああ、嘘だって! タルトは再婚だし、こぶつきだし止めとけ!」
「我は初婚だ!」
大笑いする一同だが、本当に急な二人の結婚が決まった。無論のことゲーム内の話であるけれど、結婚だなんて何だか不思議な感じである。
「んなら、儀式しよか。わたしも一緒に僧兵と結婚するわ!」
「えええ!? んなことできんの!?」
「たぶん。最初は言うこと聞かへんかってんけど、今は言うこと聞くし、友好度の設定あると思うんよ」
言ってチカは僧兵を呼び出し、早速と儀式に使用するバイブルをアイテムボックスから取り出していた。
「合同結婚式なんよ。とりあえず誓いのチョーカー渡しとくわ」
「お、おう……」
「チカちゃん、つえーな……」
全員が困惑していたけれど、チカはバイブルを読み上げていく。用意するアイテムは誓いのチョーカーだけであり、結婚は司教級以上が祝詞を読むだけで成立できた。
「アアアアにイロハの婚姻をここに認める!」
チカは慣れたものだ。それはそのはずゲーム内で何度も請け負った仕事。何の感動もなく淡々とこなしていくだけであった。
「チカとインヴィタクスの婚姻をここに認める!」
続いて自身の結婚式も執り行ってしまう。
一応は僧兵にも名前があったらしい。だが、名を呼ばれても僧兵はピクリともせず、儀式が完了するのを待つだけだ。使役者には逆らえず、なすがままにチカの結婚相手となってしまう。
「僧兵君、意外とハンサムネームね……」
「ああ、ビックリだ……」
合同結婚式に参加した二人も流石に引いている。主要キャラであるのならまだしも、まさか召喚獣的な僧兵と結婚してしまうなんてと。
「あ、いけたわ!」
どうやら成立したらしい。チカはその証しとして輝きを放つ誓いのチョーカーを見せた。
これには呆れるを通り越して感心してしまう。ひたすら我が道を行くチカには言葉がなかった。
「チカ、お前は本当にマイペースだな……?」
「ええ? こんなんノリちゃうのん? アーちゃんたちもノリやったやん?」
「いやまあ、そうなんだが……」
一拍おいて、五人は再び笑い合っていた。まあ確かにと全員が納得している。ゲームであるのだから、深く考える必要などなかったのだ。
「さぁて、それじゃタルトさん、今日はどうすんの?」
夏美が話題転換を図る。割と時間を潰してしまった。しかし、優秀なリーダーが彼らにはいる。適切な行動を考えてくれるはずだ。
「うむ。我らは最短の5月14日にルイナーを封印する。逆算をして行動していくぞ」
やはり一番手は譲れないらしい。タルトは本日のお知らせにあった内容を見返しながら言葉を続けた。
「まずは超ハピルを狩る。アルカナⅠのレベル上限である150を目指そう。完全クリアを目指す我らはレベリングの途中で悪魔王アスモデウスを討伐。そのあとはひたすらレベリングをする。セイクリッドサーバーの同志たちが報酬を受け取れるようにな!」
タルトの話は全員の笑みを大きくしていた。本サービス開始から五ヶ月。やはりセイクリッドサーバーにいるプレイヤーは同志である。感謝を込めて最後にプレゼントするのは悪くなかった。
「で、手始めにチカ大司教、頼みがある!」
どうしてかタルトはチカにだけ用事があるらしい。天然な彼女に頼むくらいならアアアアや彩葉を頼ればいいものを。
「我と勇者ナツの装備製作費用を頼む!!」
全員が疑問を覚えていたけれど、話を聞けば納得であった。莫大な資金を持つ彼女にしか請け負えない話。貸してくれと言えないタルトは既にオリハルコンを取り出している。
「ええよ。ナッちゃんのフェアリーティアも貸して。越後屋さんとこでええのん?」
「越後屋で頼む!」
「越後屋さんでいいよ!」
チカは二人から素材と装備を受け取っている。パーティー内で製作請負などはよくあることであるが、フェアリーティアの錬成はともかく、タルトの装備生産は恐らく超高額になるだろう。
しかしながら、チカは二つ返事で了承し、支払い役を請け負っていた。
「ならば、レベリングに向かおうか!」
しばらくの間、夏美はドラゴンスレイヤーを失うけれど、強化のためであるから仕方がない。そもそもレベリングがメインなのだ。従って、誰も危機感を覚えていない。
方針が決まったところで、タルトが威勢よく声を張った。全員の士気を高めるように、高々と右腕を掲げながら……。
「さあ、伝説の最終章だ――――!」
今日も今日とてクレセントムーンを装着し、夏美はゲームを始めていた。
ところが、
『新しいデータがあります』
どうやらアップデートがあるらしい。連休の区切りという妙なタイミングに苦笑しつつも、夏美はアップデート内容に期待をしながら、OKと念じていた。
割と大きなデータであるようだ。ダウンロードは10分ばかり続いている。修正パッチ程度かと思いきや、意外なことに新たなコンテンツが含まれている感じだ。
ダウンロードが終わるや、即座にお知らせがポップアップする。
夏美は息を呑んだ。想像すらしないお知らせ。何がどうなれば、そんなことになってしまうのかと。
「うそ……?」
にわかには受け入れられない。そのお知らせには疑問しか思い浮かばなかった。
【運命のアルカナⅡ発売決定!】
大好評いただいております運命のアルカナの続編です!
舞台は三百年後。かつて封印した暗黒竜ルイナーが再び目覚めようとしています。プレイヤーは再び世界を救う使命を負うことに……。
アルカナⅠで寄せられた不満点を全て解消したⅡの世界。より一層のヴァーチャル感と共に新しい冒険が始まります。
続編ではⅠのプレイデータにより様々な特典がもらえます。またⅠも継続してプレイ可能です。どうぞご期待ください!
【先行ダウンロード販売】6月1日より。
「どうすんのこれ……?」
夏美が動揺したのは運命のアルカナⅡの告知だけではない。続くお知らせが彼女を困惑させていたからだ。
【ルイナー封印作戦】
【日時】5月14日(土)夜9:00~15日0:00まで
【参加資格】全サーバー・全プレイヤー(途中参加可能)
【注意事項】
・勇者が参加できない場合は翌週同時刻に順延されます。以降の予備日は追ってご連絡いたします。
・参加プレイヤー全員に竜種特効5%付与。(封印式は勇者のみ)
【勝利条件】
・ルイナーに一定以上のダメージを与え、勇者が封印式を唱える。
【敗北条件】
・プレイヤーの全滅。
・勇者の死に戻り。
【報酬】
・ゲームクリアを達成した全員に続編を有利に進められるアイテムをプレゼント。
・クリアが早いほど豪華な景品がもらえます。
【捕捉】
プレイヤー並びに使役NPC・従魔の最大レベルは150。
今回クリアできなかったサーバーもご安心ください。運命のアルカナⅠは今後もサービスを継続いたします。定期的にルイナー封印イベントを開催いたしますので、ご心配なく! さあ暗黒竜ルイナーを封印しよう!
どうやら運営は本格的に続編へと移行させたいらしい。今も盛況である運命のアルカナであるが、続編を発売することで更なる利益を生み出そうとしているのかもしれない。
「三百年後……」
夏美は続編の発売よりも、その設定に驚いていた。
何しろ三百年後は勇者リョウの世界。異世界であるセイクリッド世界と同じ年代となる。夏美がプレイを始めると、またも歴史が書き換えられてしまうはず。
「あとでリョウちんに聞いてみよう……」
夏美はお知らせの続きに目を通す。他にもまだ重大なアップデートがあるのではないかと。
【超ハピル祭り】
【期間】アップデートより5月末日まで
【内容】超大経験値がもらえる超ハピルを狩ろう。超大経験値を手に入れるチャンス!
【推奨】Lv100以上(パーティー推奨)
【注意】超ハピルは強敵です。レベルが100未満では勝てる見込みはありません。攻撃を仕掛けなければ、戦闘を回避できます。
【ヒント】三大国の全てで出現。森を好むらしい。
次なるお知らせは新モンスターに関するもの。こちらもゲームクリアを促進するようなものであり、このアップデートに関しては問題ないと思われる。
【NPC育成キャンペーン】
【内容】お気に入りのNPCを育てよう!
これまであったレベル固定を撤廃します。NPCはプレイヤーごとにレベル管理されますので、自分が育てたNPCを他人に使われるという事態は起こりません。またパーティ内に同じNPCを組み入れることはできませんので悪しからず。
またNPC・従魔・子供の育成をすると続編で使用できる成長チケットを配布! 今のうちに育成をしてアルカナⅡで得しちゃおう!
【変更】NPC育成機能の実装により、従魔や子供の成長がこれまでよりも早くなります。
四つ目の告知はキャンペーンであった。何でもNPCが育てられるようになったらしい。NPCを育てたり、結婚をして子供を育てたり。六人未満のパーティーであれば、有効な選択肢となるだろう。
【新ダンジョン情報】
スバウメシア聖王国の南部【焔の祠】を解放します。最強の魔物【悪魔王アスモデウス】を君は討伐できるか!? 超高難度ダンジョンです!
【耳より情報】新ダンジョンはSランクスキル及び魔法が使用可能です。地形変化は起きません。
【推奨】Lv130以上(パーティー平均120以上)
【備考】続編に適合させるため、多岐に渡る仕様変更を実施いたします。既存プレイヤーの不利益には繋がりません。悪しからずご了承くださいませ。
最後のお知らせは新ダンジョンに関するもの。これも気にする内容ではなかった。最初の二つが衝撃的すぎて何の感想も思い浮かばない。
夏美は過度に不安を覚えつつもログインしていく。アアアアを迎えに行く約束なのだ。本日もマヌカハニー戦闘狂旗団での活動が予定されていたから。
真っ先にアアアアと合流し、夏美たちはエクシアーノの大通りへと転移する。向かう先はチカのお金で購入したクラン員専用施設。既に約束の時間を過ぎていたから、三人は夏美たちの到着を待っているはずだ。
「こんちゃす!」
夏美が扉を開くと、予想通りに全員が揃っていた。待ちかねていたようで直ぐさま挨拶が返されている。
「タルトさん、どうすんの? 何だか続編が出るみたいだけど……」
早速と夏美は尋ねている。ここにいるのは廃プレイヤーばかりだ。従って夏美は彼らの返答を分かっていたのだが……。
「当然、移行するぞ! しかし、セイクリッドサーバーは最速でクリアを目指す! それだけは譲れぬ!」
とりあえずは安心である。夏美としても負けるつもりはなかったけれど、14日にあるというルイナー封印作戦。どうやらタルトは延期をして強化を図るだなんて考えていないようだ。
「しっかし、いきなりだね?」
彩葉が呆れたようにいう。それもそのはず事前に何の情報もなかったのだ。一ヶ月以内の発売だなんて急すぎると思う。
彼女の話に頷いたのはアアアアである。
「プレイヤーマスターにはそれとなく通知があった。どうも現状のままであれば、不満の解消が難しかったらしい。アップデート対応を止めて、新作にて対応するとマスターメールに書いてあった。基本的にフィールドや敵キャラは変わらん。夏休み前に出す予定だったアップデートディスクを改良して新作にしたらしい」
アアアアが経緯を説明する。プレイヤーマスターであった彼は送りつけた数々の要望に、そのような返答をもらったという。
「そうそう、次は勇者のシステムを撤廃するんよ! 全員が勇者の子孫っていう設定みたいやね。スタートする国も最初に選べるねんて!」
同じくプレイヤーマスターであるチカが続けた。どうやら戦争イベントが成功しなかった運営はアクラスフィア王国から始まるという設定を撤廃したらしい。加えて数多くの問題を抱えた勇者についてもプレイヤー全員が勇者の末裔ということにしたようだ。
「アルカナⅠをプレイしとったら、追加料金は千円だけなんよ。レベルに応じて優遇処置もあるし、続編というより大規模な修正やね」
「なるほど、確かに根幹を変更するならば一旦終わらせて、新たに始める方が適切かもしらんな。既に勇者は全サーバーにいるのだから」
タルトも納得したようだ。プレイヤーマスターが理不尽な要求を突きつけた結果が続編という結果になったらしい。価格も既存ユーザーには割引販売があったりと、再炎上しないように頑張っているようだ。
「んでさ、アアアアさん……」
ここで彩葉が話題を変える。彼女は続編の話に興味がなかったのかもしれない。
「結婚しよ?」
非常に軽く切り出されたその話に一堂揃って唖然としてしまう。特に求婚されたアアアアはかなり動揺している。
「け、け、結婚!?」
「そう! 子供を育てたいのよ! 続編で成長チケットがもらえるなんて最高じゃん!」
刹那にガクリと肩を落とすのはアアアアである。どうも彼はリアルと混同してしまったらしい。
「なんだよ、ゲームの話か……」
「リアルのわけないっしょ? 私これでも引っ込み思案なんだから!」
「アホか。イロハが引っ込み思案だったら、この世に陽キャなんて存在しねぇよ……」
どうやらアアアアは彩葉の日常を知らないらしい。ゲームでの彼女は社交性に溢れており、現実の彼女がコミュ障であるなんて思いもしていないようだ。
「アアアアさん、それマジだから。現実のイロハちゃんは声ちぃぃぃぃっさいし、あたしくらいしかまともに会話できない」
「嘘だろ!? 信じられん……」
「今は陽キャロールなのよ! ゲーム以外では話しかけないでね!」
ひょんなことで彩葉の日常をアアアアは知ることになった。何だかおかしくて彼女の頭をポンポンと叩いている。
「旦那様と呼ぶのなら結婚してやろう……」
「ああん? ざっけんな。じゃあ、タルトさんと結婚すんわ!」
「ああ、嘘だって! タルトは再婚だし、こぶつきだし止めとけ!」
「我は初婚だ!」
大笑いする一同だが、本当に急な二人の結婚が決まった。無論のことゲーム内の話であるけれど、結婚だなんて何だか不思議な感じである。
「んなら、儀式しよか。わたしも一緒に僧兵と結婚するわ!」
「えええ!? んなことできんの!?」
「たぶん。最初は言うこと聞かへんかってんけど、今は言うこと聞くし、友好度の設定あると思うんよ」
言ってチカは僧兵を呼び出し、早速と儀式に使用するバイブルをアイテムボックスから取り出していた。
「合同結婚式なんよ。とりあえず誓いのチョーカー渡しとくわ」
「お、おう……」
「チカちゃん、つえーな……」
全員が困惑していたけれど、チカはバイブルを読み上げていく。用意するアイテムは誓いのチョーカーだけであり、結婚は司教級以上が祝詞を読むだけで成立できた。
「アアアアにイロハの婚姻をここに認める!」
チカは慣れたものだ。それはそのはずゲーム内で何度も請け負った仕事。何の感動もなく淡々とこなしていくだけであった。
「チカとインヴィタクスの婚姻をここに認める!」
続いて自身の結婚式も執り行ってしまう。
一応は僧兵にも名前があったらしい。だが、名を呼ばれても僧兵はピクリともせず、儀式が完了するのを待つだけだ。使役者には逆らえず、なすがままにチカの結婚相手となってしまう。
「僧兵君、意外とハンサムネームね……」
「ああ、ビックリだ……」
合同結婚式に参加した二人も流石に引いている。主要キャラであるのならまだしも、まさか召喚獣的な僧兵と結婚してしまうなんてと。
「あ、いけたわ!」
どうやら成立したらしい。チカはその証しとして輝きを放つ誓いのチョーカーを見せた。
これには呆れるを通り越して感心してしまう。ひたすら我が道を行くチカには言葉がなかった。
「チカ、お前は本当にマイペースだな……?」
「ええ? こんなんノリちゃうのん? アーちゃんたちもノリやったやん?」
「いやまあ、そうなんだが……」
一拍おいて、五人は再び笑い合っていた。まあ確かにと全員が納得している。ゲームであるのだから、深く考える必要などなかったのだ。
「さぁて、それじゃタルトさん、今日はどうすんの?」
夏美が話題転換を図る。割と時間を潰してしまった。しかし、優秀なリーダーが彼らにはいる。適切な行動を考えてくれるはずだ。
「うむ。我らは最短の5月14日にルイナーを封印する。逆算をして行動していくぞ」
やはり一番手は譲れないらしい。タルトは本日のお知らせにあった内容を見返しながら言葉を続けた。
「まずは超ハピルを狩る。アルカナⅠのレベル上限である150を目指そう。完全クリアを目指す我らはレベリングの途中で悪魔王アスモデウスを討伐。そのあとはひたすらレベリングをする。セイクリッドサーバーの同志たちが報酬を受け取れるようにな!」
タルトの話は全員の笑みを大きくしていた。本サービス開始から五ヶ月。やはりセイクリッドサーバーにいるプレイヤーは同志である。感謝を込めて最後にプレゼントするのは悪くなかった。
「で、手始めにチカ大司教、頼みがある!」
どうしてかタルトはチカにだけ用事があるらしい。天然な彼女に頼むくらいならアアアアや彩葉を頼ればいいものを。
「我と勇者ナツの装備製作費用を頼む!!」
全員が疑問を覚えていたけれど、話を聞けば納得であった。莫大な資金を持つ彼女にしか請け負えない話。貸してくれと言えないタルトは既にオリハルコンを取り出している。
「ええよ。ナッちゃんのフェアリーティアも貸して。越後屋さんとこでええのん?」
「越後屋で頼む!」
「越後屋さんでいいよ!」
チカは二人から素材と装備を受け取っている。パーティー内で製作請負などはよくあることであるが、フェアリーティアの錬成はともかく、タルトの装備生産は恐らく超高額になるだろう。
しかしながら、チカは二つ返事で了承し、支払い役を請け負っていた。
「ならば、レベリングに向かおうか!」
しばらくの間、夏美はドラゴンスレイヤーを失うけれど、強化のためであるから仕方がない。そもそもレベリングがメインなのだ。従って、誰も危機感を覚えていない。
方針が決まったところで、タルトが威勢よく声を張った。全員の士気を高めるように、高々と右腕を掲げながら……。
「さあ、伝説の最終章だ――――!」
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雨井雪ノ介
ファンタジー
異世界へと突然放り込まれたレンは、魔法が支配するこの新たな世界で「選ばれざる者」として「無能」と軽蔑され、自らに魔力がないことを知る。しかし運命は彼に厳しい試練を与える。強大な力を秘めた危険な魔導書「憑依召喚」の入手は、彼に新たな可能性をもたらすが、その使用は彼の精神と身体に深刻なリスクを孕んでいる。「この力は望んで手に入れたものではないが、選んだのは俺自身だ」とレンは自らの選択とその結果に苦悩しながら前進する。
ある者から教示により、神々の謀略によってこの世界に導かれたことを知ったレンは、混沌とした勢力図の中で自らの立場を確立する決意を固める。彼の旅には、知恵と魅力を持つ妖精ルナ、謎多き存在の幽体クロウ、そして彼の恋人であり魅力的な転移者の翔子が加わる。彼らは共に、この世界を混乱に陥れる「黄金の者」を倒し、異世界の命運を左右する強制転移の連鎖を終わらせるべく、神界への道を求める。
彼らの使命は、神から下賜された魔導書を持つ勇者からそれを奪い、神界への扉を開くこと。しかし、この行動は勇者の命という重い代償を要求する。レンは「憑依召喚」の魔導書を使いながらも自らも狂気の淵に立たされ、その力と引き換えに自らの身体と心を危険に晒し、真の強さとは何か、力を制御するための強い意志を問う旅を進める。
かつて無力だったレンが、予測不可能な力を手に入れたことで、彼と彼の仲間たちは新たな試練に直面する。一度は神々から疎んじられた存在が、今や彼らを揺るがすほどの力を持つ者へと変貌を遂げる。その結末はまだ誰にも分からない。
「異世界の共犯者―神はもう許さない」
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