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第四章 穏やかな生活の先に

パーティーのあと

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 通話を切った諒太。思いのほかいい話ができた。世界がロークアットの創作本に近付いていくのなら、結末も同じにすべきだと思う。世界を救う五人の物語に、助力してみようと。

「リョウ様、入ります」
 ようやくとロークアットが雑務から解放されたようだ。

「ここは君の部屋だぞ?」
 諒太がそう返すと、即座に扉が開かれている。
 姿を見せたロークアットはドレスを着替えていた。とはいえ部屋着とはいえぬドレスであり、胸元には白銀のブローチが輝いている。

 やはり、気まずさを二人ともが感じていた。会話が繋がらないどころか、適切な話題があるのかどうかも分からない。

「申し訳ございませんでした……」
 静寂を破ったのはロークアットだった。どうしてか謝罪から始まっている。

「リョウ様を騎士にするとの話は、わたくしもあの場で初めて聞いたのです。正式にリョウ様を雇用するだけとしか……。大ごとになってしまいまして、何と申し上げていいやら……」
 どうもセシリィ女王が先走っただけのようだ。移籍に諒太が同意したことにより、あの場を借りて発表しようとしたのだろう。

「それなら君が謝ることじゃないな。そもそも初めから謝罪など必要ないし、俺こそ君に謝るべきだ……」
 諒太が返す。この度の騒動に被害者がいるのなら、それはロークアットだけである。論争の中心人物であったけれど、彼女は一言ですら絡んでいないのだ。

「俺の発言に他意はない。俺のせいで世界が対立するのなら、中立につくべきと判断しただけ。ロークアットを傷付けるつもりなんてなかったんだ……」
 頭を下げる諒太。ロークアットの気持ちも考えず、意見したこと。本心を告げただけであるが、やはり配慮を欠いていたと思う。

「ああいえ、事前に何の話もなかったことが原因です。リョウ様の立場を考えると、当然の決定かと存じます……」
「そう言ってもらえると助かる。本当に世話になりっぱなしだ。ロークアットに出会ってから……」
 諒太はここまでの記憶を思い返している。彼女には事あるごとに助けてもらったことを。

「だからそこ、俺は君に誓うよ……」
 感謝と誠意の証し。諒太にできること。ロークアットにだけは約束しようと思う。

「俺は必ず世界を救う――――」

 勇者としての使命であったが、諒太はそれを恩返しとした。

 急速に動き始めたこの世界。朧げであった結末が、垣間見られるようになっている。
 最終局面が近付いていることは明らか。再開する勇者業に集中しなければならない。幸いにも連休中であり、レべリングするには最適なのだ。

「リョウ様……」
「親愛なる姫殿下のため。奴隷は主人のために戦うだけだよ……」
 重くなりそうな雰囲気を嫌ったのか、冗談にも似た話で締めた。

 やはり不安はあったけれど、決意は変わらない。世界を救う力は諒太にしかないのだ。守りたい人たちが暮らすセイクリッド世界を諒太は守りたかった。

「ミーナ枢機卿から、明日奴隷契約の解除を行うと聞きました。リョウ様はもう旅立たれるおつもりでしょうか?」
 ロークアットが問う。既に完済できる金額を手に入れたのだ。別れが近いこと。それだけは明らかであった。

「いいや、しばらくは聖王国に留まるつもりだ。俺は何かしらの恩返しがしたいし……」
「そうでしたか。それなら嬉しく存じます!」
「いっとくが、夜は天界に帰るからな? この部屋で寝るのは今日が最後だ……」
 追加的な諒太の話には一転して表情を曇らせる。今のような暮らしが続くわけではないと知って。

「聖王国は何か俺にして欲しいことってあるか?」
「どうですかね。わたくしからは特にございませんけれど、お母様なら何かあるかもしれません」
「そっか、明日また聞いてみるよ」

 やはり恩義に報いる必要がある。奴隷契約の終了が聖王国を離れる理由にはならない。
 聖王国のために何かを成し遂げ、諒太は旅立つ決意を固めている……。

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 サンセットヒルの攻略を終えたマヌカハニー戦闘狂旗団。遅い夕飯を済ませてから再集合していた。

「さて、イロハのレベルも94まで上がった事だし、次はどこでレべリングする?」
 アアアアが聞く。サンセットヒルでの戦いは実りがありすぎたのだ。レべリングだけでなく、レアスクロールまでゲットできた。彼はこの調子で突き進み、レベル上げやアイテムを手に入れようと目論んでいる。
 ところが……、

『イベント【迷子のロークアット姫殿下】残り時間はあと3時間です』

 唐突に告げられてしまう。ゴールデンウィークはまだ続くはずなのに。どうしてかイベント終了のカウントダウンが画面に表示されていた。

「ええ!? どして中途半端なの!?」
 夏美が戸惑っている。それはそのはず明日も祭日なのだ。明後日の6日は平日であったけれど、世間の認識は8日までがゴールデンウィークである。

「まいったな。ガナンデル皇国移籍キャンペーンと同じだと思ってた……」
「そうやねぇ。そういえばお知らせには開始時間しか書いてへん……」
 アアアアとチカが溜め息混じりに言った。確認してみると移籍キャンペーンについては8日までと明記があるものの、迷子イベントに関しては開始日時しか表記がない。

「皆の者、まだ三時間あるではないか? 我らは毎日のノルマをこなしていた。よってまだクリア可能だ!」
 諦めムードの中、タルトが声を張った。基本的に朝一はロークアットのイベントをこなしていた彼らは仕上げを残すだけだと言いたげである。

「タルトさん、何か分かる? 最後はエクシアーノに戻ったっていう情報だったけど、エクシアーノでは一つの情報もなかったんだよ?」
 朝の聞き込みではエクシアーノで何の情報も得られなかった。よって明日以降にストーリーが進むと考えていたのだ。

「うむ、それな……」
 タルト自身も明日以降だと決めつけていた。ヒントすらない中で捜索を強いられるだなんて、流石にないだろうと考えていたというのに。

「わっかんないねぇ……」
 彩葉もまた頭を振っている。最大都市であるエクシアーノは聞き込みだけでも数時間かかってしまう。再び聞き込みを始めたとして、時間内にイベントをクリアできるか分からない。

「聞き込みする? 面倒だけど……」
「勇者ナツ、それは愚策だ。恐らく運営はヒントなど用意していない。今朝の段階からイベントが更新されたなんてことはないはずだ」
 夏美の話をタルトは否定する。ここから先はノーヒントだと口にしていた。

「エクシアーノに戻ったという司教の話が最後のヒントだろう……」
 全員が頷いている。全員参加型であるというのに、クリアさせまいという運営の企み。瞬時に同意できるものであった。

「だったら、どこを捜す? 隠れてんじゃねぇのか?」
「聖都エクシアーノでの聞き込みで情報が一つもないこと。我はそれこそがヒントだと考える……」
「ほう、その心は?」
 どうやらタルトは回答を導き出しつつあるらしい。情報は一つも聞き出せなかったというのに。

「ロークアットは聖王城にいる――――」

 続けられた話に全員が息を呑んだ。流石に受け入れられない。そもそもスバウメシア王家が捜索依頼を出しているのだ。既に城へと戻っているだなんてあり得なかった。

「おいおい、流石にそれは運営でもしないんじゃないか?」
「そうか? エクシアーノに向かったのは間違いない。ポータルの司教に聞いた話なのだからな。街中の全員がロークアットを見ていないのだ。だったら、聖王城に隠れていると思わんか?」
 あり得ないと感じながらも、そうとしか考えられない。嫌がらせが得意な運営であればと。

「まあ確かに。聖王城なら全体を捜しても時間はかからねぇしな……」
「大正デモクラシーやねん!」
「チカちゃん、冗談でも寒いわ。それ……」
 一応は全員が聖王城での捜索に同意している。エクシアーノの聞き込みが間に合うとは思えない。ならば捜索範囲を聖王城に絞ってみるのは悪くなかった。

 同意した五人は揃って聖王城へと入っていく。
 夏美は少し意外に思っていた。タルトが進んで聖王城へと入ったこと。彼はもう過去を捨てたとばかり考えていたというのに。

「タルトさん、良かったの?」
 道すがら聞いてしまう。現状は諒太の依頼に従っているとは思えず、彼は自身の意志によって聖王城へとやって来たのだろうと。

「勇者ナツ、我はタルトだ。それ以外の何者でもない」
 返答は期待したものと違っている。けれども、夏美は彼の心情を推し量っていた。

 BANされると分かって不正アイテムに手を染めたこと。その事実だけで彼の心情は理解できた。生まれ変わったとして変わらぬ感情があるはずだと。

「それで皆の者、恐らく看破が必要になるだろう。従って別れて捜索しても意味などない。NPCに聞き込みをしつつ、地下の牢獄から捜索を始めよう」
 勝手知ったる聖王城。彼は聖王城の地下にある牢獄から捜索しようと言った。

 他に案もなく、五人は地下から上階へと上がっていくことに。狙いをつけて捜索するよりも、ローラー作戦を選択していた。

「おお、また私の出番かね? まいっちゃうなー!」
「イロハ、調子に乗るなよ? 恐らくめちゃくちゃ看破することになる。ポーション分けてやらねぇぞ?」
 スキル【看破】もまた体力を消費する。熟練度が低く狭い範囲しか一度に看破できない彩葉は相当消耗するはずだ。

「ポーションちょうだいね? てへぺろ!」
「カワイ子ぶんな。悪役令嬢だろ?」
「ひどい! 大司教様、回復おなしゃす!」
「ええよぉ。息切れしたらいうてね?」
 チカが仲間で良かったと心底思う。恐らくイベント報酬は美味しくない。従ってポーションを使いまくるなんて割に合わないのだ。

 五人は牢獄へと到着。端から彩葉が看破していくも、何も見つからない。加えて時間が想像よりもかかっている。熟練度は一つ上がったけれど、地下牢を隈無く看破するだけで三十分近くもかかってしまった。

「やべぇ、これは時間が足りねぇんじゃないか?」
 アアアアが漏らすようにいう。それはそのはず、聖王城にあって地下牢は一番狭い階層なのだ。そこで三十分もかかるようではとても最上階まで看破できない。

「ならば聞き込み組と看破組に分かれるぞ。イロハとチカは引き続き一階の看破。我らはNPCが情報を持っていないか聞いて回る!」
 時間切れなど許されない。即座に五人は散開し、各々が担当範囲にて行動を開始する。ここまでやったのだから、絶対にクリアしてやろうと。

 彩葉たちが厨房を看破し終えた頃、全員が聞き込みから戻ってきた。
「やはりロークアットは聖王城にいるんじゃねぇか? 裏門の守衛が眠りこけていた。不自然に扉が開いていたぞ!」
 アアアアが有力な情報を持ち帰っている。厳密に聞き込みをした情報ではなかったけれど、いつもは扉の前に立っているNPCが眠っていたのだという。

「ほう、でかした! なるほど、一応はヒントも用意しているのだな」
「あたしの方は何もなし。最上階と三階はいつも通りだった!」
 夏美の方は収穫がなかったらしい。三階は二階と同じ広さであったが、最上階は狭く夏美が担当したという。

「我が得た情報は女王の誕生パーティーがこのあと開催されるというものだ。一応は会場でも聞き込みをしたけれど、何の情報もない」
「タルトさん、じゃあセシリィ女王に会ったの?」
 積極的な行動を見せたタルトに夏美が聞いた。早くも諒太が望んだ展開になったのかと。

「いや、女王の控え室は衛兵が立っていてな。中に入り込めなかった……」
 どうやら期待した展開にはならなかったようだ。しかしながら、誕生パーティーという新たなイベントの匂わせ情報が得られている。

「それならどこを捜すん? もう時間あれへんよ? あと一時間半しかないし」
 チカの話に全員が眉根を寄せる。まだ地下牢と厨房しか看破し終えていないのだ。全てを看破する時間など残されていない。
 ひとしきり考えたあと、夏美が手を挙げる。

「リョウちんに聞こう――――」
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