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第三章 希望を抱いて
幼馴染みとの長話
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ログアウトをした諒太は夏美に電話していた。どうにもおかしな話となっていること。自分だけで考えるよりも夏美の意見を聞いてみようと。
『もしもし、リョウちん?』
「ああ、すまんな。とりあえずログアウトしてきたんだ。それで少し聞きたいんだけど、オークションで公開される俺のステータスチェックがおかしいんだ。俺はできるだけ高額で落札されたいのに、どうしてか俺に戦闘魔法適性がないっていうんだよ」
戦闘魔法まで扱えるとすれば、もっと多くの参加者が見込める。けれど、グインは諒太に戦闘魔法適性がないと判定していた。
『あー、それね。隠しステータスチェックでもよくあるバグだよ……』
とりあえず聞いてみただけだが、意外にも夏美は回答を持っていた。彼女自身も経験したことなのか、ゲーム上の不具合だと口にしている。
「バグ? 頻繁にあることなのか?」
『いやあ、大抵の場合は普通にチェックされるはず。ただ数値が突き抜けてる人は適正なしって言われる場合が稀にあんの。あたしが入ってたクランにもいたよ。大福さんは魅力値が最低だと言われてたし、アアアアさんだって戦闘魔法の適性はないっていわれてた』
具体的な話に諒太は頷いている。セシリィ女王をいち早く攻略したいちご大福の魅力値が低いはずもなく、夏美と同じクランにいたというアアアアの本職が適正なしのわけがない。そういった判定の原因はステータスが突き抜けていたせいだという。
「いやでも、俺は魅力値がズバ抜けてるってリナンシーに言われたけど? いちご大福が調べたのはリナンシーじゃないのか?」
バグが恒常的に発生するのであればリナンシーの話に疑問が生じる。諒太は彼女に錬金術の才能まで見抜かれていたのだ。
『どういう切っ掛けでバグが生じるのか分からないんだよね。アアアアさんの野心値は普通に絶賛されてたよ。そのアアアアさんは今じゃ国務大臣だけじゃなく公爵だし……』
「ああ、そいつな……。面倒な子孫を残してやがんだよ……」
『ええ!? アアアアさんはまだ結婚してないよ!?』
脱線話となってしまったのだが、諒太の話は夏美の興味を惹く。いちご大福の子孫はまだしも、ゲーム内結婚をしていないアアアアに子孫がいるなんてと。
『どんな子供!? やっぱドワーフっぽい!?』
「いや普通に人族っぽいぞ。セリス・アアアア公爵令嬢だ……」
諒太の返答に、ううんと夏美は唸るようにして考え込む。人族っぽい見た目には疑問が残るようだ。
『それってプレイヤーと結婚したんじゃないかな?』
悩んだ挙げ句、夏美はそんな結論を出した。何かしらの理由がある感じだ。ただの憶測とは思えない。
「どうしてそう思う? ガナンデル皇国には割と人族もいるけど?」
『いや、どの国もそうなんだけど、結婚できるNPCは固有種族が大半なの。皇国で人族のNPCと結婚したなんて聞いたことがないよ。好感度設定がなかったりするし。まあでも絶対とは言えないんだけどね』
夏美が理由を語る。皇国であればNPCはほぼドワーフなのだ。稀にいる人族には好感度が設定されていない場合が多いと彼女はいう。
「んん? 俺の予想と違うな。俺は全てのキャラクターに好感度設定があると思う。皇国の人族NPCは好感度が上がりにくいだけじゃないか?」
『どうしてそう思うの?』
諒太の仮説を夏美は信じていないようだ。しかし、プレイヤーたちは過去に間違いを犯している。諒太はそれを知っているのだ。
「要は結婚イベント相当の好感度設定はキャラクターごとに違うんだよ」
諒太の説明に夏美はふぅんと声を出す。今のところはピンと来ていない感じである。
だがしかし、夏美は聞かされていた。自分たちが知らない好感度設定について。
「リナンシーにもその好感度設定がある――――」
声を詰まらせる夏美。諒太の話には首を振るしかない。
『妖精女王の好感度はフェアリーティアの数だけっしょ!? 上げきったプレイヤーにはフェアリーティア二個とローブがもらえるだけだって!?』
流石に反論があった。既に攻略ページではリナンシーの好感度最大値について結論が出ているらしい。マックスまで上げきると、フェアリーティア二個に加え、妖精女王のローブがもらえるのだと。
「それは違うぞ。何しろ俺はフェアリーティアを三個もらったからな……」
『いやリョウちんは現実じゃん! ゲームの設定とは違うんだよ!』
どうあっても夏美は真実を受け入れない。妖精女王のイベントから、もう何ヶ月も経過しているのだ。攻略ページが間違っているとは思えなかったらしい。
「そうか? 俺はその後もリナンシーにフェアリーティアを要求したが、彼女は最初しかフェアリーティアを渡せないと話してた。今もリナンシーはゲームの理に縛られたままだ」
『でも、セイクリッド世界の妖精女王は小さかった! ゲームとは違うって!』
夏美は何とかツッコミどころを見つけている。彼女自身もリナンシーに会ったのだ。変わり果てた姿をした妖精女王に。
「あれは仮の姿。本当は俺と同じくらいの背丈がある。あの入国イベントで俺はリナンシーの好感度をマックスにして求婚されたんだ。それを断ったら、無理矢理に加護を押し付けられてな。あの姿は加護そのもの。今じゃどこにでもついてきやがる……」
もう夏美は異論を唱えなかった。どうにも信じられなかったけれど、諒太が嘘を教えるはずもない。また彼の魅力値が異様に高いことは既に知っていることであった。
『リョウちん、あり得ないよ……。リナンシーに結婚イベントがあるなんて誰も考えていないのに……』
「まあそういうことだから、お前たちプレイヤーもまだまだ未知の部分があるってことだ。それよりアアアアについて聞きたいんだが、公爵家ってのは王族に次ぐ存在だろう? NPCの姫君と結婚せずに手に入る地位なのか?」
ここで諒太が質問を加える。アアアアが公爵家の一員であるのはセイクリッド世界でも明らか。しかし、どうやってその地位を得たのか気になっている。レベリングなどできない諒太は暇つぶしも兼ねて聞くことにした。
『アアアアさんは国務大臣に指名されてから公爵家の養子に入ったんだけど、当主の好感度をカンストさせただけでなく、奥さんから親戚まで上げきっちゃってさ。公爵家の跡取りだったのが、正式に公爵の地位を継いだんだよ』
「マジかよ? そんな例って他にもあんのか?」
『公爵家を攻略したのはアアアアさんだけだね。ネットでは魅力値だけじゃなく、賢さや野心値も必要だろうって書いてたよ。その点では聖王国の王配よりも難しいみたい。何しろ皇国の大臣にならなきゃ、公爵家のイベントは発生しないんだって。他のサーバーでもトライした人が多いけど、国務大臣すら誰も指名されてないの。ハッキリいって無理ゲーらしいよ』
アハハと笑う夏美。かつて一緒にプレイしていたアアアアの現状は彼女としても信じられないもののようだ。
「しっかし、お前の廃フレはおかしいだろ? 王配に公爵に勇者? 聖騎士だったイロハが一般人に思える……」
「デカ盛りいちごパフェ団は全員が廃プレイしてたし。あの頃は楽しかったなぁ!」
非常に残念なクラン名はともかく、メンバーの現状はあり得ないと思う。それこそ勇者一行に相応しい。錚々たる顔ぶれは、どのサーバーにあっても異彩を放っていたことだろう。
軽く笑い飛ばす夏美のように周囲は見ていなかったはずだ。
夏美との長話をしている諒太。暇つぶしには丁度良い時間となっている。この一ヶ月はずっと戦っていたのだ。束の間の休息として諒太は会話を続けている。
「そういや、お前たちは回復役をパーティーに入れてなかったのか?」
ここで気になる話題を投げてみる。思えば夏美はずっと彩葉とだけ行動していたのだ。諒太が知る限り、昔は最低でも四人いたはず。しかし、治癒士的なジョブについては聞いたことがない。
『いたことはいたんだけど……』
重い口ぶりに諒太は推し量っている。恐らくは死に戻り。基本的に無茶をする夏美のせいで失われたのだと思う。
「ナツ、お前のせいだろ?」
『いやだって、しょうがないじゃん! チカちゃん、異様に弱かったんだもん!』
どうやら予想通りだ。無茶に付き合ったチカとやらは失われ、そのチカはもうクランに戻ってこなかったのだろう。嫌気が差してクランを抜けたのだと考えられた。
「ゲームは楽しむべきだ。弱かったとして守ってやれよ?」
『守る以前の問題だもん! バグとしか思えないよ!』
ここで諒太は眉根を寄せる。夏美が話す弱さ。話を聞く限り、キャラ操作が下手というわけではなさそうだ。
「基礎値がオール1とかなのか?」
『ううん、違う! 武闘派の治癒士で能力はトップレベルだよ!』
おかしな話だ。ステータスに恵まれているのなら、頼み込んででも同行を願っただろうに。
しかし、諒太は知らされている。チカという治癒士がクランを抜けた理由について。
『体力値がホーンラット並なの!――――』
スマホを片手に諒太は眉間に指を当てた。
ホーンラットとは最弱の魔物。流石に冗談ではあるだろうが、それほどまでに体力が少なかったと夏美はいう。
「ホーンラットとか酷すぎないか?」
『ホントだって! チカちゃんはAランク体術すら実行できないの! Bランク体術一回で息切れしちゃうくらいに!』
体術と聞けば、チカがモンクであることに疑いはない。体術を駆使し、自身を守りながら、パーティー内の体力管理をしていたはずだ。
「大袈裟にいうなよ?」
『それが大袈裟じゃないの! ステータスは神レベルなんだけど、間違いなく最弱の体力だもん! レベルが上がれば問題ないと、あたしたちは考えてたんだけど、レベルが50になっても70になっても全然上がらなかったのよ! だから、教会所属となるように勧めて、パーティーから外れてもらったの!』
どうも諒太が考えた結末ではないようだ。見かねた夏美たちがチカにパーティーを抜けるよう説得したらしい。
「しかし、弱いからって仲間はずれはないだろう?」
『今でも仲良しだもん! 信じてないだろうけど、チカちゃんの体力値はリョウちんの幸運値並だからね?』
具体例を挙げられた諒太は何も言い返せなかった。自身の幸運値を考えるとあり得なくはない。諒太もステータスに恵まれているのだ。極度に低い幸運値を除けば……。
「なるほど、それは辛いな。俺はまだ幸運値だからマシだが、冒険者として体力値が最低なのはどうしようもない……」
『そうなのよ。やり直して何とかなるレベルじゃないってわけ! だから正教会に所属してゲームを続けたらと説得したのよ』
「しかし、教会所属って楽しいのか? 俺には全く理解できないんだが……」
戦ってこそゲームだと考えている諒太は神職に就くメリットが少しも分からない。毎日祈るだけなのだとしたら、一日で飽きてしまいそうだ。
『あたしは悪くないかもと思ってるよ?』
意外にも夏美はそんなことをいう。バリバリの戦闘員であるはずが、教会所属を悪く言わなかった。
「どうしてそう思う?」
『だって教会は三国共通の組織だもん。自由にログイン場所を変えられるのがメリットだね。別に戦闘がないわけじゃないし。神に仕える司祭たちは日々悪と戦ってんの。悪魔や悪霊の類だけでなく、魔物や盗賊から信徒たちを守るために僧兵団を組織してる。騎士団とかぶるような役割があって、祈るだけが仕事じゃないのよ。インテリジェンスと信仰値が高かったら、あたしも僧兵団に入ってたかもしんない』
夏美は僧兵団についての説明を終えた。聞けば夏美は僧兵団も悪くないと考えていたようだ。
「ステータス縛りがあんのか?」
『そうなの。正教会はガナンデル皇国と同時期に解放されたからね。中立都市国家アルカナへ所属するにはINT値が90以上あって、尚且つ信仰値も最大評価をもらわなきゃいけない。あと野心値が高すぎても無理みたいだね。あたしはINT値を満たしていないし、勇者補正で野心値は爆上がり。勇者を辞めても野心値はアウトかもしれない』
「隠しステータスか。それにしてもチカってやつは残念だな。能力が高くても戦えないなんて、俺ならゲームをやめてるよ」
『面白そうだよ? 大司教に昇格したら、やりたい放題になったみたい。大司教には僧兵NPCが十人与えられて、それを育てられるんだって。今じゃ育てた僧兵に指示を出して盗賊団を壊滅に追い込んだり、魔物まで狩ってレベリングしてるらしいの。めちゃくちゃ脳汁でるって言ってた』
「マジか。参謀プレイとかできんのな。まあ所属に縛られないのは良いかもしれん」
『そゆこと! イベントは限られるけど、メリットもあんだよ!』
夏美との長話。彼女はプレイ中であったから、諒太はそろそろ話を打ち切ることにする。高校生になって初めて勉強でもしようかと諒太は考えたのだ。
「サンキュー。オークションの結果はまた連絡するよ」
『はいよ! 大富豪に落札されるといいね?』
考えていたよりも悲愴感のない奴隷生活が始まろうとしている。
諒太は通話を切るや、考えていたように机に向かっていた。少しくらいは勉強もして授業に置いていかれないようにと。
何だか諒太は色々な意味で新生活が始まるような気になっていた……。
『もしもし、リョウちん?』
「ああ、すまんな。とりあえずログアウトしてきたんだ。それで少し聞きたいんだけど、オークションで公開される俺のステータスチェックがおかしいんだ。俺はできるだけ高額で落札されたいのに、どうしてか俺に戦闘魔法適性がないっていうんだよ」
戦闘魔法まで扱えるとすれば、もっと多くの参加者が見込める。けれど、グインは諒太に戦闘魔法適性がないと判定していた。
『あー、それね。隠しステータスチェックでもよくあるバグだよ……』
とりあえず聞いてみただけだが、意外にも夏美は回答を持っていた。彼女自身も経験したことなのか、ゲーム上の不具合だと口にしている。
「バグ? 頻繁にあることなのか?」
『いやあ、大抵の場合は普通にチェックされるはず。ただ数値が突き抜けてる人は適正なしって言われる場合が稀にあんの。あたしが入ってたクランにもいたよ。大福さんは魅力値が最低だと言われてたし、アアアアさんだって戦闘魔法の適性はないっていわれてた』
具体的な話に諒太は頷いている。セシリィ女王をいち早く攻略したいちご大福の魅力値が低いはずもなく、夏美と同じクランにいたというアアアアの本職が適正なしのわけがない。そういった判定の原因はステータスが突き抜けていたせいだという。
「いやでも、俺は魅力値がズバ抜けてるってリナンシーに言われたけど? いちご大福が調べたのはリナンシーじゃないのか?」
バグが恒常的に発生するのであればリナンシーの話に疑問が生じる。諒太は彼女に錬金術の才能まで見抜かれていたのだ。
『どういう切っ掛けでバグが生じるのか分からないんだよね。アアアアさんの野心値は普通に絶賛されてたよ。そのアアアアさんは今じゃ国務大臣だけじゃなく公爵だし……』
「ああ、そいつな……。面倒な子孫を残してやがんだよ……」
『ええ!? アアアアさんはまだ結婚してないよ!?』
脱線話となってしまったのだが、諒太の話は夏美の興味を惹く。いちご大福の子孫はまだしも、ゲーム内結婚をしていないアアアアに子孫がいるなんてと。
『どんな子供!? やっぱドワーフっぽい!?』
「いや普通に人族っぽいぞ。セリス・アアアア公爵令嬢だ……」
諒太の返答に、ううんと夏美は唸るようにして考え込む。人族っぽい見た目には疑問が残るようだ。
『それってプレイヤーと結婚したんじゃないかな?』
悩んだ挙げ句、夏美はそんな結論を出した。何かしらの理由がある感じだ。ただの憶測とは思えない。
「どうしてそう思う? ガナンデル皇国には割と人族もいるけど?」
『いや、どの国もそうなんだけど、結婚できるNPCは固有種族が大半なの。皇国で人族のNPCと結婚したなんて聞いたことがないよ。好感度設定がなかったりするし。まあでも絶対とは言えないんだけどね』
夏美が理由を語る。皇国であればNPCはほぼドワーフなのだ。稀にいる人族には好感度が設定されていない場合が多いと彼女はいう。
「んん? 俺の予想と違うな。俺は全てのキャラクターに好感度設定があると思う。皇国の人族NPCは好感度が上がりにくいだけじゃないか?」
『どうしてそう思うの?』
諒太の仮説を夏美は信じていないようだ。しかし、プレイヤーたちは過去に間違いを犯している。諒太はそれを知っているのだ。
「要は結婚イベント相当の好感度設定はキャラクターごとに違うんだよ」
諒太の説明に夏美はふぅんと声を出す。今のところはピンと来ていない感じである。
だがしかし、夏美は聞かされていた。自分たちが知らない好感度設定について。
「リナンシーにもその好感度設定がある――――」
声を詰まらせる夏美。諒太の話には首を振るしかない。
『妖精女王の好感度はフェアリーティアの数だけっしょ!? 上げきったプレイヤーにはフェアリーティア二個とローブがもらえるだけだって!?』
流石に反論があった。既に攻略ページではリナンシーの好感度最大値について結論が出ているらしい。マックスまで上げきると、フェアリーティア二個に加え、妖精女王のローブがもらえるのだと。
「それは違うぞ。何しろ俺はフェアリーティアを三個もらったからな……」
『いやリョウちんは現実じゃん! ゲームの設定とは違うんだよ!』
どうあっても夏美は真実を受け入れない。妖精女王のイベントから、もう何ヶ月も経過しているのだ。攻略ページが間違っているとは思えなかったらしい。
「そうか? 俺はその後もリナンシーにフェアリーティアを要求したが、彼女は最初しかフェアリーティアを渡せないと話してた。今もリナンシーはゲームの理に縛られたままだ」
『でも、セイクリッド世界の妖精女王は小さかった! ゲームとは違うって!』
夏美は何とかツッコミどころを見つけている。彼女自身もリナンシーに会ったのだ。変わり果てた姿をした妖精女王に。
「あれは仮の姿。本当は俺と同じくらいの背丈がある。あの入国イベントで俺はリナンシーの好感度をマックスにして求婚されたんだ。それを断ったら、無理矢理に加護を押し付けられてな。あの姿は加護そのもの。今じゃどこにでもついてきやがる……」
もう夏美は異論を唱えなかった。どうにも信じられなかったけれど、諒太が嘘を教えるはずもない。また彼の魅力値が異様に高いことは既に知っていることであった。
『リョウちん、あり得ないよ……。リナンシーに結婚イベントがあるなんて誰も考えていないのに……』
「まあそういうことだから、お前たちプレイヤーもまだまだ未知の部分があるってことだ。それよりアアアアについて聞きたいんだが、公爵家ってのは王族に次ぐ存在だろう? NPCの姫君と結婚せずに手に入る地位なのか?」
ここで諒太が質問を加える。アアアアが公爵家の一員であるのはセイクリッド世界でも明らか。しかし、どうやってその地位を得たのか気になっている。レベリングなどできない諒太は暇つぶしも兼ねて聞くことにした。
『アアアアさんは国務大臣に指名されてから公爵家の養子に入ったんだけど、当主の好感度をカンストさせただけでなく、奥さんから親戚まで上げきっちゃってさ。公爵家の跡取りだったのが、正式に公爵の地位を継いだんだよ』
「マジかよ? そんな例って他にもあんのか?」
『公爵家を攻略したのはアアアアさんだけだね。ネットでは魅力値だけじゃなく、賢さや野心値も必要だろうって書いてたよ。その点では聖王国の王配よりも難しいみたい。何しろ皇国の大臣にならなきゃ、公爵家のイベントは発生しないんだって。他のサーバーでもトライした人が多いけど、国務大臣すら誰も指名されてないの。ハッキリいって無理ゲーらしいよ』
アハハと笑う夏美。かつて一緒にプレイしていたアアアアの現状は彼女としても信じられないもののようだ。
「しっかし、お前の廃フレはおかしいだろ? 王配に公爵に勇者? 聖騎士だったイロハが一般人に思える……」
「デカ盛りいちごパフェ団は全員が廃プレイしてたし。あの頃は楽しかったなぁ!」
非常に残念なクラン名はともかく、メンバーの現状はあり得ないと思う。それこそ勇者一行に相応しい。錚々たる顔ぶれは、どのサーバーにあっても異彩を放っていたことだろう。
軽く笑い飛ばす夏美のように周囲は見ていなかったはずだ。
夏美との長話をしている諒太。暇つぶしには丁度良い時間となっている。この一ヶ月はずっと戦っていたのだ。束の間の休息として諒太は会話を続けている。
「そういや、お前たちは回復役をパーティーに入れてなかったのか?」
ここで気になる話題を投げてみる。思えば夏美はずっと彩葉とだけ行動していたのだ。諒太が知る限り、昔は最低でも四人いたはず。しかし、治癒士的なジョブについては聞いたことがない。
『いたことはいたんだけど……』
重い口ぶりに諒太は推し量っている。恐らくは死に戻り。基本的に無茶をする夏美のせいで失われたのだと思う。
「ナツ、お前のせいだろ?」
『いやだって、しょうがないじゃん! チカちゃん、異様に弱かったんだもん!』
どうやら予想通りだ。無茶に付き合ったチカとやらは失われ、そのチカはもうクランに戻ってこなかったのだろう。嫌気が差してクランを抜けたのだと考えられた。
「ゲームは楽しむべきだ。弱かったとして守ってやれよ?」
『守る以前の問題だもん! バグとしか思えないよ!』
ここで諒太は眉根を寄せる。夏美が話す弱さ。話を聞く限り、キャラ操作が下手というわけではなさそうだ。
「基礎値がオール1とかなのか?」
『ううん、違う! 武闘派の治癒士で能力はトップレベルだよ!』
おかしな話だ。ステータスに恵まれているのなら、頼み込んででも同行を願っただろうに。
しかし、諒太は知らされている。チカという治癒士がクランを抜けた理由について。
『体力値がホーンラット並なの!――――』
スマホを片手に諒太は眉間に指を当てた。
ホーンラットとは最弱の魔物。流石に冗談ではあるだろうが、それほどまでに体力が少なかったと夏美はいう。
「ホーンラットとか酷すぎないか?」
『ホントだって! チカちゃんはAランク体術すら実行できないの! Bランク体術一回で息切れしちゃうくらいに!』
体術と聞けば、チカがモンクであることに疑いはない。体術を駆使し、自身を守りながら、パーティー内の体力管理をしていたはずだ。
「大袈裟にいうなよ?」
『それが大袈裟じゃないの! ステータスは神レベルなんだけど、間違いなく最弱の体力だもん! レベルが上がれば問題ないと、あたしたちは考えてたんだけど、レベルが50になっても70になっても全然上がらなかったのよ! だから、教会所属となるように勧めて、パーティーから外れてもらったの!』
どうも諒太が考えた結末ではないようだ。見かねた夏美たちがチカにパーティーを抜けるよう説得したらしい。
「しかし、弱いからって仲間はずれはないだろう?」
『今でも仲良しだもん! 信じてないだろうけど、チカちゃんの体力値はリョウちんの幸運値並だからね?』
具体例を挙げられた諒太は何も言い返せなかった。自身の幸運値を考えるとあり得なくはない。諒太もステータスに恵まれているのだ。極度に低い幸運値を除けば……。
「なるほど、それは辛いな。俺はまだ幸運値だからマシだが、冒険者として体力値が最低なのはどうしようもない……」
『そうなのよ。やり直して何とかなるレベルじゃないってわけ! だから正教会に所属してゲームを続けたらと説得したのよ』
「しかし、教会所属って楽しいのか? 俺には全く理解できないんだが……」
戦ってこそゲームだと考えている諒太は神職に就くメリットが少しも分からない。毎日祈るだけなのだとしたら、一日で飽きてしまいそうだ。
『あたしは悪くないかもと思ってるよ?』
意外にも夏美はそんなことをいう。バリバリの戦闘員であるはずが、教会所属を悪く言わなかった。
「どうしてそう思う?」
『だって教会は三国共通の組織だもん。自由にログイン場所を変えられるのがメリットだね。別に戦闘がないわけじゃないし。神に仕える司祭たちは日々悪と戦ってんの。悪魔や悪霊の類だけでなく、魔物や盗賊から信徒たちを守るために僧兵団を組織してる。騎士団とかぶるような役割があって、祈るだけが仕事じゃないのよ。インテリジェンスと信仰値が高かったら、あたしも僧兵団に入ってたかもしんない』
夏美は僧兵団についての説明を終えた。聞けば夏美は僧兵団も悪くないと考えていたようだ。
「ステータス縛りがあんのか?」
『そうなの。正教会はガナンデル皇国と同時期に解放されたからね。中立都市国家アルカナへ所属するにはINT値が90以上あって、尚且つ信仰値も最大評価をもらわなきゃいけない。あと野心値が高すぎても無理みたいだね。あたしはINT値を満たしていないし、勇者補正で野心値は爆上がり。勇者を辞めても野心値はアウトかもしれない』
「隠しステータスか。それにしてもチカってやつは残念だな。能力が高くても戦えないなんて、俺ならゲームをやめてるよ」
『面白そうだよ? 大司教に昇格したら、やりたい放題になったみたい。大司教には僧兵NPCが十人与えられて、それを育てられるんだって。今じゃ育てた僧兵に指示を出して盗賊団を壊滅に追い込んだり、魔物まで狩ってレベリングしてるらしいの。めちゃくちゃ脳汁でるって言ってた』
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夏美との長話。彼女はプレイ中であったから、諒太はそろそろ話を打ち切ることにする。高校生になって初めて勉強でもしようかと諒太は考えたのだ。
「サンキュー。オークションの結果はまた連絡するよ」
『はいよ! 大富豪に落札されるといいね?』
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諒太は通話を切るや、考えていたように机に向かっていた。少しくらいは勉強もして授業に置いていかれないようにと。
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