上 下
122 / 226
第三章 希望を抱いて

攻勢に出る諒太

しおりを挟む
 諒太は再び弱点を狙い始めていた。首元にある逆鱗。そこに渾身の一撃を叩き込めば、必然と勝利に近付いていくのだと。

「くらぇぇえええっ!」
 ジャンプをして斬り付けていた。突き上げよりも力強く。全力で無双の長剣を叩き付けている。

「どうだ!?」
 着地をし、直ぐさまバックステップにて距離を取った。
 この度の攻撃は流石に効いたようだ。ドラゴンゾンビは明確に苦しむ素振りを見せている。
 単純計算で三倍。所要時間が格段に短縮されるのだ。確実に諒太のモチベーションは回復していた。

「!?」
 大きく咆吼したかと思えば、ドラゴンゾンビが何かを吐き出す。距離を取っていた諒太は難なく回避し、液体のようなそれは程なく地面へと飛散している。加えてその液体は地面に落ちるや、怪しげな煙を発していた。

「猛毒……?」
 恐らくはドラゴンゾンビの体力が半分を切ったのだと思う。嬉しく感じる反面、距離を取ると猛毒を吐くだなんて油断ならない。適度に距離を詰めたまま戦う方が良いだろう。
「んな攻撃が効くかよ!」
 再び接近する諒太。その足取りは軽い。遂にゴールが見えてきたのだ。折り返しともいえる攻撃は精神的に諒太を随分と楽にさせた。

 徹底的に弱点を狙い続ける。もう三時間近く戦っているのだ。攻撃パターンは概ね頭に入っている。稀に繰り出されるコンボでさえも諒太は適切に対処できていた。
「ソニックスラッシュ!」
 MP回復ポーションはなくなったけれど、体力回復のポーションにはまだ余裕がある。パターンを掴んだ諒太は届く範囲を見計らって、攻撃にスキルを織り交ぜていく。

 傍目からすれば圧倒していたに違いない。踊るような動作で攻撃を続ける諒太が強大な敵を弄んでいるかのようだと。
「くらえぇぇっ!!」
 再びソニックスラッシュを浴びせる。するとドラゴンゾンビは巨大な頭を天へと向け、更には地鳴りのような咆吼を上げた。

「デカいのがくる……」
 それはゲーマーの勘であった。見慣れぬモーションが差し込まれるものは得てして最終的な攻撃である。
 であれば、ここは盾を構えて万全の体勢で待ち構えるのみ。王者の盾にあるロックブラスターを撃ち放つという手もあるのだが、それは最終的な手段として温存することに。ポーションを多めに飲んでさえおれば、金剛の盾で持ち堪えられるはずだと。

 刹那にドラゴンゾンビと目が合う。緊張感が高まっていたけれど、元よりここを凌ぎきれば、諒太の勝利が現実味を帯びる。最大級の攻撃を撃ち放つ魔物はもう体力を残していないのだから……。
 再び叫ぶように咆吼したあと、ドラゴンゾンビは首を何度も左右に振る。加えて大きく口を開き、あろう事か猛毒の連弾を吐き出していた。

「クソッ、金剛の盾!」
 あとは体力任せである。スキルを信頼し、王者の盾を信じるのみ。下手に回避することなく、諒太は防御に徹していた。
 まるで嵐のように撃ち込まれる猛毒。身を屈めて過ぎ去る時を待つ。如何に強大な魔物と言えども、必ず消耗し遂には吐き出せなくなるはずだと。

 諒太はその隙を見計らっている。出遅れてはならない。猛攻撃を防御するのはこれが最後だ。次を撃ち放つ前に仕留めるのだと決めた。
「いけぇぇぇぇっ!!」
 瞬時に駆け出す。無双の長剣を大きく振りかぶりながら、諒太はドラゴンゾンビに特攻していく。セイクリッドサーバーに残る伝説の後始末。この一撃にて、その幻影に終止符を打つのだと。
「ソニックスラァァァァッシュ!!」
 飛び込みながらの剣技は狙い通りに首元を斬った。
 これまではどれだけ斬り付けようが腐肉に遮られていたはず。しかし、この度は切っ先を変え、諒太の長剣は空中に真円を描いている。

 着地をし、諒太は即座にドラゴンゾンビを振り返った。手応えを根拠にして、彼は結果を見届けている。
 胴体から零れ墜ちるようにして地面へと落ちたドラゴンゾンビの頭部を……。

「やった……」
 その一言に集約されていた。長い戦いがようやく決着を迎えたこと。幾らゾンビであろうとも首と胴体を切り離した諒太は勝利を確信していた。
 一拍おいて知らされる。激戦の終わりを告げる調べによって。諒太はレベルアップの通知を受け取っていた。

『リョウはLv114になりました』

 やや控え目に鳴り響いた通知音は四回。諒太はドラゴンゾンビの討伐によりレベルが4つ上がっている。

 今までで一番の達成感を覚えていた。けれども、余韻に浸ることはない。
 剥ぎ取り部位を探さねばならないのだ。消失するまでに確認する必要があった。
 少なからず期待していた諒太。しかしながら、横たわる巨体のどこにも剥ぎ取り可能な部位は見つからない。

「ま、腐ってんだもんな……」
 諦めた諒太が突っ立っていると、程なくドラゴンゾンビが消失し始める。その代わりとして露わになるのは宝箱だ。どうやら巨体の影になっており、先ほどは見つけられなかったらしい。

「マジかよ……」
 一つもミスリルを掘り当てられなかった諒太。その揺り戻しだろうか。苦戦した戦いに潤いを与える宝箱は勝利した事実を実感に変えている。
 直ぐさま宝箱に触れると、例によって宝箱が開き、何の余韻もないままに消えていく。
「また……石ころ?」

【石ころ???】

 石ころを拾うのは三度目だ。しかし、落胆はしていない。これまでいずれの石ころも有能アイテムであった。だからこそ期待しても構わないはずだ。
「とりあえず学校には間に合ったな。死も覚悟してたんだけど……」
 長い息を吐く。まさかネクロマンサーがドラゴンゾンビを召喚するだなんて考えもしないことだ。結果として今までにない苦戦を強いられている。

 ふと右手の甲を確認。するとそこには小さな妖精の痣が残っていた。
 これには安堵するしかない。彼女は恐らく魔力切れのために顕現できなくなっただけであろう。この世界から失われたわけではなかった。

 ググッと背伸びをし、深呼吸。金策という大問題が残されていたけれど、諒太はやりきった表情をしていた……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

戦闘職をしたくてVRMMOを始めましたが、意図せずユニークテイマーという職業になったので全力でスローライフを目指します

地球
ファンタジー
「え?何この職業?」 初めてVRMMOを始めようとしていた主人公滝沢賢治。 やろうと決めた瞬間、戦闘職を選んでいた矢先に突然出てきた職業は【ユニークテイマー】だった。 そのゲームの名はFree Infinity Online 世界初であるフルダイブ型のVRゲームであり、AIがプレイヤーの様子や行動を把握しイベントなどを考えられるゲームであった。 そこで出会った職業【ユニークテイマー】 この職業で、戦闘ではなくてスローライフを!! しかし、スローライフをすぐにはできるわけもなく…?

月が導く異世界道中extra

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  こちらは月が導く異世界道中番外編になります。

バランスブレイカー〜ガチャで手に入れたブッ壊れ装備には美少女が宿ってました〜

ふるっかわ
ファンタジー
ガチャで手に入れたアイテムには美少女達が宿っていた!? 主人公のユイトは大人気VRMMO「ナイト&アルケミー」に実装されたぶっ壊れ装備を手に入れた瞬間見た事も無い世界に突如転送される。 転送されたユイトは唯一手元に残った刀に宿った少女サクヤと無くした装備を探す旅に出るがやがて世界を巻き込んだ大事件に巻き込まれて行く… ※感想などいただけると励みになります、稚作ではありますが楽しんでいただければ嬉しいです。 ※こちらの作品は小説家になろう様にも掲載しております。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

もふもふで始めるVRMMO生活 ~寄り道しながらマイペースに楽しみます~

ゆるり
ファンタジー
ようやくこの日がやってきた。自由度が最高と噂されてたフルダイブ型VRMMOのサービス開始日だよ。 最初の種族選択でガチャをしたらびっくり。希少種のもふもふが当たったみたい。 この幸運に全力で乗っかって、マイペースにゲームを楽しもう! ……もぐもぐ。この世界、ご飯美味しすぎでは? *** ゲーム生活をのんびり楽しむ話。 バトルもありますが、基本はスローライフ。 主人公は羽のあるうさぎになって、愛嬌を振りまきながら、あっちへこっちへフラフラと、異世界のようなゲーム世界を満喫します。 カクヨム様にて先行公開しております。

召喚されたけど要らないと言われたので旅に出ます。探さないでください。

udonlevel2
ファンタジー
修学旅行中に異世界召喚された教師、中園アツシと中園の生徒の姫島カナエと他3名の生徒達。 他の三人には国が欲しがる力があったようだが、中園と姫島のスキルは文字化けして読めなかった。 その為、城を追い出されるように金貨一人50枚を渡され外の世界に放り出されてしまう。 教え子であるカナエを守りながら異世界を生き抜かねばならないが、まずは見た目をこの世界の物に替えて二人は慎重に話し合いをし、冒険者を雇うか、奴隷を買うか悩む。 まずはこの世界を知らねばならないとして、奴隷市場に行き、明日殺処分だった虎獣人のシュウと、妹のナノを購入。 シュウとナノを購入した二人は、国を出て別の国へと移動する事となる。 ★他サイトにも連載中です(カクヨム・なろう・ピクシブ) 中国でコピーされていたので自衛です。 「天安門事件」

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

処理中です...