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第三章 希望を抱いて

弱点

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 夏美たちは苦戦していた。召喚主であるネクロマンサーは即座に倒したものの、ドラゴンゾンビに有効な攻撃手段が彼女たちにはあまりない。心許ないMPを使ってイロハがファイアーストームを撃つだけであった……。

「駄目だ! もうMPがないよ!」
「あたしのをあげる! そっち行くから!」
 彩葉のMP回復ポーションが切れると、直ぐさま夏美がポーションを手渡す。かといって残りは六本しかない。金欠であった夏美はMP回復ポーションの補充まで手が回らなかったようだ。

「ジリ貧だね……」
 ソニックスラッシュを適時放っていたけれど、物理耐性が(強)であるドラゴンゾンビに対して効果がどれほどあるのか分からない。

「ナツ、ごめん……」
 不意に夏美は謝られてしまう。ドラゴンゾンビの出現は彩葉のせいではなかったというのに。
「やめてよ! 別にイロハちゃんの責任じゃないって!」
 振り返らず夏美は声を張る。確かに誘ったのは彩葉であったけれど、了承したのは夏美であるし、ドラゴンゾンビの登場はイレギュラーなのだ。

 是が非でも勝たなければと夏美は思う。ここで死に戻っては彩葉が責任を感じてしまうだろうと。
「メテオバスターなら……」
 勝利するだけなら可能性はあった。夏美が習得する最大級の剣技【メテオバスター】なら火属性が付与されており、勝負になるはずだ。しかし、使用後の硬直時間が長いため、一撃で倒せる程度に弱らせておかねばならない。加えてSランクスキルは往々にして地形変化を伴ってしまう。使用には全プレイヤーから叩かれる覚悟が必要であった。

「とにかく半分まで削ってから考える!」
 今はまだ中攻撃までしか使ってこない。さりとて、それは強力な突進と噛みつき攻撃であり、まともに食らってしまえば一溜まりもなさそうだ。
 強攻撃が始まれば、いよいよメテオバスターの使用について決断するしかない。夏美はもう彩葉が死に戻るのを良しとしなかった。彼女ばかりが辛い目に遭うのは駄目だと思う。

「パワースティング!」
 夏美は懸命に戦っている。隙があればソニックスラッシュよりも威力のある攻撃に切り替えたりと、これまで培ってきた戦闘経験を存分に発揮していた……。

 一方で彩葉も夏美を守りたいと願う。自分が失われることには覚悟ができていたけれど、そうなると夏美が思い悩んでしまう。やはり彼女は責任を感じてしまうはずだ。
「ファイアーストーム!」
 確実に命中させている。熟練度は18となっており、連発させることも可能。だが、彩葉は弱点を探るべく一つ一つ丁寧に狙っていく。

 しかしながら、MPが問題となっている。ポーションにて回復しようが、八発撃つだけで彼女は目眩を覚えた。またMP回復ポーションは一般販売品であるため、一本飲むだけで完全回復などできない。かといって二本を一気に飲むと現在の最大容量を超えてしまう。従って一本ずつ飲んでは撃つを繰り返している。

 瞬く間にポーションが減っていく。残すところはあと一本だ。それを使い切ると、もう彩葉にできることはない。
「やっぱ弱点は……」
 様々な箇所を狙って撃った。その都度、ドラゴンゾンビの反応に注視している。
 彩葉はようやく気付く。頭の付根に命中させたとき。他の部位とは明らかに異なるモーションが僅かに入っていることを……。

「ナツ! ドラゴンゾンビの弱点は頭の付根だよ!」
 恐らくはゾンビになる前の名残かと思う。確か竜の逆鱗は頭の付根にあると読んだことがあった。だからこそ、ドラゴンゾンビの弱点も同じであろうと。

「サンキュー! 魔力なくなったら言って! あとはあたしが斬るし!」
 相棒はまだ余裕がありそうだ。ならばと彩葉は的確にファイアーストームを撃ち込むだけ。撃てる数は少なかったけれど、全弾命中させるつもりだ。

 時間をかけても構わない。それこそ慎重に彩葉は攻撃を仕掛けている。
 目眩を覚えるまであと二発。彩葉は最後の一発も的確に命中させていた。
「ナツ、終わった! あとは逃げ回ってるから!」
 もう自身にできることはない。防具は死に戻る前に手に入れたものだが、如何せんレベルが足りない。レベル140という魔物の一撃を耐えられるはずがなく、彼女は逃げ回るしかなかった。

 しかしながら、彩葉は笑みを浮かべている。脳天気な相棒の返事には笑顔になるしかない。

「アイアイサー!――――」
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