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第二章 悪夢の果てに
討伐
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「イロハァァッ!」
堪らず諒太は駆け出していた。頼りない盾しかなかったというのに、諒太はイロハを助けようと動き出している。前座の段階で彼女が失われないようにと。
「キャァァアアアッッ!!」
刹那にイロハの絶叫が響き渡る。けれど、それは彼女が攻撃を食らったわけではなかった。
諒太が彩葉を突き飛ばしている。彼女の身代わりとして諒太がグレートサンドワーム亜種の前に立ちはだかったからだ。
プレイヤーの事情など考慮することなく、猛突進が繰り出されている。タイミングを見計らった諒太は直ぐさま金剛の盾を実行に移す。
「耐えろォォッ!!」
一撃目は押し込まれただけで何とか耐えた。だが、何度も頭を振るグレートサンドワーム亜種の二撃目は諒太を後方まで吹き飛ばしてしまう。
「リョウちん!?」
もの凄く身体が重い。夏美に返事をする余裕すらなかった。
これは恐らく瀕死状態だと思う。ゲームでの感覚は初めてであったけれど、諒太はもう石つぶてすら耐えられないだろう。
「ちくしょう……」
完全に詰んだと諒太は覚悟した。ログアウトはできないし、エリア外まで逃げ切れるはずもない。
再び咆吼するグレートサンドワーム亜種。諒太と彩葉は完全にターゲットとされたらしい。またも猛突進を繰り出してきたならば、諒太たちはそこで終わりだ。
パーティで立ち上がっているのは夏美だけである。しかし、夏美もまた体力を削られていた。Sランクスキルは既に発動できないだろうし、夏美だって金剛の盾を使わないと生き残れない。
諒太は目一杯に思考し、最善の行動が何であるのかを探し続けている。
「どうすればいい? 為す術なく虐殺されるだけか? この窮地を脱する手札は?」
正直に諦めかけていた諒太だが不意に思い出す。
起死回生の必殺技。未検証であったあの技を試すときではないかと……。
「ナツ! 盾スキルを使えぇぇっ!」
王者の盾に付与されたスキル【ロックブラスター】。この状況で試せるとすればそれしかない。事前に話していなかったのは失態だが、ここは夏美を信じるだけだ。
「えええ!?」
戸惑う夏美の声が聞こえる。既にグレートサンドワーム亜種は砂塵を撒き散らしていたというのに。
ここは残念な幼馴染みを頼るしかない。もう一刻の猶予もなかった。溜め込んだ累積ダメージとやらを早く解放してくれと願う。
「ロックブラスタァアアッ!!」
刹那に響き渡る夏美の声。ここ一番で夏美は諒太の期待に応えた。王者の盾に付与されたスキルを彼女は解放している。
次の瞬間、激しく揺れたかと思えば地面に亀裂が走った。砕かれた無数の岩が空中へと舞い上がり、それは即座に塊となる。夏美の頭上に巨大な岩石が生み出されていく。
だが、既にグレートサンドワーム亜種は再び猛突進を繰り出していた。一巻の終わりかと思われたそのとき、
「撃ちぬけぇぇぇっ!!」
掛け声と共に巨大な岩塊が撃ち出された。目にも留まらぬ速さで発射されたそれは一瞬にして着弾し、物凄まじい大爆発を起こす。
諒太は呆然としていた。彩葉もまた口を半開きにしたまま固まっている。
防御したダメージを蓄積していたのは諒太も知っていたけれど、これ程までの威力になるだなんて考えもしていなかった。セイクリッド世界での戦争や此度の戦闘で蓄積されたダメージは諒太が思うよりも遥かに威力を秘めていたらしい。
グレートサンドワーム亜種は徐に大地へと伏す。その巨体を横たえていた……。
呆気にとられていた諒太であるが、直ぐさま危機的状況にあることを思い出す。
「逃げろ! 爆発するぞっ!」
慌てて退却を促す。きっとまだ終わっていない。三人はグレートサンドワーム亜種を仕留めただけであり、まだ最後の攻撃が残されているはずだ。
走り出した諒太たちの背後でグレートサンドワーム亜種が爆散する。一応は逃げ切れたものの、全員が風圧で地面に転がってしまう。
「みんな、無事か!?」
一応は確認してみるも、諒太が一番危なかったらしい。二人は既に立ち上がっており、諒太だけがへたり込んでいた。
「うわ! レベルが六個も上がった! これ絶対にレベル200だよ!」
「あたしもレベル120になった! 神聖力がレベル2になったよ!」
二人はレベルアップに驚いている。そんな彼女たちを諒太はボウッと眺めているだけだ。かといって戦闘に勝利し安堵しているわけでも、二人のレベルアップを羨ましく感じたからでもない。
諒太はこの現実が理解できなかった。なぜなら彼の脳裏にも通知音が響いていたのだ。
『リョウはレベル112になりました』
出張データではレベルなど上がらない。しかし、諒太は七個もレベルアップしている。加えて遂に神聖力を覚えていた。
『リョウは【神聖力Lv1】を獲得しました』
疑問しか思い浮かばない。今もまだ諒太は夏美のベッドで寝ているはず。背中には柔らかなマットの感覚があるし、隣には夏美の体温を感じているのだ。異世界での経験ではないはずなのだが、なぜだか諒太は戦闘による恩恵を受けている。
二人は諒太のレベルアップが異常であると気付いていない。既にログは流れてしまったけれど、二人にも通知が届いていたはず。けれど、浮かれる二人は苦戦の末に掴み取った勝利を喜び合うだけだ。
「宝箱見つけた!」
さもドロップが当たり前のように夏美が言った。戸惑う諒太に構うことなく、二人は早速とアイテムを確認している。
諒太は思った。恐らくドロップアイテムはセイクリッド世界と同じじゃないかと。
どうしてか諒太はそんな気がしていた。激レアモンスターの亜種であり、戦った強さも体感は同じくらい。
レベル200のグレートサンドワーム亜種を連続で引くなんてあり得ないのだ。世界間が整合性を図った結果ではないかと思えてならない。
「あたぁ! ハズレだ! 鋼の剣とスクロールしか入ってない!」
「でもやっぱプラス100だよ! 鋼の剣+100!」
諒太の予想と異なったが、やはりグレートサンドワーム亜種はレベル200であったらしい。
「いや、これはある意味、予想通りか……」
人知れず諒太は思う。自身の想像が現実味を帯びていたことを。
はしゃぐ二人を横目に諒太は考え込んでいる。立て続けに現れた激レアモンスター。ドロップアイテムこそ異なったが、作為的な力が働いたとしか思えなかった。
「グレートサンドワーム亜種とのエンカウントは王者の盾が原因……」
諒太は思考を続ける。どうして同じレベル200という最大値を連続で引いたのかを。
「ああいや、直接的な原因は俺か……」
王者の盾とその持ち主である諒太。最大値を引いた原因はその二つだと思えてならない。
「王者の盾は出現報告がないグレートサンドワーム亜種の素材から作られている。加えて最大値の+100なんだ……」
夏美に送りつけたアイテムは架空のプレイヤー【リョウ】を生み出すことで一応の辻褄合わせが済んでいた。だが、王者の盾を装備したまま諒太がアルカナの世界に召喚されたことで、世界間は同質化を図るしかなかったように感じる。諒太としてはプレイヤーに見つからなければ構わないと考えていたというのに。
「全て俺のせいだな。このエンカウントは……」
考えるほどに自分のせいであった。王者の盾が存在する理由。その疑問を解消する必要があっただけ。出現報告すらない超レアモンスターの素材にしてプラス100。そのどちらを満たすのも、グレートサンドワーム亜種Lv200しかなかった。
「今回ハズレを引いたのは俺であり、プレイヤーキャラ【リョウ】はこの戦いで砂海王の堅皮を手に入れたことになっているのかも……」
内部的な処理が施されたのだという予感があった。先ほどの戦いは王者の盾を存在させるためのリプレイであるのだと。
「ま、真相は不明だ。考えたとしてセイクリッド神の思惑まで分かるはずもない」
諒太は思考を止めた。偶然にグレートサンドワーム亜種の最大値を引く可能性はあるのだし、考えたところで理解できるはずもなく、結果が変わるわけでもない。
ならば現状を受け入れるだけ。幸いにも被害は何もなかったのだから。
「ところでリョウちん君、さっきのアレは私を惚れさせる気かな?」
遠巻きに見ていた諒太に声をかけたのは彩葉である。惚れさせるつもりなんて微塵もなかったけれど、もしかするとゲームでも諒太の魅力値は高いのかもしれない。
「何のことだ? 俺はお前に何もプレゼントしてないぞ?」
「いやいや、それじゃない。私の自己責任だったのに、最後は身を挺して守ってくれたっしょ?」
そういえば最後は身代わりとなっていた。さりとて咄嗟のことであり、諒太は深く考えていなかっただけだ。
「お前の本番は明日だろう? つまらんことで死んでもらっては困るんだ……」
「ああ、そういうことか。大切なナツを守って欲しいってことね? それなら問題ないよ。騎士団員の殆どがナツの味方だから。殆どってのはリョウちん君も知ってることだよ」
なるほどなと諒太。殆どという意味は今だ騎士団に残るラリアットと彼が懇意にするプレイヤーに違いない。
「んん?」
ここで諒太は違和感を覚えている。確かラリアットは罪人とされたはず。彼はガナンデル皇国へと亡命したはずなのだ。なのにどうしてまだ騎士団に残っているのか。明日には戦争イベントが開催されるというのに。
「ラリアットは移籍していないんだよな?」
「それがどうしてまだいるのよ。騎士団員はナツが移籍した理由を知っているのに……」
告知からイベント終了まで移籍できないのはガナンデル皇国所属のプレイヤーのみ。アクラスフィアとスバウメシアの所属プレイヤーは規制されていなかった。だから諒太はラリアットがガナンデル皇国へと移籍するものとばかり考えていたのだ。しかし、彼はアクラスフィア王国に留まったままであり、戦争イベントに参加する可能性も残されていた。
ただし、歴史によるとラリアットは罪人である。アクラスフィア王国のために彼が戦ったとは考えられない。
「また改変が起きたのか……?」
「え、なに? 何の話かな?」
独り言を聞かれてしまい諒太は笑って誤魔化している。
再び世界が動き出していた。どこで歪んでしまったのかまるで分からなかったが、実際にラリアットの移籍は成されておらず、彼が騎士団に居残る理由はイベントが目的としか思えない。
「イロハ、申し訳ないけれど明日は頑張ってくれ。できれば誰も倒さずにいて欲しい。あとラリアットの動きには気を付けてくれ……」
誰も殺し合わないのが理想だ。しかし、世界線の移行に限れば、同士討ちくらいは許容内である。アクラスフィア王国とスバウメシア聖王国の軋轢が生じなければ構わない。
「それはもちろん! ラリアット君は強いけどナツほどじゃないし、私だって負けていないはず。さっきのレベルアップも嬉しいボーナスだね」
聞けばラリアットはかなりの猛者らしい。レベルは昨日時点で112。夏美には劣っているかもしれないが、間違いなくトッププレイヤーの一人である。
「ドロップの長剣はイロハちゃんにあげる。あたしはスクロールもらっていい?」
「え? いいの? そりゃあ願ってもないことだよ。ナツとサイコロ勝負したとして勝てる気がしないし。スクロールはどうせ使い道ないからさ」
本来ならドロップアイテムはプレイヤーが個々に選択する。重複すれば三つのサイコロの合計値が最大であったプレイヤーの戦利品となるのだ。しかし、夏美が選択を放棄したことで鋼の剣+100はイロハのものとなった。
一応は戦利品の分配も終わり、諒太はログアウトする旨を伝える。早く帰り支度をしないと夏美の両親が戻ってきてしまうのだ。再会の挨拶なんて面倒だし、彩葉には悪いと思うけれど、アルカナ談義はまた別の機会にしてもらうことに。
諒太と夏美は揃ってログアウトしていく。手を振る彩葉に笑顔を返しながら……。
堪らず諒太は駆け出していた。頼りない盾しかなかったというのに、諒太はイロハを助けようと動き出している。前座の段階で彼女が失われないようにと。
「キャァァアアアッッ!!」
刹那にイロハの絶叫が響き渡る。けれど、それは彼女が攻撃を食らったわけではなかった。
諒太が彩葉を突き飛ばしている。彼女の身代わりとして諒太がグレートサンドワーム亜種の前に立ちはだかったからだ。
プレイヤーの事情など考慮することなく、猛突進が繰り出されている。タイミングを見計らった諒太は直ぐさま金剛の盾を実行に移す。
「耐えろォォッ!!」
一撃目は押し込まれただけで何とか耐えた。だが、何度も頭を振るグレートサンドワーム亜種の二撃目は諒太を後方まで吹き飛ばしてしまう。
「リョウちん!?」
もの凄く身体が重い。夏美に返事をする余裕すらなかった。
これは恐らく瀕死状態だと思う。ゲームでの感覚は初めてであったけれど、諒太はもう石つぶてすら耐えられないだろう。
「ちくしょう……」
完全に詰んだと諒太は覚悟した。ログアウトはできないし、エリア外まで逃げ切れるはずもない。
再び咆吼するグレートサンドワーム亜種。諒太と彩葉は完全にターゲットとされたらしい。またも猛突進を繰り出してきたならば、諒太たちはそこで終わりだ。
パーティで立ち上がっているのは夏美だけである。しかし、夏美もまた体力を削られていた。Sランクスキルは既に発動できないだろうし、夏美だって金剛の盾を使わないと生き残れない。
諒太は目一杯に思考し、最善の行動が何であるのかを探し続けている。
「どうすればいい? 為す術なく虐殺されるだけか? この窮地を脱する手札は?」
正直に諦めかけていた諒太だが不意に思い出す。
起死回生の必殺技。未検証であったあの技を試すときではないかと……。
「ナツ! 盾スキルを使えぇぇっ!」
王者の盾に付与されたスキル【ロックブラスター】。この状況で試せるとすればそれしかない。事前に話していなかったのは失態だが、ここは夏美を信じるだけだ。
「えええ!?」
戸惑う夏美の声が聞こえる。既にグレートサンドワーム亜種は砂塵を撒き散らしていたというのに。
ここは残念な幼馴染みを頼るしかない。もう一刻の猶予もなかった。溜め込んだ累積ダメージとやらを早く解放してくれと願う。
「ロックブラスタァアアッ!!」
刹那に響き渡る夏美の声。ここ一番で夏美は諒太の期待に応えた。王者の盾に付与されたスキルを彼女は解放している。
次の瞬間、激しく揺れたかと思えば地面に亀裂が走った。砕かれた無数の岩が空中へと舞い上がり、それは即座に塊となる。夏美の頭上に巨大な岩石が生み出されていく。
だが、既にグレートサンドワーム亜種は再び猛突進を繰り出していた。一巻の終わりかと思われたそのとき、
「撃ちぬけぇぇぇっ!!」
掛け声と共に巨大な岩塊が撃ち出された。目にも留まらぬ速さで発射されたそれは一瞬にして着弾し、物凄まじい大爆発を起こす。
諒太は呆然としていた。彩葉もまた口を半開きにしたまま固まっている。
防御したダメージを蓄積していたのは諒太も知っていたけれど、これ程までの威力になるだなんて考えもしていなかった。セイクリッド世界での戦争や此度の戦闘で蓄積されたダメージは諒太が思うよりも遥かに威力を秘めていたらしい。
グレートサンドワーム亜種は徐に大地へと伏す。その巨体を横たえていた……。
呆気にとられていた諒太であるが、直ぐさま危機的状況にあることを思い出す。
「逃げろ! 爆発するぞっ!」
慌てて退却を促す。きっとまだ終わっていない。三人はグレートサンドワーム亜種を仕留めただけであり、まだ最後の攻撃が残されているはずだ。
走り出した諒太たちの背後でグレートサンドワーム亜種が爆散する。一応は逃げ切れたものの、全員が風圧で地面に転がってしまう。
「みんな、無事か!?」
一応は確認してみるも、諒太が一番危なかったらしい。二人は既に立ち上がっており、諒太だけがへたり込んでいた。
「うわ! レベルが六個も上がった! これ絶対にレベル200だよ!」
「あたしもレベル120になった! 神聖力がレベル2になったよ!」
二人はレベルアップに驚いている。そんな彼女たちを諒太はボウッと眺めているだけだ。かといって戦闘に勝利し安堵しているわけでも、二人のレベルアップを羨ましく感じたからでもない。
諒太はこの現実が理解できなかった。なぜなら彼の脳裏にも通知音が響いていたのだ。
『リョウはレベル112になりました』
出張データではレベルなど上がらない。しかし、諒太は七個もレベルアップしている。加えて遂に神聖力を覚えていた。
『リョウは【神聖力Lv1】を獲得しました』
疑問しか思い浮かばない。今もまだ諒太は夏美のベッドで寝ているはず。背中には柔らかなマットの感覚があるし、隣には夏美の体温を感じているのだ。異世界での経験ではないはずなのだが、なぜだか諒太は戦闘による恩恵を受けている。
二人は諒太のレベルアップが異常であると気付いていない。既にログは流れてしまったけれど、二人にも通知が届いていたはず。けれど、浮かれる二人は苦戦の末に掴み取った勝利を喜び合うだけだ。
「宝箱見つけた!」
さもドロップが当たり前のように夏美が言った。戸惑う諒太に構うことなく、二人は早速とアイテムを確認している。
諒太は思った。恐らくドロップアイテムはセイクリッド世界と同じじゃないかと。
どうしてか諒太はそんな気がしていた。激レアモンスターの亜種であり、戦った強さも体感は同じくらい。
レベル200のグレートサンドワーム亜種を連続で引くなんてあり得ないのだ。世界間が整合性を図った結果ではないかと思えてならない。
「あたぁ! ハズレだ! 鋼の剣とスクロールしか入ってない!」
「でもやっぱプラス100だよ! 鋼の剣+100!」
諒太の予想と異なったが、やはりグレートサンドワーム亜種はレベル200であったらしい。
「いや、これはある意味、予想通りか……」
人知れず諒太は思う。自身の想像が現実味を帯びていたことを。
はしゃぐ二人を横目に諒太は考え込んでいる。立て続けに現れた激レアモンスター。ドロップアイテムこそ異なったが、作為的な力が働いたとしか思えなかった。
「グレートサンドワーム亜種とのエンカウントは王者の盾が原因……」
諒太は思考を続ける。どうして同じレベル200という最大値を連続で引いたのかを。
「ああいや、直接的な原因は俺か……」
王者の盾とその持ち主である諒太。最大値を引いた原因はその二つだと思えてならない。
「王者の盾は出現報告がないグレートサンドワーム亜種の素材から作られている。加えて最大値の+100なんだ……」
夏美に送りつけたアイテムは架空のプレイヤー【リョウ】を生み出すことで一応の辻褄合わせが済んでいた。だが、王者の盾を装備したまま諒太がアルカナの世界に召喚されたことで、世界間は同質化を図るしかなかったように感じる。諒太としてはプレイヤーに見つからなければ構わないと考えていたというのに。
「全て俺のせいだな。このエンカウントは……」
考えるほどに自分のせいであった。王者の盾が存在する理由。その疑問を解消する必要があっただけ。出現報告すらない超レアモンスターの素材にしてプラス100。そのどちらを満たすのも、グレートサンドワーム亜種Lv200しかなかった。
「今回ハズレを引いたのは俺であり、プレイヤーキャラ【リョウ】はこの戦いで砂海王の堅皮を手に入れたことになっているのかも……」
内部的な処理が施されたのだという予感があった。先ほどの戦いは王者の盾を存在させるためのリプレイであるのだと。
「ま、真相は不明だ。考えたとしてセイクリッド神の思惑まで分かるはずもない」
諒太は思考を止めた。偶然にグレートサンドワーム亜種の最大値を引く可能性はあるのだし、考えたところで理解できるはずもなく、結果が変わるわけでもない。
ならば現状を受け入れるだけ。幸いにも被害は何もなかったのだから。
「ところでリョウちん君、さっきのアレは私を惚れさせる気かな?」
遠巻きに見ていた諒太に声をかけたのは彩葉である。惚れさせるつもりなんて微塵もなかったけれど、もしかするとゲームでも諒太の魅力値は高いのかもしれない。
「何のことだ? 俺はお前に何もプレゼントしてないぞ?」
「いやいや、それじゃない。私の自己責任だったのに、最後は身を挺して守ってくれたっしょ?」
そういえば最後は身代わりとなっていた。さりとて咄嗟のことであり、諒太は深く考えていなかっただけだ。
「お前の本番は明日だろう? つまらんことで死んでもらっては困るんだ……」
「ああ、そういうことか。大切なナツを守って欲しいってことね? それなら問題ないよ。騎士団員の殆どがナツの味方だから。殆どってのはリョウちん君も知ってることだよ」
なるほどなと諒太。殆どという意味は今だ騎士団に残るラリアットと彼が懇意にするプレイヤーに違いない。
「んん?」
ここで諒太は違和感を覚えている。確かラリアットは罪人とされたはず。彼はガナンデル皇国へと亡命したはずなのだ。なのにどうしてまだ騎士団に残っているのか。明日には戦争イベントが開催されるというのに。
「ラリアットは移籍していないんだよな?」
「それがどうしてまだいるのよ。騎士団員はナツが移籍した理由を知っているのに……」
告知からイベント終了まで移籍できないのはガナンデル皇国所属のプレイヤーのみ。アクラスフィアとスバウメシアの所属プレイヤーは規制されていなかった。だから諒太はラリアットがガナンデル皇国へと移籍するものとばかり考えていたのだ。しかし、彼はアクラスフィア王国に留まったままであり、戦争イベントに参加する可能性も残されていた。
ただし、歴史によるとラリアットは罪人である。アクラスフィア王国のために彼が戦ったとは考えられない。
「また改変が起きたのか……?」
「え、なに? 何の話かな?」
独り言を聞かれてしまい諒太は笑って誤魔化している。
再び世界が動き出していた。どこで歪んでしまったのかまるで分からなかったが、実際にラリアットの移籍は成されておらず、彼が騎士団に居残る理由はイベントが目的としか思えない。
「イロハ、申し訳ないけれど明日は頑張ってくれ。できれば誰も倒さずにいて欲しい。あとラリアットの動きには気を付けてくれ……」
誰も殺し合わないのが理想だ。しかし、世界線の移行に限れば、同士討ちくらいは許容内である。アクラスフィア王国とスバウメシア聖王国の軋轢が生じなければ構わない。
「それはもちろん! ラリアット君は強いけどナツほどじゃないし、私だって負けていないはず。さっきのレベルアップも嬉しいボーナスだね」
聞けばラリアットはかなりの猛者らしい。レベルは昨日時点で112。夏美には劣っているかもしれないが、間違いなくトッププレイヤーの一人である。
「ドロップの長剣はイロハちゃんにあげる。あたしはスクロールもらっていい?」
「え? いいの? そりゃあ願ってもないことだよ。ナツとサイコロ勝負したとして勝てる気がしないし。スクロールはどうせ使い道ないからさ」
本来ならドロップアイテムはプレイヤーが個々に選択する。重複すれば三つのサイコロの合計値が最大であったプレイヤーの戦利品となるのだ。しかし、夏美が選択を放棄したことで鋼の剣+100はイロハのものとなった。
一応は戦利品の分配も終わり、諒太はログアウトする旨を伝える。早く帰り支度をしないと夏美の両親が戻ってきてしまうのだ。再会の挨拶なんて面倒だし、彩葉には悪いと思うけれど、アルカナ談義はまた別の機会にしてもらうことに。
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