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第二章 悪夢の果てに
予定は未定
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インフェルノを撃ち放った諒太はワイバーンを操り下降していく。
両軍が向かい合うど真ん中。インフェルノの炎が燻る荒野へと諒太は降り立っていた。
「俺はリョウ。神により選ばれ、ルイナー討伐を任されし勇者だ! 世界の終焉が直ぐそこまで来ているというのに、どうしてお前たちは争う!?」
剣を掲げながら、諒太は全員に問う。なぜに戦うのか。何のために争うのかと。
「リョ、リョウか!?」
背後からフレアの声が聞こえた。
どうやら奇面のせいで諒太が誰であるのか彼女には分からなかったらしい。
「フレアさん、俺は戦争を止めます。構わないですよね?」
まずはアクラスフィア王国軍に。元より彼らはそれを望んでいる。だからこそフレアは頷きを返してくれた。戦局に絶望していた彼女は素直に彼の話を聞き入れている。
『リョウ様、その格好は何なのです!? ドワーフの術具ではありませんか!?』
シャーマンに呪術をかけられるより、エルフたちの反感を買うほうがマシである。始めからエルフとやり合う予定なのだ。優位にあるスバウメシア軍をねじ伏せるためには魔法耐性と呪術耐性に優れた装備が外せない。
「スバウメシア聖王国軍はどうだ? 戦争などやめにしないか?」
ロークアットに返事をすることなく、諒太は要求を突きつける。聡明な彼女であれば諒太の意図を汲んでくれるはずと。
しばらくして大将であるロークアットの騎馬が最前線に出てきた。やはり彼女は察しが良い。諒太の期待通りである。
「リョウと言いましたね? 貴方は本当に勇者ですか? わたくしには信じられません。過去も現在も勇者はナツ様一人だけ。貴方に彼女のような圧倒的力があるようには思えません」
満点の返答があった。諒太の力を誇示する場面を彼女は作り上げている。これより諒太はエルフ軍の総攻撃に遭うだろう。だが、諒太はそれを凌ぐだけ。全てを耐え忍び、生き残らねばならない。
ざっと見たところ兵のレベルは70程度だ。プレイヤーの流れを汲むロークアットとは異なり、NPCの制限を受け継いでいるのかもしれない。
「ならばかかってこい。証明してやろう。矢であろうが魔法であろうが構わないぞ? 戦争を続けたくば、俺を倒してからにしろ!」
「威勢のいい殿方は嫌いじゃありませんが、せめて立場は弁えて欲しいものです。我々は売られた喧嘩を買っただけであり、咎められる筋合いはございません。貴方一人で我が軍勢の相手ができるとは思えませんけれど、お相手差し上げます。覚悟してください……」
考えていたよりも良い感じのシナリオとなった。ロークアットの発言によりエルフ軍の攻撃対象は諒太に切り替わったはず。
「さあ兵よ、あの者を討ち取りなさい!」
ロークアットの掛け声と共に矢と魔法が乱れ飛ぶ。グルリと取り囲むようなスバウメシア兵は恐らく一万人程度。手加減するなと話していたけれど、全軍から総攻撃に遭うとは想定していない。
「マジか!?」
今は王者の盾を信頼するしかない。もし仮に全ての攻撃にゼロ以上のダメージが乗ってしまえば、諒太は1ターンの内に一万以上のダメージを受けることになる。
「クソッ、金剛の盾!」
即座にスキルを発動する。絶対に避けきれないのだから、諒太は守りを固めるだけ。こんなところで死ぬわけにはならないのだと。
視界一杯に拡がる魔法に加え、間隙を縫うように乱れ飛ぶ弓矢。盾だけで防げる攻撃ではない。従って諒太は全身にその攻撃を受けてしまう。
しかし、まだ意識はあった。視界に拡がる粉塵に攻撃を耐えきったのだと分かる。透かさずポーションを補給するけれど、別に疲労感はない。きっと諒太は殆どの攻撃を無効化していたはずだ。ダメージは衝撃ほどもなかったのだと感じる。
一陣の風が通り抜け、徐々に視界が回復していく。諒太の視界が戻ったならば、諒太を見つめる視線もまた同じように回復していることだろう。
刹那にスバウメシア兵のどよめきが聞こえた。一斉攻撃を受けてもなお、大地に立つ諒太が信じられないようだ。しかし、それこそが諒太の望んだ展開であり、兵を黙らせる唯一の手段だった。
『リョウ様、大丈夫でしょうか? まさか全員が攻撃を放つとは……』
『ああ、君の指示じゃなかったのか。死ぬかと思ったぞ?』
『申し訳ございません。兵たちはナツ様を尊敬しておりますから、勇者を名乗られたリョウ様が許せなかったのかもしれませんね……』
なるほどと諒太。夏美のせいで酷い目に遭ったことは理解した。とはいえ好都合でもある。人族である夏美が尊敬されていること。恐らくエルフは人種的な好き嫌いによって侵攻しているのではない。ロークアットが語ったように、売られた喧嘩を買っただけなのだろう。
「お前たち、まだだ戦うのか? 俺はお前たちが束になろうと敵う相手じゃない。望むのなら攻撃も見せてやろうか?」
言って諒太は剣を抜く。威嚇により彼らの戦意が喪失しておれば、予定通りに進むはず。誰も言葉を発しないのであれば、ロークアットが次なる段階へと誘導してくれることだろう。
予定通りに誰もが口を噤んだまま。長い沈黙は明確にしていた。魔法も矢も効かぬ諒太を全員が畏怖しているのだと。
ここでロークアットが馬を下り一歩前へと進む。
「リョウ、いいでしょう。貴方様の力は理解しました。ここからは兵に代わって、わたくしがお相手いたします!」
打ち合わせ通りにロークアットが一騎打ちの流れに持ち込んでくれた。これより諒太とロークアットの戦いが始まる。また諒太はその戦いを圧倒しなければならない。
「待ってください! ロークアット殿下!」
ところが、シナリオ通りに運ばない。どうしてか横槍を入れる者が現れてしまう。
「ソレル、貴方まさか戦うつもりですか?」
「もちろんです。殿下の手を煩わせる必要はございません。勇者を騙る不届き者は私が成敗致しますので……」
諒太たちの計画を台無しにした男はソレルというらしい。エルフにしては珍しく長剣を携えている。
【ソレル・ネオニート】
【スバウメシア聖王国聖王騎士団長・Lv78】
【ATK】74
【VIT】72
【DEF】70
【INT】38
【AGI】42
どうやらソレルはプレイヤーの血筋らしい。かなりステータスに恵まれている。しかし、エルフ要素よりもプレイヤー要素を引き継いでいる感じだ。彼は根っからの戦士系である。
「リョウと言ったな! 私はソレル・ネオニート。我が父はナツ様に仕えていた。ナツ様は誰よりも強く偉大な人であったと聞いている。突然、現れた貴様が勇者だなんて絶対に認められん! 勇者様はナツ様をおいて他に存在しないのだ!」
ネオニートというプレイヤーは聞いたことがない。恐らくは夏美がスバウメシア聖王国へ移籍してからのフレンドなのだろう。
「ソレル、俺は別に勇者であることを認めて欲しいわけじゃない。戦争を終わらせたいだけだ……」
「それでもお前は勇者を騙った! 勇者の称号はナツ様だけのものであるというのに!」
割と面倒臭い性格のようだ。どこかの頑固な騎士団長様と同じ雰囲気がする。
黙らせる方法は多くない。邪魔くさくはあったけれど、確実なのはソレルと戦い、実力差を見せつけることだろう。
「ソレル、ならば剣を抜け。俺は魔法剣士だが剣だけでもお前より強い。俺に挑むなんて身の程知らずであることを思い知らせてやろう……」
威圧的になってしまうのは勇者ロープレの賜物である。このとき諒太は自身の立場に少しばかり酔っていたのかもしれない。
「望むところ! 殿下のお手を煩わせる必要などないのだ! 私がお前を倒し、アクラスフィア王国を滅ぼすのみ!」
本気で面倒だが、大将であるロークアットだけでなく聖王騎士団長までもを叩きのめしたのなら、誰もが諒太の実力を認めないわけにはならないだろう。
嘆息しつつも諒太は剣を構える。ソレルが納得するまで相手をしようと考えていた……。
両軍が向かい合うど真ん中。インフェルノの炎が燻る荒野へと諒太は降り立っていた。
「俺はリョウ。神により選ばれ、ルイナー討伐を任されし勇者だ! 世界の終焉が直ぐそこまで来ているというのに、どうしてお前たちは争う!?」
剣を掲げながら、諒太は全員に問う。なぜに戦うのか。何のために争うのかと。
「リョ、リョウか!?」
背後からフレアの声が聞こえた。
どうやら奇面のせいで諒太が誰であるのか彼女には分からなかったらしい。
「フレアさん、俺は戦争を止めます。構わないですよね?」
まずはアクラスフィア王国軍に。元より彼らはそれを望んでいる。だからこそフレアは頷きを返してくれた。戦局に絶望していた彼女は素直に彼の話を聞き入れている。
『リョウ様、その格好は何なのです!? ドワーフの術具ではありませんか!?』
シャーマンに呪術をかけられるより、エルフたちの反感を買うほうがマシである。始めからエルフとやり合う予定なのだ。優位にあるスバウメシア軍をねじ伏せるためには魔法耐性と呪術耐性に優れた装備が外せない。
「スバウメシア聖王国軍はどうだ? 戦争などやめにしないか?」
ロークアットに返事をすることなく、諒太は要求を突きつける。聡明な彼女であれば諒太の意図を汲んでくれるはずと。
しばらくして大将であるロークアットの騎馬が最前線に出てきた。やはり彼女は察しが良い。諒太の期待通りである。
「リョウと言いましたね? 貴方は本当に勇者ですか? わたくしには信じられません。過去も現在も勇者はナツ様一人だけ。貴方に彼女のような圧倒的力があるようには思えません」
満点の返答があった。諒太の力を誇示する場面を彼女は作り上げている。これより諒太はエルフ軍の総攻撃に遭うだろう。だが、諒太はそれを凌ぐだけ。全てを耐え忍び、生き残らねばならない。
ざっと見たところ兵のレベルは70程度だ。プレイヤーの流れを汲むロークアットとは異なり、NPCの制限を受け継いでいるのかもしれない。
「ならばかかってこい。証明してやろう。矢であろうが魔法であろうが構わないぞ? 戦争を続けたくば、俺を倒してからにしろ!」
「威勢のいい殿方は嫌いじゃありませんが、せめて立場は弁えて欲しいものです。我々は売られた喧嘩を買っただけであり、咎められる筋合いはございません。貴方一人で我が軍勢の相手ができるとは思えませんけれど、お相手差し上げます。覚悟してください……」
考えていたよりも良い感じのシナリオとなった。ロークアットの発言によりエルフ軍の攻撃対象は諒太に切り替わったはず。
「さあ兵よ、あの者を討ち取りなさい!」
ロークアットの掛け声と共に矢と魔法が乱れ飛ぶ。グルリと取り囲むようなスバウメシア兵は恐らく一万人程度。手加減するなと話していたけれど、全軍から総攻撃に遭うとは想定していない。
「マジか!?」
今は王者の盾を信頼するしかない。もし仮に全ての攻撃にゼロ以上のダメージが乗ってしまえば、諒太は1ターンの内に一万以上のダメージを受けることになる。
「クソッ、金剛の盾!」
即座にスキルを発動する。絶対に避けきれないのだから、諒太は守りを固めるだけ。こんなところで死ぬわけにはならないのだと。
視界一杯に拡がる魔法に加え、間隙を縫うように乱れ飛ぶ弓矢。盾だけで防げる攻撃ではない。従って諒太は全身にその攻撃を受けてしまう。
しかし、まだ意識はあった。視界に拡がる粉塵に攻撃を耐えきったのだと分かる。透かさずポーションを補給するけれど、別に疲労感はない。きっと諒太は殆どの攻撃を無効化していたはずだ。ダメージは衝撃ほどもなかったのだと感じる。
一陣の風が通り抜け、徐々に視界が回復していく。諒太の視界が戻ったならば、諒太を見つめる視線もまた同じように回復していることだろう。
刹那にスバウメシア兵のどよめきが聞こえた。一斉攻撃を受けてもなお、大地に立つ諒太が信じられないようだ。しかし、それこそが諒太の望んだ展開であり、兵を黙らせる唯一の手段だった。
『リョウ様、大丈夫でしょうか? まさか全員が攻撃を放つとは……』
『ああ、君の指示じゃなかったのか。死ぬかと思ったぞ?』
『申し訳ございません。兵たちはナツ様を尊敬しておりますから、勇者を名乗られたリョウ様が許せなかったのかもしれませんね……』
なるほどと諒太。夏美のせいで酷い目に遭ったことは理解した。とはいえ好都合でもある。人族である夏美が尊敬されていること。恐らくエルフは人種的な好き嫌いによって侵攻しているのではない。ロークアットが語ったように、売られた喧嘩を買っただけなのだろう。
「お前たち、まだだ戦うのか? 俺はお前たちが束になろうと敵う相手じゃない。望むのなら攻撃も見せてやろうか?」
言って諒太は剣を抜く。威嚇により彼らの戦意が喪失しておれば、予定通りに進むはず。誰も言葉を発しないのであれば、ロークアットが次なる段階へと誘導してくれることだろう。
予定通りに誰もが口を噤んだまま。長い沈黙は明確にしていた。魔法も矢も効かぬ諒太を全員が畏怖しているのだと。
ここでロークアットが馬を下り一歩前へと進む。
「リョウ、いいでしょう。貴方様の力は理解しました。ここからは兵に代わって、わたくしがお相手いたします!」
打ち合わせ通りにロークアットが一騎打ちの流れに持ち込んでくれた。これより諒太とロークアットの戦いが始まる。また諒太はその戦いを圧倒しなければならない。
「待ってください! ロークアット殿下!」
ところが、シナリオ通りに運ばない。どうしてか横槍を入れる者が現れてしまう。
「ソレル、貴方まさか戦うつもりですか?」
「もちろんです。殿下の手を煩わせる必要はございません。勇者を騙る不届き者は私が成敗致しますので……」
諒太たちの計画を台無しにした男はソレルというらしい。エルフにしては珍しく長剣を携えている。
【ソレル・ネオニート】
【スバウメシア聖王国聖王騎士団長・Lv78】
【ATK】74
【VIT】72
【DEF】70
【INT】38
【AGI】42
どうやらソレルはプレイヤーの血筋らしい。かなりステータスに恵まれている。しかし、エルフ要素よりもプレイヤー要素を引き継いでいる感じだ。彼は根っからの戦士系である。
「リョウと言ったな! 私はソレル・ネオニート。我が父はナツ様に仕えていた。ナツ様は誰よりも強く偉大な人であったと聞いている。突然、現れた貴様が勇者だなんて絶対に認められん! 勇者様はナツ様をおいて他に存在しないのだ!」
ネオニートというプレイヤーは聞いたことがない。恐らくは夏美がスバウメシア聖王国へ移籍してからのフレンドなのだろう。
「ソレル、俺は別に勇者であることを認めて欲しいわけじゃない。戦争を終わらせたいだけだ……」
「それでもお前は勇者を騙った! 勇者の称号はナツ様だけのものであるというのに!」
割と面倒臭い性格のようだ。どこかの頑固な騎士団長様と同じ雰囲気がする。
黙らせる方法は多くない。邪魔くさくはあったけれど、確実なのはソレルと戦い、実力差を見せつけることだろう。
「ソレル、ならば剣を抜け。俺は魔法剣士だが剣だけでもお前より強い。俺に挑むなんて身の程知らずであることを思い知らせてやろう……」
威圧的になってしまうのは勇者ロープレの賜物である。このとき諒太は自身の立場に少しばかり酔っていたのかもしれない。
「望むところ! 殿下のお手を煩わせる必要などないのだ! 私がお前を倒し、アクラスフィア王国を滅ぼすのみ!」
本気で面倒だが、大将であるロークアットだけでなく聖王騎士団長までもを叩きのめしたのなら、誰もが諒太の実力を認めないわけにはならないだろう。
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