83 / 226
第二章 悪夢の果てに
戦争当日
しおりを挟む
前日に徹夜したからか、晩ご飯を食べた諒太はそのまま横になり寝てしまった。
気付けば朝である。予習や復習だけでなく、授業すらまともに受けていない自分は大丈夫なのだろうか。自業自得であるけれど、先々に不安を覚えてしまう。
「いざとなればセイクリッド世界に移住すっか……」
現実世界で落ちぶれたとしても、セイクリッド世界ならば路頭に迷うことにはならないだろう。あの世界であれば諒太は無双できるし、何よりもモテモテである。かといって移住なんてことは最終手段であるのだが……。
怠けている理由を勇者業に丸投げしつつ、諒太は学校へと向かう。いつものように大きな欠伸をしながら赤信号を待っていると、
「リョウちん!」
交差点の向かい側から夏美がやって来た。いつもなら自転車置き場で出会うはずの夏美。少し登校時間を早めたのだろうか。帰路が分かれる交差点で二人は合流していた。
「おう早いな。依頼はできたか?」
「もちろん! 特急仕事で依頼してきたよ!」
レシピで見たままである。これなら夏美の準備も万全であろう。ブレイブシールドさえ完成したのなら、夏美は一時間を戦い抜けるはずだ。
ところが、直ぐに笑顔は失われて、夏美の表情が曇っていく。
「でも金剛の盾がまだ覚えられない。どうやったら良いの?」
セイクリッド世界では覚えられたというのに、夏美はゲームの中で苦戦しているようだ。どうやらスキルの習得に幸運値は関係していないらしい。
「獲得済みのプレイヤーと同行するのが一番だけど、イロハは盾を装備してたっけ?」
「してないよ。盾を装備すると攻撃力と俊敏性が落ちるからね。イロハちゃんは俊敏の基礎値が4だったから、それを損なわないようにしてるの。金剛の盾といえば、いちご大福さんだったけど……」
どうしたものか。夏美であれば簡単に習得すると考えていたのに、時間だけが過ぎているらしい。直前になればなるほど焦りを覚えてしまうはずだ。
「それでフレンドには声をかけたのか? 中立を宣言するって……」
「一応はね……。でも反応は悪くないよ。移籍をイベントに利用されたのは可哀相って言ってくれる。戦略的ボイコットだなんて意気込んでる人もいるし……」
同情されるのは諒太の想定通りだ。不遇であると感じてもらえたならば、夏美は助力を得られるだろう。何しろプレイヤーは男性が占める割合が高い。人懐っこい性格や変貌を遂げた彼女の容姿は少なからずプラスに働いたはずである。
「俺の方はいよいよ戦争だ。ナツのイベントが先にあったら良かったのに……」
「あたしのイベントが先でも準備は必要だったと思うよ? 元に戻る確証はないんでしょ?」
「まあそりゃそうだ。できる限りマシな世界に変えなきゃいけない。ルイナーどころじゃなくなってるからな……」
二人して登校し、何事もなかったかのように教室へと入っていく。やはり気にしすぎていたのかもしれない。夏美は普段通りであり、妙な話を始める様子もなかった。
きっと精神的に落ち込んでいたから、あんなことを口走ったのだと思う。フレンドたちの共感を得たことで夏美は持ち直したに違いない。
夏美のフレンドたちに感謝を。今の距離感が丁度良いと諒太は思っている。妙に意識することも離れすぎることもない。断る理由が思いつかない諒太にとって、今の関係を維持できるのは有り難いことだ。
名も知らぬプレイヤーたちへの謝意を心の内に並べながら、諒太は学校での時間を過ごす。居眠りをしなかったのは戦争が待っていたからだ。
自信はあったけれど、やはり諒太は緊張していたのかもしれない……。
気付けば朝である。予習や復習だけでなく、授業すらまともに受けていない自分は大丈夫なのだろうか。自業自得であるけれど、先々に不安を覚えてしまう。
「いざとなればセイクリッド世界に移住すっか……」
現実世界で落ちぶれたとしても、セイクリッド世界ならば路頭に迷うことにはならないだろう。あの世界であれば諒太は無双できるし、何よりもモテモテである。かといって移住なんてことは最終手段であるのだが……。
怠けている理由を勇者業に丸投げしつつ、諒太は学校へと向かう。いつものように大きな欠伸をしながら赤信号を待っていると、
「リョウちん!」
交差点の向かい側から夏美がやって来た。いつもなら自転車置き場で出会うはずの夏美。少し登校時間を早めたのだろうか。帰路が分かれる交差点で二人は合流していた。
「おう早いな。依頼はできたか?」
「もちろん! 特急仕事で依頼してきたよ!」
レシピで見たままである。これなら夏美の準備も万全であろう。ブレイブシールドさえ完成したのなら、夏美は一時間を戦い抜けるはずだ。
ところが、直ぐに笑顔は失われて、夏美の表情が曇っていく。
「でも金剛の盾がまだ覚えられない。どうやったら良いの?」
セイクリッド世界では覚えられたというのに、夏美はゲームの中で苦戦しているようだ。どうやらスキルの習得に幸運値は関係していないらしい。
「獲得済みのプレイヤーと同行するのが一番だけど、イロハは盾を装備してたっけ?」
「してないよ。盾を装備すると攻撃力と俊敏性が落ちるからね。イロハちゃんは俊敏の基礎値が4だったから、それを損なわないようにしてるの。金剛の盾といえば、いちご大福さんだったけど……」
どうしたものか。夏美であれば簡単に習得すると考えていたのに、時間だけが過ぎているらしい。直前になればなるほど焦りを覚えてしまうはずだ。
「それでフレンドには声をかけたのか? 中立を宣言するって……」
「一応はね……。でも反応は悪くないよ。移籍をイベントに利用されたのは可哀相って言ってくれる。戦略的ボイコットだなんて意気込んでる人もいるし……」
同情されるのは諒太の想定通りだ。不遇であると感じてもらえたならば、夏美は助力を得られるだろう。何しろプレイヤーは男性が占める割合が高い。人懐っこい性格や変貌を遂げた彼女の容姿は少なからずプラスに働いたはずである。
「俺の方はいよいよ戦争だ。ナツのイベントが先にあったら良かったのに……」
「あたしのイベントが先でも準備は必要だったと思うよ? 元に戻る確証はないんでしょ?」
「まあそりゃそうだ。できる限りマシな世界に変えなきゃいけない。ルイナーどころじゃなくなってるからな……」
二人して登校し、何事もなかったかのように教室へと入っていく。やはり気にしすぎていたのかもしれない。夏美は普段通りであり、妙な話を始める様子もなかった。
きっと精神的に落ち込んでいたから、あんなことを口走ったのだと思う。フレンドたちの共感を得たことで夏美は持ち直したに違いない。
夏美のフレンドたちに感謝を。今の距離感が丁度良いと諒太は思っている。妙に意識することも離れすぎることもない。断る理由が思いつかない諒太にとって、今の関係を維持できるのは有り難いことだ。
名も知らぬプレイヤーたちへの謝意を心の内に並べながら、諒太は学校での時間を過ごす。居眠りをしなかったのは戦争が待っていたからだ。
自信はあったけれど、やはり諒太は緊張していたのかもしれない……。
0
お気に入りに追加
55
あなたにおすすめの小説
戦闘職をしたくてVRMMOを始めましたが、意図せずユニークテイマーという職業になったので全力でスローライフを目指します
地球
ファンタジー
「え?何この職業?」
初めてVRMMOを始めようとしていた主人公滝沢賢治。
やろうと決めた瞬間、戦闘職を選んでいた矢先に突然出てきた職業は【ユニークテイマー】だった。
そのゲームの名はFree Infinity Online
世界初であるフルダイブ型のVRゲームであり、AIがプレイヤーの様子や行動を把握しイベントなどを考えられるゲームであった。
そこで出会った職業【ユニークテイマー】
この職業で、戦闘ではなくてスローライフを!!
しかし、スローライフをすぐにはできるわけもなく…?
月が導く異世界道中extra
あずみ 圭
ファンタジー
月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。
真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。
彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。
これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。
こちらは月が導く異世界道中番外編になります。
バランスブレイカー〜ガチャで手に入れたブッ壊れ装備には美少女が宿ってました〜
ふるっかわ
ファンタジー
ガチャで手に入れたアイテムには美少女達が宿っていた!?
主人公のユイトは大人気VRMMO「ナイト&アルケミー」に実装されたぶっ壊れ装備を手に入れた瞬間見た事も無い世界に突如転送される。
転送されたユイトは唯一手元に残った刀に宿った少女サクヤと無くした装備を探す旅に出るがやがて世界を巻き込んだ大事件に巻き込まれて行く…
※感想などいただけると励みになります、稚作ではありますが楽しんでいただければ嬉しいです。
※こちらの作品は小説家になろう様にも掲載しております。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
もふもふで始めるVRMMO生活 ~寄り道しながらマイペースに楽しみます~
ゆるり
ファンタジー
ようやくこの日がやってきた。自由度が最高と噂されてたフルダイブ型VRMMOのサービス開始日だよ。
最初の種族選択でガチャをしたらびっくり。希少種のもふもふが当たったみたい。
この幸運に全力で乗っかって、マイペースにゲームを楽しもう!
……もぐもぐ。この世界、ご飯美味しすぎでは?
***
ゲーム生活をのんびり楽しむ話。
バトルもありますが、基本はスローライフ。
主人公は羽のあるうさぎになって、愛嬌を振りまきながら、あっちへこっちへフラフラと、異世界のようなゲーム世界を満喫します。
カクヨム様にて先行公開しております。
召喚されたけど要らないと言われたので旅に出ます。探さないでください。
udonlevel2
ファンタジー
修学旅行中に異世界召喚された教師、中園アツシと中園の生徒の姫島カナエと他3名の生徒達。
他の三人には国が欲しがる力があったようだが、中園と姫島のスキルは文字化けして読めなかった。
その為、城を追い出されるように金貨一人50枚を渡され外の世界に放り出されてしまう。
教え子であるカナエを守りながら異世界を生き抜かねばならないが、まずは見た目をこの世界の物に替えて二人は慎重に話し合いをし、冒険者を雇うか、奴隷を買うか悩む。
まずはこの世界を知らねばならないとして、奴隷市場に行き、明日殺処分だった虎獣人のシュウと、妹のナノを購入。
シュウとナノを購入した二人は、国を出て別の国へと移動する事となる。
★他サイトにも連載中です(カクヨム・なろう・ピクシブ)
中国でコピーされていたので自衛です。
「天安門事件」
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
『特別』を願った僕の転生先は放置された第7皇子!?
mio
ファンタジー
特別になることを望む『平凡』な大学生・弥登陽斗はある日突然亡くなる。
神様に『特別』になりたい願いを叶えてやると言われ、生まれ変わった先は異世界の第7皇子!? しかも母親はなんだかさびれた離宮に追いやられているし、騎士団に入っている兄はなかなか会うことができない。それでも穏やかな日々。
そんな生活も母の死を境に変わっていく。なぜか絡んでくる異母兄弟をあしらいつつ、兄の元で剣に魔法に、いろいろと学んでいくことに。兄と兄の部下との新たな日常に、以前とはまた違った幸せを感じていた。
日常を壊し、強制的に終わらせたとある不幸が起こるまでは。
神様、一つ言わせてください。僕が言っていた特別はこういうことではないと思うんですけど!?
他サイトでも投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる