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第二章 悪夢の果てに

戦争当日

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 前日に徹夜したからか、晩ご飯を食べた諒太はそのまま横になり寝てしまった。
 気付けば朝である。予習や復習だけでなく、授業すらまともに受けていない自分は大丈夫なのだろうか。自業自得であるけれど、先々に不安を覚えてしまう。

「いざとなればセイクリッド世界に移住すっか……」
 現実世界で落ちぶれたとしても、セイクリッド世界ならば路頭に迷うことにはならないだろう。あの世界であれば諒太は無双できるし、何よりもモテモテである。かといって移住なんてことは最終手段であるのだが……。

 怠けている理由を勇者業に丸投げしつつ、諒太は学校へと向かう。いつものように大きな欠伸をしながら赤信号を待っていると、
「リョウちん!」
 交差点の向かい側から夏美がやって来た。いつもなら自転車置き場で出会うはずの夏美。少し登校時間を早めたのだろうか。帰路が分かれる交差点で二人は合流していた。

「おう早いな。依頼はできたか?」
「もちろん! 特急仕事で依頼してきたよ!」
 レシピで見たままである。これなら夏美の準備も万全であろう。ブレイブシールドさえ完成したのなら、夏美は一時間を戦い抜けるはずだ。

 ところが、直ぐに笑顔は失われて、夏美の表情が曇っていく。
「でも金剛の盾がまだ覚えられない。どうやったら良いの?」
 セイクリッド世界では覚えられたというのに、夏美はゲームの中で苦戦しているようだ。どうやらスキルの習得に幸運値は関係していないらしい。

「獲得済みのプレイヤーと同行するのが一番だけど、イロハは盾を装備してたっけ?」
「してないよ。盾を装備すると攻撃力と俊敏性が落ちるからね。イロハちゃんは俊敏の基礎値が4だったから、それを損なわないようにしてるの。金剛の盾といえば、いちご大福さんだったけど……」
 どうしたものか。夏美であれば簡単に習得すると考えていたのに、時間だけが過ぎているらしい。直前になればなるほど焦りを覚えてしまうはずだ。

「それでフレンドには声をかけたのか? 中立を宣言するって……」
「一応はね……。でも反応は悪くないよ。移籍をイベントに利用されたのは可哀相って言ってくれる。戦略的ボイコットだなんて意気込んでる人もいるし……」
 同情されるのは諒太の想定通りだ。不遇であると感じてもらえたならば、夏美は助力を得られるだろう。何しろプレイヤーは男性が占める割合が高い。人懐っこい性格や変貌を遂げた彼女の容姿は少なからずプラスに働いたはずである。

「俺の方はいよいよ戦争だ。ナツのイベントが先にあったら良かったのに……」
「あたしのイベントが先でも準備は必要だったと思うよ? 元に戻る確証はないんでしょ?」
「まあそりゃそうだ。できる限りマシな世界に変えなきゃいけない。ルイナーどころじゃなくなってるからな……」
 二人して登校し、何事もなかったかのように教室へと入っていく。やはり気にしすぎていたのかもしれない。夏美は普段通りであり、妙な話を始める様子もなかった。

 きっと精神的に落ち込んでいたから、あんなことを口走ったのだと思う。フレンドたちの共感を得たことで夏美は持ち直したに違いない。
 夏美のフレンドたちに感謝を。今の距離感が丁度良いと諒太は思っている。妙に意識することも離れすぎることもない。断る理由が思いつかない諒太にとって、今の関係を維持できるのは有り難いことだ。

 名も知らぬプレイヤーたちへの謝意を心の内に並べながら、諒太は学校での時間を過ごす。居眠りをしなかったのは戦争が待っていたからだ。

 自信はあったけれど、やはり諒太は緊張していたのかもしれない……。
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