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第二章 悪夢の果てに

徹夜明けの朝

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 諒太は直ぐさま飛び起きていた。けたたましく鳴り響く目覚まし時計を手探りで停止。そのあとヘッドセットを外して、ようやく一息つく。何も変わらぬ部屋の様子に長い一日が終わったことを理解していた。

「妖精女王の加護……」
 右手の甲にある痣を見ると、セイクリッド世界が夢ではないことを再確認できた。【リョウ】の設定である服や装備は転移しないけれど、リョウを宿す身体に起きる事象は現実世界でも引き継がれるらしい。

「学校に行かなきゃ……」
 一睡もできなかった。徹夜はアーシェが盗賊に襲われたとき以来である。少しばかり懐かしい倦怠感を覚えながら、諒太は制服に着替え出す。

 軽く朝食を済ませてから、いざ学校へと。不意に意識を失いそうになるも諒太は何とか学校まで自転車を走らせていた。
「おはよー、リョウちん!」
 今日も元気一杯に夏美が声をかけてくる。夏美も眠ったのは三時頃であるはずだが、やはり徹夜明けの諒太とは疲労感が違うらしい。

「お疲れだねぇ? 何時に寝たの?」
「徹夜だよ……。ギリギリまで粘って何とか製作依頼を終えた……」
 大きな欠伸をする諒太を夏美は笑っている。誰のせいでこんなにも頑張る羽目になったのかを少しも理解していない風に。
「成果があるならマシでしょ? あたしは打撃スキルの【気絶】は習得できたけど、金剛の盾はまだ覚えられない……」
 相手を倒さないために夏美は打撃武器を選び、気絶させようとしているらしい。しかし、肝心の金剛の盾はまだ習得していないようだ。

「ああ、それな……。恐らく自分より強い敵と戦った方がいいぞ。俺はエンシェントドラゴンの一撃だけで習得してしまったし……」
「ええっ!? 数をこなす方が良いんじゃないの!?」
 驚く夏美に諒太はエンシェントドラゴンとの戦いについて話す。あの排泄物によって咄嗟に防御したこと。それにより金剛の盾を習得したことについて。

「うんちって盾だったの!? よくそこでうんちを出せたね?」
「おい、うんちを出すとか誤解を招くだろ?」
 小声で話せと諒太は言う。周囲の視線が気になって仕方なかった。
「焦って取り出して間違えたんだ。もしも他のものを取り出してたら死んでたかもしれん」
「はぇぇ、ラッキーじゃん! でもエンシェントドラゴンに避けられない攻撃なんてあったかなぁ?」
「尻尾の範囲攻撃だよ。ソニックスラッシュを当てた直後に振り回された……」
 夏美の素早さは諒太よりも速い。けれど、あの攻撃を躱せたかといえば疑問が残ってしまう。攻撃の範囲外に後退する時間があったとは思えない。

「あれってジャンプかしゃがんで避けるんだよ? 前後はとんでもない範囲だけど、上下の攻撃範囲は小さいから……」
「マジで!? 上下の当たり判定ってそんなに小さいのか?」
「逆に盾で防ぐなんて聞いたことないって!」
 ならば先に教えろと諒太は夏美を小突く。薄暗い森であったし、避ける隙間があるかどうかなんて諒太には確認できなかったのだ。

 二人はいつものように揃って教室へと入る。もう既にお馴染みの光景であろう。クラスメイトの誰も気にしていない。たった一人を除いて……。

 阿藤が睨むように諒太を見ている。それもそのはず夏美が諒太のことを好きだと彼は聞いたのだ。だから諒太は怨まれても仕方がない。阿藤が誤解していようと取り繕う言葉などなかった。

 諒太は阿藤の視線を無視するようにして、ただひたすらに眠る。今さらどうしようもない。阿藤をフッたのは夏美が決めたことだし、諒太は逆恨みされようとも言い訳などするべきではなかった……。
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